×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「こんにちは、豪炎寺先生」
ひょこりと顔を見せた少女に、勝也は瞳を丸くした。
覚えているより僅かに身長は伸び、長かった髪は随分と短くなって居たが見間違うはずもない。
二年前、一時期毎日のように顔を合わせていた少女に、僅かに表情を緩めた。
「久し振りだね」
言葉遣いが柔らかくなるのは、癖のようなものだ。
病院に来る子供は大なり小なり問題がある。
そんな子供相手に厳しい態度をするほど、勝也は冷酷になれなかった。
まして目の前の相手の過去は壮絶なものだった。
同じ娘を持つ親として、優しくしたい相手と認識するほどに。
「今は、円堂さんと呼んだ方がいいかい?」
「うん」
「家には帰らないのかな?」
「うん。俺は、もうあの家に居る資格はないから」
どこか泣き出しそうな顔で笑う少女───円堂に、眼鏡の奥で瞳を細める。
親として、子供にこんなことを言われたら、自分はどれほど衝撃を受けるか。
顔見知りである彼女の父親を想い、緩く首を振る。
どう思おうがその問題はデリケート過ぎて口を挟むラインはとうに過ぎてしまっていた。
自分と息子の関係がそうであるように、捩れに捩れ他人がしゃしゃりでる隙間はない。
深すぎる円堂の傷と闇を覚えているだけに、医者としてもそれは出来なかった。
「今日はどうしたんだい?」
「検診とお見舞い。───久し振りに夕香ちゃんに会ったよ」
「そうか。・・・夕香も喜ぶだろう」
「そうかな?」
「ああ。夕香は君を慕っていたからな」
そっか、と嬉しげに顔を綻ばせた円堂は、普通の中学生に見えた。
確か年齢は息子とほとんど変わらなかった。
いつも大人びた表情しか見てなかったから気がつかなかったが、もしかしたらこちらが素なのかもしれない。
それならこの二年間が彼女に与えた影響は随分と良いものだったのだろう。
専門医として彼女の掛かりつけだった勝也は、医者としても喜ばしいことだと目元を和ませた。
「俺ね、雷門に転入したんだ」
「雷門・・・だと?」
「うん。そんでね、『豪炎寺修也』と一緒のクラスになった」
「君は確か修也よりも年上だと思ったが?」
「向こうで一年ダブっちゃったんだ。ずっとサッカーやってたら、気がついたら留年だよ。父さんに合わせる顔がないね」
「───君の父さんなら、それでも君が元気なら嬉しいと思うよ」
「そうかな?・・・俺には、わからないや」
「そうか」
「きっと豪炎寺もそうだ。先生の気持ちなんて、わからない。だから雨の中一人で空を見上げてたんだね」
「・・・何?」
聞き捨てならない台詞に、瞳を眇めて目の前の少女を見る。
僅かに顎を引くだけで、昔はしていなかった眼鏡が反射し、その表情が読めなくなった。
そう言えば感情を隠すのが上手い子だったと思い出し、ひっそりと眉を顰めると唇がゆるりと孤を描いた。
「俺ね、豪炎寺と友達になったんだ」
「修也と?」
「そう。俺豪炎寺のサッカーが好きだ。サッカーが好きだって全身で訴えるプレイが好きだ」
「っ」
羨望が滲む声に何と返していいか判らず、ぐっと唇を噛み締める。
彼女の言葉の意味が理解できるだけに、勝也は余計なことはするなと糾弾できない。
息子はサッカーを止めたはずだった。
だが最近はまたトレーニングをし、サッカーを始めたとフクから報告も受けている。
サッカーを振り切るために転校した先で皮肉にもサッカーを始める切欠を手に入れたのかと、原因になったであろう少女を眺めれば、短くなった髪を揺らして小首を傾げた。
「豪炎寺は夕香ちゃんの事故を自分の所為だと悔やんでる。本当は、そんなことないのに」
「君に何が判る?」
「何が判る?俺だからこそ判るんだよ、先生」
囁きに似た言葉に、机の上で拳を握り締めた。
ぎりぎりと力を強めれば、掌に爪が食い込み鋭い痛みが全身に駆け巡る。
それでも緩めれば子供相手に本気で怒鳴ってしまいそうな自分が居て、必死に冷静になれと繰り返した。
円堂の言葉が真理だと、知っているからこそ冷静にならなければならない。
落ち着こうと深呼吸を繰り返す勝也を見詰めていた円堂は、勝也が落ち着いたのを見計らってまた口を開いた。
「俺が豪炎寺の逃げ場になってもいい?」
「・・・・・・」
「このままじゃ豪炎寺は潰れるよ。サッカーとあなたの間に押し潰されて、自分自身を消してしまう。あなたもそれは望んでいないはずだ」
「・・・・・・」
「俺の家、広くて寂しいんです。友達が一緒に居てくれるけど、それでも無駄に広さがある。あの家を与えてくれた父さんに感謝してるけど、分を過ぎた扱いは息苦しいんだ。だから、豪炎寺を貸してください」
真っ直ぐな瞳をして、子供はぺこりと頭を下げた。
「お帰りなさい、父さん」
早いとは言いがたい時間に家に帰れば、自分も帰宅したばかりだと言わんばかりの態度で玄関で靴を脱いでいた息子に瞳を眇める。
気まずそうに僅かに視線を逸らした息子は、涼やかな瞳を伏せて来るべき怒りに堪えるよう拳を握る。
その表情は昔サッカーをプレイしていたときの笑顔と雲泥の差があり、いつの間にこんな感情を抑える子供になってしまったのかと眉を寄せた。
『このままじゃ豪炎寺は潰れるよ』
静かな眼差しで淡々と訴えた少女は、どんな気持ちでそれを口にしたのか。
他人の感情を完全に理解できるなどと思ってない。
それは理解したいと願う人間の錯覚でしかないだろうし、全てを理解してもらおうという考え自体が傲慢だ。
けれど口に出しがたい想いは実在し、あけすけにするには勝也は年を取りすぎていた。
嘆息すると、大げさなくらいに体を震わせた息子から視線を離す。
「修也。最近、帰りが遅いらしいな」
「すみません」
「謝れと言っているわけではない」
「はい」
「───はぁ、まあいい。成績が落ちなければ干渉しない。遅くなろうがどうしようが好きにすればいい」
「・・・はい」
酷く辛そうな顔をして俯く息子の脇を通り抜け、もの言いたげなフクを無視してリビングへと向かった。
どうせ行き場所なんてわかっている。
少女のもとならきっと修也にも悪い影響はないだろう。
『俺豪炎寺のサッカーが好きだ。サッカーが好きだって全身で訴えるプレイが好きだ』
淡々とした口調と裏腹に熱の篭った声。
自分とて同じ想いを抱えていたのは嘘じゃないのに、思い出せないくらい昔に感じるのは、きっと誰より愛した人が隣に居ないからなのだろう。
ひょこりと顔を見せた少女に、勝也は瞳を丸くした。
覚えているより僅かに身長は伸び、長かった髪は随分と短くなって居たが見間違うはずもない。
二年前、一時期毎日のように顔を合わせていた少女に、僅かに表情を緩めた。
「久し振りだね」
言葉遣いが柔らかくなるのは、癖のようなものだ。
病院に来る子供は大なり小なり問題がある。
そんな子供相手に厳しい態度をするほど、勝也は冷酷になれなかった。
まして目の前の相手の過去は壮絶なものだった。
同じ娘を持つ親として、優しくしたい相手と認識するほどに。
「今は、円堂さんと呼んだ方がいいかい?」
「うん」
「家には帰らないのかな?」
「うん。俺は、もうあの家に居る資格はないから」
どこか泣き出しそうな顔で笑う少女───円堂に、眼鏡の奥で瞳を細める。
親として、子供にこんなことを言われたら、自分はどれほど衝撃を受けるか。
顔見知りである彼女の父親を想い、緩く首を振る。
どう思おうがその問題はデリケート過ぎて口を挟むラインはとうに過ぎてしまっていた。
自分と息子の関係がそうであるように、捩れに捩れ他人がしゃしゃりでる隙間はない。
深すぎる円堂の傷と闇を覚えているだけに、医者としてもそれは出来なかった。
「今日はどうしたんだい?」
「検診とお見舞い。───久し振りに夕香ちゃんに会ったよ」
「そうか。・・・夕香も喜ぶだろう」
「そうかな?」
「ああ。夕香は君を慕っていたからな」
そっか、と嬉しげに顔を綻ばせた円堂は、普通の中学生に見えた。
確か年齢は息子とほとんど変わらなかった。
いつも大人びた表情しか見てなかったから気がつかなかったが、もしかしたらこちらが素なのかもしれない。
