忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
373   372   371   370   369   368   367   366   365   364   363  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

全身から力が抜けたようにひざまづくアフロディのすぐ横を駆け抜ける。
ゴールをがら空きにする不安はなかった。彼らの戦意はすでに消失されている。
戦えない相手に恐怖する理由はなく、ただひたすらにボールを目指した。


「最後の一秒まで全力で戦う」
「それが俺たちの」
「サッカーだ!!」


覚えたザ・フェニックスの勢いで上がったボールを、豪炎寺がファイアトルネードで叩き込む。
先ほどの鬼道との連携ですでに同点に追いついていた雷門は、それを決勝点へと変えた。

ホイッスルと同時に歓声が響く。
会場を揺るがすような大きさのそれは、以前日本でない場所で経験していた懐かしいものだった。
喜び体を叩き合う仲間を目を細めて眺め、そのまま視線を移動させる。
気が抜けたように突っ立っている世宇子中の面々の先頭に立つアフロディがぽつりと呟いた。


「神の力を手に入れた僕たちを倒すなんて・・・なんて奴らだ」


泣きそうな顔の少年たちに近づくと、円堂は柔らかな笑みを浮かべた。
びくり、と体を震わせたアフロディは警戒するように剣呑な眼差しを向ける。
まるで親を失った野良猫のような仕草に、思わず苦笑してしまった。


「面白い試合だったけど、次は実力で遣り合おうぜ」
「・・・神のアクアを使った挙句に負けた僕たちを、さらに貶めようという気か」
「いいや。あんな下らない薬を使わなくても、お前らなら十分強いだろ」
「だが、僕たちは君たちに負けた」
「そりゃ勝つために試合をしたからな。どんな状況でも絶対に諦めない。それが俺たちのサッカーだ。例え勝算が1%だったとしても残りの99%を気力で覆すこともあるんだぜ?それに───お前らには可能性があるだろ」
「可能性?」
「ああ。もっと、もっともっともっともっとサッカーが上手くなる可能性だ。薬で制限されてた自分自身の可能性をもっと本気で磨いて来い。そんでさ、いつか実力で今日のやり直しをしよう。それまでに、ここも鍛えて来いよ」


ウィンクして、心臓の部分をとんとんと拳で叩く。
技術や体力も勿論必要だが、大切なのは想いの在り処。仲間を信じ、自分を信じ、勝利を信じる心の強さ。
驚きで見開かれた目が徐々に通常の大きさに戻ると、端整な顔を情けなく歪めてアフロディは苦笑した。


「君には、敵わないな。聞きしに勝る変わり者ぶりだ。何とかと天才は紙一重と言うが、果たして君はどっちなんだろうね?」
「ははっ、失礼だな少年」
「少年じゃない。僕の名前は亜風炉照美。アフロディと呼んでくれ」
「・・・俺の名前は円堂守。好きに呼んでくれていいぜ」


コケティッシュな笑みを浮かべて差し出した掌は、しっかりと握りこまれた。
視線を絡ませ見詰めあい、にっと唇を持ち上げる。
薬の所為で濁っていた瞳には彼本来のものであろう輝きが取り戻され、これなら大丈夫かと頷いた。
神のアクア。人体を強化する目的のそれは、異物だからこそ副作用があるだろう。
今は気づいていない反応だが、近い内に彼らはそれに苦しめられるに違いない。
その時に、交わした会話を思い出してくれれば、と思う。本気でサッカーを続ける気なら、心を強く持ちさえすれば何事も乗り越えられるはずだから。

掌を離し、去っていく彼らを見送る。そして視線をそのまま上に上げた。
観客席から僅かに離れた場所で、彼は全てを見ていただろう。今頃は、また鬼瓦の手により移送されているところかもしれない。
同じ道を歩けないと手を放したのはこちらが先なのに、どうしても最後の最後で捨てられない。
これは甘さなのか、果ては恩師に対する未練なのか。複雑な感情は制御しきれないが、唯一つわかるのは、変わって欲しいと願う心だけ。
自分に残された限りある時間の内に、確かに慈しんでくれた恩師が、サッカーを与えてくれた影山に、救いをと望む。


