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■高杉⇒神楽


「いきなり、なにするネ」

 己の横を貫いた刀身に、神楽は目を細めた。

「──暇だったんでな」

 神楽に向け、刀を突き出した相手はそう言って哂った。
 月が綺麗な夜だった。冷えている空気の所為か、星もはっきりと見える。月には、様々な色がある。
 例えば。
 せんべいを思い出させるような赤茶色だったり。
 例えば。
 オレンジを思い起こさせるような、綺麗な橙色だったり。
 例えば。
 卵の黄身を思い出させるような、鮮やかな黄色だったり。
 中でも、神楽は白々と輝く月が好きだった。淡く青い色に発光するそれは、銀色にも見える。大好きな、彼を思い起こさせる色。
 そんな月が出ている日は、どこにも出かけず神楽は月を見上げる。作戦が決行される日だったとしても、神楽は参加することはなかった。隠れ家の屋根に上り、傘を横に置いて瞬きすらせずにじっと見つめる。失くしてしまった何かを、思い出すように。無表情に。でも、ただ一心に。
 晋助は、神楽の行動に基本的に口を出さない。だから、神楽が作戦に参加しようとしまいと気にしない。自分の本懐が果たせればそれでいいし、神楽はそのための駒の一つだ。作戦に神楽が参加できなくても問題はない。神楽は個人でも団体で行う作戦分位の戦果を上げられる。しかしながら無くてはならない駒とは言えず、彼女が居なくなったとしても戦力的には勿体無いと思うが困るほどではない。故に晋助は神楽が居ても居なくとも変わりはしない。
 だが、この日は何となく、月を見上げる神楽をそのままにしておきたくない気分になった。
 淡く光る月を見上げる神楽は無くなってしまった物を、一心に探しているように見えて、気が付いたら刀を抜いていた。本気で斬りにいった。そこに躊躇も遠慮もない。それなのに。空を斬った刀に、うっすらと哂う。迷い無く殺す気で抜いた刀は宙を切り、無防備に見えたがさすがは夜兎といったところか。



「いきなり、なにするネ」

 己の横を貫いた刀身に、神楽は目を細めた。

「──暇だったんでな」

 神楽に向け、刀を突き出したまま晋助は言い放った。

「たまには、オレの相手もしろよ」

 言いながら、刀を翻す。女物の着物の裾がふわりと返り、月の光で淡く透けた。襲い来る兇刃を傘で弾いた神楽は、バランスの悪い屋根の上でとんぼ返りをする。
 器用なものだ。軽業師よりも身軽な動きに、ククッと咽喉の奥で笑う。

「やっぱ、じゃじゃ馬はそうでないとな」
「何を言ってるアル。私、今日は誰かと戦う気分じゃないネ。相手して欲しけりゃ、真選組の中に転がり込めヨ」
「オレは、お前とやり合いたいんだよ」
「──私を、壊したいアルカ?」

 唐突な言葉に、攻めていた手を止めた。
 壊す?大事な駒である少女を?
 思いも寄らなかった言葉に、思わず考え込む。先ほどまで神楽は絶対的に必要な駒ではないと考えていたくせに、彼hその矛盾点に気づかない。
 そして。

「そうかも知れねぇな」

 ゆるりと口端を上げ、神楽の言葉を肯定した。

「・・・仲間にまで手を上げるなんて、お前はやっぱサイテーヨ」
「仲間?お前がそう認識してるのか?」
「・・・・・・」

 黙り込んだ少女に、正直なものだと思った。冷え切った眼差しは仲間に向けるには強すぎる。嘗ての少女を知る晋助は、それでも責めるでもなく哂う。

「お前の言うとおり、オレはお前を壊したいぜ?」

 まるで、獣が唸るように言うと、また刀を走らせた。すばしっこい神楽に、中々決定打が与えられない。攘夷志士として戦塵を渡った経験、度量、腕。全てに秀でる晋助の刀は殺すことに躊躇ない。そして並ぶものは少ないほど切れ渡る。だがそんな晋助の腕をしても神楽を殺すのは簡単ではなく、そして夜兎である彼女は少々の傷はすぐに癒える。生半可な心積もりでは、彼女に傷を残すことすら出来やしない。

「──お前、あの月を見て何を思っていた?」
「お前には関係ないダロ。口出ししないで欲しいアルナ」

 目を細めた神楽を見て、この顔だ、と晋助は思う。
 普段は幼い少女そのものの彼女は、一旦本気になるととんでもなく美しい。丸い目は切れ上がり、放つ雰囲気も一変する。凄惨な空気を纏わせ悲愴なまでの覚悟をする。頬が紅潮し殺気を宿した瞳がぎらぎらと獲物を求め彷徨う。
 自分が欲しいのは、この時の女だ。自分でない誰かを想い、月を見上げる感傷など、彼女には必要ない。

「おい、じゃじゃ馬」
「何ネ?」
「服、買いに行くぞ」

 唐突に刀を繰り出していた手を止めると、傘を構えたままの神楽に背を向けた。背中を向ける、という行為がどんな意味を表すか知らぬ晋助でもないのに。からんからんと屋根の上を下駄で音を立てながら歩く。
 しばらくすると、ようやく動いたらしい神楽の気配が後を付いてきた。

「──お前、訳がわからないアル。いきなり攻撃してきたと思ったら、いきなり服を買いに行くとか言い出すし」
「何だ?いらねぇのか?」

振り返り、あちこちが破れた服を見る。黒地に彼岸花を咲かせたそれは気に入りの一品ではあったが。修復したとしても、もう着れないだろう。今にも見えそうな乳房を隠すでもなく肩を竦めた少女は、にいっと笑った。

「搾り取れるうちは、どんどん搾り取れって姐御が言ってたアル。貢げる金がある内は傍にいてやってもいいネ。感謝するヨロシ」
「──お前、そう言う事ばっか覚えてると、碌な大人にならねぇぞ?」
「ふんっ。その代表作みたいな男がでかい口たたくなヨ」
「違いねぇ」

 咽喉の奥で笑うと、隣に並んだ少女の頭に手を置いた。さらりとした感触は心地よく、感じ入るように目を細める。唐突な行動に、神楽の目がキョトンとなった。

「たまには、素直に礼を言ってもいいんじゃねえか?」
「・・・・・・私が礼を言う時は、酢昆布3箱買ってもらったときヨ」
「安いな、お前」
 
 大小の影を作り、月に背を向け歩き出す。
 自分を見つめる瞳に、奇妙な満足感を得ながら、少女に似合うチャイナ服を考え。らしくないなと、首を振った。 

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