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いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--
うるるるるゥ グルルルゥうる
夜中に部屋に響く声で目が覚める。
原因が何かは判っているので、枕元に体を丸めて眠る存在に目をやった。
すると眉間に皺を刻み込み、鼻に皺を寄せて唸っている魔獣が一匹そこにいる。
小さな声は寝言だが、ずいぶんとはっきりとしていた。
この魔獣が屋敷に来てから一週間ほどになるが、彼は毎日寝るたびに魘される。
さすがに夢の中まで覗けないし、内容を知りたくとも彼は人語を話せないので無理だ。
恋次に翻訳を頼めばいいのだろうが、緩く首を振った姿はそれを柔らかに拒絶していた。
本性の姿でいる恋次も、タシっと前足をベッドに掛けて魔獣の子供を覗き込んでいる。
「・・・相変わらずひでぇ寝顔だな」
「貴様に言われたくないだろうがな」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ」
狼面で器用にもむっと唇を尖らせた恋次は、瞳を眇めて睨んで来る。
しかし今更そんな顔にも慣れているルキアが怯むはずもなく、視線は鮮やかにスルーした。
恋次よりも今はこの一見子猫な魔獣だ。
ぐるゥ、ルルルぅと喉を鳴らし何度も寝返りを打つ姿は酷く苦しげで、起こした方がいいのか迷う。
しかし最近になって漸く眠れるようになったばかりなので、今は睡眠の邪魔するのは得策ではない。
「やれやれ。今日も徹夜か」
「そんなこと言って貴様昨日は太陽が昇る前に寝てたぞ」
「お前だって浦原さんが起こすまで爆睡だったじゃねぇか」
小声で争いながら魔獣の体に手を添える。
彼の悪夢は変われない。
だがその悪夢から引きずり出す手段はある。
添えた手に意識を集中すると、自分の体から魔獣の体へ力の譲渡を始めた。
魔獣である恋次ならともかく、人であるルキアが、しかも契約していない魔獣相手に魔力を分けるのは至難の業だ。
しかし恋次がいるこの状態で花太郎を出すと面倒が起こるのが目に見えているので、自分でやる方が効率いい。
物言いたげに恋次がこちらを見るが、無視して魔獣に集中する。
諦めたようにため息を吐いた恋次は、ルキアと同じように手を翳した。
二人分の魔力が魔獣に注がれる。
恋次は赤。ルキアは氷のような薄い白。
揺らぎ混じりながら体に吸い込まれていくそれを吸収するたびに、魔獣の呼吸が宥められる。
あまりの子猫の魘されように浦原に相談したら、ある種の飢餓作用と教えられ、魔力を安定させれば少しはましになると言われた。
故に毎晩彼が眠った後処置を施すのだが、器が大きいらしいこの魔獣はどれだけ注いでも果てがない。
じわり、と額に汗が浮く。
それでも止めずにいれば、恋次がとんとルキアの体を鼻で押した。
「もういい、ルキア。後は俺がやる」
「だが、貴様も毎日のことで疲れきっているだろう?」
「俺は昼間寝てるから大丈夫だ。お前は仕事があるだろ」
「でも」
「いいから、寝ろ。もうもたねぇ判ってる」
真剣な恋次の言葉に頷くと、ゆっくりと体をベッドに伏せる。
そしてそのまま掌を猫の頭へと置いた。
力を注ぐためではなく、体温を感じさせるために。
この魔獣はどうやら温もりを好むらしく、そうすると自ら擦り寄ってくる。
先程より眉間の皺がなくなった寝顔に、ルキアは小さく破顔した。
「恋次」
「何だ」
「貴様もほどほどで寝ろ」
「判ってるよ」
笑いを含んだ声で返され、ゆっくりと瞼を閉じる。
掌に感じる温もりが、早く悪夢から開放されますように。
心からそう祈りながらルキアは眠りの中へ旅立った。
--お題サイト:afaikさまより--
うるるるるゥ グルルルゥうる
夜中に部屋に響く声で目が覚める。
原因が何かは判っているので、枕元に体を丸めて眠る存在に目をやった。
すると眉間に皺を刻み込み、鼻に皺を寄せて唸っている魔獣が一匹そこにいる。
小さな声は寝言だが、ずいぶんとはっきりとしていた。
この魔獣が屋敷に来てから一週間ほどになるが、彼は毎日寝るたびに魘される。
さすがに夢の中まで覗けないし、内容を知りたくとも彼は人語を話せないので無理だ。
恋次に翻訳を頼めばいいのだろうが、緩く首を振った姿はそれを柔らかに拒絶していた。
本性の姿でいる恋次も、タシっと前足をベッドに掛けて魔獣の子供を覗き込んでいる。
「・・・相変わらずひでぇ寝顔だな」
「貴様に言われたくないだろうがな」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ」
狼面で器用にもむっと唇を尖らせた恋次は、瞳を眇めて睨んで来る。
しかし今更そんな顔にも慣れているルキアが怯むはずもなく、視線は鮮やかにスルーした。
恋次よりも今はこの一見子猫な魔獣だ。
ぐるゥ、ルルルぅと喉を鳴らし何度も寝返りを打つ姿は酷く苦しげで、起こした方がいいのか迷う。
しかし最近になって漸く眠れるようになったばかりなので、今は睡眠の邪魔するのは得策ではない。
「やれやれ。今日も徹夜か」
「そんなこと言って貴様昨日は太陽が昇る前に寝てたぞ」
「お前だって浦原さんが起こすまで爆睡だったじゃねぇか」
小声で争いながら魔獣の体に手を添える。
彼の悪夢は変われない。
だがその悪夢から引きずり出す手段はある。
添えた手に意識を集中すると、自分の体から魔獣の体へ力の譲渡を始めた。
魔獣である恋次ならともかく、人であるルキアが、しかも契約していない魔獣相手に魔力を分けるのは至難の業だ。
しかし恋次がいるこの状態で花太郎を出すと面倒が起こるのが目に見えているので、自分でやる方が効率いい。
物言いたげに恋次がこちらを見るが、無視して魔獣に集中する。
諦めたようにため息を吐いた恋次は、ルキアと同じように手を翳した。
二人分の魔力が魔獣に注がれる。
恋次は赤。ルキアは氷のような薄い白。
揺らぎ混じりながら体に吸い込まれていくそれを吸収するたびに、魔獣の呼吸が宥められる。
あまりの子猫の魘されように浦原に相談したら、ある種の飢餓作用と教えられ、魔力を安定させれば少しはましになると言われた。
故に毎晩彼が眠った後処置を施すのだが、器が大きいらしいこの魔獣はどれだけ注いでも果てがない。
じわり、と額に汗が浮く。
それでも止めずにいれば、恋次がとんとルキアの体を鼻で押した。
「もういい、ルキア。後は俺がやる」
「だが、貴様も毎日のことで疲れきっているだろう?」
「俺は昼間寝てるから大丈夫だ。お前は仕事があるだろ」
「でも」
「いいから、寝ろ。もうもたねぇ判ってる」
真剣な恋次の言葉に頷くと、ゆっくりと体をベッドに伏せる。
そしてそのまま掌を猫の頭へと置いた。
力を注ぐためではなく、体温を感じさせるために。
この魔獣はどうやら温もりを好むらしく、そうすると自ら擦り寄ってくる。
先程より眉間の皺がなくなった寝顔に、ルキアは小さく破顔した。
「恋次」
「何だ」
「貴様もほどほどで寝ろ」
「判ってるよ」
笑いを含んだ声で返され、ゆっくりと瞼を閉じる。
掌に感じる温もりが、早く悪夢から開放されますように。
心からそう祈りながらルキアは眠りの中へ旅立った。
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相変わらずメリー号の船首で大の字になって昼寝する船長に、ゾロは呆れを多大に含んだため息を漏らす。
