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■実は親しい間柄
「・・・お嬢様は、眠ってらっしゃるんですか」
「おう。無邪気なもんだぞ」
本性のまま、尻尾を軽く揺らした海燕は、自分に体を預けて眠る少女の髪をぺろりと舐めた。
大きな海燕の体に包まれて眠る人間の少女は、先日自分の主である浮竹の隊に入隊したばかりの子供だった。
少し猫毛の黒髪に、アーモンド形の目をした端整な面立ちの華奢な少女。
───朽木ルキア。
主より聞かされ予てより名を知っていたが、実物は想像していたよりもずっと小さく、触れれば折れてしまいそうなくらい細かった。
白い肌に端整な面持ちを持つルキアは、隊の中でも浮いていた。
貴族的な気品のある雰囲気に、警戒心の強い野良猫並の人見知り。けれど人はそれを生意気と捉え彼女の本心を見ようともしない。
人の群れに放り込まれた小さな子供は、常に怯えて心が震えているというのに、誰も見ようともしなかった。
だから、海燕は一人ぼっちのこの少女に手を伸ばすのを決めた。
他の誰も必要としないなら、自分が構ってもいいだろうと思ったのだ。
人には警戒心の強い子供は、けれど獣には心を解いた。
おずおずと伸ばされた手を許容すれば、少しだけ躊躇したように指先で触れた後、嬉しそうに掻き撫でる。
小さな掌から繰り出される力など高が知れているので遠慮はいらないのに、いつでも擽ったくなるような柔らかな力で海燕へと触れてきた。
ルキアは海燕には何でも話した。
隊であった失敗談。自分への噂に、先輩達と打ち解けれない悩み。
人見知りな自分への嫌悪や、どうすれば仲良くなれるのかと訴える悲しみ。
反面嬉しいことも良く話した。
綺麗な花が咲いていたとか、隊長に誉められたとか、三席の二人が話しかけてくださったとか、猫に子供が生まれたとか。
本当に些細なことから幸せを見つけられるルキアは、隊士が告げる冷血漢などではなく、感受性が豊かな一人の少女でしかなかった。
そんな少女の素顔を自分しか知らないのは、海燕の胸に優越感を湛える。
本当はルキアに執着していて、けれど海燕よりも遥かに不器用な主は、毎日報告がてら告げる話に笑って頷くばかりだ。
自分が動けばいいのに、と呟けば、あいつはまだお前の方がいいだろう、と眉を下げて情けなく笑った。
『まだ』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、そうかと頷いた海燕は未だにルキアを独占している。
このままじゃ駄目なのは良く判っていたけれど。
「あまり、うちのお嬢様を甘やかさないで下さい」
「なんだ突然。俺が朽木を甘やかしすぎているとでも?」
「ええ。これではひとり立ちが遅くなります。雛をかいがいしく面倒を見るのはいいですが、千尋の谷にも突き落としてやらなくては」
「何で?こいつは子供だ。子供ってのは可愛がって甘やかして、悪いことをやったら叱ってやって、間違った道へ進まないように補助してやるものだ」
「彼女はただの子供じゃありません。朽木家の子供です」
「それが何だ。朽木は甘える場所が必要だ」
「・・・それが、あなただって言うんですか?」
「少なくとも、あんたじゃないな。あんたは朽木のために、朽木を甘やかせない」
真っ直ぐな視線で告げれば、海燕の前では珍しい執事服姿の浦原は、ため息を一つ吐き首を振った。
「あなたがお嬢様の居場所になってくれるって言うんですか?」
「ああ。こいつはもっと世間を知らないといけねぇ。その為には口利けと縁がない俺の方がいいだろう」
「───きっと、そうなんでしょうね」
寂しげに笑った浦原に、海燕はついっと眉を上げた。
目の前の男がうそ臭い笑顔を崩すことはそうない。
へらへらした表情で全てを隠す。それが海燕の知る浦原という男のはずだが、何かしら心境の変化でもあったのだろうか。
