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■近藤+土方&沖田→&神楽←高杉
「さあ、もう観念したらどうでィ。チャイナ」
「年貢の納め時って奴だ。痛くしねぇから投降しろ」
「おいおい、トシ。その言い方は何か卑猥だぞ?」
「いや。そんなことに結びつけるあんたの存在が卑猥だ」
「存在から?ねぇ、存在から否定されちゃうのオレ?」
コントみたいなやり取りをしながら、真選組を締める3人がジリジリと距離を縮めた。軽口を叩きながらもその瞳はめっきりと真剣で、纏わせている覇気は随分と剣呑だ。
円陣を組む彼らの真ん中には、夜なのに傘を差したままの神楽。真選組切っての刀の使い手に囲まれながらも、彼女は酢昆布をかじったまま普段と変わらない。
「か弱い女の子一人に三人がかりなんて、お前ら最悪アル。まるでダメなお馬鹿。略してマダオアル」
ふいーと息を吐きながら肩を竦め、年甲斐もなく随分と小馬鹿にした眼差しを向ける。人を食ったような仕草は嘗て見慣れていたもので、以前との兆通点を探してしまうほど彼女にも彼らにもまだまだ余裕があった。
その仕草に、決して気が長いとはいえない鬼の副長の頭に青筋が浮く。
「か弱い女の子相手ならオレたちが3人がかりで捕まえようなんて思わねぇよ。この怪力娘」
「ちょっ、こっちにこないでくれる?マヨネーズ臭いのがうつるだろ、ボケェ」
「おいィィ!マヨネーズを馬鹿にするなァァ!あれはな、かけるだけでどんな食べ物も美味くすると言う魔法の調味料なんだぞォォォォ!」
「へっ。マヨをチュッチュばかりしてたからお前は汗までマヨネーズ臭いアル。最悪ー」
「嗅いだのか!?お前がオレの汗の匂いを嗅いだ事があるってのか!?」
「嗅いで欲しいのかよ、このポリゴン」
「ポリゴンじゃねぇ、ロリコンだァァァァ!」
「──やっぱ、ロリコンだったんですかィ。おっと、こっちに来ないでくだせィ。ロリコンが移っちまう」
「違うゥゥゥ!オレはロリコンじゃねぇ」
「違う違うって言う奴が大抵は犯人ヨ。お前のポリゴンは確定したな、マヨラー」
「最悪でさぁ、土方さん」
「総悟ォ。お前は誰の味方だコラァ!」
放っておくと同士討ちを始めそうな二人に。
「まあまあ、落ち着けトシ。お前がロリコンでも、オレは気にしない」
「だから、違うって言ってんだろォォォォ!!」
間に入った近藤に思い切り叫んだ。フォローする気があるのかと今にも血管がぶちきれそうだ。高校野球を応援する応援団も真っ青な声量はすばらしい。だが、さすがに息が切れたらしい土方は肩を上下させながらも気を取り直して刀を構えた。
「大人しく、投降しろ。今なら、無傷で屯所に連れ帰ってやる」
「嫌アル。あんな男の巣窟に私を連れて行って何する積もりアルカ、このポリゴン」
「いい加減に、その話題から離れろォォォォ!」
血管が切れそうになっている土方を無表情に見つめ、残っていたす昆布をくちゃくちゃと食べ終える。手に残った物を舐め取ると、かすかにすっぱい味がした。何をしててもこの味は変わらない。
「──そろそろ、夜食の時間アル。今日は鮭茶漬けさーらさらの日ヨ。私はもう帰るアル」
「待ちな、チャイナ。もう少し、オレと遊ぼうぜィ」
「お前、しっつこいから嫌アル」
「はっ。本当は嬉しいくせに、何言ってんだィ」
「──判ったアル。お前、ゴリラと一緒に居すぎてストーカー癖が移ったネ」
「いやいやいや、チャイナさん。オレはストーカーじゃないからね」
「ファミレスで姉御の座ってた席の机の支柱に抱きついていた男がどの面下げてストーカーじゃないと言い切るネ?お前、図々しいアル」
「オレの愛は人より少し粘っこいだけだ!ストーカーなんぞでは断じてない!」
「いや。それを世の中ではストーカーって言うんだぜ、近藤さん」
「トシィィィィ!」