体のいたるところに包帯を巻きながらも、心地良さそうに風に吹かれる姿はとてもらしいが馬鹿だと思う。
ゴムゴムの実を食べたルフィは海に嫌われているのに、その本人は海が好きで仕方ない。
落ちれば怪我もあるしいつもより早く沈むだろうに、あれだけ注意しても回りに誰も居ない状態で転がるルフィに、怒りすら沈む。
それでも放っておいて溺れられたらことなので、つい先日の戦いで負傷した足首をやや引き摺りながら彼女に近づく。
規則正しく上下する胸を見て、頭を掻いてもう一度ため息を吐いた。
「狸寝入りか?」
「んにゃ、休憩してただけだ。お前が寝てるって勝手に勘違いしたんだろ」
器用に首だけこちらに向けたルフィは、しししっと彼女独特の笑みを見せる。
顔にも貼られた絆創膏に眉根を寄せ、その程度に傷が気になる自分に舌打する。
戦うものであればこれからも怪我は負うし、顔に傷を作るのも珍しくない。
しかし彼女の顔に傷が残ると考えるとどうしようもなく腹の収まりが悪い。
苛立つ心を宥めていると、能天気な声に邪魔された。
「なんか悩んでんのか?」
「───なんでそう思う」
「普段よりも眉間の皺が五割増しだ。癖になるぞ、それ」
「ほうっておけ」
見透かされていた事実を隠すために殊更強い口調で訴える。
だがそんなゾロの心境も見透かしたようにルフィは肩を竦めた。
「おれがビビを助けるのが気になるか?」
直球な言葉に声が詰まる。
返事が出来ないのが返事だと、気付いた時には遅かった。
してやられたと睨みつければ、一応の上司は愉快そうに肩を揺らす。
そう。ゾロはルフィがビビを手助けするのを気にしていた。
別にビビを手助けすること事態に異論はない。
ルフィが決めたなら好きにすれば良いと思うし、彼女を補佐するのが自分の役目だと思っている。
しかし先日の巨人がいた島での体験は、少しばかりゾロの心を揺らした。
ルフィの夢は海軍元帥になることだ。
年齢の割りに優秀なルフィは『大佐』という身分にあり、口先だけでなく実力もある。
こいつなら、と思わせる気概もあり、だからゾロはルフィについている。
成り行きで海軍に入ってしまったが後悔していない。
この女の傍にいるのに、後悔なんてするわけない。
だからこそ、ゾロは気になるのだ。
ビビを助けることで出る、ルフィの夢への影響が。
島を出てからの悩みは、どうやら鈍いくせに鋭いルフィに気付かれていたらしい。
いつも飄々としているため騙されがちだが、彼女は決して鈍くない。
鈍いだけだと出世できないだろ、と笑っていたが、確かにその通りなのだろう。
ナミやウソップの前では見せない顔を、ルフィは確かに持っている。
「・・・お前は一応海軍大佐だ」
「おう。一応じゃなく、大佐だな」
「話を聞いただけじゃ実感は沸かなかったが、相手は王下七武海だ」
「そうだな。海賊でありながら海軍に表立っての伝手がある奴らだな」
「───お前、判ってんのか?そいつらを敵に回すって言う意味」
「ししししっ、今更気がついたゾロに言われたくねぇな。お前鈍すぎ」
「何だと!」
本気で心配しているのに、軽く流され憤る。
確かに今更かもしれないが、気がついただけましだろう。
怒りを瞳に宿して睨み付けるものらりくらりと躱された。
「ばっかだなぁ、ゾロ。心配すんな。おれは海軍元帥になる女だ」
「・・・だから心配してんだろうが」
「大丈夫だ。おれはビビに手を貸す。が、海軍大佐としてじゃなく、あくまでモンキー・D・ルフィ個人としてだ」
「海軍を利用して永久指針を取ってきたのにか?」
「あれは正当な報酬だからいいんだよ。それにお前は知らないだろうけどな、鰐が尻尾を出すのは珍しいんだ。焦っているのか油断してるのか、それとも第三者の介入があったか。どれでもいいが、チャンスには違いない」
「相手は王下七武海だぞ?」
「そうだな。そんでもって海賊だ」
しししっと笑ったルフィの目は、決して笑っていなかった。
ぞくり、と背筋を震わせる。
彼女は判っていないから突っ走るのではない。
全てを理解した上で、突っ走ると言っているのだ。
「おれはビビを助けるぞ。もうそう決めた。ビビを助けて、ついでにクロコダイルをしょっ引く」
「・・・ついでかよ」
「おう、ついでだよ。第一は仲間。おれ、ビビが大事だ」
そうして笑う姿は、先ほどまでとは違い年相応の娘のようだった。
ルフィの言葉にゆるゆると息を吐き出し覚悟を決める。
どうせルフィの決めた事に逆らう気はない。
「負ける気は?」
「ないな」
頭の後ろで腕を組んだルフィは、一言告げると視線を前に向けた。
「真っ直ぐ進むぞ、ゾロ。後ろを振り返らずに、まっすぐ、真っ直ぐにだ」
いつものように五月蝿く思えるほど騒がしい声ではなく、何処か淡々とした響きでルフィが言った。
海の先を見詰めるルフィの後ろに立ちながら、見えないと承知しながらゾロも一つ頷いた。
体のいたるところに包帯を巻きながらも、心地良さそうに風に吹かれる姿はとてもらしいが馬鹿だと思う。
ゴムゴムの実を食べたルフィは海に嫌われているのに、その本人は海が好きで仕方ない。
落ちれば怪我もあるしいつもより早く沈むだろうに、あれだけ注意しても回りに誰も居ない状態で転がるルフィに、怒りすら沈む。
それでも放っておいて溺れられたらことなので、つい先日の戦いで負傷した足首をやや引き摺りながら彼女に近づく。
規則正しく上下する胸を見て、頭を掻いてもう一度ため息を吐いた。
「狸寝入りか?」
「んにゃ、休憩してただけだ。お前が寝てるって勝手に勘違いしたんだろ」
器用に首だけこちらに向けたルフィは、しししっと彼女独特の笑みを見せる。
顔にも貼られた絆創膏に眉根を寄せ、その程度に傷が気になる自分に舌打する。
戦うものであればこれからも怪我は負うし、顔に傷を作るのも珍しくない。
しかし彼女の顔に傷が残ると考えるとどうしようもなく腹の収まりが悪い。
苛立つ心を宥めていると、能天気な声に邪魔された。
「なんか悩んでんのか?」
「───なんでそう思う」
「普段よりも眉間の皺が五割増しだ。癖になるぞ、それ」
「ほうっておけ」
見透かされていた事実を隠すために殊更強い口調で訴える。
だがそんなゾロの心境も見透かしたようにルフィは肩を竦めた。
「おれがビビを助けるのが気になるか?」
直球な言葉に声が詰まる。
返事が出来ないのが返事だと、気付いた時には遅かった。
してやられたと睨みつければ、一応の上司は愉快そうに肩を揺らす。
そう。ゾロはルフィがビビを手助けするのを気にしていた。
別にビビを手助けすること事態に異論はない。
ルフィが決めたなら好きにすれば良いと思うし、彼女を補佐するのが自分の役目だと思っている。
しかし先日の巨人がいた島での体験は、少しばかりゾロの心を揺らした。
ルフィの夢は海軍元帥になることだ。
年齢の割りに優秀なルフィは『大佐』という身分にあり、口先だけでなく実力もある。
こいつなら、と思わせる気概もあり、だからゾロはルフィについている。
成り行きで海軍に入ってしまったが後悔していない。
この女の傍にいるのに、後悔なんてするわけない。
だからこそ、ゾロは気になるのだ。
ビビを助けることで出る、ルフィの夢への影響が。
島を出てからの悩みは、どうやら鈍いくせに鋭いルフィに気付かれていたらしい。
いつも飄々としているため騙されがちだが、彼女は決して鈍くない。