彼との付き合いは思い出すのも億劫な昔からだが、今更変わる生易しい男ではなかったと思うのに。
まあ、自分には関係ないか、と眠る少女を抱えなおした。
それは獣が我が子を護る光景ととても似ていた。
「お嬢様の魔獣が焼き餅を妬くでしょうね」
「ははっ!上手く誤魔化せよ、朽木の守護者」
「はぁ。あなたといいご当主といい厄介ごとばかりを押し付けるんですから」
肩を竦めた男は、そのまま踵を返し数歩歩く。
「───お嬢様を頼みましたよ」
ぽつりと聞こえた声に、海燕が目を丸くしていると、彼は振り返ることなく立ち去った。
随分と珍しい、というより初めて聞く『人間臭い』言葉。
その違和感をはっきりさせるには情報が少なすぎ、去った彼と同じように肩を竦めるともう一度惰眠を貪ろうと、いい香がする体に鼻を押し付けた。
「・・・お嬢様は、眠ってらっしゃるんですか」
「おう。無邪気なもんだぞ」
本性のまま、尻尾を軽く揺らした海燕は、自分に体を預けて眠る少女の髪をぺろりと舐めた。
大きな海燕の体に包まれて眠る人間の少女は、先日自分の主である浮竹の隊に入隊したばかりの子供だった。
少し猫毛の黒髪に、アーモンド形の目をした端整な面立ちの華奢な少女。
───朽木ルキア。
主より聞かされ予てより名を知っていたが、実物は想像していたよりもずっと小さく、触れれば折れてしまいそうなくらい細かった。
白い肌に端整な面持ちを持つルキアは、隊の中でも浮いていた。
貴族的な気品のある雰囲気に、警戒心の強い野良猫並の人見知り。けれど人はそれを生意気と捉え彼女の本心を見ようともしない。
人の群れに放り込まれた小さな子供は、常に怯えて心が震えているというのに、誰も見ようともしなかった。
だから、海燕は一人ぼっちのこの少女に手を伸ばすのを決めた。
他の誰も必要としないなら、自分が構ってもいいだろうと思ったのだ。
人には警戒心の強い子供は、けれど獣には心を解いた。
おずおずと伸ばされた手を許容すれば、少しだけ躊躇したように指先で触れた後、嬉しそうに掻き撫でる。
小さな掌から繰り出される力など高が知れているので遠慮はいらないのに、いつでも擽ったくなるような柔らかな力で海燕へと触れてきた。
ルキアは海燕には何でも話した。
隊であった失敗談。自分への噂に、先輩達と打ち解けれない悩み。
人見知りな自分への嫌悪や、どうすれば仲良くなれるのかと訴える悲しみ。
反面嬉しいことも良く話した。
綺麗な花が咲いていたとか、隊長に誉められたとか、三席の二人が話しかけてくださったとか、猫に子供が生まれたとか。
本当に些細なことから幸せを見つけられるルキアは、隊士が告げる冷血漢などではなく、感受性が豊かな一人の少女でしかなかった。
そんな少女の素顔を自分しか知らないのは、海燕の胸に優越感を湛える。
本当はルキアに執着していて、けれど海燕よりも遥かに不器用な主は、毎日報告がてら告げる話に笑って頷くばかりだ。
自分が動けばいいのに、と呟けば、あいつはまだお前の方がいいだろう、と眉を下げて情けなく笑った。
『まだ』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、そうかと頷いた海燕は未だにルキアを独占している。
このままじゃ駄目なのは良く判っていたけれど。
「あまり、うちのお嬢様を甘やかさないで下さい」
「なんだ突然。俺が朽木を甘やかしすぎているとでも?」
「ええ。これではひとり立ちが遅くなります。雛をかいがいしく面倒を見るのはいいですが、千尋の谷にも突き落としてやらなくては」
「何で?こいつは子供だ。子供ってのは可愛がって甘やかして、悪いことをやったら叱ってやって、間違った道へ進まないように補助してやるものだ」
「彼女はただの子供じゃありません。朽木家の子供です」
「それが何だ。朽木は甘える場所が必要だ」
