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ありがとう

--お題サイト:afaikさまより--


■あ 諦めは悪い方だけど

自分はそれほど察しがいい人間ではないと了平は知っている。
それは過去友人たちからも幾度も苦笑混じりに忠告され、家族からも仕方ないと笑われながら告げられた。
しかもただ察しが悪いだけでなく、間も悪い人種らしい。
自分では全く悪気はないが、空気が読めないとよく言われる。
自分が行動すると何故か曖昧な笑顔で遮られることは多いが、それも全く気にしない。
座右の銘は、なせばなるだろうか。

「つまり、なるようにしかならんということだな!」
「それ、もう意味違ってますよ!?」

もぐもぐと綱吉の前に置いてあるチーズケーキを咀嚼しつつ告げると、情けなく眉を下げた相手は見覚えのある笑顔を浮かべる。
出会った頃に比べると随分と金色に近くなった薄茶色の髪を揺らし、彼はココアを一口飲んだ。
ちなみに了平が飲むのはブラックコーヒー。甘いものは好きだが彼ほど極甘に染まれない。

ちなみに現在了平が寛いでいるこの部屋は、綱吉の執務室だ。
つまり、ドン・ボンゴレの仕事部屋。
何故そこで寛いでいるかというと、そこにケーキが置いてあり、部屋の主が今まさに休憩を取ろうとしていたからだ。
普段は使われない応対用のソファ(主に守護者やアルコバレーノ専用)に悠々と腰掛けてじっと見詰めていたら、苦笑した彼が執務机から移動してきてくれた。

「俺、笹川さんを時々本当に尊敬します」
「何だ、時々なのか?」
「突っ込みどころはそこなんですね」

仕方ない、とばかりに淡い苦笑を浮かべる彼は、昔の面影を濃く残している。
思わず手を伸ばして頭を撫でる。
柔らかな髪は触れると少しくすぐったく、もっともっと撫でていたくなるくらい心地よい。
困ったように眉を下げながらも拒絶されないのをいい事に、好きなだけ撫で回すと子供じゃないですから、と控えめに遮られた。

「やっぱり、笹川さんは大物ですよねぇ」
「ははは!極限誉め言葉として受け取っておこう!」
「───あの、その口元についてるチーズケーキ、きちんと綺麗にしないと獄寺君に暗殺されますよ」
「大丈夫だ。極限迎え撃つ!」
「・・・・・・屋敷が破壊されたらその分は給料から天引きですから」
「はははは!幹部なのに何故俺だけ貧乏なのだろうな?」
「理由はあなた自身が良く知っているでしょう?」

屋敷に住んでいるから最低限の衣食住を保障されるだけありがたいと思ってください。

呆れたように訴える彼は、上司であり父であり弟である。
この居心地がいい場所は、了平が粘り強さで獲得した地位だった。


■り リタルダンドがいい

別に自分の所業を正当化する気はない。

敵対する相手を見ながら、了平は体に入っている無駄な力を抜く。
今回の仕事は交渉決裂した同業者の殲滅。それは綱吉からの勅命であり、了平の意思でもあった。
手に巻いたテーピング。この程度の的に匣の開口は必要なく、部下の育成と、もう一つの意味も込めて肉体戦術を選択した。
了平の部下は他の幹部の部下に比べると格闘術に優れるものが多く、またそれに由来した力を扱うものが多い。
雨の守護者と並びヴァリアーの同じ銘を頂く守護者と仲が良い彼は、合同演習も含め実戦形式で体を鍛えている。
自然と集まるのは頭脳労働より肉体労働が得意な体育会系ばかりになり、横の繋がりが深いのも雨の守護者の纏める部隊と似ているだろう。

「さて、俺たちが何故この場にいるか。理解してくれているのだろうか」
「───黙れ、ボンゴレの飼い犬が!幹部の中でももっともドン・ボンゴレと繋がりが薄いと言われる晴の守護者が何をしにきた!」
「ふむ。俺はそんな風に噂されているのか。極限に知らなかったな」

今回の敵の頭目が吼え、自身の部下が怒りでざわめくのを片手で制すると口の端を持ち上げた。
彼らを従え先頭に立つ了平と違い、キャンキャン吼える敵は守られるのを当然とするタイプらしい。
未だに口煩く吼えている彼を眺めながら、綱吉もああなら楽なのにと苦笑する。
自分たちのボスは必要と判断したら躊躇なく弾除けすら退けるので、あのタイプのボスなら自分から勝手に隠れるだろうから楽だろうと想像する。
まあ万が一綱吉があんなタイプであれば、きっと自分たちがここまで尽くすこともなかったのだろうけれど。
顔を真っ赤にして何事かを訴えていた男が口を閉じるのを見計らうと、組んでいた腕を解いた。

「それで終わりか?」
「?」
「最後の言葉をそんなものにするとは、極限変わり者だな」
「なっ!?」
「まあ、いい。俺の名は笹川了平。ドン・ボンゴレの晴の守護者で明るく大空を照らす日輪の銘を頂くものだ」
「・・・っ」
「俺の主からの命により、己が仕事を全うさせてもらう。───尾を踏まれた犬の怒り、身を持って理解するのだな」

了平が構えれば同様に背後の部下も構える。
息を呑み体を強張らせた男は、確かに了平の敵だった。

彼の部下を卑怯な手で落としいれ、そして無残にも殺した相手。
部下は彼にとって兄弟も同じ。
そしてボンゴレという家族の一員を殺された父である綱吉の怒りは、直属の部下を殺された了平へと委ねられた。

「弔い合戦を許される部隊は俺のところくらいだ。確かに、極限愚かなのかもしれぬな」

昔は戦いの前は高揚感で脈が速くなった。
だが現在は務めて冷静でいようとする意識から、段々と脈が落ち着いていく。
一つ呼気を吐き出すと、半身になり顎の下に拳を構えた。


