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食堂から漂ういい香りに釣られて顔を出すと、そこにはお揃いのエプロンを掛けた同級生二人が仲良く並んで立っていた。
どうやら何らかの調理の最中らしく、ボールに入れた粉を混ぜる円堂に指示を仰いで綱海が何かを切っている。
この二人が一緒に居るのはイナズマキャラバンで共に過ごしたときから見慣れているが、やはり複雑な想いが立向居の胸に巣食う。

テレビで見た瞬間に憧れ、その背中を追い続けてきた『円堂守』。
いつだって立向居が行き詰っていると背中を押してくれる『綱海条介』。
違う意味で好きな二人だが、並ぶ姿がお似合いだと感じると、とても悔しくなる。

ずっと見てきたから判る。
円堂には弟である鬼道ではなく彼にしか見せない表情があり、そんな彼女を知りながらそれすら気にしないで丸ごと受け入れている綱海。
阿吽の呼吸、とでも言うべきか。
感覚がとでも近いらしい彼らは、顔を寄せ合い無邪気に笑いながら料理をしていた。

他に誰もいない食堂の入り口で、最初の一歩が踏み出せずにきゅっと服の胸の部分を掴む。
何とも言えない複雑な心境で俯いていると、厨房からこちらに気づいたらしい綱海が声を掛けてきた。


「おう、立向居じゃねえか!何してんだ、そんなとこで」
「ん?立向居?こっちにおいで」


二対の目がこちらを認めると、同時ににっと笑顔を浮かべる。
男女の差があれ不思議と似た笑顔に立向居もやっとの思いで笑みを返す。


「その・・・廊下を歩いていたら、いい匂いがしたので。それで覗いてみたらお二人が」
「んー?早速匂いに釣られた第一人者が!」
「な?言ったろ?絶対最初は年少組みの誰かだと思ったんだよな。成長期だから常に飢えてるし」
「いやいやいや、俺たちだって相当飢えてるけどな。ってか俺はいつまで白菜切ってりゃいいんだ?」
「そりゃそこにある分全部だろ」
「・・・一玉切り終えて後一玉だぞ?多くないか?」
「多くない、多くない。どうせすぐなくなるさ」


いつの間にかまた二人の世界を作り上げた彼らに招き寄せられるままに近づくと、綱海の手元のボールには白菜の山が築かれていた。
少し離れた場所で小首を傾げると、調理場からは後ろになるこちらを振り返った円堂がもう一度手招く。
おずおずと近づけば、和風だしの入った寸胴からいい香りが漂ってきた。


「何を作ってるんですか?」
「何だと思う?」
「ヒントはこの材料だぜ。出汁に小麦粉、卵、てんかす、桜海老、青海苔、豚肉、鰹節、サキイカ、白菜エトセトラ」
「エトセトラかよ」


以下省略とした綱海に、びしりと円堂の突込みが入る。
からからと笑う二人を横目にひっそりと眉を顰めた。
普通に考えれば並んだ食材を見て思い浮かぶのは粉ものと呼ばれる料理で、むしろ立向居には一つの答えしか出てこない。
けれど最後の一押しが足りないのは、告げられた食材が立向居の知るそれと似て非なるものだからだ。

ボールに次々と食材を入れて混ぜ合わせる円堂は、白菜を切り終えた綱海に頷く。
すると心得たように頷き返した綱海は、厨房の奥へ姿を消し、大き目の箱を手にとって厨房から出ると、普段食事を取る机の上にどんと降ろした。


「ほらほら早くしないと答えが先に出ちまうぞー」
「当てたら俺が特製で立向居用をてづから作ってやるぞー」
「え!?俺の分を円堂さんが!?」
「出血大サービスでハートも描いてやる」


冗談めかした台詞だが、俄然やる気が出る。
顎に当てていた手を体の横に置くと、ピンと背筋を伸ばして直立不動の体勢に入った。
大きなボールを抱えるようにして混ぜる円堂を真っ直ぐに見て恐る恐る口を開く。


「もしかして、ですけど。いいですか?」
「おう、いいぞ」
「お好み焼き・・・でしょうか?俺が知ってるのはキャベツで、円堂さんたちが使ってるのは白菜ですけど、材料を見るとそれしか浮かばなくて」


ボールの中身を練り合わせていた円堂は、一瞬だけその手を止めると立向居を見詰める。
黒縁眼鏡の奥から栗色の大きな瞳がきょろりと覗き、誘蛾灯に誘われる虫のように引き寄せられそうになった瞬間、眼前に唐突に現れた掌がぱちんと打ち鳴らされ意識が現実へ返った。