神楽のペースに乗った二人がボケと突っ込みを始めた間に、総悟は刀を走らせた。瞳孔はとうに開き赤い舌が落ち着かせるようにぺろりと唇を舐める。先日よりも速いそれは、確実に神楽の目を狙う。その一閃を瞬き一つせずに下がる事で避けると、神楽は傘を構えた。
「三対一か。天下の真選組も、落ちたものアルな」
ふっと息を吐き出し丹田に力を込め嫌味な顔をする。小憎らしいガキそのものの笑顔に、土方は苦笑した。変わってないように見える。いや、神楽の本質はきっと変わっていない。ただ、向かう方向が間違っているだけなのだろう。それを、軌道修正してやりたいと思う。今更何て思いたくなかった。何故なら少女は加害者であると同時に被害者だ。力無き者でさえ肉親を殺されれば復讐に走るのに、力あるこの少女が持てるものを振るうのをどうして責められようか。真選組として取り締まる立場に居てもその感情が理解できないとは言わない。
唯一つ悲しいと思えるのは、その澄んだ青い瞳が昏く沈んでいることか。
いつから、これほどお人よしになったのか。鬼の副長ともあろう者がと自嘲するが、気になってしまうのだから仕方がない。放っておけないのだ。この子供が怒りの奥で悲しみを持て余しているのが見えるから。
沖田の本気の刀を最小限の力のみで軽く避ける神楽を見て瞳孔が開く。あんなに楽しそうに本気で刀を振るう沖田を見たのも初めてなら、これほど縦横無尽に走る刀を掻い潜る存在も初めてだ。
「──避けろ、総悟」
自分の前に居た沖田を楯にし奇襲をかける。信頼ゆえに躊躇いのない攻撃は、間違うことなく沖田の背中の首より少ししたを狙った。否。正確に言うならその奥にある少女の胸を。普通なら避けれないであろうタイミングのそれは、少女の肩を掠めただけで終わった。
にいっと無意識に顔が笑う。自分の血が熱くなり踊るのが判る。侍としてこれほど心躍る戦いも久しぶりだ。何しろ獲物は戦うために生まれたと言われるほどの武の才を持つ夜兎族の娘。女であっても力もスピードも土方より上だ。彼が勝るのは経験と技量、この二つだけ。
ならばそれを最大限に利用すべく沖田の刀と時間をずらして切りかかる。相手の間合いとタイミングを狂わせる絶妙な攻撃は、昔から付き合いのある二人だからこその息のあったコンビネーション。
「上手く避けろよ、チャイナさん!」
意識が二人に集中していくのが見ていて判った。表情はどんどんと薄くなり瞳は定める為に眇められる。人の視界は集中したときには普段より随分と狭められる。故にがら空きになった背後から近藤が突きを繰り出すのを見て、もらったな、と密かに思った。
「・・・・・・まあまあ、アルナ」
脇を斬り去った軌跡を眺め、流れる血を見ながら神楽は呟いた。その言葉に、ふつふつと血が沸き立つ。殺すなら、自分の刀でしたい。これは沖田の本能で躊躇いがない望みだが、今は殺す事ではなく捕まえる事をメインと考えているから近藤に譲った。
それでも。
(──何て魅力的な赤なんでさァ)
白い肌から零れる命の輝きに、沖田は魅了される。それが、彼女のモノというだけで、何よりも美しく見える。闇に溶け込む漆黒のチャイナドレス。紅い大輪の華が描かれていたそれよりも、なお紅い赤。咽喉の奥で笑いを噛み殺す。愉快で愉快で仕方なかった。この手で最後を攫えるなら、何も惜しむものなどないのに。
哂いながらもコンビネーションの手は止めない。斬り、突き、凪ぐ。構えも取るのが難しいほど息つかぬ攻撃。さすがに三人がかりだときついのか、避ける神楽は防戦一方だ。
殺す気はないということなのだろう。神楽が本気になれば、自分達を殺すなどたやすいはずだ。それをしない、という事は。
(捕まえる事が出来るかも知れないって、ことだ)
近藤と土方の刀を避けた神楽が、沖田の方に転がり込む。刀を下段に構え力に逆らわぬまま、上に振り上げた。浅い感触。
けど、それでも微かに自分まで血飛沫が届き、かかる雫に頬を染めた。
「やっぱ、甘ェや」
独特の味がするそれを、もっと舐めたいと思った。
「・・・困ったアル」
