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その昔、極東の地に神子を崇める一族が住む島があった。
島は神子を愛する龍神により守護を得て、どれだけ海が荒れようとどれだけ雨風が吹こうとも島は豊穣に溢れていた。
神子を愛する龍神は神子を守るため八人の守護者を選び自ら創造した玉を与えた。
玉を持つのは者は神子の力を借りて特殊な方法で神子を守り続けた。
そうして島は龍神と彼の愛する神子の尽力により長き間平和を保ち続けた。

───それは大陸に伝わった、神話に近い物語。



「これはいつの頃からか大陸に伝わった物語。東の国の存在がまだ確立されてない時代から私達の国にはこの話が受け継がれてきた」


真っ向から問い詰めても動揺一つ見せずに笑顔を保った少女に望美は苦笑する。
予想以上に度胸があるらしい彼女の顔色を読むのは至難の業で、それでも逃す気がない自分に嫌気が差す。

あかねは十中八九『鬼』の関係者だ。
すぐに気がつかなかったが、噂はそこかしこで聞いたことがある。
『鬼』の首領が掌中の珠として扱う唯一の姫。
龍に愛された神子であり、神通力と呼ばれる力を扱う不可思議な存在。
尊き存在でありながら、穢れていると呼ばれる『鬼』と行動しているのは『神子』が不完全であったから。
八人の守護者を持たなかった神子。そのおかげで侵略に足を伸ばした『鬼』に島は滅ぼされた。
何故『鬼』が島を滅ぼしたのか、その理由は判らない。
『鬼』として生きる彼らが『神子』を生かしたか判らない。
判らないけれど、確かに彼女こそが『神子』だと感じた。
『受け継がれる血』が、あかねが自らと同じ存在だと叫んでいた。


「『鬼』に愛された薄幸の『紫の姫』。どうして紫なのか、何の意味があるのかずっと考えていたけれど、あれはあなたの名前にかけた言葉だったんだね」


東の国には大陸にはない文化が発達している。
あかねの名前は茜色を語源にしているのだろう。
この言葉は東の国の歌に使われる枕詞というものにもなる。
『あかねさす』。この言葉が掛かるのは『日』、『昼』、『君』、そして『紫』。
他にもまだあるが、勉強不足な望美に浮かぶのはこれくらいで、だからこそ確信を得た。
凛と背筋を伸ばして座るあかねは、静かに微笑みを湛えている。


「もう一度聞くよ。私に、鬼の船の居場所を教えて」


遠い血縁に問いかければ、瞳を伏せた少女は物憂げに嘆息した。
儚げな様子は今にも消えてしまいそうで、泣き出す寸前の迷子の子供のようだった。

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目の前に引きずり出された男を見詰め、獲物を前にした獣のように瞳を細めて観察する。
両腕から部下に体を押さえ込まれる彼は恨めしげな眼差しを向け怨嗟の言葉を絶えず吐き続け、豪奢な椅子に座っているお陰で数段高い場所から見下ろす形になっている守は、こてりと無邪気な様子で小首を傾げた。
白いキャミソールの上にレースが見事な淡色の上着と黒いプリーツスカートを身に着けた少女は、下ろした髪の一部を蝶が細工された繊細なバレッタで止めている。
黙っていれば愛くるしい人形のようだが、中身はそんな可愛いものではない。


「うーん・・・これは予定外ですね」


口調こそ令嬢然としたものだが、この状況で普段どおりな姿こそ異色を放っていた。
毛足の長い絨毯が敷かれているため地べたに押し付けられるよりマシだろうが、守の前には彼女より数倍は人生を生きている大人が押さえ込まれてるのだ。
普通の子供なら動揺してもおかしくない光景に微塵の驚きも見せていない。
どころか誰よりも堂々としており、今この場を支配しているのが少女であると言外に知らしめていた。

守が顎に指を当てて考え込むように黙ったので、室内には押さえ込まれた男のうめき声しか聞こえない。
時折怒声が混じるがそれを一切無視していた守の思考は、こんこんと軽快にノックされた音により中断された。
相手が誰かわかっているので確認もせずに近くの部下に頷くと、心得たように頭を下げた部下はドアに手を掛けゆっくりと引く。
その先にいた相手は想像通りで、お嬢様でいるときの柔らかな微笑を浮かべた。


