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以前と同じカフェでゆったりと紅茶を口に含む。
待ち合わせの時間まであと僅か。
あかねの返事は聞かなかったが、彼女は絶対に来ると確信があった。


「お待たせしました、望美様」


先日と同じように膝を少し超える丈のクラシックなメイド服を着こなす少女に微笑みかける。
肩くらいの長さで切りそろえられた桃色の髪に、翡翠色の綺麗な瞳。
おっとりした雰囲気だが、その実しっかりしている少女は、望美に促されるままに椅子に腰を下ろした。


「来てくれてありがとう、あかねさん。出来れば、もうちょっと砕けた態度でお願い。一応ここに居るのは春日の姫じゃないから」
「はい」


にこりと頷いたあかねのために紅茶を頼むと、慎ましく膝に置かれた手を観察する。
白くて柔らかそうな手だが、よく見るとところどころかさついている。
しっかりと働く人間の手だと考えていると、くすくすと小鳥が囀るような笑い声が響いた。
上品に口元に手を当てて笑う姿はそこらの令嬢よりさまになっている。
観察していたのを見抜かれていたのに少しだけ頬を赤らめると、タイミングよく紅茶を運んできたウェイターにケーキの追加注文をした。


「それで、私に何か御用でしょうか?」
「え?」
「一介のメイドである私如きに声をかけてくださるなど、何か御用があってのことかと思いましたけど、違いましたか?」


にこにこと笑顔を崩さぬままに問いかけるあかねに苦笑した。
やはりこの人はメイドにしては変な気後れがない。
先日話をしたときにも思ったが、普通のメイドは貴族を前にすると絶対に視線を合わせようとしないものだ。
斜め下を向き、命令を下すものが許可するまで顔を上げない。
橘家の教育が違っている、と考えるのも一つだが、生憎先日のパーティでそれはないと確認した。
あかねも普通のメイドと同じようにあの場では振舞っていたが、なら尚更今の態度がおかしいと違和感を感じる。
先ほど気がついてしまった事実も含め、残念だと眉を下げて微笑んだ。


「私がお父様と賭けをしているのは知っている?」
「ええ。普通なら知らぬでしょうが、我が家は友雅さんが望美様の父上と親しいですから」
「そう」


それでも普通の使用人ごときが知る事実ではない。
この言葉で彼女がどれだけ友雅から特別扱いされているか判る。
隠さないのは望美に対して距離を測りかねているからか。
嘘を言うより本当を言ってくれた方が信じられるが、そう甘い相手ではなかったらしい。

一つ嘆息すると、出来上がりかけていた友情が遠のくのを悲しみながら口を開いた。


「なら、話は早いね。貴女に聞きたいことがあるの」
「はい」
「───鬼の船は今何処にいるのか。それを教えて欲しい」


真っ直ぐに瞳を見詰めて問いかけると、数度瞳を瞬かせたあかねはゆっくりと俯いた。

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