忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
409   408   407   406   405   404   403   402   401   400   399  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「監督!なんで豪炎寺を追い出すんですか!!?」


遠くで染岡の声が聞こえる。
一人、森の中にある木に背を凭せ掛けた円堂は、ずるずると身を崩しながらひゅっと息を飲み込む。
強面で頑固者だが、人一倍義理人情に厚い染岡は、監督に詰め寄らずに居られないのだろう。
彼を中心に揃った仲間たちも同じ気持ちに違いない。

だが円堂は違った。
試合前から豪炎寺の様子はおかしかった。
視線はいつの間にか姿を現していた明らかに怪しい三人組に釘付けでシュートするたびにちらちらと彼らを窺っていた。
彼らしくない卑屈な態度でぴんと来た。
豪炎寺は、彼が最大の弱点とするものを奴らに握られてしまっていると。

監督の瞳子がそこまで気がついたか知れないが、彼女の判断は英断だったと思う。
少なくとも本気で地上最強のチームを作る気でいるなら、『今の』豪炎寺では無理だ。

冷や汗を流しながら考えていると、不意に背後の草が擦れる音に気がついた。
弱った獣が必要以上に敏感になるのと同じで、びくりと円堂も体を揺らす。
呼吸を整えようとしてもぜいぜいと鳴る喉は言うことを聞かず、不規則な鼓動を立てる心臓に眉根を寄せた。


「・・・守、俺だよ」
「かずや・・・」
「薬と酸素と水を持ってきた。大丈夫、なんて聞かないよ。大丈夫じゃないのなんて見たら判る。あれだけ心臓に負担が掛かるからって連続で使わないようにしていたマジン・ザ・ハンドを連発したんだ。当然のしっぺ返しだよ」
「ははっ・・・弱ったな。強がりすら言わせてもらえないか」


背中を預けていた木から体がずり落ちそうになり、慌てて一之瀬が支える。
無理やりに口内に薬を入れられ冷たい水を流し込まれた。
強引な手法に眉根を寄せながらもやっとの思いで嚥下する。
ごくりと飲み込んだのを見届けて、漸く一息ついたらしい彼は、酸素を円堂の口に当てるとそのままゆっくりと背中を撫でた。

供給される酸素に呼吸が徐々に落ち着き、嫌な汗も止まる。
差し出されたタオルで顔を拭う余裕も出てきたところで、深呼吸をして息を整えた。


「・・・あっちはどうなった?」
「憤る染岡を鬼道が宥めてる。けど腹の虫が収まらないって感じかな」
「予想通りの展開だな。あいつ、仲間想いだから」
「守はよかったの?豪炎寺が抜けたのは、本当に痛いと思う」
「いいも悪いもないだろ?正直、俺は監督に感謝しているよ。先を急ぐ仲間を止めてくれただけじゃなく、板ばさみになってた豪炎寺を開放してくれたんだから」
「開放?」
「一哉も気づいてただろ?今の豪炎寺は点が取れない。シュートも無意識だろうが意図的に外れるように打っていた。あれじゃ遅かれ早かれ豪炎寺と俺たちの間で摩擦が起きていたと思う。若しくは、耐え切れなくなった豪炎寺の心が潰れていたかもしれない」
「・・・・・・」
「どちらにせよ、もう豪炎寺は居ないんだ。現状のメンバーで進むしかないだろ。俺たちは、エイリア学園と戦うと決めたのだから」


激しい眩暈が治まったのを見計らうと、よっと掛け声をあげて立ち上がった。
ふらつく体を支えようとした一之瀬の手を断り、背筋を伸ばして真っ直ぐに歩き出す。


「差し当たりすべきなのはあいつらを宥めることだな。監督を責めても豪炎寺は帰って来ない」
「だね。でもあの状態の染岡を宥めるのは大変そうだよ?」
「何とかするさ」


心配そうに瞳を細めた一之瀬に微笑みかけると、声の中心へ向かう。
一歩一歩何とか踏み出し、彼らの影が見えたところでもう一度深呼吸をして体の調子を確認した。
軽い眩暈は続いているが我慢しきれないほどじゃない。
がさりとわざとらしく音を立てて出て行くと、監督に詰め寄っていた仲間の視線がこちらに集中した。