「エドガー様、いらっしゃいまし」


椅子から立ち上がり綺麗な礼をする。
それに対してきっちりと返礼したエドガーは、守と同じように数人の黒服を伴っていた。
室内の状況を視線でひと撫ですると、押さえ込まれる男の顔を確認してじとりと柳眉を顰める。
彼の表情に予想を確信に変え、口元を押さえると控えめに笑った。


「あら、やはりエドガー様のほうですか」
「そのようだな。マモルの協力をするつもりが、身内の恥が出たようだ」
「ふふふ、エドガー様にしては珍しいですね。いつもでしたらこのような輩を私に近づけるなどなさいませんのに」
「・・・ここ暫く、あることに熱中していたんだ。周囲を疎かにしたつもりはなかったが、まだまだ未熟だったということだな」
「私も同じですわ。イタリアへ留学できて、少々有頂天になり過ぎていたみたいですね」


出迎えるために近づいた守を椅子までエスコートすると、一つしかないそれに座らせる。
そうして自分は肘掛に手を付いて立ち、端麗な顔に苦々しい表情を浮かべた。

エドガーの顔を正面から見詰めた男の怒りで紅潮させていた顔がざっと青褪める。
慌てて英語で弁明を始めた彼を笑顔で眺めていると、怒りの矛先がこちらに向いた。


『東洋の小娘ごときが、我がバルチナス財閥の御曹司の許婚などおこがましい!』


クイーンズイングリッシュで喚いた男はエドガーと同じ白人だ。
金髪に綺麗なブルーアイをしているが、色合いはいいが瞳は濁っているので好みではなかった。
同じブルーアイでも海より濃いフィディオの瞳の方が好きだ。
彼の瞳は輝きが溢れてるし、この惨めな大人より遥かに澄んでいる。

大の大人に罵られつつも笑顔をキープする守は、背後でざわめく部下を片手を上げて抑えた。
この場に置いているのは父ではなく守に忠誠を誓ってくれた腹心の部下だ。
直々に選んだ相手で信頼におけるが、忠誠心が篤い故に主を馬鹿にされると怒り心頭に発する。
悪い癖だといつも嗜めているが、こんな子供でも二心なく仕えてくれるいい人たちだった。
警護も兼ねているので文武両道で容姿も秀でているあらゆる面において優秀な彼らの内、男の体を抑えている二人が何気ない顔で力を強めたらしい。
低く呻いて怨嗟の声を上げる男は、眉を顰めて顔を俯かせた。

その様子を黙って眺めていたエドガーは、守の隣からゆっくりと移動する。
出会った当初は短かった髪が背中の半ばくらいまで伸びているのに気づき、こっそりと苦笑した。
髪を結ぶリボンは去年の誕生日に公的にではなく私的にプレゼントした一品で、くたびれ始めてるそれにそろそろ新しいものを贈るかと思案する。
対峙するとツンデレ状態になるし子供のように意地を張る彼だが、守をとても大切にしてくれていた。
一体自分の何をそこまで気に入ったのか未だにわからないが執着はあちらからだ。
長く伸びた髪が何を意味するか理解しているので、強制的に額づく形になった男の未来に僅かばかり同情した。


『今、何と言った?』
『エドガー様には東洋人は似合いません。どうかお考え直しください』
『・・・私の許婚を侮辱するのか』
『目を覚ましてください、エドガー様!態々極東の小娘など選ばずとも、ヨーロッパにはバルチナス財閥の益になる娘は沢山いらっしゃ───』
『黙れ』


腕を組んだエドガーが、静かに命令を下した。
彼らしくない冷静さを欠いた声音に、椅子に掛けたまま様子を観察する。
いざとなれば止めに入るつもりだったが、彼がどう相手を断罪するか興味もあった。
もしかしたら短慮に暴力に走るかと思ったがどうやらそれはなさそうで、ふむ、と瞳を瞬かせる。
子供ながら修羅場慣れしているエドガーなのに、感情を乱され過ぎだなと冷静に判断した。


