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幸せというのは、割合と何処にでも転がっている。
例えば。
道に咲いた花を見て、幸せだと思う人。
例えば。
朝起きて、一番初めに好きな人の声を聞いたとき。
例えば。
夜空に光る一番星を見つけたとき。

気がつくかきがつかないかの差で、幸せというのは何処にでも転がっているのものだ。


うんっと声を上げながら、景時は伸びをした。
麗らかな日差しの中、先程ベランダに干した布団を見る。
心地よい光を浴びて、布団もさぞかし気持ちがいいだろう。
景時が望美の世界に来てから早一年。
もう、こちらの暮らしにはすっかりと慣れた。
今でも洗濯機には馴染めずに手洗いで洗濯は済ませるが、それ以外は割りと現代の利器にも手軽に扱える。
掃除も好きだし、料理も大好き。
細々とした事が全く苦にならない性格の景時は、毎日が幸せだった。
──否、幸せを感じる余裕が出てきた。
この国には、死という概念が程遠い。
毎日のように自分の手を赤く汚していた景時には、まずそれが驚きだった。
死は常に自分と隣り合わせにあり、自分は守れるものさえ守れれば何時消えてもいいと思っていた。
それが、今ではどうだろう。
穏やかで、暖かい日々。
それはまるで、この春の木漏れ日のように柔らかく景時を幸せにしてくれる。
(──ああ・・・ホント、幸せだな)
景時は頬をほころばした。
ベランダの下、駆けてくる人影は、自分には見間違えようもないもので。
見つめるたびに、景時の胸を熱くする。
不意に足を止めた少女は、景時の視線に気がついたかのように顔を上げた。
真っ直ぐな瞳と視線が絡む。
目を丸くした少女は、次の瞬間には嬉しそうに破顔して、両手を大きく振ってくれた。
叫べば届きそうな距離で、嬉しそうに手を振る彼女の姿に、景時も手を振り返す。
ニパッと笑った彼女が、また駆け出して、自分の住んでるマンションの影に消えていくのを見送ってから、景時は嬉しそうに眉根を寄せた。
それは、とても複雑な表情。
幸せそうで、困ったようで、笑い出しそうで、切ないような。
色々な感情が混ざった表情。
「ああ、もう。本当にどうしよう」
大の大人がするには情けない格好だが、顔を覆ってベランダに背を預ける。
隠し切れない隙間から、赤くなった頬が見えた。
「どうしよう。君を見かけただけなのに。オレはこんなにも幸せになれるんだ」
心底困ったような声。
けれど、嬉しさを隠し切れないそれは正直に景時の心情を伝えていた。
ピンポーンと、軽快な音が響く。
「ああ・・・もう、かっこ悪いな」
赤い頬を少しでも覚まそうと、景時は片手で頬を扇いだ。
それ位で冷えるとは思わないけれど、やらないよりはマシだと思う。
サンダルを脱ぎベランダから部屋に上がる。
しばらく歩いて、部屋の半ばで振り返った。
風に吹かれた布団は、シーツの表面が少しだけ揺れている。
真白なそれは、今の景時の心境のようだ。
何もかもが現れて、暖かい陽の光を浴びて。
優しい何もかもを、どんどんと詰め込まれている感じ。
ふっと、嬉しそうに景時は微笑む。
そして、布団に背を向けそのまま自分を待っている相手の下に向かった。

「おはようございます、景時さん」

その一言だけでも、この上なく彼を幸せにする事が出来る優しい少女を出迎えるために。
穏やかな日常は、夢かと疑いたくなるほどに、優しく景時を包んで放さない。
小さな幸せが一つ一つ積み重なって、大きな大きな幸せになる。
──君と過ごせる日常は、幸せばかりが溢れている。

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