「正解だ、立向居」
「・・・綱海、さん?」


呼びかけに応えずにっと笑った彼の雰囲気が、普段の兄貴分然としたものと違った気がしてこてりと首を傾げる。
まるで主を奪われまいとする獰猛な獣のような剣呑な瞳を見せた気がしたのだが、笑っている彼からそんな素振りは僅かも見受けられない。
小首を傾げると、気にするなとばかりに頭を思い切り撫でまわされた。
ぐいぐいと勢い良く力強く撫でられるので視界もぐらぐらと揺れる。
乗り物酔いと似た症状に陥りそうになり、足元が千鳥足になる頃漸く衝撃は過ぎた。


「ほーれ、やめろ綱海。立向居がいろんな意味で昇天しちゃうから。お前と違ってもうちょい繊細に出来てんのよ、立向居は。中身振ってもカラカラ音がしないだろ」
「───何気なく辛辣だな、お前。ま、確かに立向居のが俺より利口だろうけどよ」
「まあ、頭の良し悪しにも種類はあるから、綱海は馬鹿じゃないと思うけどな」
「言ってろ」


額をつき合わせてくしゃりと笑顔を向け合う二人に、今度こそ我慢できずに割り込んだ。
おっ、と小さな声を出して瞳を丸くした二人は、顔を合わせてきょとりと瞬きを繰り返す。
唇を尖らせて彼らの間に入り込んだ立向居は、珍しく空気を読まずに目の前のボールを手に取った。


「綱海さんはホットプレートを暖めてください。俺が円堂さんのサポートをしますから」
「・・・ククっ、何だ随分とあからさまじゃねえか立向居」
「俺だって、綱海さんでも負けたくないことくらいありますから。年下だと思って油断してると、痛い目見ますよ」
「そりゃ、気をつけなきゃな。大丈夫だ、立向居。俺は油断したりなんかしねぇよ。何しろお前がどれだけ凄い奴か、よーく判ってるからな」


嫌味交じりの言葉にも、余裕で返した綱海に益々眉根を寄せる。
こんなときたった二年しか違わない年齢差を感じ、酷く悔しくもどかしい。
だが苛立った感情も、隣から伸ばされた掌に解かされた。

柔らかく頭を撫でる感触に視線をやれば、淡く微笑む憧れの人が居て、かっと頬が熱くなる。
格好悪いとこなんて見せたくないのに、いつだって余裕がない自分が恥ずかしい。
先ほどまでの子供っぽい行動を思い返し俯くと、ぽんぽんと軽く頭を叩かれた。


「立向居、もう準備はおしまい。材料はしこたま準備したし、お前のお好み焼き焼いてやるよ。だから、皿を用意してくれるか?」
「っ、はい!!」
「じゃあ、俺は円堂の分を焼いていやる。こっからここまでは俺の陣地な」
「・・・陣地って何だよ綱海。ったくお前はしょうがねえな。んじゃ立向居は綱海の分焼いてやってくれる?」
「はい!任せてください」


運んだ皿を机に並べどんと胸を叩くと、サンキュと笑顔が贈られた。
それだけで胸がいっぱいになり息が詰まって呼吸が上手くできなくなる。
こんな気持ち初めてで、苦しいし幸せばかりじゃないのに、それでも絶対に手放せなかった。

お玉を使い器用に生地を伸ばしていく円堂を見て、そのまま視線を綱海へと移す。
円堂が彼をどう想っているか知らないが、彼は確実に立向居と同じ気持ちを持っているはずだ。
熱の篭った眼差しや、綻ぶ目元、そして緩んだ口が言葉よりも鮮明にそれを伝え、彼女と一緒に居るときだけ雰囲気だって柔らかくなっている。
立向居の視線に気がついたのか不意に綱海が顔を上げ、好戦的に瞳を細めた。
陽気で明るいだけじゃない厄介な人に、何でよりによってこの人がライバルなんだと己の不運を嘆きつつ、もてる想い人に苦笑した。

初めて好きになった人を諦めるほど、立向居の心は弱くなかった。
戦わないと得れないのなら、綱海相手でも真っ向勝負を挑むつもりだ。
恋に年齢は関係ないし、年下だからと言って不便をさせる気だってない。
諦めれる段階など当に過ぎている。心どころか下手したら魂まで握られてしまっているのだから。


「絶対に負けませんから」


小さな声でした宣戦布告。
にいっと持ち上げられた彼の唇だけが、立向居の決意を目に見える形にしていた。

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