『私の許婚を冒涜にするのは、彼女を選んだ私を冒涜するのと同じだ』
『エドガー様!』
『君は私には必要ない。分家の人間だったと記憶するが、それなりの責任を取ってもらおう』
『私を見捨てるのですか!?お父上の代から長らく忠誠を誓い尽くしてきた私ではなく、そこの黄色い猿を選ぶとでも?』
『・・・次にもう一回でも彼女を侮辱する言葉を吐いてみろ。身内だからとただでは許さない』


低い声で怒りを露にしたエドガーに、男は身震いして黙り込んだ。
彼が手を上げたのを合図に守の部下が男を部屋から引きずり出していく。
エドガーは唯一守の部下に指示をする権限を持った男だ。彼の腹心の部下に守が命令をする権限を持っているように。
お互いが手足として使う部下の中でも選りすぐりの相手に対して権限を渡しあうのは、将来を見据えてのものに他ならない。
エドガーは守をお飾りにする気はないと言外に証明し、彼の行為を許容することで同意を示していた。

手を振って残りの部下も室内から追い出すと、怒りに体を震わせる彼の背中に触れる。
年相応に他人相手に憤怒を露にする姿など初めてかもしれない。
それが守のための怒りだというから笑ってしまう。
自分を律するのに長けたバルチナス財閥の御曹司が、唯一守のために感情を乱してくれるとすれば、それはとても光栄なのだろう。
少なくとも金持ち同士の義務でしかない結婚相手に対するものなら上等だ。


「冷静になれ、エドガー。俺のために怒る必要はない」
「私が怒るとすれば私のためだ。私が選んだ婚約者を馬鹿にされるなど我慢ならない」
「婚約者じゃなくて許婚な。───ったく、さっきのおっさんの言い分じゃないがお前ならもっと中身も見た目もいいの選び放題だろうに」
「マモル。例え君だとしても私が選んだ許婚を馬鹿にするのは許さない」
「はいはい。なんてったって初恋の相手だもんな?悪い悪い」
「マモルっ!!」


白皙の美貌を持つ故に、血が上れば東洋人よりも判りやすい。
顔を真っ赤にして怒るエドガーに、ふわりと微笑みかければすぐに鎮火した。
何を好んでと本当に思うが、人の趣味はそれぞれなのだから仕方ない。
大人しい女性好みのエドガーに合わせて淑やかな仕草で小首を傾げると柔らかな口調で本題を口にした。


「それにしても、困りましたわ。私が日本にいる間に膿みは出しておきたいですのに。可愛い弟を引っ掛けようとしたお馬鹿さんたちを一網打尽に片付けようと餌を撒きましたのに、エドガー様のお家騒動に巻き込まれるなんて」
「・・・わざとらし過ぎるぞマモル。君のことだ。罠は二重三重に張ってあるんだろう?」
「あれ?ばれてた?」
「当然だ。ある意味で君と一番近い位置にいるのは私で、君を一番理解できるのも私だ。それに私も情報くらい掴んでいる。最近君の名を騙りユウトを陥れようとしていた人間のリストだ」
「やっぱ、バルチナス財閥の方いもいたか?」
「そのようだ。───君にこれを渡すのは少々勇気が入ったが、放っておけば尚酷くなるのは判っているしな。眠っているライオンに手を出したのはこいつらだ。好きにすればいい。私からのプレゼントだ。これで先ほどの失態は帳消しにしてくれると嬉しい」
「どころかお釣りが来るぜ。俺の目が届かないと思い込んで有人に好き勝手吹き込む馬鹿が多くて困ってたんだ。鬼道関連の膿みを出せればいいと思っていたが、一月あればそっちはなんとでもなる。長い目で見ると俺の手が届かないこっちの情報のが遥かに価値がある。ありがとな、エドガー」


先ほどまでの作っていた笑顔ではなく、守本来の真夏の太陽のような明るいからっとした笑顔に、エドガーは苦笑した。


「君はどんな高価なプレゼントよりも、弟を護るための情報を喜ぶな。許婚としては複雑だ」
「当たり前だろ。立場上一生綺麗なままでなんか居られない。見たくないものを見なきゃいけないし、したくない処断だってしなきゃいけなくなる。ある程度はあいつが対応するのは妥当だが、護ってくれる盾を作ってない状況で立ち向かうには相手が悪い。周りを見る目を養い痛い目をみるのと、芽生え始めた新芽を踏み躙られるのでは大きく違うからな」
「───どちらにせよ、君という姉が居れば滅多なこともないだろうがな。何しろ自分の腹心の部下をユウトの周りに配置して情報は耐えぬようにしているし、君が選んだ人間なら優れているのだろう?」
「当然。可愛い弟だからな。いずれ独り立ちするにしても、急に手を放したりしないさ」


