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うきぐもポケモン -ヌーヴォラ- :雲雀
タイプ:かくとう、エスパー
性格:きまぐれ
個性:まけずぎらい
とくせい:かたやぶり、すりぬけ
【説明】
しんかポケモンミナライからの進化系。曇りの日にするどいツメを持たせてレベルアップさせることで進化する。独特の思考回路を持ち、常に強さを求める。規律に厳しく上下関係を敷き、自身の縄張りでは独自の組織を成形する。作ったルールを守らない者は制裁対象になる。カリスマ性に優れ恐怖と同時に憧れの目でも見られる。束縛が嫌いなので滅多に人間に連れられているところを見ない。ヌーヴォラを捕らえたトレーナーは運がいいが、扱いは要注意。
綱吉は追い詰められていた。
目の前には楽しげに己の武器である爪を輝かせた雲雀に泣きたくなった。
助けてもらおうときょろきょろと視線を彷徨わせるが、高低差を利用するために平地の所々に土が盛られたフィールドには自分と彼しかいなく、唯一ある人影はトレーナーのリボーンのみ。
「チェー、リ」
白線の外で腕を組みながら意地の悪い笑みを浮かべるリボーンに、おずおずと声をかけてみたが、ふんと鼻で哂われた。
無駄に長い足を組みかえると、小馬鹿にしたように肩を竦める。
「言っておくが、雲雀が満足するまで戻す気はねえぞ」
「ヂェ!ヂェヂェヂェヂェリ!!」
「お前はどうにもやる気が感じられねぇからな。荒療治だ」
「ヂェー!!」
「雲雀は本気だぞ。満足させられなきゃ噛み殺される。雲雀、手加減はするなよ」
「ヌーヴ」
鋭い爪を光らせていた雲雀が、ゆるりと口角を上げた。
ぞくり、と背筋に嫌な寒気が走り泣きたい気持ちになる。
うきぐもポケモンの雲雀は、戦闘では綱吉と相性が悪い。
属性がかくとうとエスパーの彼には、ご遠慮願いたい特性がついていた。
「ヌーヴォ!!」
声と同時に気配がぐんと近づく。
並外れた脚力を有する雲雀は、地上から数メートルあるこの場所にも一息で飛べてしまう。
慌てて空へ逃げようとしたが、行動を起こすときにはもう眼前には彼の姿があった。
何もかも飲み込むような漆黒の瞳が綱吉を見定め、すっと細められる。
全身の毛を逆手に撫でられるような悪寒に、慌てて力を解放した。
「チェーリ!」
目の前に展開されたのは、リフレクターという技。
物理攻撃を半減する力だが、発現させた瞬間に後悔した。
「ヌヴォ」
雲雀の唇が弧を描き、鋭い爪が繰り出される。
勢いの乗った攻撃は、綱吉の技をすり抜けて直撃した。
「チェー!!」
目尻に鋭い傷が入り、溢れる血に視界が邪魔される。
羽を広げて空中へとホバリングすると、ぷるぷると恐怖に体を強張らせた。
死ぬ。むしろ殺される。
鼠を追い詰めた猫のように瞳をきらめかした雲雀から逃れようと空中を羽ばたくが、無駄に動きがいい彼は土で出来た壁を蹴り追ってくる。
どう考えても次回のマーモン戦で彼が出ればいい。
強者とやりあうことが好きな雲雀なら嬉々としてXANXUSを『咬み殺す』だろう。
涙目で逃げながら、視線を下方へやれば、ひらひらと手を振りながら輝かんばかりの笑顔を浮かべる相棒の顔。
「ヂェリー!!!」
迫り来る破壊者から死ぬ気で逃げ続ける綱吉は、この瞬間本気で己の不運を嘆いた。
結局特訓と称した甚振りは半日もぶっ通しで続き、食事時に疲労困憊した綱吉に隼人がぶちきれてひと騒動起こし、筋肉痛でぐったりとした綱吉はそんな彼らから非難しているところを、面白がった骸につんつんと突付かれた。
身に染みるような筋肉痛の恨みは、当分綱吉の心に刻まれた。
タイプ:かくとう、エスパー
性格:きまぐれ
個性:まけずぎらい
とくせい:かたやぶり、すりぬけ
【説明】
しんかポケモンミナライからの進化系。曇りの日にするどいツメを持たせてレベルアップさせることで進化する。独特の思考回路を持ち、常に強さを求める。規律に厳しく上下関係を敷き、自身の縄張りでは独自の組織を成形する。作ったルールを守らない者は制裁対象になる。カリスマ性に優れ恐怖と同時に憧れの目でも見られる。束縛が嫌いなので滅多に人間に連れられているところを見ない。ヌーヴォラを捕らえたトレーナーは運がいいが、扱いは要注意。
綱吉は追い詰められていた。
目の前には楽しげに己の武器である爪を輝かせた雲雀に泣きたくなった。
助けてもらおうときょろきょろと視線を彷徨わせるが、高低差を利用するために平地の所々に土が盛られたフィールドには自分と彼しかいなく、唯一ある人影はトレーナーのリボーンのみ。
「チェー、リ」
白線の外で腕を組みながら意地の悪い笑みを浮かべるリボーンに、おずおずと声をかけてみたが、ふんと鼻で哂われた。
無駄に長い足を組みかえると、小馬鹿にしたように肩を竦める。
「言っておくが、雲雀が満足するまで戻す気はねえぞ」
「ヂェ!ヂェヂェヂェヂェリ!!」
「お前はどうにもやる気が感じられねぇからな。荒療治だ」
「ヂェー!!」
「雲雀は本気だぞ。満足させられなきゃ噛み殺される。雲雀、手加減はするなよ」
「ヌーヴ」
鋭い爪を光らせていた雲雀が、ゆるりと口角を上げた。
ぞくり、と背筋に嫌な寒気が走り泣きたい気持ちになる。
うきぐもポケモンの雲雀は、戦闘では綱吉と相性が悪い。
属性がかくとうとエスパーの彼には、ご遠慮願いたい特性がついていた。
「ヌーヴォ!!」
声と同時に気配がぐんと近づく。
並外れた脚力を有する雲雀は、地上から数メートルあるこの場所にも一息で飛べてしまう。
慌てて空へ逃げようとしたが、行動を起こすときにはもう眼前には彼の姿があった。
何もかも飲み込むような漆黒の瞳が綱吉を見定め、すっと細められる。
全身の毛を逆手に撫でられるような悪寒に、慌てて力を解放した。
「チェーリ!」
目の前に展開されたのは、リフレクターという技。
物理攻撃を半減する力だが、発現させた瞬間に後悔した。
「ヌヴォ」
雲雀の唇が弧を描き、鋭い爪が繰り出される。
勢いの乗った攻撃は、綱吉の技をすり抜けて直撃した。
「チェー!!」
目尻に鋭い傷が入り、溢れる血に視界が邪魔される。
羽を広げて空中へとホバリングすると、ぷるぷると恐怖に体を強張らせた。
死ぬ。むしろ殺される。
鼠を追い詰めた猫のように瞳をきらめかした雲雀から逃れようと空中を羽ばたくが、無駄に動きがいい彼は土で出来た壁を蹴り追ってくる。
