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ゾロの幼馴染は風のように気紛れな女だ。
いつだって誰より自由でいて、何にも捕まらず好きな時に好きな場所で吹く。
誰より自分を強く持ち、女だというのに男と対等以上に遣り合い、我侭で傲慢な自我を持つ。
どうしようもない子供なのに、何故か惹かれる。
魂の輝きが強く、ハチャメチャだけれど傍にいて楽しい、そんな女。




「いい加減にしろよ、このクソ女!お前、これナミさんの分がねぇじゃねぇか!」
「しししっ!ごっそーさん、サンジ!今日も超美味かった」
「超美味かったじゃねぇ!!お前この落とし前どうつけてくれんだよ!もう材料ねぇんだぞ!ナミさんのデザートどうしてくれんだ!」

普段女には絶対手を上げない優男を気取っている中学からの腐れ縁が、煙草を咥えてむにむにとルフィの頬を抓り上げる。
いへへへへへとルフィが悲鳴を上げても抓る手は解かない。
しかし頬は全く赤くなっていないので、実際はそれほど力は入ってないのだろう。
彼らなりのスキンシップの取り方に、ひょいと肩を竦める。
好きな相手を苛めるなど、今時小学生でも流行らない。
大体料理同好会なんてゾロも無理やり含んで立ち上げたのだ。
彼の料理好きは知っているが、本当はそれを美味そうに食べるルフィが見たくて態々同好会を作ったことくらい、他のメンバーも知っている。
実際女のためと言いながら彼が率先してルフィ以外の女にリクエストを聞くのも見たことないし、ナミのためのデザートだって必ず彼女一人では食べきれない量を作っている。
見え見えの求愛行動だが鈍い幼馴染に通じる筈がなく、健気な男の行動は爆笑したいくらいに愉快だ。
もっとも実際爆笑したら本気の喧嘩に発展し、危うく停学処分を受ける寸前まで行ったので今は自粛している。

無意識なのか意識的になのか。
素直じゃない態度で求愛を続けるサンジは、その場に居たのがゾロでよかったと思うべきだ。
本当の敵が誰かを良く知るゾロは、腕を組みしみじみそう思う。

腰掛けている窓辺から外を覗けば、今日はサッカー部の助っ人をしているらしいルフィの兄の姿が見えた。
文武両道、容姿端麗、温厚堅実、将来有望。他にも四文字熟語が並ぶ学校始まっての優等生は、今日も爽やかな笑顔で青春を満喫しているように見えた。
エースが走るだけで女は奇声を上げ、男も憧れの眼差しを向ける。
彼は名実共に学校の中心に居る男だった。
彼が光ならルフィは闇。優等生と落ち零れの兄妹をそう表現したのは誰だったか。
絵に描いた優秀な生徒であるエースとは違い、ルフィは色々な意味ではみ出しものだ。
彼女に対する好悪はハッキリしていて、味方も多いが敵も多い女だった。
エースを好きな女に呼び出された回数など片手に足りず、酷いときなど男も含めた複数人に囲まれたときもある。
黙ってやられるルフィじゃないので喧嘩には勝利してきたが、それでも罰を受けるのはルフィだった。
だがルフィに何かあれば、消えるのはルフィにちょっかいをかけてきた『誰か』だ。
おかしいと思ってから何故そうなのか気付くまで時間が掛かったが、理由を知ってからもゾロは無言を通した。
相棒である幼馴染ばかり割が食うのも納得いかなかったというのもあったが、それが正当な仕返しだと気がついたから。

本当の闇が誰か、ゾロは知っている。
伊達に幼稚園時代からルフィとつるんでいない。
彼女と共に居るときのエースの眼差しの強さは、園児と言えども背筋に薄ら寒いものが駆け上る迫力があった。
酷く昏く欝な眼差し。今にも掴み掛かってきそうな、獣が牙を剥く寸前の恐ろしさ。
ゾロが剣を志したのは、その恐怖心に打ち勝つ心の強さが欲しかったからだ。
当たり前に傍を離れるなんて選択肢は、脳裏に浮かばなかったから、だから傍に居るための努力を始めた。
今では趣味が本気になって打ち込んでいるけれど、何が大切かは変わってない。
ルフィと一緒に居ると喧嘩に巻き込まれる回数も半端じゃないため昇段試験は受けないが、無段無休でも弱くない。

ただ傍に居るため強くなった。
だがそれは、あそこに居る彼だって同じ。
爽やかな顔で笑ってるが、ルフィは一度だって彼に勝てたためしはないと笑っていた。
ルフィとゾロの強さはほぼ同じ。
ならばゾロも彼に勝てない。

「どーした、ゾロ?」
「・・・クソエロコックは?」
「サンジはナミのとこに行ったぞ。あいつデザート隠してやがった。んで、何見てんだ?・・・って、エースか。何だ、ゾロ。お前がエース見てんなんて珍しいな」
「そうか?」
「そうだ。極力関わらないようしてんだろ?」

普段どおりの笑顔でさらりと言われたが、気付かれてると思わなかった。
鈍いようでどこか聡いこの幼馴染を、少々見くびっていたかもしれない。
しししと楽しげに笑う彼女の額を指で弾くと、自然と隣に並んだ彼女から視線を逸らす。

「相変わらず、兄貴には勝てねえか?」
「おう。でも、なんかもうすぐ勝てる気がする」
「その台詞、十年以上聞いてる」

毎年懲りずに告げるルフィに、瞼を伏せ深くため息を落とす。
彼女が勝てないと認めるほど、相変わらず彼は強いらしい。

不意に強い視線を感じ慌てて瞼を開ける。
案の定話題の彼の視線で、一瞬だったが今にも射殺しそうな激しさを含んでいた。
彼の闇は晴れるどころか年々深まっている気がして、胸の奥が落ち着かない。
そんなゾロの心配も余所に、幼馴染は無邪気に笑った。

「ホント、お前らって変な関係」

その原因の癖に、何も知らずにいようとする彼女は、とてもずるくて傲慢だった。
ルフィの我侭な性格を知った上で離れられない自分は、きっと彼女に輪をかけた馬鹿なのだろう。
暢気にゾロの頭の上に腕を置きもたれかかるルフィを、せめてもの思いで軽く小突く。

今日も深まるエースの怨念に、呪いはかけられてないよなと僅かに本気で心配になった。

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