人形のような格好をして生身の人間として笑う守はエドガーにどう映ったか知れないが、彼は仕方ないと言わんばかりに嘆息すると肩を竦めた。
何だかんだ言いながら互いの地位を理解し合える彼は、きっと協力者と呼べる相手なのだろう。
並び立つ相手として信頼出来、恋愛感情は抱いてないが好意は持っている。
有人ほど特別じゃなくても、エドガーは守の特別な人間の一人だった。
もっとも、そんなことを言えばすぐにでも自分の屋敷で花嫁修業をさせそうな彼なので、調子付かせるようなことは口にする気はないけれど。
プレゼントとしてもらったデータは有効活用させてもらう気だ。
そこまで考えて、ふと思い立った。


「こんだけの情報貰ったなら、俺もお前にプレゼントの用意しなきゃな」
「私はそんな色気のないものはいやだぞ」
「何がいい?」
「・・・一日」
「ん?」
「たまには、邪魔が入らぬよう二人きりで過ごしたい。君のためにイギリスの屋敷にピアノを用意した」
「イギリスまで来いってか。───ま、いいか。普段なら真っ平ごめんと言うとこだけど、今度イタリアに帰る前に寄るからスケジュール教えておいてくれ。一日空ける」
「いいのか?」
「ああ」


満面の笑みで頷けば、ぱあっと音がしそうな勢いで珍しくも彼が素直に笑った。
目尻を赤く染めて喜ぶさまは、ある意味年相応だろう。

この程度で喜ぶのだから安いものだといいたいが、実はスケジュール調整がとても難しい身分にあるため彼の喜びも理解できる。
今日目的の膿みは出なかったがそれ以上の収穫を得たし、実は有人にあることないこと吹き込む馬鹿の見当も付いていた。
一月以内と長い目で見れば片付けるのに苦労する相手でもなく、お陰で今週の日曜に予定していた有人とのデートは満喫できそうだ。
恩師である影山に頼み込んで、彼を保護者代わりにして三人で出かけるが、弟がそれをどれだけ楽しみにしているか知っている。
鼻歌交じりの守に、同じく上機嫌のエドガーがにこりと微笑んだ。


後日、自分が来日しているにも関わらず、何も教えてもらえなかった上に弟と二人のプリクラを自慢され、この日の上機嫌が嘘のように激昂する羽目になるのだが、彼はまだそれを知らない。

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別れることはあるでしょう、失うことはありません
--お題サイト:afaikさまより--



「おかえり、綱吉」
「ただいま、雲雀さん」
 
つい先日まで見ていた薄茶色ではなく、限りなく金色に近くなった癖の強い髪を揺らし、琥珀の瞳を濃くした綱吉は情けなく眉を下げて笑う。
緊張感のない笑顔は覚えているそのままで、彼が帰ってきたのだと漸く実感が沸いた。
 
最後に判れた時と同じ、白のクラシコイタリアのスーツに緋色のシャツと紺色のネクタイ。ボンゴレの意匠の刻まれたカフスをつけた彼は、ドン・ボンゴレに相応しい見目をしている。
自分自身を過小評価している彼は、守護者たちの上に立つ自分がこんなに冴えなくていいのかと言っているが、守護者の一人として、そしてボンゴレファミリーの幹部として言わせて貰えば、彼の見た目は十分に鑑賞に堪えるもので、むしろボンゴレ十世として振舞っている姿は綺麗だとさえ思う。
普段の情けなく下げられた眉と、怯えたような眼差しも小動物のようで嫌いじゃないが、傲慢な笑みにふてぶてしい態度に図々しい命令に慣れた口調と強者であるのを前面に押し出した肉食動物然とした態度も嫌いじゃなかった。
嫌いじゃないだけで気に喰わなければ容赦なく牙を剥くが、それを飄々とかわす彼を気に入ってすらいた。
 
