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「お前の祖父、円堂大介を殺したのは影山だ」


大きくはないが、良く響く朗々とした声で告げた響木に瞳が丸くなる。
周囲に居る仲間たちが息を呑む音が聞こえた気がした。
驚愕でものも言えずに静まり返る彼らを尻目に、僅かに顔を俯ける。
震える体を気力で押さえ込み、緩やかに十数えながら呼気を吐き出した。


「・・・そうですか」


発した声が掠れ、体の脇で握る掌が込み上げる感情に抗いきれず揺れる。
沸いた感情は恐怖でも怒りでもなく───単純に、笑いだった。
何を今更、というのが本音だが、彼らは知らないのだと思い出す。
恩師である影山こそが祖父を死に追いやったなど、そんなのとうの昔から知っている。
何もかもを知った上で円堂は影山に師事していた。
随分と幼い頃に知ったので憎しみはわかなかった。ただ、一つ判っていたのは、血の繋がっている誰かより、影山の方が遙かに円堂の近くにいてくれた現実だけだ。
彼はサッカーを欲する円堂が望むままに技術や知識を与えてくれた、紛れもない恩師だった。

こちらを見詰める響木の眼差しはサングラスに隠れてどんなものか見えない。
だがきっと、今の円堂より遥かに悲しみを湛えているのだろう。
気を緩めれば発露しそうな笑いの発作を拳に爪を食い込ませることで堪えた円堂は、ぽんと肩に置かれた掌に顔を上げた。

絡んだ視線の先には、酷く物憂げな表情の豪炎寺が居て、ああ、こいつは違ったと眉を下げる。
円堂と豪炎寺は身内を彼に傷つけられているという点では酷似しているが、置かれた状況は百八十度以上に差がある。
最愛の妹を手に掛けられた彼が影山に抱くのは怒りや恨み、そして憎悪に近いものだろう。
一般的に考えると、豪炎寺が抱く感情こそが正常なものだと思う。
彼の怒りは正当なもので、影山が取った手口は侮蔑されるだけで済まない。

それでも円堂は違う。似た状況に置かれながら、彼に抱く感情は全く反対だ。
心配げに柳眉を顰めてこちらを窺う彼には申し訳ないが、同じように影山を憎めなかった。
影山を憎むには、傍近くに居すぎた。
悪い部分を理解しつつ、彼の優しさも知ってしまっているのだ。
影山について深く知らない彼らのように、憎悪するには大切にされ過ぎていた。

円堂大介に依存しているのは、むしろ響木の方だろう。
血が繋がっているだけの円堂と違い、彼は監督として直接指導を受けている。
感銘を受ける箇所も多くあったろうし、今の彼の人生の基礎にも円堂大介が居るのだろう。
ただ血縁関係であるだけの自分より、余程強い絆がある。

祖父を無心に慕うには、円堂は少しばかり捻くれていた。
純粋に同じサッカーを志すものとして技術や指導力は尊敬しても、彼個人を何も知らないのだ。
両親が死んで行く当てがない円堂を拾い、鬼道家に預けてサッカーを教えてくれたのは影山だ。
血が繋がっていただけの他人じゃなく、血の繋がらない身内こそ価値があった。

感謝、しているのだ。
円堂大介の孫としての自分に価値を見出しただけだとしても、与えてくれた技術も知識も経験も全てが糧となっている。
広い世界を見れたのも、可愛い弟が出来たのも、心を預けれる相棒や協力者として信頼していた許婚を得れたのも、全て影山が居たからだ。
弟を利用されなければ彼に対して一生憎悪など沸かなかったし、鬼道を取り戻せた今となっては影山に対する憤りも消えていた。
胸を占めるのは懐かしさに似た想い。
瞼を閉じれば思い出せる、決別した日々への哀しみ。


「・・・俺は大丈夫です、監督」


眉を下げて笑えば、響木はほっと息を吐き出した。
仲間たちの呼びかけに頷くと、真っ直ぐにフィールドを見詰める。

憎しみに塗れたサッカーをするには、サッカーを愛しすぎていた。
その想いを誰より理解するのは、長きに渡り円堂を育てた影山本人だろう。
目の前に立つ雷門中の監督よりも、共にプレイする仲間よりも、貪欲にサッカーを欲する自分を正確に知るのはいまや敵対関係となった彼だけだ。


「俺は俺のサッカーをする。いつ、どんなときだって」
「そうか。・・・やっぱりお前は大介さんに似てるな」


万端の想いが篭められた言葉に、小さく笑うだけで何も返せなかった。
円堂大介の教えを受けていた彼が言うのなら、そうかもしれない。
会ったこともない人間に似ているといわれるのは少しばかり不思議だが、拒絶するほどでもなかった。

こちらを見詰める仲間の視線に微笑むと、すっと手を差し出した。


「俺たちは勝つ」
「・・・ああ」
「当然」
「ここまで来たら、優勝しかないっしょ」
「勝てますかね?」
「バーカ、勝つんだよ」


思い思いの言葉を吐きながら、円堂の掌の上に幾つもの掌が重なっていく。
自然と円陣を組むと、一人一人の顔を覗いてにっと笑った。


「狙うは優勝ただ一つ。フットボールフロンティアを制するのは、俺たち雷門中だ。行くぞっ!」
『おうっ!!』


勢い良く手を振り上げる。

姿こそ見せなくとも必ず試合を見ているはずの人に向け、全力のプレイをするために。
愛しているからこそ方向性を誤った彼に、想いが届くようにと願いながら。

一陣の風が吹き、相手チームのベンチに世宇子中の面々が現れる。
長い髪を靡かせて微笑んだ少年に、円堂もにいっと猫のように笑った。

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