■が 願を掛けた日

「───君、本当に鬱陶しいんだけど」

校舎に背を凭れ掛けぼんやりと空を見上げていたら、いつの間に傍に来ていたのか見覚えのある学欄姿の級友が柳眉を潜めてこちらを見ていた。
高校生になっても相変わらず中学と変わらない制服を着ている彼も不思議だと思うが、やはり変わらず年齢不詳で学校を取り仕切っているのも不思議に思う。
涼やかな眼差しをした彼は、やはり変わらず学校の頂点に立ち風紀委員長として校内を仕切っている。
気がつけば腐れ縁になった彼に僅かに笑いかけると益々渋い顔をされ、嫌そうに距離を置かれた。
肩の上にのるヒバードが『ヒバリー、ヒバリ』と鳴き声をあげる。
無邪気に独占するその場所が、どれほど特異なものか彼は気づいていないだろう。

「何だ雲雀。サボりか?」
「僕が?馬鹿にしないでくれる。校内の見回りだよ。君こそ何をしているの?もしかしてこの僕が居る学校でサボりとか言わないよね」
「ははは!極限に休憩中だ」

笑顔で告げれば何故か周りの温度が下がった気がした。
だが雲雀から向けられる絶対零度の視線も、怒りを滲ませた気配も慣れているので気にしない。
それに一応サボっているわけではない。
体の申し訳程度に置いてあった絵の具とパレット、そして画用紙を見せる。

「美術の授業中だ。今回は好きなものを描かなくてはいけないらしい」
「───何それ」
「空だ。どこまでも晴れ渡る青空」
「青しか使ってないじゃない」
「雲ひとつ無い晴れた空だからな」

むっと僅かに苛立ちを含んだ眼差しに了平は笑う。
彼を正面から見る人間が少ない所為か雲雀は感情の起伏がほぼないと思われがちだがそれは違う。
むしろ我侭な子供のように、独占欲が強く喜怒哀楽がはっきりとしていた。
だからこそ、雲ひとつ無い晴れ渡る青空の絵を見てとても苛立つ。

「ずっと空が晴れているといい」

雨に涙することなく、嵐で感情があれることもなく、雲で気持ちを隠すのでなく、霧で想いを惑わすでもなく、雷で怒りを露にするでもなく、晴れ渡る青空であればいい。
何に翳るでもなくこの場に居ない『彼』が笑ってくれれば良いと、了平はそう思うのだ。
それを悟るからこそ不機嫌な雲雀の様子に、やっぱり了平は笑った。


■と 溶けてゆくのは

「山本も大概不器用ですけど、笹川さんもそうですよね」

淡く苦笑した綱吉の手が頭に触れ、了平は唇を噛み締めた。
彼の勅命に従い命令をこなしたばかりでスーツは僅かに汚れている。
だが傷は一つもなく、自身の部隊から死者は出さなかった。
小規模とは言え、一つのマフィアを殲滅したにしては手際が良かったと思う。
だが報告に訪れた先で待っていた彼が浮かべたのは、眉を下げ情けなくも見える顔で微笑した綱吉だった。
席を立ち上がった彼に招かれるままに近づけば、ぐいと遠慮ない力で頭を押さえ込まれ肩口に顔を埋める形になる。
ふわりと薫るのは百合のような上品なフレグランスで、くどくない香りに胸が落ち着いた。
甘味を好む彼だからこそバニラや蜂蜜の香がしそうなのに、休みの日以外で彼がそれを纏うことは無い。
公私を使い分けるためとつけているフレグランスは妹とその親友が連名で贈ったもので、無くなるたびに彼女達が新たに香を作っているのを了平は知っていた。
そこに女の独占欲が入っているのを、きっと彼は知らないだろう。
否、もしかしたら理解していてその香を纏っているのかもしれない。
ドン・ボンゴレである彼は男女共に誘惑が多く、それを躱す術も見事なものだった。

つらつらととりとめもないことを考えていると、背中をぽんぽんと叩かれる。
小さな子供をあやすような仕草に、段々と体の力が抜け、戦闘時とは違った意味でリラックス状態へと変わっていった。

「───すみません、笹川さん」
「何がだ」
「貴方に酷な仕事を押し付けました」

了平の直属の部下、側近の一人だった男が殺されたのはつい一週間前だった。
彼は了平が幹部として立った当初からの仲間であり、年上の落ち着いた先輩でもあった。
頼りになり信用できる相手で、先走りがちな了平を諌めてくれる、そんな落ち着いた大人だった。

この世界に足を踏み入れているのだ。
了平は馬鹿だが現実を理解しないわけじゃない。
いつ死んでもおかしくないのは知っているし、その覚悟も出来ている。
昨日笑っていた仲間が翌朝冷たくなっているのも幾度も経験してきたし、自分がいつそうなってもおかしくないのも判っている。
だが、それでも慣れないものだ。
そして慣れたくも無かった。

綱吉が謝っているのは、きっと因縁のある相手に了平をぶつけたことだろう。
感情のままに動くのではなく、それを制御し抑圧しろと言外に命じた綱吉を、けれど了平は怨んでいない。
自制を覚えなくてはいけないと判断される程度に了平は甘いのだと、彼に言われるでもなく知っているから。
殺したいほど憎い敵。それでも誰一人殺さなかった。
これからあの男のファミリーは解体され、社会的身分も含め富も権力も名声も全てを消されるが、本当は自分の手で片をつけたかった。
そんな了平を知ってるからこそ、綱吉は謝っている。
そして。