鈍いだけだと出世できないだろ、と笑っていたが、確かにその通りなのだろう。
ナミやウソップの前では見せない顔を、ルフィは確かに持っている。
「・・・お前は一応海軍大佐だ」
「おう。一応じゃなく、大佐だな」
「話を聞いただけじゃ実感は沸かなかったが、相手は王下七武海だ」
「そうだな。海賊でありながら海軍に表立っての伝手がある奴らだな」
「───お前、判ってんのか?そいつらを敵に回すって言う意味」
「ししししっ、今更気がついたゾロに言われたくねぇな。お前鈍すぎ」
「何だと!」
本気で心配しているのに、軽く流され憤る。
確かに今更かもしれないが、気がついただけましだろう。
怒りを瞳に宿して睨み付けるものらりくらりと躱された。
「ばっかだなぁ、ゾロ。心配すんな。おれは海軍元帥になる女だ」
「・・・だから心配してんだろうが」
「大丈夫だ。おれはビビに手を貸す。が、海軍大佐としてじゃなく、あくまでモンキー・D・ルフィ個人としてだ」
「海軍を利用して永久指針を取ってきたのにか?」
「あれは正当な報酬だからいいんだよ。それにお前は知らないだろうけどな、鰐が尻尾を出すのは珍しいんだ。焦っているのか油断してるのか、それとも第三者の介入があったか。どれでもいいが、チャンスには違いない」
「相手は王下七武海だぞ?」
「そうだな。そんでもって海賊だ」
しししっと笑ったルフィの目は、決して笑っていなかった。
ぞくり、と背筋を震わせる。
彼女は判っていないから突っ走るのではない。
全てを理解した上で、突っ走ると言っているのだ。
「おれはビビを助けるぞ。もうそう決めた。ビビを助けて、ついでにクロコダイルをしょっ引く」
「・・・ついでかよ」
「おう、ついでだよ。第一は仲間。おれ、ビビが大事だ」
そうして笑う姿は、先ほどまでとは違い年相応の娘のようだった。
ルフィの言葉にゆるゆると息を吐き出し覚悟を決める。
どうせルフィの決めた事に逆らう気はない。
「負ける気は?」
「ないな」
頭の後ろで腕を組んだルフィは、一言告げると視線を前に向けた。
「真っ直ぐ進むぞ、ゾロ。後ろを振り返らずに、まっすぐ、真っ直ぐにだ」
いつものように五月蝿く思えるほど騒がしい声ではなく、何処か淡々とした響きでルフィが言った。
海の先を見詰めるルフィの後ろに立ちながら、見えないと承知しながらゾロも一つ頷いた。
いつか どうしても 悲しいときに
--お題サイト:afaikさまより--
*4部作です。
■か 書かれなかったことを読む手紙
「・・・美味しい」
可愛らしい顔を嬉しげに綻ばした髑髏の姿に、綱吉もつられて笑顔になる。
こんなに穏やかな時間を持てたのは久しぶりで、彼女にとっても同じくらいに掛け替えのない気持ちになっていればいいと心から願う。
何しろこの可愛らしい顔とミステリアスな雰囲気のおかげで敵対勢力からストーカー行為にあっているのだ。
心配させるから骸には黙ってくれと言われたが、あの千里眼を持つような男のことだ。絶対に気がついているだろう。
綱吉と違い無口な性質でも髑髏は素直だから何でも表情に出てしまうし隠し事に向いていない。
いつしか裏と表を使い分けるのに慣れてしまった自分に比べると随分と綺麗なままの彼女を、綱吉は大切にしていた。
綱吉の執務室は大マフィアボンゴレの中でも一番の安全箇所だ。
屋敷内の配置的な意味でもそうだが、それ以上に戦力的な意味で。
ボンゴレの本部には各国に散らばる家族の中でもよりぬきの精鋭が詰めている。
末端の部下然り、構成員然り、そして綱吉の周りを固める守護者然り。
しかしその中でも最も最強の何相応しいのは、彼らの父である綱吉だ。
家族を守るためにその拳を振るう、ドン・ボンゴレ。
綱吉の力は背後に守るべき相手がいれば居るほど強くなる。
自分のために使える力などいいとこ八分。心で無意識にかけたリミッターが外れるのは、守りたい誰かが居るときだ。
そう、家庭教師に育てられた。
安全だと判る場所は、今の髑髏には必要なものだ。
敵を前に常に気を張るのは疲れるし、実際に最近は顔色が悪い。
運がないことに彼女のストーカーは同じ術師だ。
綱吉の知る術師は大半が粘着質で陰鬱な性格をしている。
骸然り、マーモン然り、そしてミルフィオーレの幹部然り。
例外は目の前でホットチョコレートを両手で抱える彼女くらいだ。
髑髏は術師の癖に驚くほど温かなものを持ったままだ。
それは骸が彼女を寵愛している証であり、だからこそ寵愛し続ける理由だろう。
女性としてではなく家族として、骸は髑髏を愛してる。
綱吉が髑髏を守る理由は彼女が大切だからという理由以外にも、その一点が心を占めていた。
「クローム」
「何、ボス?」
「君は、変わらないでいてくれよ」
「・・・ボス?」
不思議そうな顔をして首を傾げる、いつまでも少女のような人に綱吉は笑った。
髑髏の抱え込む闇を知って尚、自分自身で彼女に暗い闇を背負わせて尚望む傲慢さに、涙が毀れそうだった。
これは気づかれていけない想い。知られたくない願い。
独善的で身勝手な気持ちなど捨て置いて、彼女が彼女らしく在れるよう、自分が居なくとも変わらないでくれと、声ならぬ声で叫んだ。
■な なけなしのやさしさはこれで全部です
神妙な顔で自分の前に立つ青年を視線だけで見上げる。
苦労性のヴァリアーのNO.2は、綺麗な顔に痕が残りそうな勢いで眉間に皺を寄せていた。
深夜の報告には慣れているが、どうやらこの分だと彼は今日も苦労したのだろう。
不憫にも生真面目な性格のスクアーロは、なまじ器用貧乏なだけに色々と押し付けられてしまう。
今渡された報告書だって本来なら彼ではなく、ベルフェゴールから受け取るべきものだ。
それなのにその張本人は顔見せ程度に気軽な口頭での報告を済ますと、妙に上機嫌に月明かりに紛れて消えてしまった。
放っておけない性分のスクアーロは彼の遣り残しの仕事を盛大にため息を吐きつつ処理してくれたのだろう。
綺麗な銀髪を片手でかき乱しながら処理するさまが目に浮かび、つい苦笑してしまう。
すると敏感に感情の機微を悟った彼は、すっと眉を跳ね上げた。
「何だぁ?何か文句でもあるのかぁ?」
「いやいやいやいや、まさか」
「否定が多い。俺を馬鹿にしてんのかぁ?」
「まさか!こうして仕事の処理をしてくれるスクアーロに感謝こそすれ、馬鹿にするなんてとんでもない」
「・・・お前の場合、本心からに聞こえねぇんだよなぁ」
「何でさ?こんなに真心篭めてるのに」
「笑い方が嘘くせぇ」
びしりと人の顔をさしてあっさりと言い放った男に、綱吉は思わず破顔した。
そう言えばこの男との付き合いもそれなりになるのだ。
彼にとっては理不尽だろうが綱吉にとっては快適な付き合いは、何だかんだ言って優しいスクアーロにとってはまた違う意味を持つのかもしれない。
だが彼の感情を考慮する気はない。───例え、彼の思惑も心配を無視したとしても。
綱吉は個人的にスクアーロを信用している。
それは信頼と言ってもいいし、個人的になら命も懸けていい。
だがスクアーロはどこまで行っても綱吉のものにはならないし、綱吉はスクアーロのために個人的に命を懸ける甘さを持たせてもらえない。
彼はXANXUSの傍に居てこそ真価を発揮する生き物で、ボンゴレの一部だがそれ以前にヴァリアーの幹部だ。
追いかけても求めても決して手に入らず、故に安心して心を向けられる。