どう考えても次回のマーモン戦で彼が出ればいい。
強者とやりあうことが好きな雲雀なら嬉々としてXANXUSを『咬み殺す』だろう。
涙目で逃げながら、視線を下方へやれば、ひらひらと手を振りながら輝かんばかりの笑顔を浮かべる相棒の顔。
「ヂェリー!!!」
迫り来る破壊者から死ぬ気で逃げ続ける綱吉は、この瞬間本気で己の不運を嘆いた。
結局特訓と称した甚振りは半日もぶっ通しで続き、食事時に疲労困憊した綱吉に隼人がぶちきれてひと騒動起こし、筋肉痛でぐったりとした綱吉はそんな彼らから非難しているところを、面白がった骸につんつんと突付かれた。
身に染みるような筋肉痛の恨みは、当分綱吉の心に刻まれた。
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全身から力が抜けたようにひざまづくアフロディのすぐ横を駆け抜ける。
ゴールをがら空きにする不安はなかった。彼らの戦意はすでに消失されている。
戦えない相手に恐怖する理由はなく、ただひたすらにボールを目指した。
「最後の一秒まで全力で戦う」
「それが俺たちの」
「サッカーだ!!」
覚えたザ・フェニックスの勢いで上がったボールを、豪炎寺がファイアトルネードで叩き込む。
先ほどの鬼道との連携ですでに同点に追いついていた雷門は、それを決勝点へと変えた。
ホイッスルと同時に歓声が響く。
会場を揺るがすような大きさのそれは、以前日本でない場所で経験していた懐かしいものだった。
喜び体を叩き合う仲間を目を細めて眺め、そのまま視線を移動させる。
気が抜けたように突っ立っている世宇子中の面々の先頭に立つアフロディがぽつりと呟いた。
「神の力を手に入れた僕たちを倒すなんて・・・なんて奴らだ」
泣きそうな顔の少年たちに近づくと、円堂は柔らかな笑みを浮かべた。
びくり、と体を震わせたアフロディは警戒するように剣呑な眼差しを向ける。
まるで親を失った野良猫のような仕草に、思わず苦笑してしまった。
「面白い試合だったけど、次は実力で遣り合おうぜ」
「・・・神のアクアを使った挙句に負けた僕たちを、さらに貶めようという気か」
「いいや。あんな下らない薬を使わなくても、お前らなら十分強いだろ」
「だが、僕たちは君たちに負けた」
「そりゃ勝つために試合をしたからな。どんな状況でも絶対に諦めない。それが俺たちのサッカーだ。例え勝算が1%だったとしても残りの99%を気力で覆すこともあるんだぜ?それに───お前らには可能性があるだろ」
「可能性?」
「ああ。もっと、もっともっともっともっとサッカーが上手くなる可能性だ。薬で制限されてた自分自身の可能性をもっと本気で磨いて来い。そんでさ、いつか実力で今日のやり直しをしよう。それまでに、ここも鍛えて来いよ」
ウィンクして、心臓の部分をとんとんと拳で叩く。
技術や体力も勿論必要だが、大切なのは想いの在り処。仲間を信じ、自分を信じ、勝利を信じる心の強さ。
驚きで見開かれた目が徐々に通常の大きさに戻ると、端整な顔を情けなく歪めてアフロディは苦笑した。
「君には、敵わないな。聞きしに勝る変わり者ぶりだ。何とかと天才は紙一重と言うが、果たして君はどっちなんだろうね?」
「ははっ、失礼だな少年」
「少年じゃない。僕の名前は亜風炉照美。アフロディと呼んでくれ」
「・・・俺の名前は円堂守。好きに呼んでくれていいぜ」
コケティッシュな笑みを浮かべて差し出した掌は、しっかりと握りこまれた。
視線を絡ませ見詰めあい、にっと唇を持ち上げる。
薬の所為で濁っていた瞳には彼本来のものであろう輝きが取り戻され、これなら大丈夫かと頷いた。
神のアクア。人体を強化する目的のそれは、異物だからこそ副作用があるだろう。
今は気づいていない反応だが、近い内に彼らはそれに苦しめられるに違いない。
その時に、交わした会話を思い出してくれれば、と思う。本気でサッカーを続ける気なら、心を強く持ちさえすれば何事も乗り越えられるはずだから。
掌を離し、去っていく彼らを見送る。そして視線をそのまま上に上げた。
観客席から僅かに離れた場所で、彼は全てを見ていただろう。今頃は、また鬼瓦の手により移送されているところかもしれない。
同じ道を歩けないと手を放したのはこちらが先なのに、どうしても最後の最後で捨てられない。
これは甘さなのか、果ては恩師に対する未練なのか。複雑な感情は制御しきれないが、唯一つわかるのは、変わって欲しいと願う心だけ。
自分に残された限りある時間の内に、確かに慈しんでくれた恩師が、サッカーを与えてくれた影山に、救いをと望む。
「ったく、そんなの俺の柄じゃないのにな」
「円堂?」
背後からの唐突な声に、油断していた、と内心で舌打ちし振り返るときには笑顔を取り繕う。
不思議そうに小首を傾げている豪炎寺に、陽気に手を上げた。
「おう、豪炎寺。気分はどうだ?」
「───最高だ」
ハイタッチをしてそのまま握りこんだ手を胸元まで下げると、顔がぐっと近づいた。
彼の胸元には珍しく妹の夕香からプレゼントされたペンダントが出されていて、今度は偽りではない笑みを浮かべる。
今回の勝利は彼にとっても大きい。願掛けをして一途に勝利へ執念を燃やしていたのだ。それも当然だろう。
無念のリタイアを余儀なくされた去年と違い、妹へと今度こそ捧げられた優勝だ。
普段の仏頂面がにこにこと笑みを刻んでいて、可愛いの、と内心で呟く。
この優勝を捧げる相手が居ない円堂と違い、彼はとても輝いていた。
仲間と得た優勝は自分にとっても掛け替えがないものだが、それは付属品的な価値しかない。
目的も果たしひと段落ついた今では将来(さき)を考えなくてはいけないが、瞬き一つで複雑な感情を飲み下し会場中からの祝福を受け入れた。
「なれたのかな、俺たち。伝説のイナズマイレブンに」
雷門中に嘗て存在した、最高のサッカーチーム。
それに準えて問うと、豪炎寺は試合中のような好戦的な笑みで首を振った。
「いや・・・伝説は、これから始まるんだ」
力強い台詞に瞳が丸くなると、次いでくしゃりと表情を崩した。
つい先日までサッカーを二度としないと啖呵を切っていた人物とは思えない自信たっぷりの言葉は、彼が仲間と積み重ねて得た色々なもののおかげだろう。
サッカーだけでなく心の成長に一役買った仲間たちは、嬉しさを隠さずに観客へ手を振っている。
無邪気な子供のような姿に瞳を細め、ふわりと微笑んだ。