大して困ってもいないが、とりあえず呟いてみた。一見すれば、状況は不利だ。今日は誰かを殺す気分じゃない。だが殺さずに切り抜けるには、彼ら三人は強かった。これほど見事なコンビネーションを見せた相手は、今まで戦ってきた相手でもいない。
強い。武装警察真選組の名は伊達ではない。普段ヘラヘラしている近藤も。血管が千切れるんじゃないかと思うくらい声をからしている土方も。間抜けなアイマスクをして寝ている沖田も。
強い。
唇が持ち上がる。その笑みに、土方の目が驚いたように丸くなった。沖田は、返すように笑う。近藤は何も表情を変えずに刀を振るう。
「面白いけど、残念アル」
神楽は、本当にそう思った。厭きないやり取りは、もう終えなくてはいけない。
「迎えが来てしまったアル。だから、お前らとの遊びはコレで終わりヨ」
殺気は後ろから現れた。しゃがんでそれを避ける。繰り出された突きは、すれすれで避けた近藤の脇を掠めた。
ちょうど、先程の神楽と同じ場所だ。瞠目する彼からは動揺が如実に伝わり、甘いアル、と自然に唇が動く。出来た隙を狙い、神楽が近藤に向け傘を振るった。
「近藤さん!?」
土方の声が揺れる。動揺は隙を生む。先ほどまで見つけれなかったそれは、今では呆気ないほど溢れる。油断した土方の懐に入り込むと、加減抜きで蹴り上げた。とっさに腕をクロスさせた彼の腕ごと貰って。
景気良く吹っ飛んだ彼は、路上の壁に当たりようやく止まる。土方を蹴り上げことで出来た隙に切りかかってきた沖田は
隣に並んだ男に弾かれ、構えなおす前に神楽の掌ていが決まった。
「・・・おい、じゃじゃ馬。オレのいない間に、何勝手に体に傷つくってんだよ」
「一々お前の許可なんて取る必要ないネ」
神楽の横で刀を構えていた晋助は、のそりと笑った。彼の纏う女物の上着が風に吹かれてふわりと揺れた。
「遊ぶなら、オレも呼べよ。・・・楽しい宴にしてやる」
「お前はすぐに殺すから嫌ヨ。気に入ったおもちゃほど壊そうとするガキと一緒ネ」
「そうか?オレは本当に気に入ったものは長く大事に壊していく性質だぜ?」
「最悪ヨ。どS宣言ネ。身の危険を感じちゃうアル」
「大丈夫だ、じゃじゃ馬。お前は少々のことじゃ壊れねぇだろ」
「か弱い女の子に向かって何言うカ。私ぐらいの年頃の女の子は、常に白馬に乗った王様を待ってるアル。繊細な年頃なのヨ」
「繊細?王子の間違えじゃねぇの?」
「王子はマザコンかもしれないからいやアル。初めから権力握っててしかも姑のいないやもめの王様の方がいいネ。ポックリ逝ったら保険金がっぽがっぽアル」
「ははっ。確かに、違いねぇ」
上機嫌に笑った晋助は、転がっている真選組の三人に目を向けた。上下する肩から息はあるのだろうが、動く事もままならないらしい彼らに近き刀に手をかけた。だが、クイッと上着を引っ張られ止る。振り払うのは簡単だったがそれをしない代わりににたり、と微笑んだ。
「帰るアル」
「オレに、あいつらを見逃せって?」
狂気で片目が光る。ほの昏いそれにじりじりとした熱を感じながらも、涼しい顔で神楽は言った。
「腹が減ったアル。今日は鮭茶漬けさーらさらの日ヨ。お前には、梅干をくれてやるアル」
「鮭茶漬けなのに、梅干かよ」
「風呂に入って、服も着替えたいネ。血でぐちょぐちょヨ」
「また、破いたのか?今度は買ってやらねぇぞ」
「別にいいアル。この間武市変態のへそくりまた見つけたネ」
「今度は何処にあった?」
「今度は、百科事典の間アル。やることがちっさい男アル」
ビラリと万札を見せつけ、ニヤリと神楽は笑う。
「梅干一個ならおごってやるアル」
「・・・それだけ持ってて梅干一個かよ」
「ありがたがるヨロシ。工場長と呼ぶのを許すアル」
「・・・・・・行くぞ、工場長」
視線を、転がっている真選組に一瞬向け、それでも素直に踵を返した晋助の後に神楽が続く。ここで逆らえば面倒な事になると数少ない経験から知っていた。
「──暇なら。また、遊んでやるアル」
呟いた声は、彼らに届く前に消えた。