それならこの二年間が彼女に与えた影響は随分と良いものだったのだろう。
専門医として彼女の掛かりつけだった勝也は、医者としても喜ばしいことだと目元を和ませた。
「俺ね、雷門に転入したんだ」
「雷門・・・だと?」
「うん。そんでね、『豪炎寺修也』と一緒のクラスになった」
「君は確か修也よりも年上だと思ったが?」
「向こうで一年ダブっちゃったんだ。ずっとサッカーやってたら、気がついたら留年だよ。父さんに合わせる顔がないね」
「───君の父さんなら、それでも君が元気なら嬉しいと思うよ」
「そうかな?・・・俺には、わからないや」
「そうか」
「きっと豪炎寺もそうだ。先生の気持ちなんて、わからない。だから雨の中一人で空を見上げてたんだね」
「・・・何?」
聞き捨てならない台詞に、瞳を眇めて目の前の少女を見る。
僅かに顎を引くだけで、昔はしていなかった眼鏡が反射し、その表情が読めなくなった。
そう言えば感情を隠すのが上手い子だったと思い出し、ひっそりと眉を顰めると唇がゆるりと孤を描いた。
「俺ね、豪炎寺と友達になったんだ」
「修也と?」
「そう。俺豪炎寺のサッカーが好きだ。サッカーが好きだって全身で訴えるプレイが好きだ」
「っ」
羨望が滲む声に何と返していいか判らず、ぐっと唇を噛み締める。
彼女の言葉の意味が理解できるだけに、勝也は余計なことはするなと糾弾できない。
息子はサッカーを止めたはずだった。
だが最近はまたトレーニングをし、サッカーを始めたとフクから報告も受けている。
サッカーを振り切るために転校した先で皮肉にもサッカーを始める切欠を手に入れたのかと、原因になったであろう少女を眺めれば、短くなった髪を揺らして小首を傾げた。
「豪炎寺は夕香ちゃんの事故を自分の所為だと悔やんでる。本当は、そんなことないのに」
「君に何が判る?」
「何が判る?俺だからこそ判るんだよ、先生」
囁きに似た言葉に、机の上で拳を握り締めた。
ぎりぎりと力を強めれば、掌に爪が食い込み鋭い痛みが全身に駆け巡る。
それでも緩めれば子供相手に本気で怒鳴ってしまいそうな自分が居て、必死に冷静になれと繰り返した。
円堂の言葉が真理だと、知っているからこそ冷静にならなければならない。
落ち着こうと深呼吸を繰り返す勝也を見詰めていた円堂は、勝也が落ち着いたのを見計らってまた口を開いた。
「俺が豪炎寺の逃げ場になってもいい?」
「・・・・・・」
「このままじゃ豪炎寺は潰れるよ。サッカーとあなたの間に押し潰されて、自分自身を消してしまう。あなたもそれは望んでいないはずだ」
「・・・・・・」
「俺の家、広くて寂しいんです。友達が一緒に居てくれるけど、それでも無駄に広さがある。あの家を与えてくれた父さんに感謝してるけど、分を過ぎた扱いは息苦しいんだ。だから、豪炎寺を貸してください」
真っ直ぐな瞳をして、子供はぺこりと頭を下げた。
「お帰りなさい、父さん」
早いとは言いがたい時間に家に帰れば、自分も帰宅したばかりだと言わんばかりの態度で玄関で靴を脱いでいた息子に瞳を眇める。
気まずそうに僅かに視線を逸らした息子は、涼やかな瞳を伏せて来るべき怒りに堪えるよう拳を握る。
その表情は昔サッカーをプレイしていたときの笑顔と雲泥の差があり、いつの間にこんな感情を抑える子供になってしまったのかと眉を寄せた。
『このままじゃ豪炎寺は潰れるよ』
静かな眼差しで淡々と訴えた少女は、どんな気持ちでそれを口にしたのか。
他人の感情を完全に理解できるなどと思ってない。
それは理解したいと願う人間の錯覚でしかないだろうし、全てを理解してもらおうという考え自体が傲慢だ。
けれど口に出しがたい想いは実在し、あけすけにするには勝也は年を取りすぎていた。
嘆息すると、大げさなくらいに体を震わせた息子から視線を離す。
「修也。最近、帰りが遅いらしいな」
「すみません」
「謝れと言っているわけではない」
「はい」
「───はぁ、まあいい。成績が落ちなければ干渉しない。遅くなろうがどうしようが好きにすればいい」
「・・・はい」
酷く辛そうな顔をして俯く息子の脇を通り抜け、もの言いたげなフクを無視してリビングへと向かった。
どうせ行き場所なんてわかっている。
少女のもとならきっと修也にも悪い影響はないだろう。
『俺豪炎寺のサッカーが好きだ。サッカーが好きだって全身で訴えるプレイが好きだ』
淡々とした口調と裏腹に熱の篭った声。
自分とて同じ想いを抱えていたのは嘘じゃないのに、思い出せないくらい昔に感じるのは、きっと誰より愛した人が隣に居ないからなのだろう。
PR
「いや~、綱海マジ最高!」
「ははははは!もっと褒めてもいいぜ!」
笑いながら肩を抱き合う二人に、驚きで目を丸めたチームメイトの視線が集まる。
綱海はともかく円堂はその視線に気づいているだろうに、一切気にせず仲良さげな雰囲気を醸し出していた。
どうやら彼ら二人はとても波長が合うらしく、初対面からほぼずっとあの調子らしい。
小柄な円堂と彼女より頭ひとつは背が高い綱海は並んでいるとある意味絵になる。
普段は男女差を感じさせない円堂なのに、その差が歴然とするからか綱海の隣に居ればきちんと女の子に見えた。
先日仲間に戻ったばかりの豪炎寺は、つきりと痛む胸に訝しげに首を傾げ、ジャージの上から胸を掴む。
最近感じる違和感は、何故か円堂が傍に居るときに多く見られた。
傍に居なければ探してしまうし、一緒に居ればなんとなく顔が見れない。
かと言って別の誰かのところに彼女がいると息苦しく胸が痛くなる。
こんな想いは初めてで、誰かに相談しようにもこんなことを相談できる相手なんて円堂以外にいない。
しかし円堂本人相手に相談も出来なくて、もやもやする感情を無理やりに押さえ込んだ。
「・・・綱海め」
気がつけばいつの間にか隣に来ていた鬼道がきりきりと柳眉を吊り上げて低い声で唸りに似た囁きを零す。
怒りを抑えきれずに発露してしまったらしい。
彼らしくもない冷静さを欠いた姿だが、それが円堂に関してならとても彼らしいのかもしれない。
本人は素直に認めないだろうが、彼は円堂をとても慕っているようだった。
音無に対しては素直になれるのに、姉だとまた違うものなのだろうか、と微かに首を傾げる。
豪炎寺の中での疑問は、口にした瞬間鬼道の怒りを買うとわかっているので、これもまた長い間燻っていた。
「人の姉に粉をかけるとはどういう了見だ。お前も馴れ馴れしいと思わないか」
「いや・・・俺は」
「否定しても無駄だ。その目が感情を物語っている」
円堂がいいならいいのでは、と口にしようとして素早く遮られた。
ゴーグル越しに見詰められるのを感じ、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
目が感情を語っていると言うが、自分では見えないので判らない。
どうしたものかと内心で困っていると、ぎゅっと眉間に皺を寄せた鬼道が首を傾けた。
「お前は悔しくないのか」
「・・・何が?」
「姉さんの隣に綱海が居ることが、だ。綱海が隣に居ると、姉さんは普通の女に見える」
「・・・・・・」
「身長だって高いし、自然な態度で姉さんを労われる。綱海は器がでかい。姉さんが気に入るのもわかるが、俺はそれが悔しい」
まさか素直に焼餅を妬いていると言っているのと同然の言葉が鬼道から飛び出すとは思っておらず、瞳を丸くして彼を見詰める。
しかし鬼道の視線はもう豪炎寺には向いておらず、一直線に円堂と彼女の肩を抱く綱海に向いていた。
瞳を隠すゴーグルのおかげで彼がどんな目で二人を見ているか判らない。
けれども身に纏う剣呑な雰囲気が、言葉よりも雄弁に鬼道の感情を伝えてきた。
「ホント、綱海はいい男だな!俺の婿に来ないか?」
「はははは、そりゃいいな!俺らの子供なら面白い奴が一杯出来そうだ!」
息を飲み込んだチームメイトを他所に呵呵大笑を続ける二人に、我慢できないとばかりに鬼道が駆け出した。
一拍遅れて彼に続き、また豪炎寺は自分の行動に首を捻る。
(どうして俺は、走っているんだ?)