いざと言うとき、スクアーロが優先すべきは綱吉ではなく、彼が選ぶものはXANXUSただ一人。
ボンゴレの一人でありながら、ヴァリアーは独特のスタイルを保っていた。
何だかんだで文句を言いながらも付き合いの長いスクアーロは、綱吉をよく判っている。
だから僅かな違和感に揺れ、綱吉を観察するように見るのだ。
そうして心配そうに顔を歪めながら、引いた一線から踏み込まない。
綱吉は、そんなスクアーロに甘えている。
「大丈夫だよ、スクアーロ」
「・・・何がだぁ?」
「ふふふ、心配しないでってこと。俺を誰だと思ってるのさ」
「───偉大なる大家族ボンゴレの長、ドン・ボンゴレ」
「そう。俺はボンゴレ十世。最強の名を冠する男。お前の主の上に立つ男だ」
にぃ、と口角を上げれば雰囲気は一変する。
たったそれだけで幼い容貌の東洋の小僧ではなく、ミステリアスで読めないマフィアの長に変わる。
最強である。それを示し続けることが、綱吉が出来る最大の意思表示。
目の前の彼の主が欲し、だから彼も望むもの。
「ありがとう」
小さく、柔らかな笑みを浮かべる。
切れ長の瞳を丸くした彼は、仏頂面でいるときよりずっと可愛かった。
■し 知らないことばのなじんだひびき
「俺はさー、ツナ」
平時と同じ口調で、まるで遊びに来ているような気軽さで掛けられる声に綱吉は眉を寄せる。
彼自身の武器である時雨金時を手足のように扱い、取り囲む敵を容赦なく切り伏せながらへらりとした笑顔を浮かべた。
「こいつら、嫌いなのな。俺の部下に手を出して、へらへら笑ってやがったんだ」
「・・・山本」
「こんなによわっちいくせに数だけ揃えて俺の部下を殺しちまったんだぜ?同盟ファミリーでありながら、それって頂けないよな」
「山本」
へらり、へらり。
彼自身笑いながら、それでも底冷えするような意思を瞳に篭めて愛刀を振るっている。
敵が泣こうが喚こうが叫ぼうが関係ない。一刀で殺すなんて優しい真似はしない。
確実に意識を保ちつつ、それでいて必ず死ぬ場所を選び恐怖を存えさせる。
目が見える。耳は聞こえる。声も出せる。
それでも体は動かせず、徐々に向かう死に敵は恐怖する。
その姿は羅刹。家族を傷つけられた怒りに我を忘れ、冷静に激怒する悪魔がいる。
ボンゴレの長として判断すれば彼の戦力はすばらしい。
しかし友人として見れば、今の姿は痛々しい。
裏切り者には粛清を。血の掟に則って、彼は綱吉と行動している。
今回綱吉が動いたのは、裏切ったのが同盟ファミリーだからだ。
これ以上の揺らぎを見せぬ為には、徹底した見せしめが必要だと判断した。
彼らがしたのは家族殺し。裏切り、騙し、幾人ものボンゴレ狩りを行った。
ミルフィオーレの影に隠れていたために発覚が遅れたが、突き止めたのは一番被害が多かった部隊の指揮官である山本だ。
彼は元・同盟ファミリーの面々がミルフィオーレに自分を売り込むために記録していた、部下が殺されるまでの記録媒体を単独で手に入れた。
そして、かの同盟の粛清を申し出て、先陣を切った綱吉についてきた。
「俺も、俺の部下たちも怒り心頭に発する、て奴でさ。色々と限界なのなー」
「・・・」
笑いながら敵を切り刻む姿は仲間として見ても空恐ろしい。
冴え渡りすぎる剣技に、空気を伝う殺気。びりびりと首筋が痺れるくらい容赦ない強さに、視線が合うだけで敵は腰砕けになる。
山本の士気に合わせるように彼の部下も敵を屠っていく。
彼らの瞳には混じりけない怒気が浮かび、拳を握り締め唇をかみ締めた。
今回の騒動は綱吉がもっと早く気づけばまた別の結果を経ていただろう。
色々と平行していたがために優秀な直感の警報を聞き逃し、多くの同胞を失った。
山本の怒りはそのまま綱吉の怒り。家族を亡くした悔しさも悲しさも、全部綱吉も持っている。
しかしながら、綱吉はそれだけで済む立場にない。
彼らを守るべき立場でありながら、みすみす失った責め苦は綱吉も受けるべきだ。
それでも部下たちは大空と仰ぐ自分を一切責めることなく、憎しみで濁った瞳を敵に向け続ける。
純粋な怒りに染まった彼らを、静めるのもまた己の役目だった。
「───・・・山本、下がれ」
「ツナ?でも、こいつを殺ったら全部終わりなのな。きちんとケジメつけなきゃ、遊び半分で殺された部下たちに顔向けできねえよ。地獄で会ったときに何て言えばいいんだ?」
「お前らのボスが敵を粛清したとでも言えばいい」
「ツナ・・・?」
持っていた銃を腰にすえると、久しぶりに自分の最強の武器に炎を灯す。
額に浮かぶオレンジは覚悟の強さ。
切り札は最後まで取っておけと教えられた。
この拳は綱吉最強の武器であり、最高の戦道具。
普段は隠し玉として置いてある、ドン・ボンゴレが最強である証。
「家族の敵は俺が討つ。家族の命は俺が背負う。───だから、山本。自分だけで全てを背負えると思うな。俺はお前の何だ?」
「・・・お前は、俺のボスだ。いつだって悠然とし、誰よりも大きく誰よりも強い、俺のいただくべき大空」
「そう。俺はお前の大空だ。鎮魂の雨は流し終えた。大空が顔を見せる時間が来たんだ」
拳にオレンジの炎を灯す。
怯え震える敵に、綱吉こそが容赦してはいけない。
彼らの恨み辛み、悔しさ悲しさ、痛みも苦しみも全部背負うと決めている。
彼らの怒りを昇華するには、これこそが一番効果的。
「さよならの時間だ」
「ヒッ・・・」
「俺の家族を裏切った罰、その身でしかと受けてもらう」
首を振りながら後退する男に向かい、半身になった。
「機会があれば、地獄で会おう」
圧倒的熱量の炎が前後に噴射される。
人であった存在はその熱の前に消え、あったはずの壁も全て溶けた。
存在それそのものを欠片も残さず消えた男に、しばしの別れを告げる。
どうせ行き先は同じだ。死ねば綱吉も地獄に落ちる。そんな生き方を選んでいる。
「お前たちの怒りは俺が背負った。いい加減に前を向け」
「・・・ああ。ごめんな」
「謝るな。俺はお前らの大空だ」
「うん。ありがと、ツナ」
へらり、と。
先ほどとは違い、泣きそうな顔で笑った山本に、綱吉は瞳を伏せた。
部下が殺されてこの勢いなら、綱吉が居なくなれば彼はどうなってしまうのだろう。
「ツナ」
「・・・何だ」
「地獄に落ちるときは、俺も一緒だ」
肩に回された腕はもろく震えている。
獄寺と似通う危うさを見せる彼に、保険をかけなくてはと強く感じた。
「そうだな」
この魂が行く先が地獄なら、山本のそれも同じだろう。
綱吉のために、自分自身のために、山本は今の道を選んだ───選んで、くれた。
道連れにしたいと望まないが、きっと落ちる先は同じだ。
それでも、彼の魂だけでもと願うのは、きっと傲慢なのだろう。
■い いまのうちです、さあ早くお別れを
「久し振り、XANXUS」
「失せろ、ドカス」
「うわっ」
突然飛んできた置物に目を丸くしながらも、当たるすれすれで器用に避ける。
ご丁寧にも眉間を狙ったそれは、鈍い音を立てて重厚なドアに当たると砕けた。
石で作られら像の末路に一筋の汗を流すと、情けなく眉を下げて笑う。
乱れてもいないのに無意識にスーツの首の部分を指で直すと、一つため息を吐き出し改めて男と向き直った。
鋭すぎる眼光は微塵も甘さが見つからず、行儀悪く机の上で組まれた足も堂々としているので疑問に思うのが可笑しいんじゃないかと思うくらいだ。
絶妙のバランスで保たれてる椅子倒れろ、と念じて見るが上手くいかない。