「さあ、もう観念したらどうでィ。チャイナ」
「年貢の納め時って奴だ。痛くしねぇから投降しろ」
「おいおい、トシ。その言い方は何か卑猥だぞ?」
「いや。そんなことに結びつけるあんたの存在が卑猥だ」
「存在から?ねぇ、存在から否定されちゃうのオレ?」
コントみたいなやり取りをしながら、真選組を締める3人がジリジリと距離を縮めた。軽口を叩きながらもその瞳はめっきりと真剣で、纏わせている覇気は随分と剣呑だ。
円陣を組む彼らの真ん中には、夜なのに傘を差したままの神楽。真選組切っての刀の使い手に囲まれながらも、彼女は酢昆布をかじったまま普段と変わらない。
「か弱い女の子一人に三人がかりなんて、お前ら最悪アル。まるでダメなお馬鹿。略してマダオアル」
ふいーと息を吐きながら肩を竦め、年甲斐もなく随分と小馬鹿にした眼差しを向ける。人を食ったような仕草は嘗て見慣れていたもので、以前との兆通点を探してしまうほど彼女にも彼らにもまだまだ余裕があった。
その仕草に、決して気が長いとはいえない鬼の副長の頭に青筋が浮く。
「か弱い女の子相手ならオレたちが3人がかりで捕まえようなんて思わねぇよ。この怪力娘」
「ちょっ、こっちにこないでくれる?マヨネーズ臭いのがうつるだろ、ボケェ」
「おいィィ!マヨネーズを馬鹿にするなァァ!あれはな、かけるだけでどんな食べ物も美味くすると言う魔法の調味料なんだぞォォォォ!」
「へっ。マヨをチュッチュばかりしてたからお前は汗までマヨネーズ臭いアル。最悪ー」
「嗅いだのか!?お前がオレの汗の匂いを嗅いだ事があるってのか!?」
「嗅いで欲しいのかよ、このポリゴン」
「ポリゴンじゃねぇ、ロリコンだァァァァ!」
「──やっぱ、ロリコンだったんですかィ。おっと、こっちに来ないでくだせィ。ロリコンが移っちまう」
「違うゥゥゥ!オレはロリコンじゃねぇ」
「違う違うって言う奴が大抵は犯人ヨ。お前のポリゴンは確定したな、マヨラー」
「最悪でさぁ、土方さん」
「総悟ォ。お前は誰の味方だコラァ!」
放っておくと同士討ちを始めそうな二人に。
「まあまあ、落ち着けトシ。お前がロリコンでも、オレは気にしない」
「だから、違うって言ってんだろォォォォ!!」
間に入った近藤に思い切り叫んだ。フォローする気があるのかと今にも血管がぶちきれそうだ。高校野球を応援する応援団も真っ青な声量はすばらしい。だが、さすがに息が切れたらしい土方は肩を上下させながらも気を取り直して刀を構えた。
「大人しく、投降しろ。今なら、無傷で屯所に連れ帰ってやる」
「嫌アル。あんな男の巣窟に私を連れて行って何する積もりアルカ、このポリゴン」
「いい加減に、その話題から離れろォォォォ!」
血管が切れそうになっている土方を無表情に見つめ、残っていたす昆布をくちゃくちゃと食べ終える。手に残った物を舐め取ると、かすかにすっぱい味がした。何をしててもこの味は変わらない。
「──そろそろ、夜食の時間アル。今日は鮭茶漬けさーらさらの日ヨ。私はもう帰るアル」
「待ちな、チャイナ。もう少し、オレと遊ぼうぜィ」
「お前、しっつこいから嫌アル」
「はっ。本当は嬉しいくせに、何言ってんだィ」
「──判ったアル。お前、ゴリラと一緒に居すぎてストーカー癖が移ったネ」
「いやいやいや、チャイナさん。オレはストーカーじゃないからね」
「ファミレスで姉御の座ってた席の机の支柱に抱きついていた男がどの面下げてストーカーじゃないと言い切るネ?お前、図々しいアル」
「オレの愛は人より少し粘っこいだけだ!ストーカーなんぞでは断じてない!」
「いや。それを世の中ではストーカーって言うんだぜ、近藤さん」
「トシィィィィ!」
神楽のペースに乗った二人がボケと突っ込みを始めた間に、総悟は刀を走らせた。瞳孔はとうに開き赤い舌が落ち着かせるようにぺろりと唇を舐める。先日よりも速いそれは、確実に神楽の目を狙う。その一閃を瞬き一つせずに下がる事で避けると、神楽は傘を構えた。