理由など全く見当はつかない。
それでも早く、早くと急かす心に追われ、両足を突き出すように動かした。
「ははははは!もっと褒めてもいいぜ!」
笑いながら肩を抱き合う二人に、驚きで目を丸めたチームメイトの視線が集まる。
綱海はともかく円堂はその視線に気づいているだろうに、一切気にせず仲良さげな雰囲気を醸し出していた。
どうやら彼ら二人はとても波長が合うらしく、初対面からほぼずっとあの調子らしい。
小柄な円堂と彼女より頭ひとつは背が高い綱海は並んでいるとある意味絵になる。
普段は男女差を感じさせない円堂なのに、その差が歴然とするからか綱海の隣に居ればきちんと女の子に見えた。
先日仲間に戻ったばかりの豪炎寺は、つきりと痛む胸に訝しげに首を傾げ、ジャージの上から胸を掴む。
最近感じる違和感は、何故か円堂が傍に居るときに多く見られた。
傍に居なければ探してしまうし、一緒に居ればなんとなく顔が見れない。
かと言って別の誰かのところに彼女がいると息苦しく胸が痛くなる。
こんな想いは初めてで、誰かに相談しようにもこんなことを相談できる相手なんて円堂以外にいない。
しかし円堂本人相手に相談も出来なくて、もやもやする感情を無理やりに押さえ込んだ。
「・・・綱海め」
気がつけばいつの間にか隣に来ていた鬼道がきりきりと柳眉を吊り上げて低い声で唸りに似た囁きを零す。
怒りを抑えきれずに発露してしまったらしい。
彼らしくもない冷静さを欠いた姿だが、それが円堂に関してならとても彼らしいのかもしれない。
本人は素直に認めないだろうが、彼は円堂をとても慕っているようだった。
音無に対しては素直になれるのに、姉だとまた違うものなのだろうか、と微かに首を傾げる。
豪炎寺の中での疑問は、口にした瞬間鬼道の怒りを買うとわかっているので、これもまた長い間燻っていた。
「人の姉に粉をかけるとはどういう了見だ。お前も馴れ馴れしいと思わないか」
「いや・・・俺は」
「否定しても無駄だ。その目が感情を物語っている」
円堂がいいならいいのでは、と口にしようとして素早く遮られた。
ゴーグル越しに見詰められるのを感じ、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
目が感情を語っていると言うが、自分では見えないので判らない。
どうしたものかと内心で困っていると、ぎゅっと眉間に皺を寄せた鬼道が首を傾けた。
「お前は悔しくないのか」
「・・・何が?」
「姉さんの隣に綱海が居ることが、だ。綱海が隣に居ると、姉さんは普通の女に見える」
「・・・・・・」
「身長だって高いし、自然な態度で姉さんを労われる。綱海は器がでかい。姉さんが気に入るのもわかるが、俺はそれが悔しい」
まさか素直に焼餅を妬いていると言っているのと同然の言葉が鬼道から飛び出すとは思っておらず、瞳を丸くして彼を見詰める。
しかし鬼道の視線はもう豪炎寺には向いておらず、一直線に円堂と彼女の肩を抱く綱海に向いていた。
瞳を隠すゴーグルのおかげで彼がどんな目で二人を見ているか判らない。
けれども身に纏う剣呑な雰囲気が、言葉よりも雄弁に鬼道の感情を伝えてきた。
「ホント、綱海はいい男だな!俺の婿に来ないか?」
「はははは、そりゃいいな!俺らの子供なら面白い奴が一杯出来そうだ!」
息を飲み込んだチームメイトを他所に呵呵大笑を続ける二人に、我慢できないとばかりに鬼道が駆け出した。
一拍遅れて彼に続き、また豪炎寺は自分の行動に首を捻る。
(どうして俺は、走っているんだ?)
理由など全く見当はつかない。
それでも早く、早くと急かす心に追われ、両足を突き出すように動かした。
「キャプテンを、円堂に代える?」
唐突な提案に驚いたのは豪炎寺だけでなく、指名された当の本人を含めたサッカー部員全員だった。
ぽかんと口を開けた円堂は自分を指差し目を瞬かせ、他の部員たちも驚愕した眼差しで風丸を見ていた。
「何言ってんだ、風丸!俺たちはお前をキャプテンとしてここまでやって来たんだぞ!」
「そうでやんす!キャプテンは、風丸さんでやんす!」
「お前が俺たちをサッカーに誘ったんだろ?どうして今更・・・」
「今更なんかじゃない。円堂が入部してからずっと考えてたんだ。俺よりも、お前の方がキャプテンの器だ。俺がサッカーをやってる理由、お前らに話したことなかったよな。俺は───俺は、円堂ともう一度サッカーがしたくて、だからサッカー部を作ってサッカーを続けてた。本当は、俺、中学は陸上部に入ろうと思ってたんだ」
「風丸・・・」
「今すぐ代わると言ってもお前らが納得しないのはわかってる。これが俺の我侭だって言うのも、わかってる。全部わかった上で、俺は円堂をキャプテンに推す。お前らだって円堂の凄さは判ってるだろ」
必死な様子で訴える風丸に、円堂は瞼を閉じた。
彼が本気で訴えているのが痛いほど感じ取れ、その重みに胸が痛む。
風丸はその名のとおりに風のように走るのが好きだった。
誰よりも早く真っ直ぐに駆け抜ける姿を見るのは円堂も好きで、彼がサッカー部を選ぶなど本当に思ってなかった。
陸上と決別した風丸に思うところはある。
だが。
「風丸」
「・・・何だ」
「お前が俺をキャプテンに推したいのはわかった。けどな、それじゃお前の仲間は納得しないよ」
「それでも・・・それでも、俺はお前が全力でサッカーする姿を見たい。お前の指示でプレイしたい。俺よりもお前の方がキャプテンの器だ。プレイヤーとして、司令塔として、全てにおいてお前は俺よりも上だ。皆だってわかってるだろ?この間の帝国との試合も、尾刈斗や野生との試合も、一方的な空気を変えたのは円堂の一言だ。ピンチの時いつだって背中を押してくれたのは、円堂の言葉だろう!?」
「だが今のサッカー部のキャプテンはお前だぜ、風丸。俺たちはお前に誘われてサッカーをやり始めたんだ。俺たちのキャプテンは、お前だ」
「けれど俺はっ」
「やめろ、風丸」
「・・・円堂」
「お前が俺をキャプテンに推すのはどうしてだ?俺は今のままで十分なのに」
「俺は・・・俺は、お前に仲間をやりたい。ずっと一人でプレイしていたお前に。お前が居れば俺たちはもっと強くなれる。お前にここに居て欲しいんだ」
「風丸・・・」
要するに、彼はこの地に自分をとどめる楔を作りたいのかもしれない。
二年前、いきなり姿を消し音信不通となったのは、予想以上に彼の心に深い傷を残したのだろう。
円堂は自分にそこまでの価値を認めないが、風丸はずっと円堂を待っていてくれた。
そして自分が作り上げた雷門中サッカー部という枷をつけ、自分から離れないように縛り付けたいのだ。
無意識なのか意識的なのかわからないが、きっとそれに否を唱える権利はない。
彼は自分の言葉に縛られて二年間もサッカーをいていた。
自分がどれほど必死な眼差しを向けているか、風丸は気づいているのだろうか。
あんな目をして訴える言葉を、拒絶なんて出来っこないのに。
胸の中に渦巻く感情を、長いため息を変えてゆっくりと吐き出す。
綺麗な二重の瞳を心配そうに向けた風丸に微笑みかけると、一つ頷いた。
「風丸。俺は、お前が作った雷門中サッカー部のキャプテンはお前がいいと思っている」
「・・・円堂」
「けど、お前がサッカーを続ける理由が、俺にしかないのなら。お前は皆のためにもキャプテンを辞めた方がいい」
「円堂!!!」
染岡が責めるように睨みつけ、後輩たちも瞳を鋭くする。
集中する視線を無視して真っ直ぐに風丸を見詰めれば、こんな状況でも嬉しげに彼は微笑んだ。