超直感があっても霧の守護者のように念術は使えず、かわりにおどけて肩を竦める。
「XANXUS、今の当たってたら死んでるよ」
「当たり前だ。死ぬように力を篭めた」
「───うわー、白昼堂々と暗殺宣言?勘弁してくれる」
「うるせぇ。テメェの顔を見るとむしゃくしゃするんだ。さっさと消えろ、ドカス」
遠慮のない言葉。これだけの態度で綱吉に対峙する男など世界を探しても十を超えまい。
冗談でも何でもなく、綱吉はそんな立場の人間だ。
だからと言ってXANXUSの態度に腹が立つこともないし、どうこう思うこともない。
これがXANXUSという男であると知っているから。
「これ、新しい仕事の依頼。一応予備はスクアーロに渡しておいた。目を通しておいてくれ」
「・・・・・・」
「置いておくから頼んだよ」
へらり、と笑顔を向けると眉間の皺を益々深く刻み込んだ男は苛立たしげに舌打する。
最強を欲する彼は、軟弱な綱吉の態度を殊更嫌った。
それを知りつつわざと神経を逆撫でするような態度を取っているのだが、どうやら今日も彼の機嫌は悪そうだ。
「───な、XANXUS」
「何だ」
「俺が居なくなったらさ、それでもボンゴレは最強だと思う?」
「当然だ」
欠片の迷いもなく即答された。
それについ、堪え切れなくて笑ってしまう。
これではまるで、綱吉が無能のようだ。
いてもいなくても変わらないボスと断じられたも同然で、随分な言われようだ。
「ボンゴレは最強だ。最強で居続けねばならない。頭が代わってもそこは変えさせない」
「・・・そっか。そうだね。うん、お前が居ればそうなんだろうね」
「俺を馬鹿にしてるのか?カッ消すぞ、ドカスが」
「どうしてそうなるのさ?っていうか、馬鹿にしてるのはお前だろ。ドン・ボンゴレを前にしてその言い草って何だよ」
「馬鹿が下らないことを言ってるからだ。さっさと俺の前から失せろ」
「あははは!厳しいなぁ、XANXUSは」
今度こそ声を大きくして笑えば、苛立ちを深めたXANXUSは二挺の銃を取り出しこちらに向けた。
トリガーに指が掛かるのを見て、慌てて両手を挙げる。
「降参!降参だってば!来週にはミルフィオーレとの会談があるんだから、今死ぬわけには行かないんだ。本気で勘弁して」
「チッ・・・勝算は?」
「ない訳がないだろ。俺を誰だと思ってる?」
「ふん」
一瞬だけ雰囲気を変えて見せれば、漸く納得してくれたのか鼻を鳴らしながら銃を下ろした。
あのままだと本気で撃たれていただろうから引いてくれて助かった。
今余計な怪我をしては、折角正一と一緒に組んだ計画にひびが入るかもしれない。
敵対マフィアのボスの前に立つのに傷を負っていては話しにならない。
睨みつけていた綱吉から目を離し、ちらりと書類に視線を落としたXANXUSは面白くなさそうにそれを放った。
「依頼は本部の絶対的死守か」
「そ。構成員の割り振りも陣形の組み方もお前に一任する。ここはボンゴレ最大の砦。何があっても守りぬけ」
「───そうして俺がここに陣取る間、貴様はどこで何をする気だ」
「ちょっと守護者と里帰りだ」
ウィンク付きで教えれば盛大に嫌そうな顔をされた。
その上掌を振って無視でも追い払うようにしっしとやる。
上司に対する態度ではないが、とてもXANXUSらしいと苦笑した。
「日本に戻る前にもう一度書類を纏めてここへ寄る」
「・・・」
「イタリア本部はお前に任せる、XANXUS。俺が戻るまで頼んだよ」
「───貴様に頼まれるまでもねぇ」
大型の獣がするようにうっそりした動きで足を組んだXANXUSに頷く。
誰よりも自由にならない獣。
彼がこの場を守護するのなら、ボンゴレは簡単に落ちないだろう。
もしもの布石を一つ敷くと、くるりと彼に背を向ける。
「頼むよ、XANXUS」
聞こえないよう小さな声で呟くと、そのまま部屋を後にした。
--お題サイト:afaikさまより--
*4部作です。
■か 書かれなかったことを読む手紙
「・・・美味しい」
可愛らしい顔を嬉しげに綻ばした髑髏の姿に、綱吉もつられて笑顔になる。
こんなに穏やかな時間を持てたのは久しぶりで、彼女にとっても同じくらいに掛け替えのない気持ちになっていればいいと心から願う。
何しろこの可愛らしい顔とミステリアスな雰囲気のおかげで敵対勢力からストーカー行為にあっているのだ。
心配させるから骸には黙ってくれと言われたが、あの千里眼を持つような男のことだ。絶対に気がついているだろう。
綱吉と違い無口な性質でも髑髏は素直だから何でも表情に出てしまうし隠し事に向いていない。
いつしか裏と表を使い分けるのに慣れてしまった自分に比べると随分と綺麗なままの彼女を、綱吉は大切にしていた。
綱吉の執務室は大マフィアボンゴレの中でも一番の安全箇所だ。
屋敷内の配置的な意味でもそうだが、それ以上に戦力的な意味で。
ボンゴレの本部には各国に散らばる家族の中でもよりぬきの精鋭が詰めている。
末端の部下然り、構成員然り、そして綱吉の周りを固める守護者然り。
しかしその中でも最も最強の何相応しいのは、彼らの父である綱吉だ。
家族を守るためにその拳を振るう、ドン・ボンゴレ。
綱吉の力は背後に守るべき相手がいれば居るほど強くなる。
自分のために使える力などいいとこ八分。心で無意識にかけたリミッターが外れるのは、守りたい誰かが居るときだ。
そう、家庭教師に育てられた。
安全だと判る場所は、今の髑髏には必要なものだ。
敵を前に常に気を張るのは疲れるし、実際に最近は顔色が悪い。
運がないことに彼女のストーカーは同じ術師だ。
綱吉の知る術師は大半が粘着質で陰鬱な性格をしている。
骸然り、マーモン然り、そしてミルフィオーレの幹部然り。
例外は目の前でホットチョコレートを両手で抱える彼女くらいだ。
髑髏は術師の癖に驚くほど温かなものを持ったままだ。
それは骸が彼女を寵愛している証であり、だからこそ寵愛し続ける理由だろう。
女性としてではなく家族として、骸は髑髏を愛してる。
綱吉が髑髏を守る理由は彼女が大切だからという理由以外にも、その一点が心を占めていた。
「クローム」
「何、ボス?」
「君は、変わらないでいてくれよ」
「・・・ボス?」
不思議そうな顔をして首を傾げる、いつまでも少女のような人に綱吉は笑った。
髑髏の抱え込む闇を知って尚、自分自身で彼女に暗い闇を背負わせて尚望む傲慢さに、涙が毀れそうだった。
これは気づかれていけない想い。知られたくない願い。
独善的で身勝手な気持ちなど捨て置いて、彼女が彼女らしく在れるよう、自分が居なくとも変わらないでくれと、声ならぬ声で叫んだ。
■な なけなしのやさしさはこれで全部です
神妙な顔で自分の前に立つ青年を視線だけで見上げる。
苦労性のヴァリアーのNO.2は、綺麗な顔に痕が残りそうな勢いで眉間に皺を寄せていた。
深夜の報告には慣れているが、どうやらこの分だと彼は今日も苦労したのだろう。
不憫にも生真面目な性格のスクアーロは、なまじ器用貧乏なだけに色々と押し付けられてしまう。
今渡された報告書だって本来なら彼ではなく、ベルフェゴールから受け取るべきものだ。
それなのにその張本人は顔見せ程度に気軽な口頭での報告を済ますと、妙に上機嫌に月明かりに紛れて消えてしまった。
放っておけない性分のスクアーロは彼の遣り残しの仕事を盛大にため息を吐きつつ処理してくれたのだろう。
綺麗な銀髪を片手でかき乱しながら処理するさまが目に浮かび、つい苦笑してしまう。