「三対一か。天下の真選組も、落ちたものアルな」
ふっと息を吐き出し丹田に力を込め嫌味な顔をする。小憎らしいガキそのものの笑顔に、土方は苦笑した。変わってないように見える。いや、神楽の本質はきっと変わっていない。ただ、向かう方向が間違っているだけなのだろう。それを、軌道修正してやりたいと思う。今更何て思いたくなかった。何故なら少女は加害者であると同時に被害者だ。力無き者でさえ肉親を殺されれば復讐に走るのに、力あるこの少女が持てるものを振るうのをどうして責められようか。真選組として取り締まる立場に居てもその感情が理解できないとは言わない。
唯一つ悲しいと思えるのは、その澄んだ青い瞳が昏く沈んでいることか。
いつから、これほどお人よしになったのか。鬼の副長ともあろう者がと自嘲するが、気になってしまうのだから仕方がない。放っておけないのだ。この子供が怒りの奥で悲しみを持て余しているのが見えるから。
沖田の本気の刀を最小限の力のみで軽く避ける神楽を見て瞳孔が開く。あんなに楽しそうに本気で刀を振るう沖田を見たのも初めてなら、これほど縦横無尽に走る刀を掻い潜る存在も初めてだ。
「──避けろ、総悟」
自分の前に居た沖田を楯にし奇襲をかける。信頼ゆえに躊躇いのない攻撃は、間違うことなく沖田の背中の首より少ししたを狙った。否。正確に言うならその奥にある少女の胸を。普通なら避けれないであろうタイミングのそれは、少女の肩を掠めただけで終わった。
にいっと無意識に顔が笑う。自分の血が熱くなり踊るのが判る。侍としてこれほど心躍る戦いも久しぶりだ。何しろ獲物は戦うために生まれたと言われるほどの武の才を持つ夜兎族の娘。女であっても力もスピードも土方より上だ。彼が勝るのは経験と技量、この二つだけ。
ならばそれを最大限に利用すべく沖田の刀と時間をずらして切りかかる。相手の間合いとタイミングを狂わせる絶妙な攻撃は、昔から付き合いのある二人だからこその息のあったコンビネーション。
「上手く避けろよ、チャイナさん!」
意識が二人に集中していくのが見ていて判った。表情はどんどんと薄くなり瞳は定める為に眇められる。人の視界は集中したときには普段より随分と狭められる。故にがら空きになった背後から近藤が突きを繰り出すのを見て、もらったな、と密かに思った。
「・・・・・・まあまあ、アルナ」
脇を斬り去った軌跡を眺め、流れる血を見ながら神楽は呟いた。その言葉に、ふつふつと血が沸き立つ。殺すなら、自分の刀でしたい。これは沖田の本能で躊躇いがない望みだが、今は殺す事ではなく捕まえる事をメインと考えているから近藤に譲った。
それでも。
(──何て魅力的な赤なんでさァ)
白い肌から零れる命の輝きに、沖田は魅了される。それが、彼女のモノというだけで、何よりも美しく見える。闇に溶け込む漆黒のチャイナドレス。紅い大輪の華が描かれていたそれよりも、なお紅い赤。咽喉の奥で笑いを噛み殺す。愉快で愉快で仕方なかった。この手で最後を攫えるなら、何も惜しむものなどないのに。
哂いながらもコンビネーションの手は止めない。斬り、突き、凪ぐ。構えも取るのが難しいほど息つかぬ攻撃。さすがに三人がかりだときついのか、避ける神楽は防戦一方だ。
殺す気はないということなのだろう。神楽が本気になれば、自分達を殺すなどたやすいはずだ。それをしない、という事は。
(捕まえる事が出来るかも知れないって、ことだ)
近藤と土方の刀を避けた神楽が、沖田の方に転がり込む。刀を下段に構え力に逆らわぬまま、上に振り上げた。浅い感触。
けど、それでも微かに自分まで血飛沫が届き、かかる雫に頬を染めた。
「やっぱ、甘ェや」
独特の味がするそれを、もっと舐めたいと思った。
「・・・困ったアル」
大して困ってもいないが、とりあえず呟いてみた。一見すれば、状況は不利だ。今日は誰かを殺す気分じゃない。だが殺さずに切り抜けるには、彼ら三人は強かった。これほど見事なコンビネーションを見せた相手は、今まで戦ってきた相手でもいない。
