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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。






「馬鹿な子達」

どん、と音が聞こえそうなくらいに色濃い覇気を纏ったルフィを見てロビンは呟く。
彼の強すぎる覇気に呷られ、長く艶やかな黒髪がふわりと揺れた。
それを片手でかきあげて耳の後ろに掛けると、瞬きせずに目の前の馬鹿な人間の末路を見届けるべく腕を組み楽な体勢になった。

先ほどまでにやにやとだらしない顔をしていた男たちは、心なしか青ざめ体を震わせ始める。
だが今更遅い。彼らは眠れる獅子の尾を踏んだ。
目を覚ました獣は自身が納得するまで動きを止めはしない。
普段は明るく陽気な彼だが忘れてはいけない。
どんなに間が抜けて見えようと、子供っぽく振舞おうと、馬鹿で騙されやすかろうと、彼は、モンキー・D・ルフィは海賊王だ。
海賊の中の海賊であり、他の何物にもなりえない。

我侭でどこまでも自分の意思に忠実な、海賊王。

「───何でナミが泣いてんだ」
「・・・っヒ」

静かな声。
それは普段の彼から考えられない位に、低く怒りを抑えた声。
彼の怒りが自分に向かわないのを理解していても、ロビンの背筋を寒いものが過ぎった。

敵対していた男たちの意識は今にも途切れそうで、ナミを拘束している男も首筋に当てた刃が定まらないほど震えている。
いけないと察し、能力を使うとナイフを叩き落した。
囚われていたナミが顔を上げロビンと瞳が合う。
頬に濡れた痕があり、体に出来た傷に目を眇める。
服は破れ抵抗の跡が生々しい。
海賊であってもナミは女だ。女だからこそされる辱めもある。

「・・・ルフィ」
「大丈夫だ、ナミ。もう大丈夫だ。おれが助けに来たからな」
「ルフィ」

走り寄ったナミがルフィの首筋に抱きついた。
白く細い腕にも傷があり、紐で縛られたのかくっきりとした赤が残っていた。
それを見て舌打したルフィは、ナミの背を宥めるように撫でるとオレンジ色の頭を自分の肩口へと押し付ける。

「大丈夫だ。おれたちの船へ帰ろう」
「ん・・・ルフィ」

暗示を掛けられたようにルフィの言葉を聞いたナミから力が抜ける。
その体を抱き上げると、ルフィはロビンへと歩いてきた。
未だに彼の怒りは収まっていないらしく、ゆらゆらと怒りで背景が霞む。
しかしながら仲間に手を出されたロビンも彼の気持ちは良く理解できたので、手を伸ばして彼女を受け取った。

「ロビン」
「何?」
「ナミは、大丈夫か?」
「・・・大丈夫よ。必死に抵抗したんでしょうね。体の表面に傷はあるけど、下着はつけたままし変な痕跡はないわ。後で一応チョッパーに確認してもらうけど、何かされていたら多分貴方でも拒絶されていると思う」
「そうか。体に残りそうな傷は?」
「それも大丈夫だと思う。見た限りではチョッパーが治せる範囲だわ」
「そっか」

ルフィが安堵を息を吐き、肩の力を抜く。
ロビンを見詰める瞳も普段の落ち着きを取り戻し、怒りは鎮火していないものの、それでも制御できる程度に戻ってくれたらしい。

判りやすい激高と、その制御までの過程に苦笑が漏れる。
ルフィは、ナミが泣くのを極端に厭うた。
まるで彼女の笑顔を護るために行動しているのではないかと思えるときもある。
彼がどうしてそうするのかロビンは知らないが、それが恋愛感情からでないのは理解していた。
恋をしているには瞳に熱が足りない。
想い焦がれる相手を見詰める色を、彼は宿していないし、そんな姿は彼女だけではなく他の誰に対しても向けていない。
彼に焦がれる女は多く、男ですら惚れるのに、それでも彼が同じ色を宿して誰かを見詰めたのは見たことがなかった。
否、一度だけ、あった。
その時は、ルフィの瞳を向けられる相手に酷く胸を妬かれ、苦しく悔しい想いをさせられた。
ルフィは、自分たちのものなのに、と。
物思いに耽っていると、もう一度ルフィに呼びかけられ慌てて意識を戻す。