慈しみに溢れどこか寂しさが漂う笑みだったが、他の誰かに気づかれる前に痕跡も残さず消す。
すぐに来る未来ではなく、今はこの喜びに浸ると決めると、握ったままの掌に力を篭めて引っ張るとバランスを崩した豪炎寺に正面から抱きついた。
「うわっ!!?」
「よっし、やったな豪炎寺!夕香ちゃんへ最高の土産が出来たじゃないか」
顔を赤らめて慌てた豪炎寺の耳元で後半は囁くと、目を見開いて、次いで泣きそうに潤ませると頷いた。
素直な反応はやはり可愛い。いい子いい子と頭を撫でると、後ろから襟首を掴まれる。
予想外に遠慮のない力に驚いていると、ぽんと背中を軽い衝撃が襲った。
「・・・円堂。もう少し、慎みを持て。澄ました顔をしているが、豪炎寺だって男だ」
「風丸」
「守はちょっとでも目を放すと糸が切れた風船みたいに飛んでくんだから」
「一哉」
「姉さん、いい加減にしてください。あなたは俺の姉さんなんですよ?ふしだらな真似は止めてください」
「有人」
襟首を三方から掴んだ彼らは、じとりと眉間に皺を寄せて睨んできた。
中々迫力ある様子にへらりと笑うと、益々渋い顔をされる。
未だに優勝に浸り観客に手を振る他の仲間とは違い、頭の後ろで手を組みながらこちらの窺う土門に視線を向けるとひらひらと手を振られた。
「無理。俺に助けを求めても、助ける気もないしその三人相手に助けられもしないから」
「───土門のヘタレ」
「酷っ!襟首掴んでる三人責めないで俺を責めるの!?」
「だって土門傍観者じゃん。中立の立場気取って助けてくれないなんて、冷たいんだー」
無理やり三人を引き摺って土門にしがみ付くと奇声を上げられた。
変な人形みたいで面白くてぐいぐいとくっつくと、後ろに張り付いていた三人が視線を鋭くしたらしくひっと土門が息を呑む。
首が開放され土門が囲まれるタイミングを見て、ささっと隙間から抜け出した。
しゃがみこみ、ずきりと体の中心に響くような痛みに顔を俯ける。
円堂?と災難に巻き込まれなかった唯一の人間である豪炎寺から戸惑うように声を掛けられ、深呼吸一つで息を整える。
何気ない仕草で額から流れた冷や汗を拭うと、緊張感のない笑みを浮かべた。
「んじゃ、豪炎寺行こうか?」
「行くって、何処へ」
「そんなん、あいつらんとこに決まってるだろ。優勝を仲間で分かち合わなくてどうするよ」
ぐっと膝に力を入れて伸び上がるように立つと、きょとんとした顔の豪炎寺の手を取った。
後ろから四人に呼びかけられるが気にせず後輩たちの間に走りこむ。
突然の襲撃に瞳を丸めた彼らは、次の瞬間に大きな声で笑った。
水色の絵の具をぶちまけたみたいな青空は、とても眩くて直視できないほど輝いていた。
ゴールをがら空きにする不安はなかった。彼らの戦意はすでに消失されている。
戦えない相手に恐怖する理由はなく、ただひたすらにボールを目指した。
「最後の一秒まで全力で戦う」
「それが俺たちの」
「サッカーだ!!」
覚えたザ・フェニックスの勢いで上がったボールを、豪炎寺がファイアトルネードで叩き込む。
先ほどの鬼道との連携ですでに同点に追いついていた雷門は、それを決勝点へと変えた。
ホイッスルと同時に歓声が響く。
会場を揺るがすような大きさのそれは、以前日本でない場所で経験していた懐かしいものだった。
喜び体を叩き合う仲間を目を細めて眺め、そのまま視線を移動させる。
気が抜けたように突っ立っている世宇子中の面々の先頭に立つアフロディがぽつりと呟いた。
「神の力を手に入れた僕たちを倒すなんて・・・なんて奴らだ」
泣きそうな顔の少年たちに近づくと、円堂は柔らかな笑みを浮かべた。
びくり、と体を震わせたアフロディは警戒するように剣呑な眼差しを向ける。
まるで親を失った野良猫のような仕草に、思わず苦笑してしまった。
「面白い試合だったけど、次は実力で遣り合おうぜ」
「・・・神のアクアを使った挙句に負けた僕たちを、さらに貶めようという気か」
「いいや。あんな下らない薬を使わなくても、お前らなら十分強いだろ」
「だが、僕たちは君たちに負けた」
「そりゃ勝つために試合をしたからな。どんな状況でも絶対に諦めない。それが俺たちのサッカーだ。例え勝算が1%だったとしても残りの99%を気力で覆すこともあるんだぜ?それに───お前らには可能性があるだろ」
「可能性?」
「ああ。もっと、もっともっともっともっとサッカーが上手くなる可能性だ。薬で制限されてた自分自身の可能性をもっと本気で磨いて来い。そんでさ、いつか実力で今日のやり直しをしよう。それまでに、ここも鍛えて来いよ」
ウィンクして、心臓の部分をとんとんと拳で叩く。
技術や体力も勿論必要だが、大切なのは想いの在り処。仲間を信じ、自分を信じ、勝利を信じる心の強さ。
驚きで見開かれた目が徐々に通常の大きさに戻ると、端整な顔を情けなく歪めてアフロディは苦笑した。
「君には、敵わないな。聞きしに勝る変わり者ぶりだ。何とかと天才は紙一重と言うが、果たして君はどっちなんだろうね?」
「ははっ、失礼だな少年」
「少年じゃない。僕の名前は亜風炉照美。アフロディと呼んでくれ」
「・・・俺の名前は円堂守。好きに呼んでくれていいぜ」
コケティッシュな笑みを浮かべて差し出した掌は、しっかりと握りこまれた。
視線を絡ませ見詰めあい、にっと唇を持ち上げる。
薬の所為で濁っていた瞳には彼本来のものであろう輝きが取り戻され、これなら大丈夫かと頷いた。
神のアクア。人体を強化する目的のそれは、異物だからこそ副作用があるだろう。
今は気づいていない反応だが、近い内に彼らはそれに苦しめられるに違いない。
その時に、交わした会話を思い出してくれれば、と思う。本気でサッカーを続ける気なら、心を強く持ちさえすれば何事も乗り越えられるはずだから。
掌を離し、去っていく彼らを見送る。そして視線をそのまま上に上げた。
観客席から僅かに離れた場所で、彼は全てを見ていただろう。今頃は、また鬼瓦の手により移送されているところかもしれない。
同じ道を歩けないと手を放したのはこちらが先なのに、どうしても最後の最後で捨てられない。
これは甘さなのか、果ては恩師に対する未練なのか。複雑な感情は制御しきれないが、唯一つわかるのは、変わって欲しいと願う心だけ。
自分に残された限りある時間の内に、確かに慈しんでくれた恩師が、サッカーを与えてくれた影山に、救いをと望む。
「ったく、そんなの俺の柄じゃないのにな」
「円堂?」