強い。武装警察真選組の名は伊達ではない。普段ヘラヘラしている近藤も。血管が千切れるんじゃないかと思うくらい声をからしている土方も。間抜けなアイマスクをして寝ている沖田も。
強い。
唇が持ち上がる。その笑みに、土方の目が驚いたように丸くなった。沖田は、返すように笑う。近藤は何も表情を変えずに刀を振るう。
「面白いけど、残念アル」
神楽は、本当にそう思った。厭きないやり取りは、もう終えなくてはいけない。
「迎えが来てしまったアル。だから、お前らとの遊びはコレで終わりヨ」
殺気は後ろから現れた。しゃがんでそれを避ける。繰り出された突きは、すれすれで避けた近藤の脇を掠めた。
ちょうど、先程の神楽と同じ場所だ。瞠目する彼からは動揺が如実に伝わり、甘いアル、と自然に唇が動く。出来た隙を狙い、神楽が近藤に向け傘を振るった。
「近藤さん!?」
土方の声が揺れる。動揺は隙を生む。先ほどまで見つけれなかったそれは、今では呆気ないほど溢れる。油断した土方の懐に入り込むと、加減抜きで蹴り上げた。とっさに腕をクロスさせた彼の腕ごと貰って。
景気良く吹っ飛んだ彼は、路上の壁に当たりようやく止まる。土方を蹴り上げことで出来た隙に切りかかってきた沖田は
隣に並んだ男に弾かれ、構えなおす前に神楽の掌ていが決まった。
「・・・おい、じゃじゃ馬。オレのいない間に、何勝手に体に傷つくってんだよ」
「一々お前の許可なんて取る必要ないネ」
神楽の横で刀を構えていた晋助は、のそりと笑った。彼の纏う女物の上着が風に吹かれてふわりと揺れた。
「遊ぶなら、オレも呼べよ。・・・楽しい宴にしてやる」
「お前はすぐに殺すから嫌ヨ。気に入ったおもちゃほど壊そうとするガキと一緒ネ」
「そうか?オレは本当に気に入ったものは長く大事に壊していく性質だぜ?」
「最悪ヨ。どS宣言ネ。身の危険を感じちゃうアル」
「大丈夫だ、じゃじゃ馬。お前は少々のことじゃ壊れねぇだろ」
「か弱い女の子に向かって何言うカ。私ぐらいの年頃の女の子は、常に白馬に乗った王様を待ってるアル。繊細な年頃なのヨ」
「繊細?王子の間違えじゃねぇの?」
「王子はマザコンかもしれないからいやアル。初めから権力握っててしかも姑のいないやもめの王様の方がいいネ。ポックリ逝ったら保険金がっぽがっぽアル」
「ははっ。確かに、違いねぇ」
上機嫌に笑った晋助は、転がっている真選組の三人に目を向けた。上下する肩から息はあるのだろうが、動く事もままならないらしい彼らに近き刀に手をかけた。だが、クイッと上着を引っ張られ止る。振り払うのは簡単だったがそれをしない代わりににたり、と微笑んだ。
「帰るアル」
「オレに、あいつらを見逃せって?」
狂気で片目が光る。ほの昏いそれにじりじりとした熱を感じながらも、涼しい顔で神楽は言った。
「腹が減ったアル。今日は鮭茶漬けさーらさらの日ヨ。お前には、梅干をくれてやるアル」
「鮭茶漬けなのに、梅干かよ」
「風呂に入って、服も着替えたいネ。血でぐちょぐちょヨ」
「また、破いたのか?今度は買ってやらねぇぞ」
「別にいいアル。この間武市変態のへそくりまた見つけたネ」
「今度は何処にあった?」
「今度は、百科事典の間アル。やることがちっさい男アル」
ビラリと万札を見せつけ、ニヤリと神楽は笑う。
「梅干一個ならおごってやるアル」
「・・・それだけ持ってて梅干一個かよ」
「ありがたがるヨロシ。工場長と呼ぶのを許すアル」
「・・・・・・行くぞ、工場長」
視線を、転がっている真選組に一瞬向け、それでも素直に踵を返した晋助の後に神楽が続く。ここで逆らえば面倒な事になると数少ない経験から知っていた。
「──暇なら。また、遊んでやるアル」
呟いた声は、彼らに届く前に消えた。
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