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世界の、中心ではないけれど、芯だったとおもう
--お題サイト:afaikさまより--



「・・・ボスっ」

久し振りに生気の通う彼を見て、ぼろりと隻眼から涙が零れる。
男性にしては華奢な体つき。しなやかな肉食獣のように筋肉はついていても、ごつくない印象の彼は、白のクラシコスーツを身に纏い、覚えている通りの笑顔を見せた。
情けなさと紙一重に眉を下げ、琥珀色に瞳を細めて唇がそっと孤を描く。
慈愛に満ちた表情は聖女を彷彿とさせるが、彼が背負う業は暗くて深い。

骸とは違った意味で特別な人は、確かな体温を持って迎えてくれた。

「ただいま、クローム」
「・・・おかえり、なさい」

ゆっくりとした仕草で頭を撫でられ、髪を梳く感触に瞳を細める。
彼の所有するリングの銘と同じで、何もかも抱擁する空気を持つ綱吉に身を預けるのに躊躇はない。
尊敬する骸が憎むマフィアの中でも頂点に立っているといって過言じゃない彼は、それでも髑髏の信頼するボスで、若いけれど大家族ボンゴレの父親である人だった。

髑髏は肉親の情が薄い家庭で育った。
そんな自分にとって、家族より家族らしい温もりをくれるのが骸であり千種や犬であり綱吉だった。

骸が時折綱吉に対し皮肉交じりの憎悪を向けているのを知っている。
ありとあらゆる負の感情を向けつつ、それでも彼が綱吉の傍を離れないでいるのも知っている。
複雑な想いを抱きながら、彼の傍を離れようとしない骸の感情は読めない。
ただ一つ判るのは、骸が綱吉にしか見せない一面を持ち、大空の銘を持つ綱吉はどんな骸でも受け入れてくれるという事実だけ。
髑髏は骸の心の影響をダイレクトに受ける。けれど胸に宿る暖かな想いは彼のものじゃないと断言できた。

きゅっと首に腕を回してしがみ付く。
付き合う年月で広がった身長差。痩身でありながらしっかりとした肩に額を預け、スーツに染みがつくのも気にせず泣きじゃくる。
生きていてくれて嬉しかった。失う絶望を知るからこそ、彼が引き寄せた運命に感謝した。
白い献花に埋もれるようにして手を組む姿は瞼に焼き付いている。
限りなく金色に近づいた薄茶の髪との対比が鮮やかで、青白く蝋人形のような肌が目に痛かった。
蕩けるような琥珀色の瞳がケーキを前にして煌く様や、滑らかなテノールが恋しかった。

髑髏とてマフィアの端くれだ。
ドン・ボンゴレに仕える守護者の一員として、敵対勢力と戦ったことはある。
他の守護者の面々に比べて闇に近い部分は見ていなくとも、自分と交代して出撃する骸の反応でその存在は敏感に察していた。
マフィアである自分たちは優しいだけじゃいられない。
血塗られた日の当たらない道を一生涯歩むと知りながら、ドン・ボンゴレと添うと決めていた。

だからこそ、彼が死んだ事実は受け入れられなかった。
あれほど敵に憎しみを抱いたのは初めてだ。
殺してやりたい、と心から憎悪した。あんな強い感情が自分の中にあると思っていなくて、驚き戸惑いながらも衝動を堪え切れなかった。

「・・・あーあ。こっちに来て守護者に泣かれるのは四人目だ」
「四人目?」
「そう。ランボは言わずと知れてると思うけど、獄寺君と、ちょっと意外なとこでは山本」
「・・・あの二人が」
「まあ獄寺君にしても予想の範疇だったけどねぇ。保険を掛けておいても生きてるか心配だったくらいだし、号泣する姿にちょっと安心したんだけどね。山本は少し驚いたな。正直反応が読みきれない部分があるからどうなるかな、って思ってたし。少しばかりバイオレンスなお出迎えだったけど、溜め込むタイプだから吐き出してくれて結果的に良かったんだろうね」
「そう」

想像して、どちらもなんとなく納得できた。
綱吉に心酔する獄寺は、身も世もなく泣きじゃくったことだろう。
他の誰に対しても鉄壁を誇る彼の心へのガードは唯一綱吉の前ではないも同然。
文字通り心臓を握りこまれても笑っているんじゃないかと思える、狂気一歩手前の忠心を誓っていた。
けれど綱吉の言葉に反して、山本に対してもそれほど意外性は感じれなかった。
山本は感情を殺すのが上手い。憤っていても殺意を抱いていても、手を出す瞬間すら笑顔で居られる人種だ。
一度彼が笑いながら裏切り者を始末するのを見たが、仲間でありながらも背筋が震える恐ろしさを感じた。
感情の均衡を崩しがちな山本は常に不安定だ。本当の笑顔を見せる面々は限られているし、身内にも外にも恐れられている人物だった。
闇に引きずり込まれる寸前で踏みとどまる彼の手綱も綱吉だろう。
そんな彼だからこそ何をしでかすか判らないし、綱吉の前で感情を爆発させたのも納得できた。

「皆に泣かれると、ここが凄く痛くなる。そんで思うよ。ああ、生きてるってね」

へらりと気の抜ける顔で告げられ、眉が下がった。
そんなに簡単に言わないで欲しい。
今なら全てが彼の策略だと知っているが、一緒に笑えるほど心に受けた傷は浅くない。
唇を尖らせて頬を摘めば、女である自分が羨ましくなるきめ細かい肌は柔らかく伸びた。

「痛い!?イタイタイタイタタっ!?何!?クロームまでバイオレンス?骸かっ、骸の影響か!?」
「違う。ボスの所為」
「俺ぇ!?」
「そう。ボスが、間抜けな顔して馬鹿なこと言うから」
「・・・いや、絶対に骸の影響も受けてるよ」

僅かに赤くなった頬を撫でながら呟く綱吉はどこか遠い目をしていた。
けど謝る気は微塵もない。無神経な発言をした綱吉が悪い。
睨み付けると頭を掻き、ごめんと苦笑した彼は再び髑髏の頭を撫でた。
悔しいけれどその仕草はお気に入りのもので、飼い主に甘やかされる猫のようにうっとりとしてしまう。

「皆に泣かれると痛いけど、それは俺が負うべき罰だと思ってる。けどね、髑髏。君の涙はまた別の意味を持つよ」
「別?」
「幾ら大マフィアボンゴレの長でもね、女の子の涙には弱いってことさ」

目尻を親指で撫でられ、ポッと頬に熱が集まる。
綱吉はこう見えて地位を抜きにしても老若男女構わず人気があった。
誰に対しても変わらぬ態度、優しい微笑み、東洋人の血が混じる、格好いいというより綺麗なファニーフェイス。
卒ないエスコートは女性の羨望で、ドン・ボンゴレとしての覇気は男性の憧憬が集まる。
オドオドしていた昔は可愛い雰囲気が前面に出ていたが、今は落ち着き男の艶気があった。

「心配してくれてありがとう、クローム。でも、それ以上泣かないで。君を泣かせたなんて知られたら、俺は骸に串刺しにされるよ」
「・・・ふふ」

思わず微笑めば、昔から変わらない暖かな微笑をくれた。



例えば彼がいなくなっても生きていく自分が居て、例えば彼が居なくても歩みた道がある。
それでも居ると居ないじゃ華やぎが違い、安堵感が違う。
心から笑える空気をくれる人を、愛しいと思うのは当たり前だろう。

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