「・・・それが、あなただって言うんですか?」
「少なくとも、あんたじゃないな。あんたは朽木のために、朽木を甘やかせない」
真っ直ぐな視線で告げれば、海燕の前では珍しい執事服姿の浦原は、ため息を一つ吐き首を振った。
「あなたがお嬢様の居場所になってくれるって言うんですか?」
「ああ。こいつはもっと世間を知らないといけねぇ。その為には口利けと縁がない俺の方がいいだろう」
「───きっと、そうなんでしょうね」
寂しげに笑った浦原に、海燕はついっと眉を上げた。
目の前の男がうそ臭い笑顔を崩すことはそうない。
へらへらした表情で全てを隠す。それが海燕の知る浦原という男のはずだが、何かしら心境の変化でもあったのだろうか。
彼との付き合いは思い出すのも億劫な昔からだが、今更変わる生易しい男ではなかったと思うのに。
まあ、自分には関係ないか、と眠る少女を抱えなおした。
それは獣が我が子を護る光景ととても似ていた。
「お嬢様の魔獣が焼き餅を妬くでしょうね」
「ははっ!上手く誤魔化せよ、朽木の守護者」
「はぁ。あなたといいご当主といい厄介ごとばかりを押し付けるんですから」
肩を竦めた男は、そのまま踵を返し数歩歩く。
「───お嬢様を頼みましたよ」
ぽつりと聞こえた声に、海燕が目を丸くしていると、彼は振り返ることなく立ち去った。
随分と珍しい、というより初めて聞く『人間臭い』言葉。
その違和感をはっきりさせるには情報が少なすぎ、去った彼と同じように肩を竦めるともう一度惰眠を貪ろうと、いい香がする体に鼻を押し付けた。
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「なぁ、コウ」
病室の窓から夕焼けを見送る琉夏が、ここではない何処かに意識を飛ばしつつ口を開く。
琥一に話しかけているくせに、彼は自分の反応など欠片も求めていない。むしろそれは独り言に近いかもしれない。
呼びかけておいて黙り込んだ弟をじっと見詰める。
今の彼は、地に足がついていないように見え、少しだけ心配だった。
それもこれも原因はハッキリしている。
琉夏が定まらない目で遠くを見るのも、自分の心が何故か波打ち落ち着かないのも、一人の少女の所為だった。
大迫から聞いたらしく、学校をサボってまで見舞いに来た冬姫。
琉夏も琥一も教えるつもりはなかったので、彼女の登場に心底驚いた。
知った彼女が心配するのは目に見えていたし、傷だらけでお説教は勘弁してもらいたかったが、それも仕方ないと睨みつけてくる大きな黒みがかった瞳に覚悟を決めたのに、冬姫は想像していなかった行動に出た。
涙腺が決壊したように、大粒の涙をぼろぼろと零すという暴挙に出たのだ。
涙を拭こうと伸ばした腕は拒絶され、泣いてる彼女をただ見ているだけしか出来ないのには心底参った。
それこそ殴られてあちこち痛む体より、心の方が締め付けられるように痛かった。
一緒に映画を見たり、本を読んでいて泣いたりするのは幾度も見てきたけれど、泣かせたのは初めてだった。
華奢な体を縮めて泣き顔を隠さず、唇を微かに噛み締めてそれでも堪えきれないと涙を零す生き物が、愛しくて仕方なかった。
溢れる感情に蓋は出来ず、泣いてる彼女が恋しかった。
「俺さ、凄い酷い奴だ」
もう、何も言わないかと思えるくらい間を空けて、琉夏がポツリと呟いた。
どうやら話は先ほどから続いているらしく、窓の外を見たままだった弟は、琥一へと視線を向けた。
夕日に照らされた表情は今にも泣き出しそうで、なのに切なく喜びを湛えていた。
「俺、冬姫が泣いてくれて、可哀想だと思ったのに、悪いと心から思ったのに、でも凄く嬉しかった。───俺たちのために泣いてくれるのが、嬉しくて仕方なかったんだ」
敬謙なクリスチャンが懺悔するときはきっとこんな顔をしているのかもしれない。
琉夏は、涙を零さず泣いている。