「理由が俺にしかないままでサッカーを続ければ、お前はいつかサッカーを、そして他の皆を恨むときが来る。そんなの俺は耐えられない。俺の好きなサッカーを、お前に憎ませたくない。だから、俺はお前の言葉を受けよう」
顔を輝かせる風丸は、いつか変わってくれるだろうか。
円堂は関係なく、サッカーを愛する日が来るだろうか。
自分がつけてしまった重く錆付いた枷を、脱ぎ捨てて変わってくれるだろうか。
固く瞼を閉じて、心臓の上に掌を置く。
締め付けられるように痛むそこは、どくどくと早鐘のように鳴り響き生きている証を伝えてきた。
「次の御影専農戦を、俺のキャプテン試験にしてもらってもいいか?その試合での俺を見て、俺をキャプテンとして認めれるなら───サッカー、一緒にやろうぜ」
「守、でもそれじゃあ」
「いいんだ、一哉。俺は風丸が選んだ部員が、風丸を選んだ部員がどんな選択をしようと怨まない。皆とサッカー出来て凄く嬉しいし楽しいから、本当はこのままでいいけど、風丸の気持ちも捨てれない」
「・・・守」
「ごめんな、皆。俺たちの我侭に巻き込んで。もし、俺がキャプテンに相応しくないと思ったら、容赦なくそう言ってくれ。皆の意思を押し潰してまで通す意地は俺は持たない。俺はサッカーが好きだ。お前たちとサッカーをするのが好きだ。だから、お前たちが苦しむサッカーはしたくないし、させたくない。本当に、・・・ごめんな」
それぞれ感情を露にした彼らに、微笑みかけると踵を返す。
今日は帰るわ、と鞄を持って部室を後にした。
突然のことだし彼らにも考える時間は必要だ。
背後から駆け寄る気配に首を向ければ、案の定一之瀬のものだった。
眉を八の字に下げ、自分の方が余程辛そうな顔をして、きゅっと服の胸の部分を掴んで立ち止まる。
「いいの?」
「何が?」
「だって、守がここに戻ってきたのは」
「───いいんだ」
「守」
「新参者の俺をあいつらが選ばないなら、それはそれで仕方ないさ。ある意味当たり前の結果だしな」
「けれど、そうしたら」
「雷門を去って別の手を考える。風丸には悪いけど、俺にも譲れないものはあるから」
「・・・ふぅ。しょうがないなぁ、守は。俺より年上の癖に無茶ばっかだ」
「ごめん」
「けど、俺は最後まで付き合うよ。お前が雷門から居なくなるなら、俺も一緒に行く。なんてったって、俺たちは一蓮托生だしな」
「・・・サンキュ、一哉」
手を握り並んだ一之瀬に、ふっと微笑んだ。
彼の存在はとてもありがたく、嬉しく心強い。
自分の選んだ道に、背中を押してもらえるのは迷いを振り切るのに丁度いい。
「でも、俺は一応信じてるんだ。あいつらが俺を仲間として・・・キャプテンとして受け入れてくれるんじゃないかって」
「それって結構自意識過剰じゃない?」
「あははは!俺って基本ポジティブだからな!信じるし、信じたい。あいつらと、サッカーしたいよ」
「・・・そっか」
ふにゃりと表情を崩した一之瀬に、円堂は握る掌に力を篭めた。
御影専農戦後も円堂が笑ってサッカーを続けれたのに一番安堵したのは、きっと彼女の全てを理解する一之瀬だったに違いない。
唐突な提案に驚いたのは豪炎寺だけでなく、指名された当の本人を含めたサッカー部員全員だった。
ぽかんと口を開けた円堂は自分を指差し目を瞬かせ、他の部員たちも驚愕した眼差しで風丸を見ていた。
「何言ってんだ、風丸!俺たちはお前をキャプテンとしてここまでやって来たんだぞ!」
「そうでやんす!キャプテンは、風丸さんでやんす!」
「お前が俺たちをサッカーに誘ったんだろ?どうして今更・・・」
「今更なんかじゃない。円堂が入部してからずっと考えてたんだ。俺よりも、お前の方がキャプテンの器だ。俺がサッカーをやってる理由、お前らに話したことなかったよな。俺は───俺は、円堂ともう一度サッカーがしたくて、だからサッカー部を作ってサッカーを続けてた。本当は、俺、中学は陸上部に入ろうと思ってたんだ」
「風丸・・・」
「今すぐ代わると言ってもお前らが納得しないのはわかってる。これが俺の我侭だって言うのも、わかってる。全部わかった上で、俺は円堂をキャプテンに推す。お前らだって円堂の凄さは判ってるだろ」
必死な様子で訴える風丸に、円堂は瞼を閉じた。
彼が本気で訴えているのが痛いほど感じ取れ、その重みに胸が痛む。
風丸はその名のとおりに風のように走るのが好きだった。
誰よりも早く真っ直ぐに駆け抜ける姿を見るのは円堂も好きで、彼がサッカー部を選ぶなど本当に思ってなかった。
陸上と決別した風丸に思うところはある。
だが。
「風丸」
「・・・何だ」
「お前が俺をキャプテンに推したいのはわかった。けどな、それじゃお前の仲間は納得しないよ」
「それでも・・・それでも、俺はお前が全力でサッカーする姿を見たい。お前の指示でプレイしたい。俺よりもお前の方がキャプテンの器だ。プレイヤーとして、司令塔として、全てにおいてお前は俺よりも上だ。皆だってわかってるだろ?この間の帝国との試合も、尾刈斗や野生との試合も、一方的な空気を変えたのは円堂の一言だ。ピンチの時いつだって背中を押してくれたのは、円堂の言葉だろう!?」
「だが今のサッカー部のキャプテンはお前だぜ、風丸。俺たちはお前に誘われてサッカーをやり始めたんだ。俺たちのキャプテンは、お前だ」
「けれど俺はっ」
「やめろ、風丸」
「・・・円堂」
「お前が俺をキャプテンに推すのはどうしてだ?俺は今のままで十分なのに」
「俺は・・・俺は、お前に仲間をやりたい。ずっと一人でプレイしていたお前に。お前が居れば俺たちはもっと強くなれる。お前にここに居て欲しいんだ」
「風丸・・・」
要するに、彼はこの地に自分をとどめる楔を作りたいのかもしれない。
二年前、いきなり姿を消し音信不通となったのは、予想以上に彼の心に深い傷を残したのだろう。
円堂は自分にそこまでの価値を認めないが、風丸はずっと円堂を待っていてくれた。
そして自分が作り上げた雷門中サッカー部という枷をつけ、自分から離れないように縛り付けたいのだ。
無意識なのか意識的なのかわからないが、きっとそれに否を唱える権利はない。
彼は自分の言葉に縛られて二年間もサッカーをいていた。
自分がどれほど必死な眼差しを向けているか、風丸は気づいているのだろうか。
あんな目をして訴える言葉を、拒絶なんて出来っこないのに。
胸の中に渦巻く感情を、長いため息を変えてゆっくりと吐き出す。
綺麗な二重の瞳を心配そうに向けた風丸に微笑みかけると、一つ頷いた。
「風丸。俺は、お前が作った雷門中サッカー部のキャプテンはお前がいいと思っている」
「・・・円堂」
「けど、お前がサッカーを続ける理由が、俺にしかないのなら。お前は皆のためにもキャプテンを辞めた方がいい」
「円堂!!!」
染岡が責めるように睨みつけ、後輩たちも瞳を鋭くする。
集中する視線を無視して真っ直ぐに風丸を見詰めれば、こんな状況でも嬉しげに彼は微笑んだ。
「理由が俺にしかないままでサッカーを続ければ、お前はいつかサッカーを、そして他の皆を恨むときが来る。そんなの俺は耐えられない。俺の好きなサッカーを、お前に憎ませたくない。だから、俺はお前の言葉を受けよう」
顔を輝かせる風丸は、いつか変わってくれるだろうか。
円堂は関係なく、サッカーを愛する日が来るだろうか。
自分がつけてしまった重く錆付いた枷を、脱ぎ捨てて変わってくれるだろうか。
固く瞼を閉じて、心臓の上に掌を置く。
締め付けられるように痛むそこは、どくどくと早鐘のように鳴り響き生きている証を伝えてきた。
「次の御影専農戦を、俺のキャプテン試験にしてもらってもいいか?その試合での俺を見て、俺をキャプテンとして認めれるなら───サッカー、一緒にやろうぜ」