背後からの唐突な声に、油断していた、と内心で舌打ちし振り返るときには笑顔を取り繕う。
不思議そうに小首を傾げている豪炎寺に、陽気に手を上げた。
「おう、豪炎寺。気分はどうだ?」
「───最高だ」
ハイタッチをしてそのまま握りこんだ手を胸元まで下げると、顔がぐっと近づいた。
彼の胸元には珍しく妹の夕香からプレゼントされたペンダントが出されていて、今度は偽りではない笑みを浮かべる。
今回の勝利は彼にとっても大きい。願掛けをして一途に勝利へ執念を燃やしていたのだ。それも当然だろう。
無念のリタイアを余儀なくされた去年と違い、妹へと今度こそ捧げられた優勝だ。
普段の仏頂面がにこにこと笑みを刻んでいて、可愛いの、と内心で呟く。
この優勝を捧げる相手が居ない円堂と違い、彼はとても輝いていた。
仲間と得た優勝は自分にとっても掛け替えがないものだが、それは付属品的な価値しかない。
目的も果たしひと段落ついた今では将来(さき)を考えなくてはいけないが、瞬き一つで複雑な感情を飲み下し会場中からの祝福を受け入れた。
「なれたのかな、俺たち。伝説のイナズマイレブンに」
雷門中に嘗て存在した、最高のサッカーチーム。
それに準えて問うと、豪炎寺は試合中のような好戦的な笑みで首を振った。
「いや・・・伝説は、これから始まるんだ」
力強い台詞に瞳が丸くなると、次いでくしゃりと表情を崩した。
つい先日までサッカーを二度としないと啖呵を切っていた人物とは思えない自信たっぷりの言葉は、彼が仲間と積み重ねて得た色々なもののおかげだろう。
サッカーだけでなく心の成長に一役買った仲間たちは、嬉しさを隠さずに観客へ手を振っている。
無邪気な子供のような姿に瞳を細め、ふわりと微笑んだ。
慈しみに溢れどこか寂しさが漂う笑みだったが、他の誰かに気づかれる前に痕跡も残さず消す。
すぐに来る未来ではなく、今はこの喜びに浸ると決めると、握ったままの掌に力を篭めて引っ張るとバランスを崩した豪炎寺に正面から抱きついた。
「うわっ!!?」
「よっし、やったな豪炎寺!夕香ちゃんへ最高の土産が出来たじゃないか」
顔を赤らめて慌てた豪炎寺の耳元で後半は囁くと、目を見開いて、次いで泣きそうに潤ませると頷いた。
素直な反応はやはり可愛い。いい子いい子と頭を撫でると、後ろから襟首を掴まれる。
予想外に遠慮のない力に驚いていると、ぽんと背中を軽い衝撃が襲った。
「・・・円堂。もう少し、慎みを持て。澄ました顔をしているが、豪炎寺だって男だ」
「風丸」
「守はちょっとでも目を放すと糸が切れた風船みたいに飛んでくんだから」
「一哉」
「姉さん、いい加減にしてください。あなたは俺の姉さんなんですよ?ふしだらな真似は止めてください」
「有人」
襟首を三方から掴んだ彼らは、じとりと眉間に皺を寄せて睨んできた。
中々迫力ある様子にへらりと笑うと、益々渋い顔をされる。
未だに優勝に浸り観客に手を振る他の仲間とは違い、頭の後ろで手を組みながらこちらの窺う土門に視線を向けるとひらひらと手を振られた。
「無理。俺に助けを求めても、助ける気もないしその三人相手に助けられもしないから」
「───土門のヘタレ」
「酷っ!襟首掴んでる三人責めないで俺を責めるの!?」
「だって土門傍観者じゃん。中立の立場気取って助けてくれないなんて、冷たいんだー」
無理やり三人を引き摺って土門にしがみ付くと奇声を上げられた。
変な人形みたいで面白くてぐいぐいとくっつくと、後ろに張り付いていた三人が視線を鋭くしたらしくひっと土門が息を呑む。
首が開放され土門が囲まれるタイミングを見て、ささっと隙間から抜け出した。
しゃがみこみ、ずきりと体の中心に響くような痛みに顔を俯ける。
円堂?と災難に巻き込まれなかった唯一の人間である豪炎寺から戸惑うように声を掛けられ、深呼吸一つで息を整える。
何気ない仕草で額から流れた冷や汗を拭うと、緊張感のない笑みを浮かべた。
「んじゃ、豪炎寺行こうか?」
「行くって、何処へ」
「そんなん、あいつらんとこに決まってるだろ。優勝を仲間で分かち合わなくてどうするよ」
ぐっと膝に力を入れて伸び上がるように立つと、きょとんとした顔の豪炎寺の手を取った。
後ろから四人に呼びかけられるが気にせず後輩たちの間に走りこむ。
突然の襲撃に瞳を丸めた彼らは、次の瞬間に大きな声で笑った。
水色の絵の具をぶちまけたみたいな青空は、とても眩くて直視できないほど輝いていた。
*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。
海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
ごほり、と咳をした瞬間に、口を押さえた手の隙間から赤い液体がだらだらと零れる。
ウソップ、と悲鳴のような声で叫んだ仲間の声をBGMに、自身の武器を片手に跪いた。
目の前に立つのは海軍大将の内一人、黄猿。
麦わらの一味にとって因縁深い相手は、悔しいが今でもウソップ一人では勝てない相手だ。
全力で戦い、いいところで相打ち。自分の実力を理解するからこそ、冷静に計算できた。
「・・・くそっ」
「しぶといねぇ、全く。これだから嫌だよ、麦わらの一味は。主戦力じゃないのに、ま~だ生き残ってる」
ゆったりと独特の口調で話す黄猿に眉を顰めた。
お前はいつまで現役気取ってんだチクショウ、と叫びたいが、今それをしたら確実に死ぬ。
ウソップの基本は『命を大事に』だ。経験から死んでしまったら何も意味がないのは、嫌になるほど見てきた。
それに今ここでウソップが倒れれば危険なのは自分だけじゃない。
海楼石をつけられて泣いているチョッパーや、何故か首に鎖をつけられたブルックも危うい。
彼らがウソップの人質であると同時に、ウソップは彼らの人質だった。
どうにも動けぬ状態に舌打する。
きな臭い状況だったのはわかっていたのに、と短慮な行動に後悔した。
そもそもよく考えてみれば、メンバーわけからしておかしい。
フランキー、ロビン、ゾロ。
ルフィ、ナミ、サンジ。
自然とあまりものとして残された自分たちが組んだが、戦力を公平に分けましょうと胸を張ったナミは、フランキーとロビンとゾロが纏まった瞬間に即効でルフィとサンジを連れて走り去った。
そもそもの始まりも彼女が海軍から手に入れた地図を見て宝の匂いがすると目をベリーへと変えたのが切欠なのに、一言全力で物申したい。