琥一は、黙ってそれを眺めた。
「俺はやったことに後悔してない。何度選択肢があっても何度だって同じことを選ぶ。───でも、もう冬姫は絶対にあんな顔で泣かせたりしない」
ベッドの上で足を伸ばし、病院用のパジャマの胸をぎゅっと掴んだ。
神ではなく、仏でもなく、きっとそれは、冬姫にだけ向けた宣誓に違いない。
静かに決意を固めた琉夏に、琥一も頷いた。
「ああ。・・・俺もだ」
悲しみと苦しさで顔を一杯にして、静かに涙を零した彼女へ琥一も懺悔する。
彼とて弟と同じだった。
切ないと悲しいと疼く胸の奥では、自分たちのために涙を零す少女への歓喜が紛れもなく存在していた。
琉夏と同じように夕日を見詰める。
きっと彼女はそろそろ家に着いた頃だろう。
その頬を涙が濡らしていないか、それだけがとても心配だった。
病室の窓から夕焼けを見送る琉夏が、ここではない何処かに意識を飛ばしつつ口を開く。
琥一に話しかけているくせに、彼は自分の反応など欠片も求めていない。むしろそれは独り言に近いかもしれない。
呼びかけておいて黙り込んだ弟をじっと見詰める。
今の彼は、地に足がついていないように見え、少しだけ心配だった。
それもこれも原因はハッキリしている。
琉夏が定まらない目で遠くを見るのも、自分の心が何故か波打ち落ち着かないのも、一人の少女の所為だった。
大迫から聞いたらしく、学校をサボってまで見舞いに来た冬姫。
琉夏も琥一も教えるつもりはなかったので、彼女の登場に心底驚いた。
知った彼女が心配するのは目に見えていたし、傷だらけでお説教は勘弁してもらいたかったが、それも仕方ないと睨みつけてくる大きな黒みがかった瞳に覚悟を決めたのに、冬姫は想像していなかった行動に出た。
涙腺が決壊したように、大粒の涙をぼろぼろと零すという暴挙に出たのだ。
涙を拭こうと伸ばした腕は拒絶され、泣いてる彼女をただ見ているだけしか出来ないのには心底参った。
それこそ殴られてあちこち痛む体より、心の方が締め付けられるように痛かった。
一緒に映画を見たり、本を読んでいて泣いたりするのは幾度も見てきたけれど、泣かせたのは初めてだった。
華奢な体を縮めて泣き顔を隠さず、唇を微かに噛み締めてそれでも堪えきれないと涙を零す生き物が、愛しくて仕方なかった。
溢れる感情に蓋は出来ず、泣いてる彼女が恋しかった。
「俺さ、凄い酷い奴だ」
もう、何も言わないかと思えるくらい間を空けて、琉夏がポツリと呟いた。
どうやら話は先ほどから続いているらしく、窓の外を見たままだった弟は、琥一へと視線を向けた。
夕日に照らされた表情は今にも泣き出しそうで、なのに切なく喜びを湛えていた。
「俺、冬姫が泣いてくれて、可哀想だと思ったのに、悪いと心から思ったのに、でも凄く嬉しかった。───俺たちのために泣いてくれるのが、嬉しくて仕方なかったんだ」
敬謙なクリスチャンが懺悔するときはきっとこんな顔をしているのかもしれない。
琉夏は、涙を零さず泣いている。
琥一は、黙ってそれを眺めた。
「俺はやったことに後悔してない。何度選択肢があっても何度だって同じことを選ぶ。───でも、もう冬姫は絶対にあんな顔で泣かせたりしない」
ベッドの上で足を伸ばし、病院用のパジャマの胸をぎゅっと掴んだ。
神ではなく、仏でもなく、きっとそれは、冬姫にだけ向けた宣誓に違いない。
静かに決意を固めた琉夏に、琥一も頷いた。
「ああ。・・・俺もだ」
悲しみと苦しさで顔を一杯にして、静かに涙を零した彼女へ琥一も懺悔する。
彼とて弟と同じだった。
切ないと悲しいと疼く胸の奥では、自分たちのために涙を零す少女への歓喜が紛れもなく存在していた。
琉夏と同じように夕日を見詰める。
きっと彼女はそろそろ家に着いた頃だろう。
その頬を涙が濡らしていないか、それだけがとても心配だった。
>>りんご雨様
初めまして、りんご雨様!