だから、だろうか。
群れるのは嫌いだと訴える心を宥めすかし、消えた彼を追いかけてしまった。
誰に繋がれるのも嫌だと本能が喚くのに、彼の守護者の証を捨てられなかった。
目の前でへらへら笑う馬鹿な男を見捨てれなかった。
それは心や本能を凌駕する、魂に刻まれた何かで、彼を助けろと雲雀の奥から『誰か』が訴える。
その『誰か』が誰だか雲雀は知らないし、これからも知る気はない。
訴えが誰のものであっても、結局判断し行動するのは雲雀だし、このもどかしくも鬱陶しい感情も雲雀のものだ。
 
死の瀬戸際から帰った彼の手には、大空のリングが嵌められている。
守護者の自分たちのものと合わせて『ボンゴレリング』と称されるそれは、本来の持ち主の元で鈍く輝いていた。
 
「何者にもとらわれず我が道をいく浮雲」
「急に何?」
「いいえ、貴方を見ていて不意に思い出したんです。雲の守護者のリングを貴方がつけてくれる未来なんて、昔は想像してなかったと言ったら呆れます?」
「妄想していたなら、むしろ呆れるね」
「そうですか」
 
くすくすと笑う彼は、やはり昔より図太くなった。
そして内も外も綺麗に、強くなった。
泣きながら逃げ出そうとしていた中学生は其処に居ない。彼は覚悟を決めて、沢山の命を背負う男だ。
 
『見てろ、雲雀。十年後のあいつは今とは比べ物にならないくらいに化けるぞ』
 
いつか自信満々に、赤ん坊の癖にニヒルな笑みを浮かべた男が雲雀に宣言した。
蛹が蝶に羽化するように、あるいは蕾が艶やかに花開くように、彼の予言は現実になった。
今の彼を見てダメツナと罵れる存在など、片手に満たないだろう。
それが面白くて、少しだけ自慢だ。
 
「僕はそろそろ行くよ。イタリアで片付ける仕事は終わった。日本支部の指揮を執らなきゃ」
「そうですか。こちらからも物資を送ります。必要事項はメールで知らせてください」
「判った」
 
頷き、ドン・ボンゴレの執務室から退出すべくドアの前まで歩いていく。
重厚な作りの扉のノブに手を置くと、思い出したように振り返った。
 
「綱吉」
「はい?」
「落ち着いたら借りを取り立てに行くから、ちゃんと体を鍛えておくんだよ。僕への謝礼は高くつくから」
「はははは・・・覚悟してます」
 
さらりと告げれば、幽霊にあったような顔で彼は手を振った。
 
「ありがとう、雲雀さん。俺を戦えるほどに鍛えてくれて」
「ただの仕事さ」
 
今度こそ振り返らずに扉を潜れば、もう一度『ありがとう』と聞こえた気がした。
誰も居ない廊下で小さく笑うと、己の本拠地へ戻るべく雲雀は前に進んだ。
 
 
僕たちの道は常に重なるものではない。
けれど有事の際には、誰よりも頼りになる味方になろう。

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以前と同じカフェでゆったりと紅茶を口に含む。
待ち合わせの時間まであと僅か。
あかねの返事は聞かなかったが、彼女は絶対に来ると確信があった。


「お待たせしました、望美様」


先日と同じように膝を少し超える丈のクラシックなメイド服を着こなす少女に微笑みかける。
肩くらいの長さで切りそろえられた桃色の髪に、翡翠色の綺麗な瞳。
おっとりした雰囲気だが、その実しっかりしている少女は、望美に促されるままに椅子に腰を下ろした。


「来てくれてありがとう、あかねさん。出来れば、もうちょっと砕けた態度でお願い。一応ここに居るのは春日の姫じゃないから」
「はい」


にこりと頷いたあかねのために紅茶を頼むと、慎ましく膝に置かれた手を観察する。
白くて柔らかそうな手だが、よく見るとところどころかさついている。
しっかりと働く人間の手だと考えていると、くすくすと小鳥が囀るような笑い声が響いた。
上品に口元に手を当てて笑う姿はそこらの令嬢よりさまになっている。
観察していたのを見抜かれていたのに少しだけ頬を赤らめると、タイミングよく紅茶を運んできたウェイターにケーキの追加注文をした。