すると敏感に感情の機微を悟った彼は、すっと眉を跳ね上げた。
「何だぁ?何か文句でもあるのかぁ?」
「いやいやいやいや、まさか」
「否定が多い。俺を馬鹿にしてんのかぁ?」
「まさか!こうして仕事の処理をしてくれるスクアーロに感謝こそすれ、馬鹿にするなんてとんでもない」
「・・・お前の場合、本心からに聞こえねぇんだよなぁ」
「何でさ?こんなに真心篭めてるのに」
「笑い方が嘘くせぇ」
びしりと人の顔をさしてあっさりと言い放った男に、綱吉は思わず破顔した。
そう言えばこの男との付き合いもそれなりになるのだ。
彼にとっては理不尽だろうが綱吉にとっては快適な付き合いは、何だかんだ言って優しいスクアーロにとってはまた違う意味を持つのかもしれない。
だが彼の感情を考慮する気はない。───例え、彼の思惑も心配を無視したとしても。
綱吉は個人的にスクアーロを信用している。
それは信頼と言ってもいいし、個人的になら命も懸けていい。
だがスクアーロはどこまで行っても綱吉のものにはならないし、綱吉はスクアーロのために個人的に命を懸ける甘さを持たせてもらえない。
彼はXANXUSの傍に居てこそ真価を発揮する生き物で、ボンゴレの一部だがそれ以前にヴァリアーの幹部だ。
追いかけても求めても決して手に入らず、故に安心して心を向けられる。
いざと言うとき、スクアーロが優先すべきは綱吉ではなく、彼が選ぶものはXANXUSただ一人。
ボンゴレの一人でありながら、ヴァリアーは独特のスタイルを保っていた。
何だかんだで文句を言いながらも付き合いの長いスクアーロは、綱吉をよく判っている。
だから僅かな違和感に揺れ、綱吉を観察するように見るのだ。
そうして心配そうに顔を歪めながら、引いた一線から踏み込まない。
綱吉は、そんなスクアーロに甘えている。
「大丈夫だよ、スクアーロ」
「・・・何がだぁ?」
「ふふふ、心配しないでってこと。俺を誰だと思ってるのさ」
「───偉大なる大家族ボンゴレの長、ドン・ボンゴレ」
「そう。俺はボンゴレ十世。最強の名を冠する男。お前の主の上に立つ男だ」
にぃ、と口角を上げれば雰囲気は一変する。
たったそれだけで幼い容貌の東洋の小僧ではなく、ミステリアスで読めないマフィアの長に変わる。
最強である。それを示し続けることが、綱吉が出来る最大の意思表示。
目の前の彼の主が欲し、だから彼も望むもの。
「ありがとう」
小さく、柔らかな笑みを浮かべる。
切れ長の瞳を丸くした彼は、仏頂面でいるときよりずっと可愛かった。
■し 知らないことばのなじんだひびき
「俺はさー、ツナ」
平時と同じ口調で、まるで遊びに来ているような気軽さで掛けられる声に綱吉は眉を寄せる。
彼自身の武器である時雨金時を手足のように扱い、取り囲む敵を容赦なく切り伏せながらへらりとした笑顔を浮かべた。
「こいつら、嫌いなのな。俺の部下に手を出して、へらへら笑ってやがったんだ」
「・・・山本」
「こんなによわっちいくせに数だけ揃えて俺の部下を殺しちまったんだぜ?同盟ファミリーでありながら、それって頂けないよな」
「山本」
へらり、へらり。
彼自身笑いながら、それでも底冷えするような意思を瞳に篭めて愛刀を振るっている。
敵が泣こうが喚こうが叫ぼうが関係ない。一刀で殺すなんて優しい真似はしない。
確実に意識を保ちつつ、それでいて必ず死ぬ場所を選び恐怖を存えさせる。
目が見える。耳は聞こえる。声も出せる。
それでも体は動かせず、徐々に向かう死に敵は恐怖する。
その姿は羅刹。家族を傷つけられた怒りに我を忘れ、冷静に激怒する悪魔がいる。
ボンゴレの長として判断すれば彼の戦力はすばらしい。
しかし友人として見れば、今の姿は痛々しい。
裏切り者には粛清を。血の掟に則って、彼は綱吉と行動している。
今回綱吉が動いたのは、裏切ったのが同盟ファミリーだからだ。
これ以上の揺らぎを見せぬ為には、徹底した見せしめが必要だと判断した。
彼らがしたのは家族殺し。裏切り、騙し、幾人ものボンゴレ狩りを行った。
ミルフィオーレの影に隠れていたために発覚が遅れたが、突き止めたのは一番被害が多かった部隊の指揮官である山本だ。
彼は元・同盟ファミリーの面々がミルフィオーレに自分を売り込むために記録していた、部下が殺されるまでの記録媒体を単独で手に入れた。
そして、かの同盟の粛清を申し出て、先陣を切った綱吉についてきた。
「俺も、俺の部下たちも怒り心頭に発する、て奴でさ。色々と限界なのなー」
「・・・」
笑いながら敵を切り刻む姿は仲間として見ても空恐ろしい。
冴え渡りすぎる剣技に、空気を伝う殺気。びりびりと首筋が痺れるくらい容赦ない強さに、視線が合うだけで敵は腰砕けになる。
山本の士気に合わせるように彼の部下も敵を屠っていく。
彼らの瞳には混じりけない怒気が浮かび、拳を握り締め唇をかみ締めた。
今回の騒動は綱吉がもっと早く気づけばまた別の結果を経ていただろう。
色々と平行していたがために優秀な直感の警報を聞き逃し、多くの同胞を失った。
山本の怒りはそのまま綱吉の怒り。家族を亡くした悔しさも悲しさも、全部綱吉も持っている。
しかしながら、綱吉はそれだけで済む立場にない。
彼らを守るべき立場でありながら、みすみす失った責め苦は綱吉も受けるべきだ。
それでも部下たちは大空と仰ぐ自分を一切責めることなく、憎しみで濁った瞳を敵に向け続ける。
純粋な怒りに染まった彼らを、静めるのもまた己の役目だった。
「───・・・山本、下がれ」
「ツナ?でも、こいつを殺ったら全部終わりなのな。きちんとケジメつけなきゃ、遊び半分で殺された部下たちに顔向けできねえよ。地獄で会ったときに何て言えばいいんだ?」
「お前らのボスが敵を粛清したとでも言えばいい」
「ツナ・・・?」
持っていた銃を腰にすえると、久しぶりに自分の最強の武器に炎を灯す。
額に浮かぶオレンジは覚悟の強さ。
切り札は最後まで取っておけと教えられた。
この拳は綱吉最強の武器であり、最高の戦道具。
普段は隠し玉として置いてある、ドン・ボンゴレが最強である証。
「家族の敵は俺が討つ。家族の命は俺が背負う。───だから、山本。自分だけで全てを背負えると思うな。俺はお前の何だ?」
「・・・お前は、俺のボスだ。いつだって悠然とし、誰よりも大きく誰よりも強い、俺のいただくべき大空」
「そう。俺はお前の大空だ。鎮魂の雨は流し終えた。大空が顔を見せる時間が来たんだ」
拳にオレンジの炎を灯す。
怯え震える敵に、綱吉こそが容赦してはいけない。
彼らの恨み辛み、悔しさ悲しさ、痛みも苦しみも全部背負うと決めている。
彼らの怒りを昇華するには、これこそが一番効果的。
「さよならの時間だ」
「ヒッ・・・」
「俺の家族を裏切った罰、その身でしかと受けてもらう」
首を振りながら後退する男に向かい、半身になった。
「機会があれば、地獄で会おう」
圧倒的熱量の炎が前後に噴射される。
人であった存在はその熱の前に消え、あったはずの壁も全て溶けた。
存在それそのものを欠片も残さず消えた男に、しばしの別れを告げる。
どうせ行き先は同じだ。死ねば綱吉も地獄に落ちる。そんな生き方を選んでいる。
「お前たちの怒りは俺が背負った。いい加減に前を向け」
「・・・ああ。ごめんな」
「謝るな。俺はお前らの大空だ」
「うん。ありがと、ツナ」
へらり、と。
先ほどとは違い、泣きそうな顔で笑った山本に、綱吉は瞳を伏せた。