こんな辺境のサイトまでようこそおいでくださいましたw
GS3でコメントを頂いたのは初めてですので、もう狂喜乱舞です!
本当にありがとうございますw
桜井兄弟、最高ですよね!私も大好きです!!
『トライアングル・ラブ』ではとことんED2をちょっと捏造した感じに続いています。
私のサイトは基本主人公総受けなので、桜井兄弟以外にもバンビに想いを寄せている男どもがいるのですが、彼らも全員三角です。
桜井兄弟ラブですけど、その内彼らも登場させる予定ですので、是非読んでくださると嬉しいですw
またお時間がありましたら、遊びにいらして下さい!
Web拍手、ありがとうございました!
初めまして、りんご雨様!
こんな辺境のサイトまでようこそおいでくださいましたw
GS3でコメントを頂いたのは初めてですので、もう狂喜乱舞です!
本当にありがとうございますw
桜井兄弟、最高ですよね!私も大好きです!!
『トライアングル・ラブ』ではとことんED2をちょっと捏造した感じに続いています。
私のサイトは基本主人公総受けなので、桜井兄弟以外にもバンビに想いを寄せている男どもがいるのですが、彼らも全員三角です。
桜井兄弟ラブですけど、その内彼らも登場させる予定ですので、是非読んでくださると嬉しいですw
またお時間がありましたら、遊びにいらして下さい!
Web拍手、ありがとうございました!
大きな黒目がちの瞳が潤むのに昔から弱かった。
今、長い睫毛に彩られた瞳は涙を湛え、ほろほろと零れ落ちていく。
大粒の涙が頬を伝い、コンクリートへと痕を作った。
静かに涙を流す少女を、琉夏と琥一は呆然と眺める。
彼女が泣いているのを見たのは初めてではないが、彼女を泣かせるのは初めてだった。
言い合いをしても、喧嘩をしても、いつも、どんな時も、泣きそうになっても泣かない女だったから、こんな涙腺が崩壊したように泣き濡らすと思っていなかったのだ。
「・・・冬姫?」
無意識に呟いたらしい琥一が、彼女へと腕を伸ばすも、身を捩って避けられた。
慰められるどころか触れられることすら拒絶する彼女の涙は止まらない。
どうにかして止めなければと思うのに、どうすれば泣き止むのか見当がつかなかった。
これがどうでもいい女なら、適当なことを言って簡単に泣き止ませるれるのに、何故彼女だと上手く行かないのだろう。
その理由は単純であり明確だが、それでももどかしい気持ちはなくならない。
声を殺し華奢な体を縮めて泣く姿に、胸が切なく締め付けられた。
「泣かないで、冬姫」
腕を伸ばそうとして、出来ないのに気がついた。
片方は包帯でつるされ、片方は松葉杖を持っている。
琥一は琉夏ほど酷くないけど、拒絶されたのに躊躇して腕を伸ばす勇気がもてないらしい。
いつもよりも深く刻まれた眉間の皺に、困ったように眇められた瞳。
兄の情けない姿は、琉夏と鏡写しのものだ。
「冬姫」
「・・・泣くな、冬姫」
手を差し伸べたいけど出来なくて、月並みな言葉を二人で繰り返す。
けれど首を振った彼女は、距離を置いたままただ涙を零した。
体よりも心が痛む切ない泣き方。
苦しい、悲しいと心が啼く。
「・・・お願いだから」
何分経ったか判らない頃、涙を止めぬまま漸く唇を開いた冬姫は、真っ直ぐな眼差しで兄弟を見た。
「お願いだから、無茶をしないで」
つっかえつっかえに告げられる言葉。
嗚咽交じりのそれは、哀れなほどに震えている。
言葉の意味を理解すると、琉夏は琥一を見上げた。
同じように見下ろしていた琥一と視線が合い、もう一度冬姫へ視線を戻す。