「守、でもそれじゃあ」
「いいんだ、一哉。俺は風丸が選んだ部員が、風丸を選んだ部員がどんな選択をしようと怨まない。皆とサッカー出来て凄く嬉しいし楽しいから、本当はこのままでいいけど、風丸の気持ちも捨てれない」
「・・・守」
「ごめんな、皆。俺たちの我侭に巻き込んで。もし、俺がキャプテンに相応しくないと思ったら、容赦なくそう言ってくれ。皆の意思を押し潰してまで通す意地は俺は持たない。俺はサッカーが好きだ。お前たちとサッカーをするのが好きだ。だから、お前たちが苦しむサッカーはしたくないし、させたくない。本当に、・・・ごめんな」
それぞれ感情を露にした彼らに、微笑みかけると踵を返す。
今日は帰るわ、と鞄を持って部室を後にした。
突然のことだし彼らにも考える時間は必要だ。
背後から駆け寄る気配に首を向ければ、案の定一之瀬のものだった。
眉を八の字に下げ、自分の方が余程辛そうな顔をして、きゅっと服の胸の部分を掴んで立ち止まる。
「いいの?」
「何が?」
「だって、守がここに戻ってきたのは」
「───いいんだ」
「守」
「新参者の俺をあいつらが選ばないなら、それはそれで仕方ないさ。ある意味当たり前の結果だしな」
「けれど、そうしたら」
「雷門を去って別の手を考える。風丸には悪いけど、俺にも譲れないものはあるから」
「・・・ふぅ。しょうがないなぁ、守は。俺より年上の癖に無茶ばっかだ」
「ごめん」
「けど、俺は最後まで付き合うよ。お前が雷門から居なくなるなら、俺も一緒に行く。なんてったって、俺たちは一蓮托生だしな」
「・・・サンキュ、一哉」
手を握り並んだ一之瀬に、ふっと微笑んだ。
彼の存在はとてもありがたく、嬉しく心強い。
自分の選んだ道に、背中を押してもらえるのは迷いを振り切るのに丁度いい。
「でも、俺は一応信じてるんだ。あいつらが俺を仲間として・・・キャプテンとして受け入れてくれるんじゃないかって」
「それって結構自意識過剰じゃない?」
「あははは!俺って基本ポジティブだからな!信じるし、信じたい。あいつらと、サッカーしたいよ」
「・・・そっか」
ふにゃりと表情を崩した一之瀬に、円堂は握る掌に力を篭めた。
御影専農戦後も円堂が笑ってサッカーを続けれたのに一番安堵したのは、きっと彼女の全てを理解する一之瀬だったに違いない。
小雨そぼ降る夜の道、傘を差しながら夜道を歩く。
耳につけたイヤホンから流れる音楽を小さくハミングし、コンビニ袋を片手に提げて小道を行けば、人通りの少ない道の端で街灯の下でぽつんとした影を一つ見つけた。
小首を傾げて近寄れば、瞳を潤ませてこちらを見てくる。
綺麗な毛並みをびしょびしょにして悲しげな顔をしている。
頭の天辺からつま先までずぶ濡れの彼に、そっと傘を傾けた。
「何だよ、お前。迷子か?」
「・・・・・・」
「仕方ないな、家に来いよ」
頭を撫でれば冷えた感触が手に伝わる。
温もりを与えるよう頬を撫で、小さく笑った。
「一哉ー!バスタオル一枚持ってきて!」
「バスタオル?何に使うのさ」
「外で子犬拾ったー。びしょびしょなんだ」
玄関で叫ぶ円堂に苦笑した一之瀬は、仕方がないなと呟きながら洗濯して畳んだばかりのタオルを一枚手に取る。
料理中だったためにピンクのエプロンをつけたままだが、火は消したから大丈夫だろう。
雨のせいで冷えた廊下をぱたぱたともこもこのアニマルスリッパを履いた状態で走り、目にした『子犬』に驚愕した。
真っ白な毛並みに、凛とした切れ長の瞳。
随分と躾が良さそうな『子犬』に、一之瀬はじとりと半眼になり苦笑して頭を掻く円堂を睨む。
「・・・『子犬』?」
「そう、『子犬』。毛並みもいいし素直だし、それっぽくない?」
「───俺にはどう見ても人間に見えるけど。しかもそれお前と同じクラスのエースストライカーじゃないのか?」
「よく知ってるなぁ、一哉。俺、紹介したっけ?」
「してない。でも秋から聞いた」
ぷくっと頬を膨らませつつ、持っていたバスタオルを円堂に手渡せば、くしゃりと笑った彼女はびしょ濡れの彼の頭を乱暴に拭いだした。
結構な力で拭かれているらしく首がえらい勢いでがっくんがっくんと揺れている。
普段は立てている髪がへたれているせいか、覇気のない姿は学校でのものとは重ならず一之瀬は一つため息を吐き出した。
「服は俺のを貸すから、風呂に入っておいでよ」
「・・・・・・」
「行けよ、豪炎寺。ちゃんと新品のトランクスはあるぞ」
「守、女の子がそういう発言しない!豪炎寺も玄関がびしょびしょになるから早く入ってくれよ」
「あ、足はきっちりと拭けよー。廊下が濡れたらお前が拭くんだからな」
「・・・わかった」
こくり、と頷いた豪炎寺を円堂が風呂場まで案内し、二人はそのまま並んでリビングへ抜ける。
一之瀬が住んでいるのは円堂のマンションで、彼女は中学生らしくもなく一人で5LDKの値が張る部屋を借りている。
一つを寝室、一つを書斎として空いた三部屋の内一つを自分の領域にしている一之瀬は、自分の部屋から新品の下着とジャージを取り出し持っていくと、空いている一室ではなくリビングへと布団を運ぶ円堂に眉根を寄せた。
「何してるの、守」
「いやぁ、今日はここで雑魚寝しようかと思って」
「お前は一応女の子なんだぞ!?何警戒心ないこと言ってるんだよ!」
「って、人の家にちゃっかり居候しているお前が言うなよ。それに豪炎寺が俺に手を出すとか、ないね」
「男は皆獣だよ」
「・・・だから、お前が言うなって。見ただろ、あの有様。捨てられた子犬みたいにびしょ濡れで、ボケッと空見て立ってたんだぞ?あの目を見て、そんなこと本気で言ってんの?」
「・・・・・・」
ぐっと言葉に詰まれば、苦笑した円堂に頭を撫でられた。
こんなときたった一つでも年の差を感じてしまい、無性に悔しくなる。
拳を握って俯いた一之瀬の髪をくしゃくしゃにして満足したのか、にっと笑った円堂は枕を片手に指差した。
「だからさっさと布団を運ぶの手伝えって。お前も一緒に寝るんだぞ」
「俺も・・・?」
「当然だろ。俺と豪炎寺二人きりにしたいのか?」
「それは絶対に嫌だ!」
「んじゃ、手伝って。あ、今日のご飯は何?」
「カレー。寸胴一杯に作ったから、豪炎寺の分も余裕であるよ」
「それならよし。布団は片隅に纏めておいて、ご飯食べたらちゃぶ台をどかして敷こうか。あ、そうだサッカー雑誌やDVDも準備しないとな。折角三人で寝るんだし、徹夜で遊ぼうぜ!」
「あ、なら新作のゲームも良くない?俺、スカウトでいい人材引き抜いたから、今度は負けないよ」
「いいな!俺だって育成しまくったから負けないし」
二人で顔を見合わせて笑っていると、いつの間に風呂から上がったのかほかほかとした湯気を立ち上らせて豪炎寺がこちらを覗いていた。
積み上げた布団の上に立ち上がった一之瀬は、ジャンプして降りるとキッチンへ向かう。
つんつん頭が降りているだけで随分と幼い印象に変わる豪炎寺に笑いかけると、掌を差し出す。
「俺の名前は一之瀬一哉。守のボーイフレンドで同棲相手だよ」
「同棲じゃなくて同居な、同居。んでもって本当にフレンドな」
「守は黙っててくれよ。・・・君は豪炎寺修也だろう?君は用事で居なかったけど、俺、今日付けでサッカー部に入部したんだ。改めて、宜しく」
「・・・ああ、宜しく」
「そうだ、豪炎寺。今日は泊まってくだろ?もう用意したし、親御さんに電話入れろよ」
「だが」
「用意はもう出来ちゃってるからさ。今日はリビングで三人で夜更かし決定だよ。サッカーゲームやDVD、あとは雑誌も用意して徹夜覚悟で遊ぶからね!」
「・・・いいのか?」