むしろ一言じゃすまない。
地べたについていた手を、ぐっと土ごと握り締めた。
「くそ、ナミの野郎、自分だけ生き延びる道を模索しやがって」
「・・・あれあれ~?まだ話す余裕があるんのかい?本当に大したものだねぇ」
ゆったりとした口調でいながらも容赦なく光を浴びせた黄猿の攻撃を避けきれず足が貫かれた。
痛みに冗談じゃなく転がると、すぐ耳元で砂利を踏みしめる音が聞こえる。
まずい、と顔を上げたらすぐそこに黄猿の顔があった。
「やれやれ、ルーキーの頃から面倒だったけど、無駄に力をつけちゃって。一思いに楽にしてやるから、そこで寝転がってなよ~」
仲間の悲鳴を聞きながら、無防備に顔を近づけた黄猿に血塗れの顔で笑いかけた。
訝しげに眉を顰めた彼が行動を起こす一瞬前に、握り締めた砂を投げつける。
光である彼の体を砂粒は通り過ぎたが、欲しかったのは一瞬の隙だ。
ウソップを弱者だと決め付けた黄猿を唯一相手に取れるとしたら、その油断を利用するしかない。
手についた赤い液体だって単なる血糊だし、実際は見た目ほど酷い傷は負っていなかった。
自分の武器は手にした巨大パチンコと、いざというとき高速回転して逃げ道を探す知恵。
備えあれば憂いなしとはこのことだ。
すうっと息を吸い込み、喉も張り裂けよと声を上げた。
「今だー!!」
「っ!?」
驚く黄猿の背後から拳と刀が同時に滑り込む。
頭を狙った拳と、胴体を狙った刀は吸い込まれるように黄猿へ向かい、ぎりぎりのところで光に転化した彼に避けられた。
眼前に突き出された刀身に息が止まる。
「こらぁ、ゾロ!おれを殺す気か!!」
「これくらい避けろ」
「無茶言うな!おれはお前らみたいな武闘派じゃねえんだよ!!」
とんとんと抜いた一刀で肩を軽く叩きながら呆れ混じりに訴える剣士を、唾を飛ばしながら睨み付ける。
だが全く効果なしで、くるりと背を向けたゾロは再び黄猿へと向かって行った。
代わりとばかりに残ったルフィが、ゾロの攻撃により腰の抜けたウソップに笑いかける。
差し伸ばされた手に掴まるとぐいと引っ張られ肩に半身を預けるような体制になった。
「よく頑張ったな、ウソップ。おかげでチョッパーやブルックも助けれた」
「・・・本気で死ぬかと思ったわ」
「ししし、生きててよかったな」
「無邪気に言うな!おれじゃ時間稼ぎが精一杯なんだ、頼むからもっと緊張感を持ってくれ~!」
至近距離で滂沱の涙を流して訴えるが、やはり彼は飄々と笑ったままだ。
この辺の無神経さはゾロも含めてルーキー時代から変わらない。
それこそが彼らの強さの基準かもしれないが、自分には本気で無理だ。
ちらり、と視線を囚われていた二人に向ければ、おお泣きしたチョッパーがロビンへ飛びつき、便乗しようとしたブルックがサンジとナミに蹴り飛ばされていた。
海兵を彼らが持っていたロープでふんじばっていたフランキーは、呆れを含んだ顔で窘め中心の一人のはずのロビンはころころと笑っている。
未だにゾロと黄猿が戦っている前で、度胸が良すぎる彼らを羨ましく思いながら蚤の心臓を跳ねさせていると、ずり落ちそうになる体を抱えなおされた。
「落ちるなよ、ウソップ。どうやら、面倒なのが増えた」
「へ?」
「あれ見ろ」
ルフィが指差した先には、戦桃丸がパシフィスタを幾体も連れて姿を見せた。
顎が外れるかもしれない勢いであんぐりと口を開け、事実を確認しようと瞬きを繰り返す。
「おい、ルフィ!あれ!あの戦桃丸が連れてるパシフィスタって、最新のじゃ」
「ししし、みたいだな。ゾロは手を放せねえし、数がちょっとばかし多すぎる」
「数が多いのは見りゃ判る!どうすんだ!?」
「おれは別に相手してもいいぞ」
「馬鹿言うなー!!相手してもいいけど、じゃなくてここは戦略的撤退だろうが!さっさと指示を出せぇ!!」
怪我も忘れてがっくんがっくんと首を揺さぶってやれば、目を回しながらもルフィが仲間に指示を出した。
あからさまにホッとした顔をしたグループと、チッと舌打するグループに別れたが、ウソップは勿論前者だ。
カブトを構えると、流れるような動きで照準を合わせた。
「必殺、超煙星!!」
名前どおりに白煙が辺りを包み、視界が奪われる。
全力で気配のない方向へ走り抜けると、隣から楽しそうな笑い声が聞こえ、手探りで探り当てた頭を『見つかるだろうが』と思い切りぶん殴った。
スーパーポジティブな船長の隣でスーパーネガティブな狙撃手は己の運を今日も悲観する。
未だにどうしようもない部分がある海賊王に付き合うのは、幾つ命があっても本気で足りない。
それでも選んだ道を後悔しないのだから、馬鹿だなあと自嘲しながらも生き延びるために走り続けるしかないのだろう。
ちなみに船に戻った後、陰険な術を使い自分たちを置いていった航海士と誰が一番弱いかという議論を交わしたが───結局、昔と同じで結論が出なかったのだけは蛇足しておく。
海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
ごほり、と咳をした瞬間に、口を押さえた手の隙間から赤い液体がだらだらと零れる。
ウソップ、と悲鳴のような声で叫んだ仲間の声をBGMに、自身の武器を片手に跪いた。
目の前に立つのは海軍大将の内一人、黄猿。
麦わらの一味にとって因縁深い相手は、悔しいが今でもウソップ一人では勝てない相手だ。
全力で戦い、いいところで相打ち。自分の実力を理解するからこそ、冷静に計算できた。
「・・・くそっ」
「しぶといねぇ、全く。これだから嫌だよ、麦わらの一味は。主戦力じゃないのに、ま~だ生き残ってる」
ゆったりと独特の口調で話す黄猿に眉を顰めた。
お前はいつまで現役気取ってんだチクショウ、と叫びたいが、今それをしたら確実に死ぬ。
ウソップの基本は『命を大事に』だ。経験から死んでしまったら何も意味がないのは、嫌になるほど見てきた。
それに今ここでウソップが倒れれば危険なのは自分だけじゃない。
海楼石をつけられて泣いているチョッパーや、何故か首に鎖をつけられたブルックも危うい。
彼らがウソップの人質であると同時に、ウソップは彼らの人質だった。
どうにも動けぬ状態に舌打する。
きな臭い状況だったのはわかっていたのに、と短慮な行動に後悔した。
そもそもよく考えてみれば、メンバーわけからしておかしい。
フランキー、ロビン、ゾロ。
ルフィ、ナミ、サンジ。