部下が殺されてこの勢いなら、綱吉が居なくなれば彼はどうなってしまうのだろう。
「ツナ」
「・・・何だ」
「地獄に落ちるときは、俺も一緒だ」
肩に回された腕はもろく震えている。
獄寺と似通う危うさを見せる彼に、保険をかけなくてはと強く感じた。
「そうだな」
この魂が行く先が地獄なら、山本のそれも同じだろう。
綱吉のために、自分自身のために、山本は今の道を選んだ───選んで、くれた。
道連れにしたいと望まないが、きっと落ちる先は同じだ。
それでも、彼の魂だけでもと願うのは、きっと傲慢なのだろう。
■い いまのうちです、さあ早くお別れを
「久し振り、XANXUS」
「失せろ、ドカス」
「うわっ」
突然飛んできた置物に目を丸くしながらも、当たるすれすれで器用に避ける。
ご丁寧にも眉間を狙ったそれは、鈍い音を立てて重厚なドアに当たると砕けた。
石で作られら像の末路に一筋の汗を流すと、情けなく眉を下げて笑う。
乱れてもいないのに無意識にスーツの首の部分を指で直すと、一つため息を吐き出し改めて男と向き直った。
鋭すぎる眼光は微塵も甘さが見つからず、行儀悪く机の上で組まれた足も堂々としているので疑問に思うのが可笑しいんじゃないかと思うくらいだ。
絶妙のバランスで保たれてる椅子倒れろ、と念じて見るが上手くいかない。
超直感があっても霧の守護者のように念術は使えず、かわりにおどけて肩を竦める。
「XANXUS、今の当たってたら死んでるよ」
「当たり前だ。死ぬように力を篭めた」
「───うわー、白昼堂々と暗殺宣言?勘弁してくれる」
「うるせぇ。テメェの顔を見るとむしゃくしゃするんだ。さっさと消えろ、ドカス」
遠慮のない言葉。これだけの態度で綱吉に対峙する男など世界を探しても十を超えまい。
冗談でも何でもなく、綱吉はそんな立場の人間だ。
だからと言ってXANXUSの態度に腹が立つこともないし、どうこう思うこともない。
これがXANXUSという男であると知っているから。
「これ、新しい仕事の依頼。一応予備はスクアーロに渡しておいた。目を通しておいてくれ」
「・・・・・・」
「置いておくから頼んだよ」
へらり、と笑顔を向けると眉間の皺を益々深く刻み込んだ男は苛立たしげに舌打する。
最強を欲する彼は、軟弱な綱吉の態度を殊更嫌った。
それを知りつつわざと神経を逆撫でするような態度を取っているのだが、どうやら今日も彼の機嫌は悪そうだ。
「───な、XANXUS」
「何だ」
「俺が居なくなったらさ、それでもボンゴレは最強だと思う?」
「当然だ」
欠片の迷いもなく即答された。
それについ、堪え切れなくて笑ってしまう。
これではまるで、綱吉が無能のようだ。
いてもいなくても変わらないボスと断じられたも同然で、随分な言われようだ。
「ボンゴレは最強だ。最強で居続けねばならない。頭が代わってもそこは変えさせない」
「・・・そっか。そうだね。うん、お前が居ればそうなんだろうね」
「俺を馬鹿にしてるのか?カッ消すぞ、ドカスが」
「どうしてそうなるのさ?っていうか、馬鹿にしてるのはお前だろ。ドン・ボンゴレを前にしてその言い草って何だよ」
「馬鹿が下らないことを言ってるからだ。さっさと俺の前から失せろ」
「あははは!厳しいなぁ、XANXUSは」
今度こそ声を大きくして笑えば、苛立ちを深めたXANXUSは二挺の銃を取り出しこちらに向けた。
トリガーに指が掛かるのを見て、慌てて両手を挙げる。
「降参!降参だってば!来週にはミルフィオーレとの会談があるんだから、今死ぬわけには行かないんだ。本気で勘弁して」
「チッ・・・勝算は?」
「ない訳がないだろ。俺を誰だと思ってる?」
「ふん」
一瞬だけ雰囲気を変えて見せれば、漸く納得してくれたのか鼻を鳴らしながら銃を下ろした。
あのままだと本気で撃たれていただろうから引いてくれて助かった。
今余計な怪我をしては、折角正一と一緒に組んだ計画にひびが入るかもしれない。
敵対マフィアのボスの前に立つのに傷を負っていては話しにならない。
睨みつけていた綱吉から目を離し、ちらりと書類に視線を落としたXANXUSは面白くなさそうにそれを放った。
「依頼は本部の絶対的死守か」
「そ。構成員の割り振りも陣形の組み方もお前に一任する。ここはボンゴレ最大の砦。何があっても守りぬけ」
「───そうして俺がここに陣取る間、貴様はどこで何をする気だ」
「ちょっと守護者と里帰りだ」
ウィンク付きで教えれば盛大に嫌そうな顔をされた。
その上掌を振って無視でも追い払うようにしっしとやる。
上司に対する態度ではないが、とてもXANXUSらしいと苦笑した。
「日本に戻る前にもう一度書類を纏めてここへ寄る」
「・・・」
「イタリア本部はお前に任せる、XANXUS。俺が戻るまで頼んだよ」
「───貴様に頼まれるまでもねぇ」
大型の獣がするようにうっそりした動きで足を組んだXANXUSに頷く。
誰よりも自由にならない獣。
彼がこの場を守護するのなら、ボンゴレは簡単に落ちないだろう。
もしもの布石を一つ敷くと、くるりと彼に背を向ける。
「頼むよ、XANXUS」
聞こえないよう小さな声で呟くと、そのまま部屋を後にした。
>>きっこ様
こんばんは、きっこ様!
お返事が遅くなってごめんなさい!
書き上げてからさせていただこうと思ったら、予想外に難産でした。
船長編は結構前から構想が出来ていた話です。
それにも拘らずアップしなかったのは、結構悲惨な話な気がしたからでした。
私としては彼のイメージなのですが、結構淡々としているので・・・。
なので、きっこ様に好きと言っていただけてとても嬉しかったですw
本当にありがとうございますw
今日アップしたのはあのお話の対になる子供のお話しです。
彼女は本当は何もかもを理解して、それでもなお生きるためにルフィを怨む選択をした子供です。
憎しみは筋違いだと、恨みは何も生まないと、全部判って背負ってます。
彼女は以前の子供とは正反対ですが、とても似ている子供です。
鏡写しのような感情を持ち、そして行動は正反対。
全てを理解しても彼を追う気持ちは殺せない、それが彼女です。
麦わら海賊団の面々は幾度も繰り返し突っかかってくる彼女に何も言いません。
当然船長も何も口にしません。
広い海でたまに顔をあわせるたびに、彼らは一騎打ちを繰り返します。
少女にとってそれが全てで、それが望みです。
捕まえたいと願いながら、ずっと上から笑っていて欲しい。
そんな想いが書けているといいな、と思います。
またお時間ございましたら、是非遊びにいらして下さいw
Web拍手、ありがとうございました!
>>fuyu様
こんばんは、fuyu様w
いつもコメントをありがとうございますw
今回は漸く天音の皆さんと月森君を登場させれました。
もう彼らは出番だよと呼んでも中々顔を出してくれないイケズな子達だったので、出てきてくれてホッとしています。
月森氏の発言は経験談ですね★
しかし彼は後悔していません。自分の選んだ道に胸を張って誇ると言える人です。
私はコルダ1は誰も彼もが好きなので、本気で誰をあの役にするか迷ったのですが、ストーリー的に納得できる彼に致しましたw
次のターンは香穂ちゃんとかなでちゃんです!
遅々とした更新ですが、また是非遊びにいらしてくださいねw
Web拍手、ありがとうございました!!
こんばんは、きっこ様!
お返事が遅くなってごめんなさい!