「いいって。どうせここには俺と一哉しか住んでないし、遠慮も無用だぜ!な、一哉ー!」
「うん、そうそう。君が電話している間にカレーの準備してくるからさ、早くかけておいでよ」
「わかった」
小難しそうな顔をしていた豪炎寺は、眉間の皺を解くとふわりと笑った。
円堂が電話の場所を教えると素直に踵を返した彼は電話をかけに部屋の隅へ向かう。
それを見送って二人でリビングから続きになっているキッチンへと行き、カレーを作った寸胴に火をかけた。
先に作っておいたサラダを円堂が冷蔵庫から出し、空のコップ三つとお茶を合わせてトレイに乗せる。
リビングが覗けるカウンターに置くと、そのままカレー皿とスプーンも用意しご飯をよそった。
「俺も手伝おう」
「ん、サンキュー!お前ご飯はこれくらいでいい?」
「・・・十分だ」
「了解。じゃあそっちのトレイに乗ってるサラダとかをリビングにあるちゃぶ台の上に持ってって。置き方は適当でいいぞ。一哉はこれくらいでいいか?」
「ん、オッケー!じゃ、頂戴」
「ほい」
手渡されたカレー皿にカレーをよそうと、そのままカウンターへ置く。
「豪炎寺、これも持ってってー」
「わかった」
素直な返事をした豪炎寺が置いたカレー皿を全て運び、食事の準備は整った。
一之瀬が外したエプロンを受け取ると、適当に畳んで椅子に引っ掛ける。
そのまま豪炎寺も呼んで座らせると、コップを並べてお茶を注いだ。
「おし、準備できたな」
「ああ」
「じゃあ、せーの」
『いただきます!』
ぱちんと高らかに音を立てると、一之瀬を声を合わせて深く頭を下げる。
ぽかんと口を開ける豪炎寺も同じようにさせ、スプーンを手に取りぱくりと一口カレーを含んだ。
絶妙な辛味に唇が緩む。
「さすが一哉ー。この味絶妙」
「うん、俺も思った。これは成功だね!豪炎寺はどう?」
「・・・美味い」
「それは良かった。一哉の料理は美味いだろ?どんどんと上手くなってるんだぞー」
「料理が出来ない守のおかげで、ね」
「失礼だな。俺は料理が出来ないんじゃなくて、禁止されてるだけだ」
「だって守の料理は天国と地獄の差が激しすぎるよ。無難なところに行ってくれればいいのに、下手に冒険しようとするから不味くなるんだ」
「人間冒険だって。その昔納豆を発見した勇者だって居るくらいなんだから、斬新なアイデアを出せばものすごい味に行き着けるはずだ!」
「・・・普通にすれば料理上手いのに。本当に残念だよね、守は」
はあ、と大げさに肩を竦めるジェスチャーに、豪炎寺が少しだけ笑った。
その笑顔に円堂が瞳を細め、一之瀬は肩を竦める。
「いつもこんな風に賑やかなのか?」
「大体はそうだよな?食事時はテレビをつけない。そんでその間は食べながら話す!」
「話す内容に中身はないけど、一日の報告とかしてるよね。後はサッカーとかサッカーとかサッカーの話!」
「そうそう。一哉はサッカー馬鹿だからな」
「守だってサッカー馬鹿じゃないか。雑誌のスクラップの整理、昨日手伝ったばかりだし」
「はは、だって好きだもんな!」
「そうだな」
顔を見合わせて笑うと、豪炎寺は目を丸くする。
「お前も仲間に入れてやるよ。名づけてサッカー馬鹿同盟!」
「まんまじゃん!」
「何だよ、じゃ、一哉にはいいネーミングでもあるってのか?」
「ない!」
「ないのかよ!」
言い切れば円堂はずびしと掌を使って突っ込んだ。
頭の後ろに手をやり笑った一之瀬は、こちらを注視する豪炎寺に首を傾げる。
「どうした?俺たち、何か変なことを言った?」
「いいや・・・ただ、こんなに騒がしい食卓は久し振りだったから」
「ふーん。なら、いつでもご飯を食べにこればいいよ。ね、守?」
「そうだな。後で合鍵やるから、好きなときに来い。なんなら空いてる部屋もあるし、お前の別荘にしていいぞ!」
「いや、それは・・・」
「遠慮するなよ、豪炎寺。客室にしてるけど、どうせ誰も来ないしな。使いどころもないんだし、お前に貸してやる。んで、何処に行けばいいか迷ったときに使えばいい」
「・・・円堂」
「家族の人にはさ、きちんと言えばいいよ。『友達の家に泊まる』ってな。秘密基地みたいで面白くないか?」
「いいね、秘密基地!響きが格好いい!」
「だろ!?よし、じゃあ今日はあの部屋の改造計画を決めるか!」
「うん!豪炎寺もちゃんと意見を言わないと駄目だよ?部屋にはテレビと布団以外ないから、服をしまう簡易ボックスとか俺の部屋からあげるよ」
「それじゃ俺の部屋からは簡易机!地味に使わないから邪魔だったんだよな」
「・・・守。廃棄物処理は止めて」
「あはははは、まぁまぁ。机、どっちにしろ必要だろ」
な、と声を掛けられ、切れ長の瞳をぱしぱしと瞬いた豪炎寺は、目尻を淡く染めて嬉しそうに微笑んだ。
木野の話からもっと堅物でクールな人物像を思い描いていた一之瀬は、素直な表情の変化に表情に出さぬよう心の底でひっそりと驚く。
ありがとう、と照れくさそうにはにかむ彼に、うかうかしてられないな、と強敵の出現に笑った。
耳につけたイヤホンから流れる音楽を小さくハミングし、コンビニ袋を片手に提げて小道を行けば、人通りの少ない道の端で街灯の下でぽつんとした影を一つ見つけた。
小首を傾げて近寄れば、瞳を潤ませてこちらを見てくる。
綺麗な毛並みをびしょびしょにして悲しげな顔をしている。
頭の天辺からつま先までずぶ濡れの彼に、そっと傘を傾けた。
「何だよ、お前。迷子か?」
「・・・・・・」
「仕方ないな、家に来いよ」
頭を撫でれば冷えた感触が手に伝わる。
温もりを与えるよう頬を撫で、小さく笑った。
「一哉ー!バスタオル一枚持ってきて!」
「バスタオル?何に使うのさ」
「外で子犬拾ったー。びしょびしょなんだ」
玄関で叫ぶ円堂に苦笑した一之瀬は、仕方がないなと呟きながら洗濯して畳んだばかりのタオルを一枚手に取る。
料理中だったためにピンクのエプロンをつけたままだが、火は消したから大丈夫だろう。
雨のせいで冷えた廊下をぱたぱたともこもこのアニマルスリッパを履いた状態で走り、目にした『子犬』に驚愕した。
真っ白な毛並みに、凛とした切れ長の瞳。
随分と躾が良さそうな『子犬』に、一之瀬はじとりと半眼になり苦笑して頭を掻く円堂を睨む。
「・・・『子犬』?」
「そう、『子犬』。毛並みもいいし素直だし、それっぽくない?」
「───俺にはどう見ても人間に見えるけど。しかもそれお前と同じクラスのエースストライカーじゃないのか?」
「よく知ってるなぁ、一哉。俺、紹介したっけ?」
「してない。でも秋から聞いた」
ぷくっと頬を膨らませつつ、持っていたバスタオルを円堂に手渡せば、くしゃりと笑った彼女はびしょ濡れの彼の頭を乱暴に拭いだした。
結構な力で拭かれているらしく首がえらい勢いでがっくんがっくんと揺れている。
普段は立てている髪がへたれているせいか、覇気のない姿は学校でのものとは重ならず一之瀬は一つため息を吐き出した。
「服は俺のを貸すから、風呂に入っておいでよ」
「・・・・・・」
「行けよ、豪炎寺。ちゃんと新品のトランクスはあるぞ」
「守、女の子がそういう発言しない!豪炎寺も玄関がびしょびしょになるから早く入ってくれよ」
「あ、足はきっちりと拭けよー。廊下が濡れたらお前が拭くんだからな」
「・・・わかった」
こくり、と頷いた豪炎寺を円堂が風呂場まで案内し、二人はそのまま並んでリビングへ抜ける。
一之瀬が住んでいるのは円堂のマンションで、彼女は中学生らしくもなく一人で5LDKの値が張る部屋を借りている。
一つを寝室、一つを書斎として空いた三部屋の内一つを自分の領域にしている一之瀬は、自分の部屋から新品の下着とジャージを取り出し持っていくと、空いている一室ではなくリビングへと布団を運ぶ円堂に眉根を寄せた。