自然とあまりものとして残された自分たちが組んだが、戦力を公平に分けましょうと胸を張ったナミは、フランキーとロビンとゾロが纏まった瞬間に即効でルフィとサンジを連れて走り去った。
そもそもの始まりも彼女が海軍から手に入れた地図を見て宝の匂いがすると目をベリーへと変えたのが切欠なのに、一言全力で物申したい。
むしろ一言じゃすまない。
地べたについていた手を、ぐっと土ごと握り締めた。
「くそ、ナミの野郎、自分だけ生き延びる道を模索しやがって」
「・・・あれあれ~?まだ話す余裕があるんのかい?本当に大したものだねぇ」
ゆったりとした口調でいながらも容赦なく光を浴びせた黄猿の攻撃を避けきれず足が貫かれた。
痛みに冗談じゃなく転がると、すぐ耳元で砂利を踏みしめる音が聞こえる。
まずい、と顔を上げたらすぐそこに黄猿の顔があった。
「やれやれ、ルーキーの頃から面倒だったけど、無駄に力をつけちゃって。一思いに楽にしてやるから、そこで寝転がってなよ~」
仲間の悲鳴を聞きながら、無防備に顔を近づけた黄猿に血塗れの顔で笑いかけた。
訝しげに眉を顰めた彼が行動を起こす一瞬前に、握り締めた砂を投げつける。
光である彼の体を砂粒は通り過ぎたが、欲しかったのは一瞬の隙だ。
ウソップを弱者だと決め付けた黄猿を唯一相手に取れるとしたら、その油断を利用するしかない。
手についた赤い液体だって単なる血糊だし、実際は見た目ほど酷い傷は負っていなかった。
自分の武器は手にした巨大パチンコと、いざというとき高速回転して逃げ道を探す知恵。
備えあれば憂いなしとはこのことだ。
すうっと息を吸い込み、喉も張り裂けよと声を上げた。
「今だー!!」
「っ!?」
驚く黄猿の背後から拳と刀が同時に滑り込む。
頭を狙った拳と、胴体を狙った刀は吸い込まれるように黄猿へ向かい、ぎりぎりのところで光に転化した彼に避けられた。
眼前に突き出された刀身に息が止まる。
「こらぁ、ゾロ!おれを殺す気か!!」
「これくらい避けろ」
「無茶言うな!おれはお前らみたいな武闘派じゃねえんだよ!!」
とんとんと抜いた一刀で肩を軽く叩きながら呆れ混じりに訴える剣士を、唾を飛ばしながら睨み付ける。
だが全く効果なしで、くるりと背を向けたゾロは再び黄猿へと向かって行った。
代わりとばかりに残ったルフィが、ゾロの攻撃により腰の抜けたウソップに笑いかける。
差し伸ばされた手に掴まるとぐいと引っ張られ肩に半身を預けるような体制になった。
「よく頑張ったな、ウソップ。おかげでチョッパーやブルックも助けれた」
「・・・本気で死ぬかと思ったわ」
「ししし、生きててよかったな」
「無邪気に言うな!おれじゃ時間稼ぎが精一杯なんだ、頼むからもっと緊張感を持ってくれ~!」
至近距離で滂沱の涙を流して訴えるが、やはり彼は飄々と笑ったままだ。
この辺の無神経さはゾロも含めてルーキー時代から変わらない。
それこそが彼らの強さの基準かもしれないが、自分には本気で無理だ。
ちらり、と視線を囚われていた二人に向ければ、おお泣きしたチョッパーがロビンへ飛びつき、便乗しようとしたブルックがサンジとナミに蹴り飛ばされていた。
海兵を彼らが持っていたロープでふんじばっていたフランキーは、呆れを含んだ顔で窘め中心の一人のはずのロビンはころころと笑っている。
未だにゾロと黄猿が戦っている前で、度胸が良すぎる彼らを羨ましく思いながら蚤の心臓を跳ねさせていると、ずり落ちそうになる体を抱えなおされた。
「落ちるなよ、ウソップ。どうやら、面倒なのが増えた」
「へ?」
「あれ見ろ」
ルフィが指差した先には、戦桃丸がパシフィスタを幾体も連れて姿を見せた。
顎が外れるかもしれない勢いであんぐりと口を開け、事実を確認しようと瞬きを繰り返す。
「おい、ルフィ!あれ!あの戦桃丸が連れてるパシフィスタって、最新のじゃ」
「ししし、みたいだな。ゾロは手を放せねえし、数がちょっとばかし多すぎる」
「数が多いのは見りゃ判る!どうすんだ!?」
「おれは別に相手してもいいぞ」
「馬鹿言うなー!!相手してもいいけど、じゃなくてここは戦略的撤退だろうが!さっさと指示を出せぇ!!」
怪我も忘れてがっくんがっくんと首を揺さぶってやれば、目を回しながらもルフィが仲間に指示を出した。
あからさまにホッとした顔をしたグループと、チッと舌打するグループに別れたが、ウソップは勿論前者だ。
カブトを構えると、流れるような動きで照準を合わせた。
「必殺、超煙星!!」
名前どおりに白煙が辺りを包み、視界が奪われる。
全力で気配のない方向へ走り抜けると、隣から楽しそうな笑い声が聞こえ、手探りで探り当てた頭を『見つかるだろうが』と思い切りぶん殴った。
スーパーポジティブな船長の隣でスーパーネガティブな狙撃手は己の運を今日も悲観する。
未だにどうしようもない部分がある海賊王に付き合うのは、幾つ命があっても本気で足りない。
それでも選んだ道を後悔しないのだから、馬鹿だなあと自嘲しながらも生き延びるために走り続けるしかないのだろう。
ちなみに船に戻った後、陰険な術を使い自分たちを置いていった航海士と誰が一番弱いかという議論を交わしたが───結局、昔と同じで結論が出なかったのだけは蛇足しておく。
「久し振りだな、守」
授業を終え、イタリアに帰ると二週間ぶりに顔を合わせる人が居て、素の状態で瞬きを繰り返す。
豪奢で座り心地のいいソファに足を組みゆったりとした態度でいる彼は、守にとって父や弟と違う意味で特別な人。
「総帥!」
ぱあっと顔を輝かせ、執事の前だというのにスカートを靡かせ走り寄る。
エドガーとお揃いのリボンで緩い三つ網にした髪が揺れ、ノンフレームの伊達眼鏡が顔からずれる。
いつもどおりサングラスに黒服の影山の前で足を止めると、眼鏡を指の腹で押し上げてスカートの端を持ちちょこりと礼をした。
「ご機嫌麗しゅう、総帥」
「息災でいたか?」
「はい」
頭に伸びた手を子猫のように三日月形に目を細めて享受すれば、くくくっと喉を奮わせた影山は執事に視線で退出を促した。
意味を素早く察知した執事が一礼し部屋から出て行くのを見送り、気配が遠ざかったのを確認して眼鏡を外して机に置く。
髪を結わえていたリボンも解いてポニーテールにすると、にいっと先ほどまでより遥かに悪戯っぽい笑みを浮かべて飛びついた。
「どうしたんだよ、総帥!連絡もなしで来るなんて珍しいじゃん!」
「急に飛びついたら危ないだろうが。そんなのでも一応女の子なんだ、気をつけなさい」
