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「お、円堂。今日は一人なのか?」
「そ。漸くリカを巻いてきたところ」
「何だぁ?あいつ、まだお前の好みを探ってんのか?」
「まぁね。てか、もういい加減諦めればいいのにねぇ」


かかかっと笑う綱海の横を陣取ると、持っていたパンをテーブルに置く。
夕食を摂っていた綱海は、珍しい形のパンに目を丸くすると、好奇心で瞳を輝かせた。
奪われる前にさっさと食べてしまおうと口を開くと、一口齧る。
懐かしいイタリアのパンに目を細め租借し、羨ましそうに見ている綱海に笑った。


「それ、美味そうだな」
「美味いよ」
「一口くれよ」
「嫌だ。お前の一口は色々と想像できるから許可できない」
「えー?何ちっせぇこと言ってだよ、円堂!男なら海のように懐広くなれ」
「俺女だし。そして心はミジンコ並みに小さい」
「嘘!嘘だって、円堂様!どうかこの俺に一口お恵みあれっ」
「ふ・・・しょうがないな、綱海。食いかけを恵んでやろう」
「やりっ、サンキュ!・・・うま!これウマっ!何だこれ?」
「フォカッチャのサンドイッチ。美味いだろ?味わって食えよ~」
「おう!・・・てか、こんだけしかないのか?」
「あと三つある。しかしこれらは全て俺の腹の中に入る予定だ」
「三つあるんだろ?一個くれ」
「いやだ」


残りのパンをかけて綱海と争っていると、すぐ近くのテーブルから聞こえよがしにため息が吐かれた。
ちらり、と視線をやれば、呆れと苛立ちを混ぜたような視線を不動が向けている。
皿の上には数個のミニトマト。
それを食べるでもなく箸で転がしながら舌打ちした彼は、うんざりしているという想いを隠さぬまま元々悪い目つきを更に剣呑に細めた。

苛立ちを露にした不動に食堂に居た他の面々の視線も集まる。
先ほどまでは騒がしかったのに、気がつけば室内は静まり返っていた。
針を落としても音が響きそうな静寂の中、不動がトレイを押しのける。

隣で自分のトレイの上の野菜を突いていた綱海が柳眉を顰めたが、それでもすぐに動く気はないらしく何も言わずに様子を見ていた。
年下組みなら堪忍袋の緒が切れてもうとっくに噛み付いているのにさすが綱海と言ったところか。
笊の目は粗いが観察眼は割りとある彼に微笑みかけると、円堂は不動を見詰めた。


「つかよ、五月蝿いんだけど。食事くらい静かに取れないわけ?」
「悪いな、不動」
「悪いと思ってんなら静かにしろよ。この間から食事時にギャーギャー騒いで迷惑なんだけど」
「この間から?・・・ああ、リカのあれか。何、不動君。毎回律儀に聞いてたわけ?」
「別に聞きたくて聞いてたわけじゃねぇよ。お前の声が馬鹿五月蝿いから聞こえてくるんだ」
「へぇー」


にたり、と自分でも性質が悪いだろうと思える笑みを浮かべ、ライオンが身を起こすようにのったりと席から立ち上がる。
隣の綱海がほどほどにしとけよ、なんて呆れ交じりに忠告をしたがそれに返事はしなかった。
あれでいて察しがいい綱海は返事がないのが返事と理解するだろうと判っていたからこそ余計な手間を省いた円堂は、隣のテーブルまで歩くと不動の隣に立ちテーブルに手を置く。
ぐっと顔を近づければ、不動本人ではなく周りがざわめいた。


「どしたの、不動君。不機嫌じゃない」
「別に、俺はいつもこんな感じだ」
「でもこーんな顔してるぞ」
「ぶっ!!円堂、マジ似てるぞ!!」


眉間に皺を寄せて眼光鋭く睨み付けてきた円堂に、隣でご飯を食べていたはずの綱海が手を打って笑った。
彼には馬鹿うけしている物真似だが、他のイナズマジャパンのメンバーは静まり返っている。
息を潜めて動向を見守る彼らは、不動がこんな悪ふざけを許容するはずないと思っており、その考えは確かに当たっていた。
空気を読めないのか読む気がないのか判らない二人組みを前に、がたりとわざとらしく音を立てて不動が椅子から立ち上がる。
怒りで瞳をきらきらと輝かせる不動に、守はにへらと笑った。


「Che carino!」


鬼道以外はどこの言葉か理解できない言語で叫ぶと、子猫のように毛を逆立てる不動に飛び掛った。
殴り合いの喧嘩でも始まるのかと体を浮かしかけたメンバーは、次の円堂の行動にきょとんと目を丸くする。
隣でその様子をご飯を食べながら至近距離で観察する綱海と、言葉の意味が理解できた鬼道だけは驚きよりも呆れを多大に含んだ眼差しを向けていた。
もっとも、呆れにプラスして同情の色を浮かべる綱海とは違い、鬼道の眼差しに含まれていたのは嫉妬だったけれど。
それすら気づいていて敢えて無視する円堂は、すりすりすりと不動を抱きしめ頬を摺り寄せる。
まるでペットを溺愛する飼い主が親馬鹿ぶりを発揮しているような光景に、ぽかんとイナズマジャパンの面々は口を開けた。


「何だよ、妬いてんのか不動~。超可愛い!!」
「やめろ、放せ!抱きつくな、擦り寄るな、抱き込むな!!」
「心配しなくても俺は不動も大好きだ!」
「誰も心配なんかしてねえよ!気持ち悪いこと言うな!てか、顔近いんだよ!はーなーれーろー!!!」
「ふはははははは!この、ツンツンしちゃって、マジ愛いやつめ」
「こーのーくーそーおーんーなぁー!馬鹿力発揮してないで、とっととどっか行けぇ!」


まるでコントか何かのようだ。
嫌がる不動の体を嬉々として抱きしめる円堂は、ゴールキーパーの腕力を存分に発揮しているらしい。
どれだけもがいてもホールドは解けず、もがき続ける不動の顔だけが怒りや何やらで赤く染まる。
楽しんでるのは円堂だけで不動は全力で嫌がっていた。力みすぎて湯気が出るんじゃないかと見ている人間に思わせるほどに。


「円堂ー、そこそこで止めねえとお前のシンパが凄いことになってんぞー」


綱海が暢気な声で忠告を促すと、指先で一方を指した。
そこには鬼道、風丸、ヒロト、吹雪、立向居と仲間の中でも特に円堂に心酔しているメンバーがどす黒いオーラを背負って不動を睨み据えていた。
色々なものが浮き上がるほど恐ろしい光景だが、そんな中でも平静を保った円堂は、楽しそうに目を細めた。


「だってしょうがないじゃん。こいつが可愛いのがいけないんだ」
「っ、俺は可愛くねえ!!」


円堂以外の誰しもが納得するだろう叫びは、抱きしめる本人には通じなかった。
散々甚振られた後でさらに鬼道たちの呼び出しを受けた不動は、当分自分から円堂に関わろうとしなかったという。
もっとも彼が相手にしている人物は、少しばかり避けられる程度で引き下がる相手ではなかったことだけ特筆しておこう。

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