「それで、私に何か御用でしょうか?」
「え?」
「一介のメイドである私如きに声をかけてくださるなど、何か御用があってのことかと思いましたけど、違いましたか?」


にこにこと笑顔を崩さぬままに問いかけるあかねに苦笑した。
やはりこの人はメイドにしては変な気後れがない。
先日話をしたときにも思ったが、普通のメイドは貴族を前にすると絶対に視線を合わせようとしないものだ。
斜め下を向き、命令を下すものが許可するまで顔を上げない。
橘家の教育が違っている、と考えるのも一つだが、生憎先日のパーティでそれはないと確認した。
あかねも普通のメイドと同じようにあの場では振舞っていたが、なら尚更今の態度がおかしいと違和感を感じる。
先ほど気がついてしまった事実も含め、残念だと眉を下げて微笑んだ。


「私がお父様と賭けをしているのは知っている?」
「ええ。普通なら知らぬでしょうが、我が家は友雅さんが望美様の父上と親しいですから」
「そう」


それでも普通の使用人ごときが知る事実ではない。
この言葉で彼女がどれだけ友雅から特別扱いされているか判る。
隠さないのは望美に対して距離を測りかねているからか。
嘘を言うより本当を言ってくれた方が信じられるが、そう甘い相手ではなかったらしい。

一つ嘆息すると、出来上がりかけていた友情が遠のくのを悲しみながら口を開いた。


「なら、話は早いね。貴女に聞きたいことがあるの」
「はい」
「───鬼の船は今何処にいるのか。それを教えて欲しい」


真っ直ぐに瞳を見詰めて問いかけると、数度瞳を瞬かせたあかねはゆっくりと俯いた。

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「俺ってよくよく拾い物と縁があるのかな~」


近道して帰ろうとした先で見つけた存在に、円堂は頭を掻きながら嘆息した。
手にはコンビニの買い物袋。
月の光が微かに差し込むだけの裏道は、一本向こうにある本道と違い静まり返っていた。

ぼろ雑巾のようになり、動かないそれに近づくとしゃがみ込んで指先で突く。
呻き声は上げれども意識を取り戻さないそれに、仕方ないなと携帯を取り出した。


「もしもし、一哉?ちょっと助けてー」


気の抜けた声でヘルプコールをした円堂は、倒れ付す相手に視線をやり小首を傾げた。




「・・・だから、どうして守はこうすぐに拾ってくるんだよ」
「しょうがねえじゃん。拾ってくださいとばかりに行き倒れてるんだぜ?それとも行き倒れてる奴をそのまま放っておけって言うのか?」
「そうは言わないけど」
「まー、いざとなれば何とかするし、大丈夫だって」
「・・・守は楽観的だな」
「はは、まあね。んじゃ俺は夕飯作ってくるから、ちょっと待ってろ。今日は昨日から煮込んだデミグラスハンバーグだぞ!一哉には一個おまけしてやる」
「ホント!?俺、守のハンバーグ大好きだ!」


嬉しげな声が耳元で響き、たゆたうようにしていた意識が唐突に覚醒した。
ばっと音を立てる勢いで身を起こすと、驚き目を丸めた少年と視線が合う。
幼い輪郭をした少年をじっとりと睨み威嚇するように声を上げた。


「お前は誰だ」


広々とした空間。置かれているのは観葉植物とテレビと絨毯、そして背の低いテーブルとクッションのみのシンプルな部屋は、素っ気無いというより上品という言葉が似合う。
寝転んでいた何かに手を置くと、予想外の柔らかさにバランスを崩した。
慌てて身を起こしながら何かと見るとふっくらとした枕があり、固さの違いから自分が寝ていたのはソファの上だと気がつく。
黒を基調としたそれは随分と座り心地がよいもので、体に掛けられた布団は手触りもよかった。

徐々に自分の状況を理解し始めると、不意に頭上から声を掛けられた。


「お?お目覚めか?」
「・・・お前は」
「俺は円堂守。コンビニの帰りに道端で転がってるお前を見つけて、こいつに手伝ってもらって家まで連れてきたんだ。一応見える範囲の怪我は治療したけど、どうだ?体に違和感は?」
「・・・大丈夫だ」
「そっか。頭も殴られてるみたいだし、明日ちゃんと病院行けよ」