「円堂!」
「豪炎寺は?」
「あいつは、行っちまったよ」
「なんで止めなかった!?」
「絶対に帰ってくるからだ。あいつは絶対に帰ってくる。そう信じてるから見送った。イナズマキャラバンを去ったのはあいつの意思だ」
「違う、監督が言ったから・・・」
「お前が知る豪炎寺修也はそんなに意思が弱い奴か?納得のいかない言葉に無抵抗で従うとでも?」
「っ、けど」
「・・・何だよ、豪炎寺の奴。一人でゲームセットか」


反論しかけた染岡は、中途半端なところで言葉を区切ると黙り込んだ。
代わりに苦々しげに土門が呟く。
しかしそれを肯定する気は全くない。
豪炎寺のために、そして、彼を信じる自分のために。


「違うよ。別れはゲームセットじゃない」
「円堂」
「俺たちがすべきなのは今ここで居なくなった豪炎寺について論議することじゃない。あいつを信じて、もっと強くなるための努力をすることだ。今日の別れは再会のためのキックオフだ」


静まり返った仲間に、いつもの調子でウィンクする。
唖然とした表情の彼らは戸惑うように瞳を瞬かせた。
怒りに満ちた空気は宥められ、穏やかな雰囲気が流れ始めたときに、甲高い機械音が鳴り響いた。

音の中心を辿り、瞳子の取り出した携帯を見詰める。
メールだったらしく、それを読み解いた艶やかな唇から、唐突な言葉が宣言された。


「北海道、白恋中のエースストライカー、吹雪士郎をチームに引き入れ戦力アップをはかれ」


どうやら送り主は遠く離れた稲妻町の響木からだったらしい。
あまりにもドンピシャなタイミングにじとりと眉根を寄せる。
予め戦力アップに目をつけていたのか、それとも瞳子が連絡して急遽ストライカーを探したのか。
豪炎寺が抜けたからには新たに点を取るストライカーが必要だと納得出来ても、あまりに悪すぎるタイミングにうんざりと息を吐き出した。

白恋中の吹雪士郎。
脳内のデーターベースを探しても見つからない名前に、フットボールフロンティアの出場校の選手ではないなと当たりをつける。
予選も含め出場したチームの名前、選手共に記憶しているので、きっと響木が目をつけたのはフットボールフロンティアに出場しなかった強豪チームなのだろう。若しくはチームではなく単純に一人の優れた選手なのかもしれない。
それなら宇宙人にいきなり襲われる可能性も低いし、穴場と言えば穴場だ。

ちらり、と視線を背後に向けると、難しい顔で黙り込んだ染岡が居て、ふうと息を吐き出す。
どれだけ優れたストライカーでもチームプレイが上手くいくかは別問題だ。
少なくとも染岡の心の折り合いがつかない限り新たな戦力を入れても代わらないだろう。
本当は彼だって判っているはずだ。
エースの豪炎寺が抜けた以上、彼に負けない新たな戦力が必要だと。


「・・・とりあえず、情報収集といかないか?相手が誰か判らないままじゃ、判断しようがないしな。音無、データの収集頼めるか?」
「あ、はい!!」
「監督、今日はあがりでいいですか?俺たちも俺たちなりに『吹雪士郎』がどんな相手か知りたいんです」
「構わないわ」


頷いた瞳子に肩の力を抜くと、仲間たちに向かって手を鳴らした。


「じゃあ、皆。一旦イナズマキャラバンの中に入ろうぜ。もしかしたら夜間の移動になるかもしれないし、休めるうちに少し休もう」
「あ、俺トイレに行きたいっす」
「俺もでやんす」
「・・・僕もです」


慌てて去っていく背中を見送ると残りのメンバーをキャラバン内へと誘導する。
大人は大人同士の話があるだろう。ちらりと瞳子を一瞥してから自身も階段を上る。
最終的に判断をするのは瞳子だし、実際に目で見ないとどんな人間か判らないが、予備知識は持っていて損はない。
気難しい表情の仲間を宥めるように肩を叩いた円堂は、先が思いやられるなと、痛む胸を摩りながら苦笑した。


拍手[4回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