「何してるの、守」
「いやぁ、今日はここで雑魚寝しようかと思って」
「お前は一応女の子なんだぞ!?何警戒心ないこと言ってるんだよ!」
「って、人の家にちゃっかり居候しているお前が言うなよ。それに豪炎寺が俺に手を出すとか、ないね」
「男は皆獣だよ」
「・・・だから、お前が言うなって。見ただろ、あの有様。捨てられた子犬みたいにびしょ濡れで、ボケッと空見て立ってたんだぞ?あの目を見て、そんなこと本気で言ってんの?」
「・・・・・・」
ぐっと言葉に詰まれば、苦笑した円堂に頭を撫でられた。
こんなときたった一つでも年の差を感じてしまい、無性に悔しくなる。
拳を握って俯いた一之瀬の髪をくしゃくしゃにして満足したのか、にっと笑った円堂は枕を片手に指差した。
「だからさっさと布団を運ぶの手伝えって。お前も一緒に寝るんだぞ」
「俺も・・・?」
「当然だろ。俺と豪炎寺二人きりにしたいのか?」
「それは絶対に嫌だ!」
「んじゃ、手伝って。あ、今日のご飯は何?」
「カレー。寸胴一杯に作ったから、豪炎寺の分も余裕であるよ」
「それならよし。布団は片隅に纏めておいて、ご飯食べたらちゃぶ台をどかして敷こうか。あ、そうだサッカー雑誌やDVDも準備しないとな。折角三人で寝るんだし、徹夜で遊ぼうぜ!」
「あ、なら新作のゲームも良くない?俺、スカウトでいい人材引き抜いたから、今度は負けないよ」
「いいな!俺だって育成しまくったから負けないし」
二人で顔を見合わせて笑っていると、いつの間に風呂から上がったのかほかほかとした湯気を立ち上らせて豪炎寺がこちらを覗いていた。
積み上げた布団の上に立ち上がった一之瀬は、ジャンプして降りるとキッチンへ向かう。
つんつん頭が降りているだけで随分と幼い印象に変わる豪炎寺に笑いかけると、掌を差し出す。
「俺の名前は一之瀬一哉。守のボーイフレンドで同棲相手だよ」
「同棲じゃなくて同居な、同居。んでもって本当にフレンドな」
「守は黙っててくれよ。・・・君は豪炎寺修也だろう?君は用事で居なかったけど、俺、今日付けでサッカー部に入部したんだ。改めて、宜しく」
「・・・ああ、宜しく」
「そうだ、豪炎寺。今日は泊まってくだろ?もう用意したし、親御さんに電話入れろよ」
「だが」
「用意はもう出来ちゃってるからさ。今日はリビングで三人で夜更かし決定だよ。サッカーゲームやDVD、あとは雑誌も用意して徹夜覚悟で遊ぶからね!」
「・・・いいのか?」
「いいって。どうせここには俺と一哉しか住んでないし、遠慮も無用だぜ!な、一哉ー!」
「うん、そうそう。君が電話している間にカレーの準備してくるからさ、早くかけておいでよ」
「わかった」
小難しそうな顔をしていた豪炎寺は、眉間の皺を解くとふわりと笑った。
円堂が電話の場所を教えると素直に踵を返した彼は電話をかけに部屋の隅へ向かう。
それを見送って二人でリビングから続きになっているキッチンへと行き、カレーを作った寸胴に火をかけた。
先に作っておいたサラダを円堂が冷蔵庫から出し、空のコップ三つとお茶を合わせてトレイに乗せる。
リビングが覗けるカウンターに置くと、そのままカレー皿とスプーンも用意しご飯をよそった。
「俺も手伝おう」
「ん、サンキュー!お前ご飯はこれくらいでいい?」
「・・・十分だ」
「了解。じゃあそっちのトレイに乗ってるサラダとかをリビングにあるちゃぶ台の上に持ってって。置き方は適当でいいぞ。一哉はこれくらいでいいか?」
「ん、オッケー!じゃ、頂戴」
「ほい」
手渡されたカレー皿にカレーをよそうと、そのままカウンターへ置く。
「豪炎寺、これも持ってってー」
「わかった」
素直な返事をした豪炎寺が置いたカレー皿を全て運び、食事の準備は整った。
一之瀬が外したエプロンを受け取ると、適当に畳んで椅子に引っ掛ける。
そのまま豪炎寺も呼んで座らせると、コップを並べてお茶を注いだ。
「おし、準備できたな」
「ああ」
「じゃあ、せーの」
『いただきます!』
ぱちんと高らかに音を立てると、一之瀬を声を合わせて深く頭を下げる。
ぽかんと口を開ける豪炎寺も同じようにさせ、スプーンを手に取りぱくりと一口カレーを含んだ。
絶妙な辛味に唇が緩む。
「さすが一哉ー。この味絶妙」
「うん、俺も思った。これは成功だね!豪炎寺はどう?」
「・・・美味い」
「それは良かった。一哉の料理は美味いだろ?どんどんと上手くなってるんだぞー」
「料理が出来ない守のおかげで、ね」
「失礼だな。俺は料理が出来ないんじゃなくて、禁止されてるだけだ」
「だって守の料理は天国と地獄の差が激しすぎるよ。無難なところに行ってくれればいいのに、下手に冒険しようとするから不味くなるんだ」
「人間冒険だって。その昔納豆を発見した勇者だって居るくらいなんだから、斬新なアイデアを出せばものすごい味に行き着けるはずだ!」
「・・・普通にすれば料理上手いのに。本当に残念だよね、守は」
はあ、と大げさに肩を竦めるジェスチャーに、豪炎寺が少しだけ笑った。
その笑顔に円堂が瞳を細め、一之瀬は肩を竦める。
「いつもこんな風に賑やかなのか?」
「大体はそうだよな?食事時はテレビをつけない。そんでその間は食べながら話す!」
「話す内容に中身はないけど、一日の報告とかしてるよね。後はサッカーとかサッカーとかサッカーの話!」
「そうそう。一哉はサッカー馬鹿だからな」
「守だってサッカー馬鹿じゃないか。雑誌のスクラップの整理、昨日手伝ったばかりだし」
「はは、だって好きだもんな!」
「そうだな」
顔を見合わせて笑うと、豪炎寺は目を丸くする。
「お前も仲間に入れてやるよ。名づけてサッカー馬鹿同盟!」
「まんまじゃん!」
「何だよ、じゃ、一哉にはいいネーミングでもあるってのか?」
「ない!」
「ないのかよ!」
言い切れば円堂はずびしと掌を使って突っ込んだ。
頭の後ろに手をやり笑った一之瀬は、こちらを注視する豪炎寺に首を傾げる。
「どうした?俺たち、何か変なことを言った?」
「いいや・・・ただ、こんなに騒がしい食卓は久し振りだったから」
「ふーん。なら、いつでもご飯を食べにこればいいよ。ね、守?」
「そうだな。後で合鍵やるから、好きなときに来い。なんなら空いてる部屋もあるし、お前の別荘にしていいぞ!」
「いや、それは・・・」
「遠慮するなよ、豪炎寺。客室にしてるけど、どうせ誰も来ないしな。使いどころもないんだし、お前に貸してやる。んで、何処に行けばいいか迷ったときに使えばいい」
「・・・円堂」
「家族の人にはさ、きちんと言えばいいよ。『友達の家に泊まる』ってな。秘密基地みたいで面白くないか?」
「いいね、秘密基地!響きが格好いい!」
「だろ!?よし、じゃあ今日はあの部屋の改造計画を決めるか!」
「うん!豪炎寺もちゃんと意見を言わないと駄目だよ?部屋にはテレビと布団以外ないから、服をしまう簡易ボックスとか俺の部屋からあげるよ」
「それじゃ俺の部屋からは簡易机!地味に使わないから邪魔だったんだよな」
「・・・守。廃棄物処理は止めて」
「あはははは、まぁまぁ。机、どっちにしろ必要だろ」
な、と声を掛けられ、切れ長の瞳をぱしぱしと瞬いた豪炎寺は、目尻を淡く染めて嬉しそうに微笑んだ。
木野の話からもっと堅物でクールな人物像を思い描いていた一之瀬は、素直な表情の変化に表情に出さぬよう心の底でひっそりと驚く。
ありがとう、と照れくさそうにはにかむ彼に、うかうかしてられないな、と強敵の出現に笑った。
>>lulu様
きゃー!!lulu様、こんばんは!
