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あどけないつまさきで、きみはぽっかりとあいた闇にふれる
--お題サイト:afaikさまより--



「ツナ」
「・・・山本」

久し振りに近くで見る綱吉は、別れた当初と何も変わっていなかった。
最後に『彼』と言葉を交わしたのは、彼がミルフィオーレに向かう直前で、今とは違う『ドン・ボンゴレ』としての笑顔だった。
死ぬ気の炎を額に宿した時と同じ覚悟を秘めた眼差しに、何もかも背負うと決めた静謐な迫力。
そんな時の彼を目にすると心が酷く揺れるのに、いつだって綺麗だと見惚れてしまった。

次に彼の顔を見たのは彼が棺に入ってからで、白すぎる肌に同色の花々がとても鬱陶しく感じられたものだ。
美しいからこそ踏み躙りたい、見惚れてしまうからこそ壊してしまいたい。
物言わぬ彼は人形のように精巧で、話しかけても笑い混じりの声は返らない。
幾度試しても変わらぬ結末に、どれほど絶望したか判っているのだろうか。

情けなく眉を下げ苦笑に近い笑みを浮かべる彼は、確かに中学生の頃の面影を色濃く残していた。
今や山本の記憶にもはっきりと残る『過去』の戦い。
それで全て上書きしてくれれば楽なのに、同時に死に絶えたと思い込んだ絶望の記憶も残っている。
いつか記憶は薄れるのだろうか。
綱吉の為に戦った記憶と、彼を見殺しにしたに等しい罪悪感。
脳は処理に混乱し、どう反応していいか判断できない。
あれほど会いたいと願い、声を聞きたいと祈り、世界が壊れればと怒り、神の不在に絶望したのに。
いざ望みが叶った今、限りなく金色に近くなった柔らかな髪を風に揺らす彼に何と声を掛ければいいのか言葉が出てこなかった。

そんな山本の躊躇を感じ取ったらしい綱吉が、一歩前に足を踏み出す。
反射的に腰に据えた時雨金時に手をやって、腰矯めに構えた。
何故、と理性が違和感を叫ぶのに、本能が刀を手放さない。
止めたいのか止めたくないのか、今にも刃を抜きそうな己を留めながら、どちらを為したいか判らない。
もうこれは条件反射に過ぎない。
己を深く傷つけるものから、身を護るための反射運動だ。
鍔を握る手が震える。汗で今にも滑り落ちそうで、それでも血が滲むほど力を込めて掴んでしまう。

「俺を、殺したい?山本」
「ツナ・・・」

違う、違う、違う、違う!
殺したいなんてありえない。彼の姿を目にしただけでこれほど鼓動が早鐘を打ち、心が、魂が歓喜で震えてるというのに。
ああ、でも全て否定できない。憎い、憎い憎い憎い。彼がとても愛しいから、だからこそとても憎いのだ。

「おいで、山本。相手をするよ」
「ツナ」
「おいで」

声に誘われるまま、刀が鯉口を切る。
金属が擦れる音を響かせた渾身の一刀は、柔らかなオレンジの炎を宿した彼に真っ直ぐ向かった。
手加減はしない。迷いもない。心は澄んで、目の前の『沢田綱吉』以外見えていない。

「・・・はは、俺の勝ち、だ」
「ツナ・・・」

身を捻り残像すら見える勢いの一太刀を避けた綱吉は、刀の側面に添えた手から冷気を放出して持ち手ごと凍らせた。
いつの間にやら足まで同時に凍らせられて、自由に動かせる部分は顔だけだ。

「容赦ないのな」
「そっちもね。俺はまだ、殺されるわけにいかないから。山本相手に手加減は無理でしょ」
「はははっ、さすがだ」

近づいたオレンジの炎は先ほどと違って暖かかった。
少しずつ融ける氷と共に、山本の心のしこりも解ける。
何も相談してくれなかった苛立ち、彼が死んだと思った瞬間の絶望、頼ってもらえなかった悲しみ、取り残された苦しみ。他の何もかもの負の感情が、触れる炎の暖かさに少しずつ融けて流れてく。

腕の氷が融けると同時に、華奢な体を抱きしめる。
融けた氷が服に滲みこみ肌を水滴が伝って落ちる。腕の中の綱吉のスーツすら濡らしたそれを、気に留める余裕はもうなくなった。

「ツナ」

腕の中の温もりは彼の生を感じさせ、じわりと目尻に涙が浮かぶ。
絶対に見られないようにと顔を首筋に埋め、嗚咽を殺して擦り寄った。それは大型犬が飼い主に甘える仕草と酷似した行動だった。
声を殺し涙を零す山本は、腕の中の存在が夢でないのを確かめるよう繰り返し繰り返し幾度も名前を呼び続ける。
律儀に一回一回返事をする綱吉は、山本の短い黒髪をくしゃくしゃと掻き乱した。判りやすい親愛の情に、本物の彼の存在に、心が壊れるんじゃないかと思えるくらい歓喜した。
こんな幸せ、初めてだ。心の奥深くに刀をぶっさしてぐらぐらに根底から揺らされてる。傷も血も何もかも含めて煮えたぎり、オーバーヒートして死んでしまいそうだ。

「二度目は、勘弁して欲しいのな」

万端の思いを込めて囁けば。

「あは、善処します」
「確約して」

情けなく眉を下げて目を細めて笑った彼を、腕の中で抱き潰した。

狭い世界の中で、それだけが真実だった。
心の中に存在する闇を暖かな腕で抱きしめた綱吉に、その幸福に山本は『おかえり』と呟いた。
『ただいま』とすぐに返る声に、へらり、と気の抜けた柔らかな笑みが自然と浮かんだ。

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