最後と決めてかかった与太高とのいざこざ。
受けた傷は少なくなかったけれど、これで落ち着くなら儲けものだと安易に考えていた。
それはきっと琥一も同じだろう。
彼も琉夏も、殴られている最中、小さく歌を口ずさむほど心には余裕があったのだから。
これが終われば、冬姫に心配をかけなくて済むと思っていた。
実際、先を考えれば、やった事に後悔はない。
それなのに、傷ついた二人を見て、冬姫はほろほろと涙を零す。
傷つかないで、無茶をしないで、と。
そんな人間、両親以外に誰もいなかった。
無茶をするのが桜井兄弟で、それに憧れてると告げる馬鹿もいたくらいだった。
なのに、高校になって初めて病院へ通わねばならぬほどの大怪我をした時、彼らの幼馴染は身も世もなく泣きじゃくる。
耐え切れないと肩を震わせ、泣き顔を隠すこともせずに。
「もう、無茶はしねぇよ」
「約束する。俺も、コウも」
「だから」
「頼むから」
『泣くな』
自分たちの声が聞こえているはずなのに、冬姫はただ涙を流す。
幼馴染が流す涙を罪深いほど嬉しいと感じる自分が、心から哀しい。
今、長い睫毛に彩られた瞳は涙を湛え、ほろほろと零れ落ちていく。
大粒の涙が頬を伝い、コンクリートへと痕を作った。
静かに涙を流す少女を、琉夏と琥一は呆然と眺める。
彼女が泣いているのを見たのは初めてではないが、彼女を泣かせるのは初めてだった。
言い合いをしても、喧嘩をしても、いつも、どんな時も、泣きそうになっても泣かない女だったから、こんな涙腺が崩壊したように泣き濡らすと思っていなかったのだ。
「・・・冬姫?」
無意識に呟いたらしい琥一が、彼女へと腕を伸ばすも、身を捩って避けられた。
慰められるどころか触れられることすら拒絶する彼女の涙は止まらない。
どうにかして止めなければと思うのに、どうすれば泣き止むのか見当がつかなかった。
これがどうでもいい女なら、適当なことを言って簡単に泣き止ませるれるのに、何故彼女だと上手く行かないのだろう。
その理由は単純であり明確だが、それでももどかしい気持ちはなくならない。
声を殺し華奢な体を縮めて泣く姿に、胸が切なく締め付けられた。
「泣かないで、冬姫」
腕を伸ばそうとして、出来ないのに気がついた。
片方は包帯でつるされ、片方は松葉杖を持っている。
琥一は琉夏ほど酷くないけど、拒絶されたのに躊躇して腕を伸ばす勇気がもてないらしい。
いつもよりも深く刻まれた眉間の皺に、困ったように眇められた瞳。
兄の情けない姿は、琉夏と鏡写しのものだ。
「冬姫」
「・・・泣くな、冬姫」
手を差し伸べたいけど出来なくて、月並みな言葉を二人で繰り返す。
けれど首を振った彼女は、距離を置いたままただ涙を零した。
体よりも心が痛む切ない泣き方。
苦しい、悲しいと心が啼く。
「・・・お願いだから」
何分経ったか判らない頃、涙を止めぬまま漸く唇を開いた冬姫は、真っ直ぐな眼差しで兄弟を見た。
「お願いだから、無茶をしないで」
つっかえつっかえに告げられる言葉。
嗚咽交じりのそれは、哀れなほどに震えている。
言葉の意味を理解すると、琉夏は琥一を見上げた。
同じように見下ろしていた琥一と視線が合い、もう一度冬姫へ視線を戻す。
最後と決めてかかった与太高とのいざこざ。
受けた傷は少なくなかったけれど、これで落ち着くなら儲けものだと安易に考えていた。
それはきっと琥一も同じだろう。
彼も琉夏も、殴られている最中、小さく歌を口ずさむほど心には余裕があったのだから。