「ちゃんと、泣いて下さい。貴方も山本も受け皿が一杯になっても自分では捨てることが出来ないんですから、俺が壊してあげます」
「っ・・・ふ、ぅ」

了平の感情を無理やり崩すことに対し、謝っているのだろう。
頭を預けている肩口に目を押し付ける。
じわじわと染みになっているだろうその場所は、了平の感情の発露の表れ。
晴の守護者であろうとも、負の想いがないわけではない。
両足で立つために、全てを流さなくてはいけない。

「ねぇ、お兄さん。もし、俺に何かあったら」

私用の時と同じ口調で放し始めた彼の言葉に、涙を流しながら了平はしかと頷いた。


■う うんとたくさんの

『貴方は山本と似ている』

いつか言われた言葉を不意に思い出し、了平は足を止めた。
庭に面する廊下から眺める庭園は、在りし日に改装されたオリジナリティ溢れる一品だ。
了平もそれに一役買っており、彼も彼の部下と共に片隅に設置した了平お勧めの地域でトレーニングに励むこともある。
この庭園が面変わりしてから何年も経っていないはずなのに、それでも懐かしさを感じてしまい、それがとても寂しかった。

あの庭園を造った頃とは今は何もかもが変わってしまっている。
ボンゴレ狩りと証する狂人達の手により、部下や仲間に死傷者が増えた。
急激に力をつけた勢力の目的は未だにわからず、それどころか被害が拡大するばかりだ。
嫌になる、とため息を落とす。
体力的にも精神的にも疲弊していたが、了平はまだマシな方だった。

綱吉が斃れたと、数日前知らせが入った。
それから獄寺は生きているか死んでいるかわからない状態で仕事をしているし、雲雀と骸は姿を消し、ランボは綱吉の残された命令によりボヴィーノに下がった。
そして最後の一人、何でも笑顔で器用にこなす山本の下へと了平は向かっている最中だった。
彼は報告を聞いたはずだがそれを受け入れず、未だに自分の部屋から出ようとしない。
幾人か彼の部下が綱吉の訃報を報告に上がったが、昨日ついに瀕死の重傷を負うものが現れた。
彼は綱吉が居ないという事実を受け入れきれないのだろう。
いつでも笑って飄々としているが、山本は表と裏を使い分けるのがとても上手い男だ。
了平は馬鹿だが天性の勘でそれを理解していた。
そして彼の親友と自他共に認めていた綱吉は、もっと深くそれを知っていた。
ただ惜しむべくは綱吉が考えるよりもずっと、山本が綱吉に抱く感情は深くてどろどろとした依存度の高いものだったというところだろうか。
山本が綱吉に向ける感情は安易に親友に向けるものと一括りに出来ない。
獄寺ほど判りやすいものではないが、彼と大差ない想いだ。
そして表に出さないだけ、果てしなく厄介でもあった。
止めなければ今日こそ人死にが出るかもしれない。
他の幹部と同じく山本も自分の部下に絶対の信頼を得ているので彼へと報告するものは後を絶たない。
現実を見てもらおうと必死になる部下の気持ちも判らぬ出はないが、彼らでは山本を止めるのは荷が重過ぎるだろう。

「───大丈夫だ、沢田。約束は守る」

もしかしたら、綱吉はいつかこんな日が来るのを予想していたのかもしれない。
あの日、涙を流す了平に向かい、彼は告げた。

『ねぇ、お兄さん。もし、俺に何かあったら・・・山本のこと、頼みます。本気で落ちている時の山本相手なら、獄寺君じゃ殺し合いになる。雲雀さんや骸でも同じですし、クロームでも加減はしないでしょう。ランボなら一方的に刻まれて終わりです。スクアーロの言葉なら聞くかもしれないけれど、彼はヴァリアーの一員でXANXUSの部下だから頼めない。だからお兄さんにお願いします。貴方と山本はよく似てる。直情的に見えて、貴方は傍観者の眼もきちんと持っている。そしてきっと、俺の守護者の中で一番器が大きい。だから貴方にお願いします』

「『俺に何かあったら、山本をお願いします』か」

止めていた足を動かし、目的地へと距離を縮める。
頼まれごとを守るつもりだった。
普段の綱吉がおいそれと誰かを頼ることがないと知っていたから、彼の願いを叶える機会は失くしたくなかった。
けど、それでも。

『俺が居なくなっても貴方には京子ちゃんが居る』
「・・・確かにそうだがな、沢田。お前と京子は違うというのも理解して欲しかった」

今は居ない彼に対し、少しくらい文句を言っても構わないだろう。
苦笑して雲ひとつない青空を見上げれば、眉を下げて笑う彼が見えた気がした。


■ありがとう

ひょこひょこと揺れる薄茶色の髪を見て、それと知られぬように了平は瞳を和ませた。
銀色の髪の目つきの悪い端整な顔の少年と、短い黒髪に精悍な顔つきの少年に挟まれた彼の姿を見るのは、どれ位ぶりだろうか。
笑いながら邪気のない様子で綱吉の肩に手を回す山本に向かい、彼に対してだけ忠犬の獄寺が牙をむき出しに吠え掛かる。
苛立ち、嫉妬、羨み、それらの複雑な感情を隠さぬ様子は獄寺らしいが、今の獄寺はもう少し上手く押さえ込めると考え、彼も一応成長していたのかと笑った。
仲睦まじい姿は見ているだけで飽きず、その騒がしさこそ好ましかった。
何しろ笹川の傍に居る獄寺は比喩でなく生きた屍になっていたし、山本は冷血無情の殺人マシーンと化していた。
ただ一人が消えただけで暖かな間の抜けた空気は払拭され、纏まりなく殺伐としたものしか残らない。
自分で思ったよりもずっとそれは重く、苦しいものだったらしい。
了平には仲間も友人も妹も居たが、大空と定めた相手は一人きりだったから。
だから、睨まれるのを覚悟し間に挟まれている彼の腕を加減し引っ張る。
今の彼なら踏ん張れる力具合だが、まだ体も完成できていない子供はあっさりと了平の腕の中に納まった。