きょろりとした大きな栗色の瞳を向けた少女に、何故か素直に頷いた。
普段なら突っ張ってしまうはずなのだが、見知らぬ相手と言う気の緩みがあるのかもしれない。
円堂と名乗った少女は明らかに怪しい風体の自分を前にしてにこにこと太陽みたいな笑顔を見せた。
眩しいものを見るように目を眇めると、視界を遮るようにそれまで黙っていた少年がひょいと顔を出す。


「俺は一之瀬一哉。守のボーイフレンドで、同棲相手だ」
「っ、あ、ああ」
「あー、そいつの言うことは気にしないでくれな。本当にただの友達で、ついでに同居相手だから」
「は?」
「お前も本当に何とかの一つ覚えみたいなことするね、一哉」
「守がすぐ他の男を家に上げるのがいけないんだ」
「・・・人聞きが悪い。お前と俺の共通の友達しかあげてないだろうが」


会話の内容に驚いていると、疲れたように笑った円堂は一之瀬の頭を掌でぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
その手を両手で押さえて膨れっ面を晒す一之瀬は、渋い表情だが嫌がってはないらしい。
まるで子犬の戯れのような遣り取りに、つい小さく笑うと、急に動きを止めた二人は顔を見合わせた。


「見たか、一哉」
「うん、見た見た」
「・・・どうしたんだ?」
「いや、お前笑ったからさ。寝てるときもこーんな渋い顔してうんうん魘されてたもんな」
「そうそう。こーんな渋い顔してた」


二人揃ってぎゅっと眉間に皺を寄せる彼らに、つい噴出す。
今まで感じたことがない柔らかで賑々しい空気に、張り詰めていた心が和んだ。
笑いの発作がおさまると、きょとりと瞬きする彼らに向かって正座する。
不思議そうに手を見詰める彼らに、居住まいを正した。


「俺を助けてくれて感謝してる」
「あー・・・まあ、成り行きだけどな」
「俺の名前は飛鷹征矢。こう見えて中学二年生だ」
「なーんだ、俺たちと同じじゃん。老けてるからもっと上かと思った」
「こらっ、一哉!」
「守だって絶対に年上って言ってたじゃない。実際は守のが年上だったけど」
「え?」


どう見ても自分より幼い顔立ちの円堂を弾かれたように見詰めれば、少女は苦笑して頬を掻いた。


「一応、年は俺が上みたいだけど、学年は同じだから。一年ダブってんの、俺」
「・・・・・・」


罰が悪そうに眉を下げて教えられた真実に、飛鷹は益々驚く。
聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして忙しなく視線を彷徨わせると、結局下を向いて俯いた。


「ま、気にするな。俺は気にしてないし」
「けど」
「いーっていいって。それより、お前腹へってないか?」
「腹?」
「今から我が家は晩御飯なんだけど、折角だし食ってけよ。三人分あるんだけど、今日は待ち人現れずって奴でさ。俺特製の煮込みハンバーグ、激ウマだぜ」


にっと笑った円堂が誘うと、隣の一之瀬も不承不承ではあるが頷いた。


「そんな迷惑掛けるわけには」


いかねえ、と続ける前に、腹が盛大に鳴ってしまう。
主人の意向を無視した体に羞恥を堪えて俯けば、一拍の間を置いてから大爆笑した二人は愉快そうに飛鷹の肩を叩いた。


「迷惑なんかじゃねえよ。きっちりと準備と片付け手伝ってもらうからな」
「ちなみに摂取量は一人四個までだ。食は細い方?」
「いや、そんなことは」
「ならいいね。守、付け合せは何?」
「ジャガイモが大量にあったからジャーマンポテトとポタージュスープ、あと海草サラダ。デザートは特製ベークドチーズケーキだ」
「やった!まもとな料理だ!ほら君───ええと、飛鷹だっけ?お皿の準備始めるから、こっちに来て」


戸惑いながらも誘う手に招かれて近寄れば、両側から伸ばされた手に腕を捕まれぐっと引き寄せられた。
こけないよう何とかバランスを保つと、顔を上げて円堂と一之瀬を見る。
普段、学校や近隣でこのような接し方をする相手が居ないので、優しい掌に戸惑いを隠せない。
怪我だらけで路上に倒れてる明らかに怪しい人間なのに、彼らは怖くないのだろうか。
眉間に皺を寄せて考えると、すっと白い指先がぐりぐりとそこを押した。