これが終われば、冬姫に心配をかけなくて済むと思っていた。
実際、先を考えれば、やった事に後悔はない。
それなのに、傷ついた二人を見て、冬姫はほろほろと涙を零す。
傷つかないで、無茶をしないで、と。
そんな人間、両親以外に誰もいなかった。
無茶をするのが桜井兄弟で、それに憧れてると告げる馬鹿もいたくらいだった。
なのに、高校になって初めて病院へ通わねばならぬほどの大怪我をした時、彼らの幼馴染は身も世もなく泣きじゃくる。
耐え切れないと肩を震わせ、泣き顔を隠すこともせずに。
「もう、無茶はしねぇよ」
「約束する。俺も、コウも」
「だから」
「頼むから」
『泣くな』
自分たちの声が聞こえているはずなのに、冬姫はただ涙を流す。
幼馴染が流す涙を罪深いほど嬉しいと感じる自分が、心から哀しい。
>>夢印様
こんばんは!初めまして、夢印様。
清く正しく美しくへのコメント、ありがとうございますww
嵌ってくださるなんて、とても光栄です★
あの創作では子供ゆえの直球を勝負どころにしてるので、夢印様のコメントは本当に嬉しかったです。
少しでも思ったとおりに表現できていれば、とても幸いですw
子供時代の望美ちゃん、罪作りなくらい可愛いに決まってますよね!
でもまだそんな自覚なくて、ついでに恋愛の駆け引きとか周囲の機微とかそんなの全然わからないはずなので、書いていて楽しいです。
無自覚将臣君も、自覚ありヒノエくんも、望美を大好きで仕方ない譲君も、ブラック弁慶さんも、これから頑張って動いてもらいます。
次回は、将臣vsリズ⇒望美篇です。
と、言っても将臣が一方的にリズを敵対視しているだけなんですけど(笑)
『パラレル』と同じで、リズは唯一将臣の優先度が望美の中で下がる相手ですw
なので、何となく不機嫌な将臣君を直球で出せたらな~と思います。
それか、ヒノエvs譲⇒望美篇ですねw
望美大好きでありながらひねくれているヒノエと、大好きを隠す気もない子供の譲君。想像するだけで楽しいですw
また更新していきますので、是非遊びにいらしてくださいw
Web拍手、ありがとうございました!!
こんばんは!初めまして、夢印様。
清く正しく美しくへのコメント、ありがとうございますww
嵌ってくださるなんて、とても光栄です★
あの創作では子供ゆえの直球を勝負どころにしてるので、夢印様のコメントは本当に嬉しかったです。
少しでも思ったとおりに表現できていれば、とても幸いですw
子供時代の望美ちゃん、罪作りなくらい可愛いに決まってますよね!
でもまだそんな自覚なくて、ついでに恋愛の駆け引きとか周囲の機微とかそんなの全然わからないはずなので、書いていて楽しいです。
無自覚将臣君も、自覚ありヒノエくんも、望美を大好きで仕方ない譲君も、ブラック弁慶さんも、これから頑張って動いてもらいます。
次回は、将臣vsリズ⇒望美篇です。
と、言っても将臣が一方的にリズを敵対視しているだけなんですけど(笑)
『パラレル』と同じで、リズは唯一将臣の優先度が望美の中で下がる相手ですw
なので、何となく不機嫌な将臣君を直球で出せたらな~と思います。
それか、ヒノエvs譲⇒望美篇ですねw
望美大好きでありながらひねくれているヒノエと、大好きを隠す気もない子供の譲君。想像するだけで楽しいですw
また更新していきますので、是非遊びにいらしてくださいw
Web拍手、ありがとうございました!!
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