「何?」
「これ、持っててくれ」

頭に乗せられたのは、彼が宝物にしている麦藁帽子。
彼の象徴とも言える、彼の特別。

それを頭にかぶせられ、見えなくなった視界でも離れる気配にホッとした。
きっと暗闇で見えなかっただろうが、今の自分の顔は出来れば誰にも見せたくない。
顔が熱く、体中が熱を発しているようだ。
ナミの体を支えているために使えない両腕の変わりに、能力を利用し麦藁帽子が落ちないように目深に被る。

ロビンはナミほど感情のふり幅が大きくない。
それは決して感情がないのではなく、彼女ほど感情表現が豊かではないだけの話で、昔に比べれば今は十分に豊かになっている。
だが、それでも。
ロビンを赤面させるなんて荒業、海賊王である彼にしか為し得ない偉業だろう。

かさり、とちくちくした感触をしたそれに手を添える。
僅かな温もりは先ほどまでこれをしていたルフィの体温の残りだろう。
お日様の香を存分にしみこませたそれは、ルフィと同じ香がした。

「───ずるいわ」

こちらを振り返らずに戦闘しているだろう彼に、ぽそりと呟く。
ルフィはナミを特別に扱う。
ナミが泣かされるのを嫌い、弱い彼女を護ろうと動く。
ロビンはナミほど弱くないので、彼女よりも彼に護られる回数は極端に少ない。
それを不満に思った事はないしこれからもそうだと思う。
この強さがあるからこそある程度彼についていけるのを誇りに思っているし、味わうスリルはとても楽しい。
ロビンはナミが好きだ。
つんとした態度を取りながらも、ルフィを心配し信じ慕う彼女を可愛いと思っている。
素直じゃない態度でも好意は漏れ、天邪鬼な猫のようにじゃれる姿は面白い。
いざという時泣き喚くだけでなく凛と背を伸ばし立ち向かう姿は格好いいし、同じ女として尊敬する。
彼女はルフィを護るためには、何よりも強い盾であろうとするから。
微笑ましく思いながらも、痛む胸に気づかぬわけではない。

ロビンはルフィが好きだ。ナミが、彼を好きという意味と同じ意味で。
それを口にする気もないし今の関係を壊すつもりはないが、彼女を羨ましく思うのも事実だった。
ナミを泣かせた男たちにルフィは激怒する。
自分が泣いても同じように怒ってくれるか、それを時々知りたくなる。
残念ながらロビンが涙を流す機会は彼によりほぼ奪われている状態なので、未だに確かめるには到っていないけれど。

「ずるいわ」

怒りのままに敵とみなした雑魚どもを叩き伏せていく海賊王に、ぽつりと呟く。
いつも彼女が預かるはずの麦藁帽子を預けられた。
それだけで、胸が押さえきれないくらいに高鳴る。
十代の子供でもないのに、感情が抑えきれないくらいに気持ちが高ぶる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
彼が、海賊王になった今でも、この帽子を自分の特別な人間にしか触れさせないのを知っているから、嬉しくて幸せで仕方ない。

「私はあなたの特別。───でも、特別じゃないのも知ってるのに」

ナミもそうだ。
サンジもウソップもチョッパーもフランキーもブルックも知ってる。
唯一自他共に認める相棒のゾロがどう考えているかは知らないが、『仲間』という特別を持っている自分たちは、『仲間』であるからこそ特別になりえないのを理解していた。
それなのに。

「たったこれだけの仕草で、期待したくなってしまうわ」

泣きたくなるくらい甘ったるい想い。
叶わないと知っていて、失えない気持ち。

次々と消えていく気配を前に、麦藁帽子で顔を隠しながらロビンは少しだけ泣いた。

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