「はーい。で、どうして俺んとこに来てくれたの?日本の学校の監督は辞めたの?」
柳眉を寄せた影山に窘められ冗談だよと肩を竦める。だが渋面を気にせずに膝の上に身を乗り出して問い詰めれば、仕方がないとばかりにため息を吐いた影山は、両脇の下に手を潜らすと小柄な体を抱き上げた。
今よりももっと小さな頃によくして貰った体勢。擽ったさに笑うと、また頭を撫でられる。
「相変わらず落ち着きがない。それで鬼道の娘が務まるのか?」
「何とかなるもんだぜ。俺って、天才だから」
「言っていろ」
呆れたような声で、それでも笑う影山に身を寄せる。
口では利用するだけだといいながら、頭を撫でる仕草は優しい。
様々な重責やプラスアルファがあるけれど、あらゆる意味で守にサッカーを与えてくれた恩師は、ひょいと胸元からDVDを取り出した。
差し出されたそれを受け取り、裏面と表面を確認する。
白い表面にも薄いケースにもラベルはなくて内容は全くわからない。
「これ、何?」
「お前にとても縁が深い映像が納まっている」
「縁が深い?どういう意味?」
「───そのDVDには、お前の祖父円堂大介の現役時代の映像が納まっている。何しろ私が子供時代のものだからな。映像を集めるのに苦労した」
「へぇ」
小器用に指先でケースを回し、気のない返事をした。
円堂大介。その昔、サッカー界に新風を送り込んだ偉大なゴールキーパー。
日本のゴールを背負う彼は、守護神として全国へ名を轟かせた素晴らしいプレイヤーだったらしい。
与えられた情報から思い出せる限りのことを指折りあげてもこの程度だ。
血が繋がっているとは言え、顔も知らない温もりも知らない相手で、生前の母親から実父についてほとんど話も聞いてない。
彼女が子供の頃に亡くなったと聞いているので、片親での苦労も多かったのだろう。
おかげでサッカー嫌いなった母親に制限され満足にボールにすら触れれない幼少時代を送らざるを得なかった。
サッカーがしたいと鉄塔広場で涙を零した回数も一度や二度じゃない。
もしかすると、このサッカーに対する焦がれるような想いだけが彼から受け継いだものかもしれないな、と自分より余程円堂大介に固執する恩師を見上げれば、彼もまたこちらを一心に見詰めていた。
「その中には映像と共に私が円堂大介の必殺技を解析したデータも入っている」
「ふーん」
「次に日本に帰ってくるまでに、お前はその中にある技を習得しておけ」
「技って、でも、円堂大介はGKだったんだろ?俺のポジションはMFだぜ?」
「───守。私が覚えろといった技は」
「全部覚えろって?判った、判ったよ。でも次に会うのは日本に帰ってからで、冬休み挟んだから大体一月後だろ?覚える技は簡単なの?」
「いいや、伝説とまで言われた技だ。円堂大介が日本のゴールを守るために使った技、『マジン・ザ・ハンド』」
「・・・本気で言ってるの?俺、チームの練習やお嬢様の勤めもあるんだけど?」
「お前がイタリアに渡る前、私は全てのポジションの基礎を叩き込んだ。私が育てた天才、『鬼道守』が『円堂大介』の技を盗めぬはずがない」
違うか、と問われ肩を竦めた。
どちらにせよ初めから守に選択肢などない。師である影山が覚えろと言えば、是と応えて実行する。
彼が執着するのは『円堂大介の孫』。理由や意味は知らないし、知る必要もない。
ただ自分の可能性を伸ばせるなら守に否はない。
貪欲にサッカーを欲する守を誰より理解する影山だけが機会をくれるというなら、彼の言い分に逆らう気はない。
「・・・リョーカイ。もう一年近キーパーの練習してないから、なまってないといいけどね」
「シュートは受けてなくとも基礎は続けているだろう。地下修練場にタイヤがぶら下がってたぞ」
「ふふ、優秀な教え子だろ?『基礎の反復はよりよい状態を維持するために必須』だからな」
「ああ、そうだな。お前ほど優秀な教え子はいない。お前ならじきにイタリアサッカー界を変えるだろう」
「まかせてよ。俺はイタリアから世界に出る。他の誰でもない、あなたから教えられたサッカーでね」
首に腕を巻いて頬を摺り寄せると、ぽんぽんとあやすように背中を叩かれた。
心地よい振動にくふふと声を漏らすと、猫みたいだと呆れられた。
「それにしても」
「何だ?」
「あなたももっと実用的な技を開発すればいいのに。皇帝ペンギン1号もビーストファングも俺以外には扱えないだろ?理想を形にしたとしても選手が潰れるような技は駄目だろ」
「それはお前じゃなく私が決めることだ。お前はお前の実力を上げることだけ考えておけばいい。───そう言えば、最近は南イタリアのフィディオ・アルデナと親しくしているようだな」
「ん?さすがに情報早いね。うん。あいつ、サッカーセンスも抜群だし、格好いいし性格もいい。今はライバルだけど、もしかしたら、近い将来一緒のチームでプレイするかもしれない」
「ほう・・・お前にしてはべた褒めだな。噂以上にいい選手らしい」
「まあね。あなたも一度プレイを見てみるといい。きっと、気にいるよ」
指を立ててウィンクする。ぴんと長い指先で額を弾かれ唇を尖らせると、影山はくつくつと楽しげに喉を奮わせた。
「私のお前ほど優秀ではないだろうが、次回の試合は見てみるとしよう」
「そうしなよ」
「ああ。さて、練習でも始めるか?今日明日とスケジュールを空けたから、みっちりとしごいてやる」
「そりゃ怖いな。でも総帥のメニューは効率的だから好きだ。あ、そうだ。俺の新技見てよ。微調整が上手くいかないんだ。日本では総帥も俺も忙しいし、俺の作った技のチェックまでは見てもらえないもんな」
「かまわん」
満足げに頷いた影山は、守を片腕に座らせるよう抱き上げた。
痩身だが以外に筋肉がついているので安心して身を預けていると、そのまま出口へと向かう。
トレーニングウェアへ着替えさせるために私室へと連れて行く気なのだろう。
ドアを開けるとそこで待機していた執事と一瞬眼が合い、彼は慌てて頭をさげた。
昔から鬼道家に仕える彼は、普段は誰かに表立って甘えない守が影山に抱き上げられるのも幾度も目にしている。
驚きでざわめくメイドを宥め、夕食まで戻らないと伝えた守に一礼し姿を消した。
絵画や観葉植物が飾られている廊下に出て、リビングから一つ角を曲がり二部屋目が守の私室だ。
長い廊下を靴音を立てて歩く影山は、たわいない会話の途中で不意に思い出したと口を開いた。
「そう言えば、面白い話を耳にした」