「へ?えええええ!?」

ぱちぱちと琥珀色の瞳を瞬きさせ、状況を理解すると同時に叫んだ彼の髪に顔を埋める。
中学生が放つにしては物騒すぎる殺気が体に当たるが、それはさらりと受け流した。
少しくらい独占したって許されるはずだ。
彼が一番に考えるのはいつだって彼ら二人のことなのだから、たまには了平が独占したっていいだろう。
彼らにとってもそうだが、自分にとっても綱吉は大空なのだから。

睨みつけて来る視線は鋭いが、所詮は中学生レベルだ。
幾度も修羅場を潜った了平にその脅しは通用せず、今の自分は簡単に彼らを退ける力を持っている。
その理由は獄寺と山本と変わらない。
だから、たまには権利を主張してもいいだろう。
息を吸い込むと、いいたかった一言を万端の思い出口にする。

「生きててくれて、ありがとう。───諦めていないと信じてた」

前半は腕の中の子供に向け、後半は今は居ない彼に向け。
鼻の奥がつんとして目頭が熱くなるが気のせいだと想いを飲み込む。

いつだって晴れたままで居て欲しい大空は、今確かに腕の中にあった。
雲ひとつない青空を望む気持ちは変わらない。
自分から涙を引き出せる相手は、ちゃんと存在していて、切り札もきちんと用意されていた。

「早く帰って来い」


その為の努力は惜しまないと断言するから。
お前の為に明るく大空を照らす日輪でいさせてくれと、強く願った。

拍手[21回]

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>>ぴよりん様

こんにちは、ぴよりん様!
心配してくださってありがとうございます~ww
もう大分良くなったので、本当に大丈夫です!
しかも今日からベビーシッターをしに親戚の子供五人の面倒を見に旅立ちます。
凄く懐いてくれて可愛いのですが、懐きすぎて離れてくれないので大変な休日と相成りそうです。
その間はPCに触れれないのでアップも出来ず、折角復活したのに少し切ないですが全力で可愛がってまいります!

GS3の更新も読んで下さってありがとうございますw
男の子って熱中しちゃって放っておくことありますよね!
あの後必死に探した兄弟と冬姫さんは大喧嘩です。
喧嘩ネタもいつか書きたいな~と思いつつ、やはり次は海ネタ!と決めております。
獄寺君も読んで下さってありがとうございますw
我が家の獄寺君は実はストーカー(爆)さんです。
ナッツの等身大ぬいぐるみセットは全て彼の手縫いです。十代目ルームにはお出かけ十代目シリーズのぬいぐるみもあります(大笑)
コスプレも綱吉に関するものならバッチコイです。
十代目コレクション作っちゃうくらいに十代目大好きなのでw
十代目に引かれないために身につけた血流を止める技、こんなとこでも役立っています。

そう、あれは忘れもしない春麗らかな大学時代。

『獄寺君』
『何すか、十代目?』
『俺、獄寺君の顔、凄く好きだな』
『ふええええ!?す、好き!!?』
『うん。凄く格好いいし、綺麗だし。造作が整ってて俺好み』
『本当っすか!?マジっすか!!?』
『うん、うん。本当本当。───だから、鼻血とか会話中にいきなり垂れ流すのやめてね』
『はい!!俺、この顔維持します!!』

鼻血の被害にうんざりした綱吉の鶴の一声により、彼のエステ通いと血流を抑えるツボ刺激が始まりました・・・(笑)
なんてのは冗談ですけど★
今は捏造お題の笹川さんとディーノさんとに手をつけてます。
家に帰ってきたらまたアップしたいですw
では、同居人さんもぴよりん様も体調を崩さぬように楽しい夏をお過ごしくださいw
また是非遊びにいらしてくださいね!
Web拍手、ありがとうございました!!

拍手[2回]

■銀時→神楽



 父の首に、刀が振り下ろされるのを目を閉じずに見ていた。公開処刑。小規模でも、そう呼ばれるものらしい。目立たぬように気配を殺し潜んだそこには、幾人もの幕府の重鎮がいた。彼らは、白装束に着替えさせた父を見て笑っていた。
 宇宙に名を馳せたエイリアンハンターの父の最期は呆気ないものだった。刀が振り下ろされる直前。彼は、神楽を見て笑った。
 とても、優しく、満足気な顔で。
 神楽は。その光景を、無表情に、見ていた。


──────────────────────────────


「嫌な夢、見ちまったな」

 自分以外誰も居ない家で、夜中に目を覚ました銀時は寝汗の酷さに眉をしかめた。寝巻きはぴたりと肌に張り付き、額に手をやれば汗で濡れる。寒々しい空気に体が震えた。それは体感温度だけではなく、誰も居ないこの部屋に対する寒さを感じた所為であり、たった数年で誰かの気配に慣れていた自分を自覚し自嘲する。

「──ははっ、今更だな」

 呟いた声は自覚している以上に悔恨に満ちていて、布団を掴んでいた手に力を込めた。白くなるほど握っても、まだ気持ちは落ち着かない。一つため息を吐くと、銀時は立ち上がった。そのまま部屋を抜けると目的地はすぐそこにある。この家で彼女の名残を感じられる場所。押入れの前でひたりと立ち尽くす。