またコメントいただけて嬉しいですw
私のサイトのルフィは、一応総愛され嗜好ですが余所様のサイトほど甘い小説は書けないのでそう言って頂けると嬉しいですw
基本的にあまあまな空気が苦手と言うのもあるのですが、何より私のイメージが先行しているおかげでああなってしまいます。
私の中のルフィって、決して優しい人じゃないです。
器が大きく凄い男で、滅茶苦茶な勢いで惚れこんでますけど、彼自身は何処までも我儘で自分勝手なのです。
自分がしたいからする。それが基本で行動原理はそれだけです。
だから誰からの謝罪も謝礼も欲してないし、自分がしたいままにのびのびと生きてます。
大海賊な彼らは他のパラレル創作よりも、そんなイメージのままに書いてるので、彼らの雰囲気を気に入ってくれて嬉しいですw
ちなみに私もルナミはキュンと来てゾロルはずどんと来てサンルはほわんと来て、ルロビはきゅっと来て、他の面々は恋愛要素ないですが船長を慕っているイメージです。
私の中のイメージを具現化して大海賊な彼らが出来ましたw
lulu様のお言葉を胸にこれからも妄想に羽を広げますので、是非また遊びに来てやってくださいw
自分が変わった瞬間を見つけれる人間は居ないだろう。
だが確実にゾロは変わった。
倒れる仲間達を視線でひと撫でし、ついで昏迷状態の船長を伺う。
上下する胸が彼の生存を表し、ゾロは小さく笑った。
この世で見納めになるかもしれない表情があんな間抜け面とは思っていなかった。
死ぬときは彼の隣で戦って死ぬものだと思っていたが、こんな展開になろうとは。
だが後悔はしない。
自分が死んだ折りには約束どおり腹を掻っ捌いて謝ってもらうが、それでも絶対に生き抜いて欲しかった。
彼は海賊王になる男だ。
自分の屍一つくらい、乗り越えて上に行かねばならない。
遙かな高み、今では頂すら望めないその場所に立つのがルフィの役目だ。
野心以上に大事なものが出来るなど、東の海に居た頃は考えられなかった。
世界最強の剣豪になる。
自分の夢は、確かにそれ一つだけで、他に何も見てなかったのに。
自分の命一つで彼の存在を存(ながら)えるなら、これほどありがたいことはない。
彼の代わりになれるのであれば、これほど誇れることはない。
「ルフィは、海賊王になる男だ」
目の前に立つ、『今は』絶対に勝てない相手に笑いかける。
この誇りを胸に死ねるなら、野心を捨てても良いと思えた。
───野心を上回る野望を、ゾロは手に入れていたのだから。
私の中のゾロルイメージの一端ですw
ちなみに現場はスリラーバーグのあのイメージですw
これからもお時間ございましたら、また是非遊びに来てやってください!
本当に、嬉しいコメントをありがとうございました!
きゃー!!lulu様、こんばんは!
またコメントいただけて嬉しいですw
私のサイトのルフィは、一応総愛され嗜好ですが余所様のサイトほど甘い小説は書けないのでそう言って頂けると嬉しいですw
基本的にあまあまな空気が苦手と言うのもあるのですが、何より私のイメージが先行しているおかげでああなってしまいます。
私の中のルフィって、決して優しい人じゃないです。
器が大きく凄い男で、滅茶苦茶な勢いで惚れこんでますけど、彼自身は何処までも我儘で自分勝手なのです。
自分がしたいからする。それが基本で行動原理はそれだけです。
だから誰からの謝罪も謝礼も欲してないし、自分がしたいままにのびのびと生きてます。
大海賊な彼らは他のパラレル創作よりも、そんなイメージのままに書いてるので、彼らの雰囲気を気に入ってくれて嬉しいですw
ちなみに私もルナミはキュンと来てゾロルはずどんと来てサンルはほわんと来て、ルロビはきゅっと来て、他の面々は恋愛要素ないですが船長を慕っているイメージです。
私の中のイメージを具現化して大海賊な彼らが出来ましたw
lulu様のお言葉を胸にこれからも妄想に羽を広げますので、是非また遊びに来てやってくださいw
自分が変わった瞬間を見つけれる人間は居ないだろう。
だが確実にゾロは変わった。
倒れる仲間達を視線でひと撫でし、ついで昏迷状態の船長を伺う。
上下する胸が彼の生存を表し、ゾロは小さく笑った。
この世で見納めになるかもしれない表情があんな間抜け面とは思っていなかった。
死ぬときは彼の隣で戦って死ぬものだと思っていたが、こんな展開になろうとは。
だが後悔はしない。
自分が死んだ折りには約束どおり腹を掻っ捌いて謝ってもらうが、それでも絶対に生き抜いて欲しかった。
彼は海賊王になる男だ。
自分の屍一つくらい、乗り越えて上に行かねばならない。
遙かな高み、今では頂すら望めないその場所に立つのがルフィの役目だ。
野心以上に大事なものが出来るなど、東の海に居た頃は考えられなかった。
世界最強の剣豪になる。
自分の夢は、確かにそれ一つだけで、他に何も見てなかったのに。
自分の命一つで彼の存在を存(ながら)えるなら、これほどありがたいことはない。
彼の代わりになれるのであれば、これほど誇れることはない。
「ルフィは、海賊王になる男だ」
目の前に立つ、『今は』絶対に勝てない相手に笑いかける。
この誇りを胸に死ねるなら、野心を捨てても良いと思えた。
───野心を上回る野望を、ゾロは手に入れていたのだから。
私の中のゾロルイメージの一端ですw
ちなみに現場はスリラーバーグのあのイメージですw
これからもお時間ございましたら、また是非遊びに来てやってください!
本当に、嬉しいコメントをありがとうございました!
更新内容
|
(06/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)
(03/31)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/24)
(03/24)
(03/24)
(03/23)
(03/14)
(03/14)
(03/13)
(03/13)
(03/13)
(03/11)
(03/10)
(03/08)
カテゴリー
|
リンク
|
フリーエリア
|