「若い内からそんな顔してると、癖になっちまうぞ」


自分の方がずっと幼い顔立ちの癖に、円堂はそう言って笑うと入念にセットされた飛鷹の頭をかき乱すように撫ぜた。
いつもなら髪のセットを乱されると怒りに駆られるのに、何故か彼女相手だと怒れない。
全く悪気のない無邪気な笑顔の所為か、それとも馬鹿にした部分が欠片もないからなのか。
理由は判らないが、不思議な雰囲気の少女は心の中にすとんと嫌味なく入り込んだ。
光を具現化したような子供たちは、あどけない表情で楽しそうに飛鷹を促す。


「お前の担当はご飯な。俺はハンバーグ、一哉はサラダと飲み物。デザートは全部終ってから、一服してからにしような」
「リョーカイ!ほら飛鷹、おしゃもはこっちだよ」
「使い終わったら茶碗の水につけといてくれよー。米粒がかぴかぴになるのやだから」
「あ、ああ」


言われるがままに手渡された茶碗にご飯をつぎつつ、エプロン姿の円堂の指示に従って背の低いテーブルに並べると、右手に持つトレイにはスープを、空いた片手にはコレでもかとばかりにハンバーグを山盛りにした大皿を持った円堂が来て、その後ろから飲み物とコップとサラダを乗せたトレイを両手に抱えた一之瀬が現れる。
こちらがハラハラするバランスで来た二人は、飛鷹の心配も他所にくっちゃべりながら前を見ないで歩いて器用に皿をテーブルに並べた。
ほうっと安堵の息を吐く自分を前に軽やかに皿を並べた二人は、さっさと座るとぱんと手を打ち鳴らす。


「飛鷹も早く座ってくれよ」
「お前はお誕生日席ね」


座布団代わりのクッションを引いてくれたので、勢いこんで腰を下ろす。
埃が舞わなかったかと不安になったが、舞う誇りすらない部屋だった。


「んじゃ、せーの!」
『いただきます!」
「・・・いただきます」


彼らの勢いに釣られて手を合わせると食事を始める。
取り合えず手元にあるスープを口にし、滑らかな口ざわりと深い味わいに目を見開いた。
フランス料理店にでも出てきそうなこの料理は普段なら絶対に口にしない種類だ。
和風好みの飛鷹が選ばないものだが。


「美味い」
「そか?なんならおかわりいっぱいあるからドンと食ってくれよー。ほれ、ハンバーグも食った食った」
「守のハンバーグ激ウマだよ!そこらのレストランより美味しいから!」


空いてる皿にハンバーグを取ってくれた円堂と、ハムスターか何かのように頬を膨らませた一之瀬が笑顔で促す。
渡された皿を見詰め、意を決してハンバーグを箸で割って口にすると、濃厚な肉とデミグラスソースが丁度いい塩梅で口内に広がった。


「・・・美味い」


本当に美味しいときには他に言葉が見つからないものらしい。
せっせとハンバーグを口にすると、あっという間になくなった。
笑顔で飛鷹の食欲を見ていた円堂は、にこにこと皿にハンバーグを追加する。



「こっちは中にチーズ入ってるやつ。こっちは牛肉100パーセントだ!」
「今食べたのは?」
「鶏肉。俺は鶏肉派。一哉は牛肉派。そしてチーズは二人の好物だ」


へらり、と笑う円堂に頷きながら食事は進む。
気がつけば気後れや気まずさなんてどこぞの空に飛んでいて、久し振りの感覚に自然な笑顔が終始浮かんでいた。

見知らぬ他人を家にあげた上に食事まで振舞う警戒心のなさに苦笑しつつすっかり馴染んでいる自分に驚きを隠せない。
泊まっていけばとの言葉は流石に辞退したが、お土産にチーズケーキまで貰ってしまった。
夜の帳が降りた町並みをゆったりと歩き、夢みたいな時間を振り返る。
一期一会と言うけれど、この縁はまたどこかで続く気がして、それを願っている自分に苦く笑った。

明るい光の下を歩く二人と、喧嘩ばかり繰り返す自分とで道が重なるはずもないのに。

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