「・・・・・・・・・」

 少しだけ躊躇し、意を決すると襖を開ける。そこに人の気配がなくなってから、どれくらいの時間が流れたのだろう。まだそれ程経っていないはずなのに、もう何十年も一緒に暮らしていないみたいだ。考え、己の思考に苦笑した。まるで、恋する乙女のようだ。出会ってから数年で勝手に胸の奥に居座った少女は、これまた勝手にある日さくっと出て行った。未練など何もないとでも言うように、後悔などしないと振り返ることもせず。

「あーあ、嫌だね、年を取るっていうの。何て言うの?感傷的になっちゃうみたいな?」

 誰もいない部屋に、銀時の声だけが響く。少女が出て行った時そのままの姿の押入れは、まだ彼女の温度を残しているような気がして、そっと布団に手を伸ばす。けれど、当たり前にそれは冷え切っていて、当然の事なのに、胸が痛んだ。

「ホント、アイツってば自分勝手だからな~。勝手に居候したと思ったら、礼も言わずに出てきやがって。だいたい、このぴん子のサイン、宝物じゃなかったのかよ。こんなとこに置きっぱなしでいいの?銀さん、売っちゃうよ?」

温もりを探すように枕を辿り壁を伝い、それでも感じることが出来ないそれに、諦めたように手を下ろした。

「・・・わんっ」
「おっ、定春。何?お前も寝苦しかったのか?悪いな、貧乏だから空調なんて使えねぇんだ。大体、エアコンすらないしね~」

 違うと判っていながらも、いつの間にやら隣で座っていた白い獣の頭を撫でる。心地よさそうに目を細める定春に、銀時も頬を緩めた。自分以外の温もりは、これほど心を満たすというのに。

「悪いな、神楽じゃなくて」

 するりと出た言葉に、驚く。少女が出て行ってから、まるで禁句のように一人の時には名前を呼ばなくなった。何故って?
そうでもしないと、寂しすぎる。返事をしたらすぐに返ってきたあの時を、過去と自覚するには哀しすぎる。

「・・・神楽。神楽・・・。なあ、お前は今、何処で何を見てるんだろうな」

 あの日、自分と決別した少女は、きちんと笑えているのだろうか。
 神楽の父が殺された事を、間抜けな事に銀時は土方から知らされた。極秘事項というものだったらしい。神楽はそのことを知っていた。どうやってそれを知ったか判らない。だがあの感情豊かな少女は、目の前で父が殺されていくのを息を潜め、気配を殺し、何処かから見ていたらしい。これは土方の推測だろうがきっと当たっている。だが銀時は神楽の父が殺されたなんて知らなかった。誰にも教えられなかったし、気づこうともしなかった。神楽の様子がおかしいことに気がついていたのに、追求する事を躊躇って。

「くそっ」

 拳を握り締める。爪が食い込み、血が滲んだ。
 止めなくてはいけなかったのだ。他の誰でもなく、自分が。うぬぼれでも何でもなく、神楽を止めれたのは自分だけだったはずだろう。止めていたら、神楽はまだ自分の傍で笑っていたかもしれない。傷は深くても、癒してやる事が出来たはずだった。その力が銀時にはあったのに。
 いつかは元に戻るだろうという傲慢とも取れる思い込みで何もしなかったから、息を顰めじっと構えていた獣に、兎は掻っ攫われた。白くて強い兎を、獣が狙っている事を知っていたのに。

「神楽っ・・・神楽、すまねぇ」

 声を絞り出す。悔恨に滲んだ声。だが、聴いて欲しい人間は、そこに存在していない。ぺろり、と血の滲んだ手を定春が舐めた。決して美味しくないであろうそれを、癒すように舐め続ける獣にゆっくりと掌を開く。

「早く、迎えに行かないと」

 無表情に泣いている兎の涙を止められるのは、きっと、自分しかいないと。奇妙な程の自信を持って、銀時は強く瞼を閉じた。
押入れに、温度が戻ってくる日を、強く強く願いながら。
 

拍手[3回]

■高杉⇒神楽


「いきなり、なにするネ」

 己の横を貫いた刀身に、神楽は目を細めた。

「──暇だったんでな」

 神楽に向け、刀を突き出した相手はそう言って哂った。
 月が綺麗な夜だった。冷えている空気の所為か、星もはっきりと見える。月には、様々な色がある。
 例えば。
 せんべいを思い出させるような赤茶色だったり。
 例えば。
 オレンジを思い起こさせるような、綺麗な橙色だったり。
 例えば。
 卵の黄身を思い出させるような、鮮やかな黄色だったり。
 中でも、神楽は白々と輝く月が好きだった。淡く青い色に発光するそれは、銀色にも見える。大好きな、彼を思い起こさせる色。
 そんな月が出ている日は、どこにも出かけず神楽は月を見上げる。作戦が決行される日だったとしても、神楽は参加することはなかった。隠れ家の屋根に上り、傘を横に置いて瞬きすらせずにじっと見つめる。失くしてしまった何かを、思い出すように。無表情に。でも、ただ一心に。
 晋助は、神楽の行動に基本的に口を出さない。だから、神楽が作戦に参加しようとしまいと気にしない。自分の本懐が果たせればそれでいいし、神楽はそのための駒の一つだ。作戦に神楽が参加できなくても問題はない。神楽は個人でも団体で行う作戦分位の戦果を上げられる。しかしながら無くてはならない駒とは言えず、彼女が居なくなったとしても戦力的には勿体無いと思うが困るほどではない。故に晋助は神楽が居ても居なくとも変わりはしない。
 だが、この日は何となく、月を見上げる神楽をそのままにしておきたくない気分になった。
 淡く光る月を見上げる神楽は無くなってしまった物を、一心に探しているように見えて、気が付いたら刀を抜いていた。本気で斬りにいった。そこに躊躇も遠慮もない。それなのに。空を斬った刀に、うっすらと哂う。迷い無く殺す気で抜いた刀は宙を切り、無防備に見えたがさすがは夜兎といったところか。