「ったく、そんなの俺の柄じゃないのにな」
「円堂?」


背後からの唐突な声に、油断していた、と内心で舌打ちし振り返るときには笑顔を取り繕う。
不思議そうに小首を傾げている豪炎寺に、陽気に手を上げた。


「おう、豪炎寺。気分はどうだ?」
「───最高だ」


ハイタッチをしてそのまま握りこんだ手を胸元まで下げると、顔がぐっと近づいた。
彼の胸元には珍しく妹の夕香からプレゼントされたペンダントが出されていて、今度は偽りではない笑みを浮かべる。
今回の勝利は彼にとっても大きい。願掛けをして一途に勝利へ執念を燃やしていたのだ。それも当然だろう。
無念のリタイアを余儀なくされた去年と違い、妹へと今度こそ捧げられた優勝だ。
普段の仏頂面がにこにこと笑みを刻んでいて、可愛いの、と内心で呟く。
この優勝を捧げる相手が居ない円堂と違い、彼はとても輝いていた。
仲間と得た優勝は自分にとっても掛け替えがないものだが、それは付属品的な価値しかない。
目的も果たしひと段落ついた今では将来(さき)を考えなくてはいけないが、瞬き一つで複雑な感情を飲み下し会場中からの祝福を受け入れた。


「なれたのかな、俺たち。伝説のイナズマイレブンに」


雷門中に嘗て存在した、最高のサッカーチーム。
それに準えて問うと、豪炎寺は試合中のような好戦的な笑みで首を振った。


「いや・・・伝説は、これから始まるんだ」


力強い台詞に瞳が丸くなると、次いでくしゃりと表情を崩した。
つい先日までサッカーを二度としないと啖呵を切っていた人物とは思えない自信たっぷりの言葉は、彼が仲間と積み重ねて得た色々なもののおかげだろう。
サッカーだけでなく心の成長に一役買った仲間たちは、嬉しさを隠さずに観客へ手を振っている。
無邪気な子供のような姿に瞳を細め、ふわりと微笑んだ。
慈しみに溢れどこか寂しさが漂う笑みだったが、他の誰かに気づかれる前に痕跡も残さず消す。
すぐに来る未来ではなく、今はこの喜びに浸ると決めると、握ったままの掌に力を篭めて引っ張るとバランスを崩した豪炎寺に正面から抱きついた。


「うわっ!!?」
「よっし、やったな豪炎寺!夕香ちゃんへ最高の土産が出来たじゃないか」


顔を赤らめて慌てた豪炎寺の耳元で後半は囁くと、目を見開いて、次いで泣きそうに潤ませると頷いた。
素直な反応はやはり可愛い。いい子いい子と頭を撫でると、後ろから襟首を掴まれる。
予想外に遠慮のない力に驚いていると、ぽんと背中を軽い衝撃が襲った。


「・・・円堂。もう少し、慎みを持て。澄ました顔をしているが、豪炎寺だって男だ」
「風丸」
「守はちょっとでも目を放すと糸が切れた風船みたいに飛んでくんだから」
「一哉」
「姉さん、いい加減にしてください。あなたは俺の姉さんなんですよ?ふしだらな真似は止めてください」
「有人」


襟首を三方から掴んだ彼らは、じとりと眉間に皺を寄せて睨んできた。
中々迫力ある様子にへらりと笑うと、益々渋い顔をされる。
未だに優勝に浸り観客に手を振る他の仲間とは違い、頭の後ろで手を組みながらこちらの窺う土門に視線を向けるとひらひらと手を振られた。


「無理。俺に助けを求めても、助ける気もないしその三人相手に助けられもしないから」
「───土門のヘタレ」
「酷っ!襟首掴んでる三人責めないで俺を責めるの!?」
「だって土門傍観者じゃん。中立の立場気取って助けてくれないなんて、冷たいんだー」


無理やり三人を引き摺って土門にしがみ付くと奇声を上げられた。
変な人形みたいで面白くてぐいぐいとくっつくと、後ろに張り付いていた三人が視線を鋭くしたらしくひっと土門が息を呑む。
首が開放され土門が囲まれるタイミングを見て、ささっと隙間から抜け出した。

しゃがみこみ、ずきりと体の中心に響くような痛みに顔を俯ける。
円堂?と災難に巻き込まれなかった唯一の人間である豪炎寺から戸惑うように声を掛けられ、深呼吸一つで息を整える。
何気ない仕草で額から流れた冷や汗を拭うと、緊張感のない笑みを浮かべた。


「んじゃ、豪炎寺行こうか?」
「行くって、何処へ」
「そんなん、あいつらんとこに決まってるだろ。優勝を仲間で分かち合わなくてどうするよ」


ぐっと膝に力を入れて伸び上がるように立つと、きょとんとした顔の豪炎寺の手を取った。
後ろから四人に呼びかけられるが気にせず後輩たちの間に走りこむ。
突然の襲撃に瞳を丸めた彼らは、次の瞬間に大きな声で笑った。

水色の絵の具をぶちまけたみたいな青空は、とても眩くて直視できないほど輝いていた。


拍手[6回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