書き上げてからさせていただこうと思ったら、予想外に難産でした。
船長編は結構前から構想が出来ていた話です。
それにも拘らずアップしなかったのは、結構悲惨な話な気がしたからでした。
私としては彼のイメージなのですが、結構淡々としているので・・・。
なので、きっこ様に好きと言っていただけてとても嬉しかったですw
本当にありがとうございますw
今日アップしたのはあのお話の対になる子供のお話しです。
彼女は本当は何もかもを理解して、それでもなお生きるためにルフィを怨む選択をした子供です。
憎しみは筋違いだと、恨みは何も生まないと、全部判って背負ってます。
彼女は以前の子供とは正反対ですが、とても似ている子供です。
鏡写しのような感情を持ち、そして行動は正反対。
全てを理解しても彼を追う気持ちは殺せない、それが彼女です。
麦わら海賊団の面々は幾度も繰り返し突っかかってくる彼女に何も言いません。
当然船長も何も口にしません。
広い海でたまに顔をあわせるたびに、彼らは一騎打ちを繰り返します。
少女にとってそれが全てで、それが望みです。
捕まえたいと願いながら、ずっと上から笑っていて欲しい。
そんな想いが書けているといいな、と思います。
またお時間ございましたら、是非遊びにいらして下さいw
Web拍手、ありがとうございました!
>>fuyu様
こんばんは、fuyu様w
いつもコメントをありがとうございますw
今回は漸く天音の皆さんと月森君を登場させれました。
もう彼らは出番だよと呼んでも中々顔を出してくれないイケズな子達だったので、出てきてくれてホッとしています。
月森氏の発言は経験談ですね★
しかし彼は後悔していません。自分の選んだ道に胸を張って誇ると言える人です。
私はコルダ1は誰も彼もが好きなので、本気で誰をあの役にするか迷ったのですが、ストーリー的に納得できる彼に致しましたw
次のターンは香穂ちゃんとかなでちゃんです!
遅々とした更新ですが、また是非遊びにいらしてくださいねw
Web拍手、ありがとうございました!!
【7日目】
「今、何と仰りましたか・・・?」
ゆるゆると首を振りながら、掠れる声で問いかける。
今から幸せな睡眠タイムを貪ろうと、一緒に眠る子供に声を掛ければ、予想外の言葉で脳みそがショートした。
最近の獄寺の楽しみは疲れた仕事の後子供を腕に抱いて眠ることだった。
断じて言わせて貰うがそこに変態的な妄想はない。
小さな手が可愛いとか、頬を擽る髪が愛しいとか、腕の中に丸まる姿がたまらないとか、そんなのは当然の反応だからだ。
綱吉に重ねて変なことはしなかったし、この気持ちは子供を可愛がる感情に他ならないと断言できる。
もっとも、子供を可愛いと思ったこと自体が初めてなので、判断基準は少しだけあやふやだが。
とにかく、不埒なことは一切していないし、胸に抱きこみ香りを吸い込むだけで幸せだったのだ。
一日の疲れは癒えるし、睡眠時間が短くとも気力は補充できた。
そして更に言うなら子供に拒否をされたこともないし、嫌なことも何一つしていない・・・筈だ。
それなのに、ああそれなのに。
目の前の子供は何を言ったのだろうか。
「お別れだ、隼人」
「っ、どうしてですか!?毎日二時間の写真撮影が駄目でしたか!?それとも風呂場に設置した記録媒体ですか!?二十四時間状態で監視し続けたカメラですか!?着終わった後の衣装をコレクションしたことですか!?」
全力で己の罪状を吐き出し続ける彼は、今現在のこの状況すら監視カメラに捕らえられているのも忘れて必死だ。
だが獄寺の様子に僅かも心動かされないと緩く首を振った子供は、綱吉によく似た瞳でこちらを見た。
「違う。・・・隼人にはこの一週間良く尽くしてもらった。感謝している」
「なら、ずっとここに居てください!悪いところがあれば全部直しますし、お気に召すよう尽くしますからっ」
「・・・駄目なんだ、隼人。俺の中の十代目の炎が囁くんだ」
「っ、十代目の、炎が?」
「そうだ。先日摂取した彼の大空の炎が俺に言うんだ。『旅立ちの時が来た』と。俺は行かなければならない」
どうっと涙が溢れ出た。
涙腺は崩壊し視界がぶれる。
嗚咽すら上げられない勢いで滂沱の涙が溢れ、獄寺のパジャマは一気に水浸しだ。
子供の目は、綱吉のものとよく似ている。
彼が覚悟を決めたときの、凛として冷たく哀しい強い瞳をしている。
ならばもう曲げられないのだ。
誰よりも彼を知ると自認する獄寺は、問わなくても理解してしまう。
この子供は、行ってしまうのだ。
「俺は立派な『十代目』になるため、武者修行の旅に出る」
「・・・ぅ」
「今まで面倒を見てくれて、ありがとう隼人」
だくだくと涙を流す獄寺に向かい、額に炎を灯して見せた子供は、少しだけ笑った。
その笑顔は、獄寺が大好きな彼のものを写し取ったように美しく、そしてとても儚げだった。
「ウーノさぁぁぁぁぁん!!」
その日、一日獄寺の号泣が止むことはなかった。
「今、何と仰りましたか・・・?」
ゆるゆると首を振りながら、掠れる声で問いかける。
今から幸せな睡眠タイムを貪ろうと、一緒に眠る子供に声を掛ければ、予想外の言葉で脳みそがショートした。
最近の獄寺の楽しみは疲れた仕事の後子供を腕に抱いて眠ることだった。
断じて言わせて貰うがそこに変態的な妄想はない。
小さな手が可愛いとか、頬を擽る髪が愛しいとか、腕の中に丸まる姿がたまらないとか、そんなのは当然の反応だからだ。
綱吉に重ねて変なことはしなかったし、この気持ちは子供を可愛がる感情に他ならないと断言できる。
もっとも、子供を可愛いと思ったこと自体が初めてなので、判断基準は少しだけあやふやだが。
とにかく、不埒なことは一切していないし、胸に抱きこみ香りを吸い込むだけで幸せだったのだ。
一日の疲れは癒えるし、睡眠時間が短くとも気力は補充できた。
そして更に言うなら子供に拒否をされたこともないし、嫌なことも何一つしていない・・・筈だ。
それなのに、ああそれなのに。
目の前の子供は何を言ったのだろうか。
「お別れだ、隼人」
「っ、どうしてですか!?毎日二時間の写真撮影が駄目でしたか!?それとも風呂場に設置した記録媒体ですか!?二十四時間状態で監視し続けたカメラですか!?着終わった後の衣装をコレクションしたことですか!?」
全力で己の罪状を吐き出し続ける彼は、今現在のこの状況すら監視カメラに捕らえられているのも忘れて必死だ。
だが獄寺の様子に僅かも心動かされないと緩く首を振った子供は、綱吉によく似た瞳でこちらを見た。
「違う。・・・隼人にはこの一週間良く尽くしてもらった。感謝している」
「なら、ずっとここに居てください!悪いところがあれば全部直しますし、お気に召すよう尽くしますからっ」
「・・・駄目なんだ、隼人。俺の中の十代目の炎が囁くんだ」
「っ、十代目の、炎が?」
「そうだ。先日摂取した彼の大空の炎が俺に言うんだ。『旅立ちの時が来た』と。俺は行かなければならない」
どうっと涙が溢れ出た。
涙腺は崩壊し視界がぶれる。
嗚咽すら上げられない勢いで滂沱の涙が溢れ、獄寺のパジャマは一気に水浸しだ。
子供の目は、綱吉のものとよく似ている。
彼が覚悟を決めたときの、凛として冷たく哀しい強い瞳をしている。
ならばもう曲げられないのだ。
誰よりも彼を知ると自認する獄寺は、問わなくても理解してしまう。
この子供は、行ってしまうのだ。
「俺は立派な『十代目』になるため、武者修行の旅に出る」
「・・・ぅ」
「今まで面倒を見てくれて、ありがとう隼人」
だくだくと涙を流す獄寺に向かい、額に炎を灯して見せた子供は、少しだけ笑った。
その笑顔は、獄寺が大好きな彼のものを写し取ったように美しく、そしてとても儚げだった。
「ウーノさぁぁぁぁぁん!!」
その日、一日獄寺の号泣が止むことはなかった。
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