「いきなり、なにするネ」

 己の横を貫いた刀身に、神楽は目を細めた。

「──暇だったんでな」

 神楽に向け、刀を突き出したまま晋助は言い放った。

「たまには、オレの相手もしろよ」

 言いながら、刀を翻す。女物の着物の裾がふわりと返り、月の光で淡く透けた。襲い来る兇刃を傘で弾いた神楽は、バランスの悪い屋根の上でとんぼ返りをする。
 器用なものだ。軽業師よりも身軽な動きに、ククッと咽喉の奥で笑う。

「やっぱ、じゃじゃ馬はそうでないとな」
「何を言ってるアル。私、今日は誰かと戦う気分じゃないネ。相手して欲しけりゃ、真選組の中に転がり込めヨ」
「オレは、お前とやり合いたいんだよ」
「──私を、壊したいアルカ?」

 唐突な言葉に、攻めていた手を止めた。
 壊す?大事な駒である少女を?
 思いも寄らなかった言葉に、思わず考え込む。先ほどまで神楽は絶対的に必要な駒ではないと考えていたくせに、彼hその矛盾点に気づかない。
 そして。

「そうかも知れねぇな」

 ゆるりと口端を上げ、神楽の言葉を肯定した。

「・・・仲間にまで手を上げるなんて、お前はやっぱサイテーヨ」
「仲間?お前がそう認識してるのか?」
「・・・・・・」

 黙り込んだ少女に、正直なものだと思った。冷え切った眼差しは仲間に向けるには強すぎる。嘗ての少女を知る晋助は、それでも責めるでもなく哂う。

「お前の言うとおり、オレはお前を壊したいぜ?」

 まるで、獣が唸るように言うと、また刀を走らせた。すばしっこい神楽に、中々決定打が与えられない。攘夷志士として戦塵を渡った経験、度量、腕。全てに秀でる晋助の刀は殺すことに躊躇ない。そして並ぶものは少ないほど切れ渡る。だがそんな晋助の腕をしても神楽を殺すのは簡単ではなく、そして夜兎である彼女は少々の傷はすぐに癒える。生半可な心積もりでは、彼女に傷を残すことすら出来やしない。

「──お前、あの月を見て何を思っていた?」
「お前には関係ないダロ。口出ししないで欲しいアルナ」

 目を細めた神楽を見て、この顔だ、と晋助は思う。
 普段は幼い少女そのものの彼女は、一旦本気になるととんでもなく美しい。丸い目は切れ上がり、放つ雰囲気も一変する。凄惨な空気を纏わせ悲愴なまでの覚悟をする。頬が紅潮し殺気を宿した瞳がぎらぎらと獲物を求め彷徨う。
 自分が欲しいのは、この時の女だ。自分でない誰かを想い、月を見上げる感傷など、彼女には必要ない。

「おい、じゃじゃ馬」
「何ネ?」
「服、買いに行くぞ」

 唐突に刀を繰り出していた手を止めると、傘を構えたままの神楽に背を向けた。背中を向ける、という行為がどんな意味を表すか知らぬ晋助でもないのに。からんからんと屋根の上を下駄で音を立てながら歩く。
 しばらくすると、ようやく動いたらしい神楽の気配が後を付いてきた。

「──お前、訳がわからないアル。いきなり攻撃してきたと思ったら、いきなり服を買いに行くとか言い出すし」
「何だ?いらねぇのか?」

振り返り、あちこちが破れた服を見る。黒地に彼岸花を咲かせたそれは気に入りの一品ではあったが。修復したとしても、もう着れないだろう。今にも見えそうな乳房を隠すでもなく肩を竦めた少女は、にいっと笑った。

「搾り取れるうちは、どんどん搾り取れって姐御が言ってたアル。貢げる金がある内は傍にいてやってもいいネ。感謝するヨロシ」
「──お前、そう言う事ばっか覚えてると、碌な大人にならねぇぞ?」
「ふんっ。その代表作みたいな男がでかい口たたくなヨ」
「違いねぇ」

 咽喉の奥で笑うと、隣に並んだ少女の頭に手を置いた。さらりとした感触は心地よく、感じ入るように目を細める。唐突な行動に、神楽の目がキョトンとなった。

「たまには、素直に礼を言ってもいいんじゃねえか?」
「・・・・・・私が礼を言う時は、酢昆布3箱買ってもらったときヨ」
「安いな、お前」
 
 大小の影を作り、月に背を向け歩き出す。
 自分を見つめる瞳に、奇妙な満足感を得ながら、少女に似合うチャイナ服を考え。らしくないなと、首を振った。 

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ゆっくりと浮上する意識に蓬生はほっと胸を撫で下ろす。
 見たくないのに見ていた映像は徐々に薄れ、意識も自分のものであると把握できた。
 瞼越しに透ける光りを意識して、自分の意思で呼吸する。指先から確かめるように力を篭め、動かせるのを確信してから瞼を持ち上げた。
 そこは菩提樹寮の庭で、蓬生が居たのははお気に入りの昼寝ポイント。滅多に邪魔が入らず、尚且つ直射日光を避けられ風が吹くその場所は、この寮に来てから何度も利用していた。
 数度瞬きを繰り返し視力を取り戻せば、見上げた空は茜色に染まっている。時折黒い影が羽ばたき横切っていくのを目を細めて眺め、ふっと身体の力を抜いた。

「随分けったいな夢を見たなぁ」

 吐息と共に言葉を漏らす。
 身体の位置を調整し寝転びやすい体勢に変わると、頭の後ろに腕を指しこんだ。角度が変われば僅かに景色の見え方も変わる。ゆったりと流れる雲は心地よさそうで、羨ましいと呟いた。

