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青嵐
--お題サイト:afaikさまより--



往来できゅっと後ろから抱きしめると、小さな体で無駄な抵抗を試みる少女に喉を震わす。
人に慣れない子猫を腕にした感覚と似ている。
こちらからしたら抵抗など些細なものでむしろ擽ったいくらいなのに、本人は必死で、その様子がとても可愛らしい。
癖のある艶やかな黒髪が喉を掠め、心臓を鷲掴みされたように痛みが走り呼吸が辛くなる。

何故、と自分でも思わないでもない。
自分の好みは乱菊のようにメリハリのついた体つきの色っぽい女性で、余裕を持った大人の女だ。
反してルキアは細すぎる体どおりに胸も掌に収まる程度だし、腰など力を篭めれば簡単に折れるだろう。
好みとは正反対にいる華奢すぎる彼女なのに、それでもどうしたってルキアがいい。


今更だけれど、もしかしたらあれも一目惚れになるのだろうか。
別の男と一緒にいた笑顔に惚れるなどシチュエーションは最悪だが、あけすけに浮かんだ喜怒哀楽に瞳が吸い寄せられた。
白皙の美貌や流れる雰囲気じゃなく、恋次の前で見せた素直なルキアに落ちたのだ。


「檜佐木副隊長殿!離して下さい!」
「───駄目だな。お前、言ってるだろ?『修兵』って呼んでみろって」


後ろから抱きついたまま耳元で囁くと、首筋が一気に赤くなった。
肌が白いと照れているときがわかりやすくてとてもいい。

ほんの一年前のルキアならこれくらいで反応しなかったのに、今の彼女は随分と感情表現が豊かになった。
きっかけは死神代行の少年で、膨らませたのは縁を取り戻した幼馴染と誤解がとけた義兄との関係だろう。
悔しいが修兵では駄目だった。
何十年掛けても、体を抱きしめたとしても、心を抱くことは出来なかった。
それでも諦めきれず、体だけの関係にしがみ付き、最後は全てを壊してしまおうとしたけれど。


「なあ、『ルキア』。呼んでみな」


恥ずかしさに声すら殺して悶えるルキアを子供にするよう脇に手を入れて抱き上げる。
反転させて正面を向いた少女は、紫紺色の瞳を潤ませかわいそうなくらい紅潮していた。
可愛いと思わず漏らせば、変なことは言わないでくださいと叱られた。
きらきらと光る瞳や、ころころ変わる表情はあの日の彼女を思わせて、くつり、と喉を震わせ小さく笑った。




猫、猫、子猫。

小さな黒猫。

君は知らないだろうけど、始まりはもう遥かな昔。

綺麗な空気を纏わせて、凛と佇む姿より。

子供みたいに無邪気な笑顔、ずっとずっと憧れた。

長い年月と引き換えの、その表情こそ欲しかったもの。

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