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「ね、姉さん!」


呼びかけられ、足を止める。
数多い知り合いの中から自分を『姉さん』と呼ぶ人間なんて一人しか覚えがなく、右の踵を機転に振り返れば予想通りの姿があった。

幼い頃刷り込みをしすぎて多少奇抜な趣味に走ってしまった弟は、今日はマントはないがそれでもきっちりとゴーグルはつけたままだ。
嘗て同じものをつけていた身としてはどうしてか理由は判るが、いい加減日常では外した方が良いとアドバイスすべきなのだろうか。
姉として思案していると、何処から走ってきたのか少しだけ息を上がらせた弟は、後ろ手に持っていたものを差し出した。


「・・・苺?」
「はい。今日はバレンタインデーなので」
「ああ、バレンタインのプレゼントか。さすが有人!気が利くなあ」


微かに頬を染めながら差し出した彼に、円堂はにこりと微笑んだ。
周囲の人間に呆れられるくらいにブラコンの自覚がある円堂は、昔よりマシになったとはいえ現在でも彼に十分甘い。
バレンタインのプレゼントに苺の鉢植えなんて普通ないだろ、と他の誰かなら突っ込んだが、弟の鬼道からなら何でも嬉しいに変換された。

日本ならではのイベントに興味はないが、可愛がっている弟からとなれば別だ。
彼の想いが何処にあるか理解していて残酷だと、気の合う友人なら言うかもしれないがそこには目を瞑った。
誰に何と言われようと嬉しいものは嬉しいし、伝えずにいるには目の前の子供は特別すぎた。
どうせこんな遣り取りが一生続くはずもない。

淡雪のような初恋は、春が来たら解けてなくなる。
熱病に冒されているのと同じで、離れていた時間が自分に執着させているだけなら、彼が大人になれば自然と距離は開くだろう。

その時を思い一抹の寂しさを感じると、訝しげに目の前の弟の顔が曇る。
慌てて取り成すように彼の頭に手をやり昔と同じ仕草で撫でれば、もう子供ではないですと頬を膨らませながらも享受した。


「そうだな。お前も、もう子供じゃないな」
「・・・姉さん?」
「なぁ、有人。俺はお前が大切だよ。特別で可愛い弟だからな」


素知らぬ顔で釘を刺せば、一瞬前までの喜色を消し去り俯いて唇を噛み締める。
傷ついた顔を隠さぬ鬼道に、それでも差し伸べる手を持たない。
その役目は、いつか鬼道の隣を歩む女性が担うべきもので、早々に彼の人生から姿を消す自分では役不足だ。
運命論など語りたくもないが、傲慢なる神様に、出会った瞬間から先は決められていたのかもしれない。

何も言わぬ鬼道に手を伸ばし、きゅっと掌を握る。
漸く顔を上げた弟は、不思議そうに小首を傾げた。


「お礼にフォンダンショコラをプレゼントだ。もう宿舎に準備出来てるから、焼いて一緒に食べようぜ」
「・・・いいのか?」
「勿論」


油断するとすぐに昔の話し方に戻る鬼道に、円堂は儚げに微笑んだ。
砂上の城と同じ優しさは、果たして優しさと言えるのだろうか。




時間が進まぬ時計が欲しい 歪なそれが壊れるだけでも



苺の花言葉・・・尊重と愛情

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