「俺が見るにしては夢一杯の内容やったわ」

 いい年をして、と苦笑する。
 夢の中の蓬生は所謂『悪魔』と呼ばれる生き物で、笑えることに所在地は奈落。強大な力を持ち、それに伴う永い生を過ごしてきた彼は知識も余裕もたっぷりと持った、蝙蝠と酷似した大きな羽を持つ不思議な生き物だった。

「ファンタジーや」

 ぼそり、と呟き眉を寄せる。天使と悪魔が居て、ついでに魔法(らしきもの?)も使えた。意識を集中するだけでその場に居ながら遠くのものを感知できたり、結界を張って不要な者をシャットアウトしたり。
 けれどその夢は希望溢れる夢じゃなかった。

「ロミオとジュリエットより酷いわ」

 苦虫を百匹以上噛み潰したような口調で呟く。顎に手をやり、思い出そうとしなくともくっきりと脳に刻みこまれた記憶を回想した。
 蓬生は力ある悪魔だった。誰にも執着せず、享楽的で快楽主義。縛られず気ままに生きて、たまに暇なら天使の相手を片手間にこなす、そんなマイペースな悪魔だった。
 性格は何処か変わっていて、悪魔の癖に日光浴が嫌いじゃなく、境目と呼ばれる土地で悪魔にとって害悪にしかならない天上の光りを浴びて昼寝する豪胆な部分も持っていた。
 好奇心旺盛で興味があるものには手を出さずに居られない。けれど厭きっぽいので興味が尽きればすぐに捨てる、そんな自分勝手で子供っぽい部分も持ち合わせていた。少しだけ、自分と似ているかもしれない。
 その天使に興味を持ったのも好奇心からだった。彼女は幼く天使らしくないとろさを持ち、素直で面白かった。からかえばからかうほど反応するそれを、蓬生───否、『彼』は気に入った。
 壷に入るというものなのだろう。彼女の存在自体が彼の好奇心を刺激し、また構いたいと想わせる不思議な力を持っていた。
 幼く見えるのに力は強大。とろくさくても何処までも真っ直ぐ。ちょっと苛めれば固まって、彼が髪を引っ張っても頬を突付いても、彼の知るどの天使よりも美しい胡粉色の羽を弄繰り回しても中々硬直が解けなかった。驚いた小動物みたいな反応がまた彼の悪戯心を擽り、もっともっとと彼女を望ませた。
 彼の知る天使は取り澄ました端正な顔で人を踏みにじり、矜持ばかりが高く面白みのない存在だったが彼女だけは別だった。ころころ変わる表情も、人懐こい性格も、天使らしからぬもので気に入っていた。
 秘密の場所、と銘打ったその場所に、彼女はいつでも愛用の仕事道具を持ってきていた。それは彼女が季節を変えるのに必要なもので、奏でれば望み通りに四季を移ろわせた。
 柔らかな暖かい曲を奏でれば心地よい春に。鮮烈で刺激的な曲を奏でれば日差しの強い夏に。ゆったりとした穏やかな曲を奏でれば紅葉の秋に。冴え冴えと背筋が凍るような曲を奏でれば凛とした空気の冬に。
 彼女の心一つで季節は変わり、始めは操れなかった力もコントロールを覚え繊細な操作を覚えた。一本の木に春を、隣の木には冬を、といった風に同時に季節を変える方法も学んだ。学習能力の高い彼女は、努力かな性質もあり、たった一年で見違えるほど力の使い方が上手くなった。
 あの日、あの男が来るまで、彼は確かに楽しんでいた。
 日常が崩れるのは簡単だ。気に食わない男の来訪で彼の心は悪魔らしい色を取り戻した。即ち独占欲と執着心。奪われる前に束縛してしまえと、彼の心は囁いた。
 おかしな事に、その日まで彼は彼女をどうこうしたいと思っていなかった。ただ、二人きりの時間が特別で、その時間がずっと続けばいいと暢気にも考えていた。奪われるなど考えたこともなく、ついでに間抜けにも彼女には彼女の交友範囲があるのをうっかりと忘れていた。
 その男の存在は、彼にとっては寝耳に水で、油断していた心には刺激が強すぎた。構えてなかった分衝撃は強く、そしてそれが見知った相手であったのも余計に良くなかった。
 独占する方法はもとより持ち得ていた。彼は力が強い悪魔で、その手腕で今まで何人もの天使を堕としてきたのだから。彼が厭きるまでの短い時間を共に過ごした経験もあるので、どうやって面倒を見ればいいかも知っていた。
 力づくで邪魔な存在を捻じ伏せ、彼女へと力を注ぐ瞬間背筋を駆けたのは紛れもない快楽。自分の一部を強制的に注入し、自分のものへと創り変える。それは性欲を伴わない快感。真っ白なものを濁らすのは、震えるほどに楽しく愉しい。それは誰も踏み込んでいない雪に足跡をつけるのと似ているかもしれない。

「あかん。俺、才能あるかもしれんわ」

 綺麗なものを崩すのは面白い。それが自分のお気に入りで、且つ代えが利かない物なら尚更。額に手を当てると息を吐き出す。
 驚き丸くなった目も、微かに強張る身体も、強制的に変えられる苦痛に歪んだ表情も、唇を塞がれてる所為でくぐもっていた声も、何もかもが彼をそそった。
 この綺麗な生き物が自分の物になる。
 頭にあったのはその一点のみ。

「世の中は、上手く行かんもんやね」

 だが、彼の望みは叶わなかった。
 強大に見えた彼女の力。それは確かに元々のキャパシティもあったのだろうけど、実際は数多の天使のものだった。魂にまで掛かる神が施した呪縛。同僚であった彼らが、汚されない為にと施した呪い。
 幾重にも厳重に巻き付けられたそれは、数が多すぎて認知するには難しく、気づいたときには全てが遅かった。
 長時間外にいたから、という理由だけではなく顔を青くする。思い出してもなまじのホラー映画より薄気味悪い映像が脳裏に繰り返され、こみ上げる吐き気に口を覆った。
 彼が目にしたのは、お気に入りの彼女が解けて行く瞬間。平和な時代に生きる蓬生が目にするには刺激が強すぎたそれは、戦時中の核を受けた日本人がああだったのかもしれないと想像させた。
 髪が抜け、眼孔が剥き出しになり、皮膚は爛れ指から蕩け落ちる。美しく可憐だった面影はそこになく、何もする事が出来ない内に全てが消える。
 気がついたときには魂の片鱗すら見つけられなくなっていた。

「───俺は、あの天使が怒声を上げた気持ちも判る」

 彼は、何故あの時天使が堕ちたのか判っていなかったが、むしろそれが蓬生には不思議だ。天使は明らかに彼女に懸想していた。言っていたではないか。『博愛主義者の唯一の例外』だと。彼とて同じだったのに。そこまで考え嘆息する。
 否。彼は同じではなかった。
 彼は彼自身の感情を理解してなかった。『愛する』なんて単語、悪魔の辞書にはなかったに違いない。
 会えると思うだけで胸を躍らせるのも、そこに居るだけで気持ちが緩んだのも、一緒にある時間が代えの利かないものだったのも、全部その一言に集約できたはずなのに。自分と縁がないと思い込んでいた先入観から、彼は最後まで気づかなかった。

「嫌、違うか。彼は、最後の最後で気づいたんや」

 残留思念だけの身体もない姿になって、最後に最後にこう望んだ。『生きたい』と。もう一度だけ、彼女に会うために、生きたいと願った。それは悪魔にしては純粋で、混じり気がない必死の願い。神でもなく魔王でもなく、他の何かに祈りを捧げて。

「あれは、夢や」

 自分と酷似したもう一人を想い、蓬生は一粒の涙を零す。
 己の手で消滅させたと理解したのは、最後に消える僅かな時間。
 後悔が胸にせり上がり、同時に酷い満足感が巣食う。他の誰かではなく、自分が彼女を滅ぼしたと、独占できたと悦んだ。
 救い様のない馬鹿だ。自分の手を取ってくれずとも、他の誰の手も取らない彼女に嬉しいと思うなど。後追い自殺までしでかすなら、何故別の手段を考えられなかったのか。知らない、なんて理由にならない。彼の行動は何処までも自分勝手で、自分本意だ。

「ああ・・・嫌やな」

 何が嫌って、彼の気持ちがわかる自分か嫌だ。

「鳴かぬなら、殺してしまえ不如帰」

 有名な唄だ。自分はもっと気が長い方だと思っていたが、本来の性質にはこちらの方がしっくりとくる。
 消滅していく彼女を助けようとしなかったのは、手段がなかったからではなく───。

「あれ?蓬生さん?」

 聞こえてきた声に、現実へ変える。
 驚きに数度瞬きし回りを見渡せば、随分と闇の色が濃くなった庭に一つの華奢な影があった。
 右手に荷物を抱えた姿に蓬生は息を呑む。

「・・・小日向ちゃん?」
「はい。───おやすみでしたか?」
「嫌、起きとったよ。ちょうど目が覚めて涼しかったから風に当たってたんや」
「ああ、そうですね。日が暮れてきたし、風も昼に比べると随分涼しいですし。気持ちいいですもんね」

 柔らかな声。楽しげな口調は夢の中の人物と被る。
 見た目も全く同じその少女は、警戒心もなく蓬生へと近づいた。相変わらず色々と鈍そうだ。
 くすり、と笑う。
 やっぱり彼と自分は違う。

「なぁ、小日向ちゃん」
「はい?」
「こっちに来てや。ちょっと頭が痛いんよ。癒してくれる?」
「え?大丈夫ですか?部屋に入った方がいいんじゃ」
「ええの、ええの。小日向ちゃんが撫でてくれれば気分が和らぐから」
「私が、ですか?」

 きょとりと大きな目を瞬かせたかなでは、けれど促せばおずおずと小さな掌で蓬生の頭を撫でた。近づいた距離で彼女の香りが鼻を擽る。柑橘系のコロンをつけているらしく、少しだけ甘酸っぱい。
 伝わる体温に蓬生はゆっくりと身体の力を抜いた。
 かなでは彼女と違い、自分は彼とは違う。
 もう一度かみ締めるように考え息を吐き出す。

「───なぁ、小日向ちゃん」
「はい?」
「俺、ウサギになってしまいそうや」
「ウサギ?」
「小日向ちゃんが居ないと寂しくて死んでしまうかも。───せやから、俺を一人にせんといてね?」
「・・・ふふ、変な蓬生さん」
「変でもええわ。なぁ、返事は?」
「はい。蓬生さんが安心するまで、ずっとずっと傍に居ますよ」

 それはきっと蓬生が望む意味合いではないけれど、その言葉に酷く安堵する。

「俺は、あんたのようにならん」

 ぼそり、と呟くと温もりに目を閉じた。
 蓬生は彼と違い、この胸に巣食う感情を理解している。

「───俺は、あんたみたいにならん」

 いつか、彼女がこの腕から出ていってしまっても。
 夢の中の出来事を鮮明に思い出し、眉間に皺を刻んだ。
 満足そうに笑った彼が、脳裏からは消えなかった。

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