「何?総帥の面白い話って、そもそも本当に面白いの?」
「さあな。だがお前も興味は持つだろう。何しろお前の許婚の話だからな」
「許婚って・・・エドガー?」
「ああ。彼は愛しの許婚の趣味に合わせて、サッカーを始めたそうだ。バルチナス財閥でチームを作ってな」
「・・・エドガーが」
流石に驚いて目を丸くすると、やはり知らなかったかと影山が呟く。
以前教えたいことがあると楽しそうに嘯いていたが、これのことだったか。
なら、今知ってしまったのは少し申し訳ない。彼は自分で守に知らせたかっただろうから。
それにしても、サッカーなどと言っていたエドガーがチームを作るなど信じられない。
彼の趣味はオペラやクラシック鑑賞、美術館巡りや馬術にフェンシングだったと思ったが、意外すぎた。
なんにでも万能なエドガーだから本気で打ち込めばいいプレイヤーになるだろうが、それだけの情熱が果たしてあるのか。
小首を傾げた守に、影山は内緒話をするよう声を潜めてとっておきの情報を与えた。
「彼の作ったチームの名は『ナイツオブクィーン』。直訳すればイギリス紳士らしく女王陛下に対するものだろうが───さて、彼が想う本当の女王は誰だろうな」
「・・・・・・」
嫌そうに眉間に皺を寄せてすっぱい顔をした守に、らしくない笑い声を上げた恩師は心底愉快そうだった。
授業を終え、イタリアに帰ると二週間ぶりに顔を合わせる人が居て、素の状態で瞬きを繰り返す。
豪奢で座り心地のいいソファに足を組みゆったりとした態度でいる彼は、守にとって父や弟と違う意味で特別な人。
「総帥!」
ぱあっと顔を輝かせ、執事の前だというのにスカートを靡かせ走り寄る。
エドガーとお揃いのリボンで緩い三つ網にした髪が揺れ、ノンフレームの伊達眼鏡が顔からずれる。
いつもどおりサングラスに黒服の影山の前で足を止めると、眼鏡を指の腹で押し上げてスカートの端を持ちちょこりと礼をした。
「ご機嫌麗しゅう、総帥」
「息災でいたか?」
「はい」
頭に伸びた手を子猫のように三日月形に目を細めて享受すれば、くくくっと喉を奮わせた影山は執事に視線で退出を促した。
意味を素早く察知した執事が一礼し部屋から出て行くのを見送り、気配が遠ざかったのを確認して眼鏡を外して机に置く。
髪を結わえていたリボンも解いてポニーテールにすると、にいっと先ほどまでより遥かに悪戯っぽい笑みを浮かべて飛びついた。
「どうしたんだよ、総帥!連絡もなしで来るなんて珍しいじゃん!」
「急に飛びついたら危ないだろうが。そんなのでも一応女の子なんだ、気をつけなさい」
「はーい。で、どうして俺んとこに来てくれたの?日本の学校の監督は辞めたの?」
柳眉を寄せた影山に窘められ冗談だよと肩を竦める。だが渋面を気にせずに膝の上に身を乗り出して問い詰めれば、仕方がないとばかりにため息を吐いた影山は、両脇の下に手を潜らすと小柄な体を抱き上げた。
今よりももっと小さな頃によくして貰った体勢。擽ったさに笑うと、また頭を撫でられる。
「相変わらず落ち着きがない。それで鬼道の娘が務まるのか?」
「何とかなるもんだぜ。俺って、天才だから」
「言っていろ」
呆れたような声で、それでも笑う影山に身を寄せる。
口では利用するだけだといいながら、頭を撫でる仕草は優しい。
様々な重責やプラスアルファがあるけれど、あらゆる意味で守にサッカーを与えてくれた恩師は、ひょいと胸元からDVDを取り出した。
差し出されたそれを受け取り、裏面と表面を確認する。
白い表面にも薄いケースにもラベルはなくて内容は全くわからない。
「これ、何?」
「お前にとても縁が深い映像が納まっている」
「縁が深い?どういう意味?」
「───そのDVDには、お前の祖父円堂大介の現役時代の映像が納まっている。何しろ私が子供時代のものだからな。映像を集めるのに苦労した」
「へぇ」
小器用に指先でケースを回し、気のない返事をした。
円堂大介。その昔、サッカー界に新風を送り込んだ偉大なゴールキーパー。
日本のゴールを背負う彼は、守護神として全国へ名を轟かせた素晴らしいプレイヤーだったらしい。
与えられた情報から思い出せる限りのことを指折りあげてもこの程度だ。
血が繋がっているとは言え、顔も知らない温もりも知らない相手で、生前の母親から実父についてほとんど話も聞いてない。
彼女が子供の頃に亡くなったと聞いているので、片親での苦労も多かったのだろう。
おかげでサッカー嫌いなった母親に制限され満足にボールにすら触れれない幼少時代を送らざるを得なかった。
サッカーがしたいと鉄塔広場で涙を零した回数も一度や二度じゃない。
もしかすると、このサッカーに対する焦がれるような想いだけが彼から受け継いだものかもしれないな、と自分より余程円堂大介に固執する恩師を見上げれば、彼もまたこちらを一心に見詰めていた。
「その中には映像と共に私が円堂大介の必殺技を解析したデータも入っている」
「ふーん」
「次に日本に帰ってくるまでに、お前はその中にある技を習得しておけ」
「技って、でも、円堂大介はGKだったんだろ?俺のポジションはMFだぜ?」
「───守。私が覚えろといった技は」
「全部覚えろって?判った、判ったよ。でも次に会うのは日本に帰ってからで、冬休み挟んだから大体一月後だろ?覚える技は簡単なの?」
「いいや、伝説とまで言われた技だ。円堂大介が日本のゴールを守るために使った技、『マジン・ザ・ハンド』」
「・・・本気で言ってるの?俺、チームの練習やお嬢様の勤めもあるんだけど?」
「お前がイタリアに渡る前、私は全てのポジションの基礎を叩き込んだ。私が育てた天才、『鬼道守』が『円堂大介』の技を盗めぬはずがない」
違うか、と問われ肩を竦めた。
どちらにせよ初めから守に選択肢などない。師である影山が覚えろと言えば、是と応えて実行する。
彼が執着するのは『円堂大介の孫』。理由や意味は知らないし、知る必要もない。
ただ自分の可能性を伸ばせるなら守に否はない。
貪欲にサッカーを欲する守を誰より理解する影山だけが機会をくれるというなら、彼の言い分に逆らう気はない。
「・・・リョーカイ。もう一年近キーパーの練習してないから、なまってないといいけどね」
「シュートは受けてなくとも基礎は続けているだろう。地下修練場にタイヤがぶら下がってたぞ」
「ふふ、優秀な教え子だろ?『基礎の反復はよりよい状態を維持するために必須』だからな」
「ああ、そうだな。お前ほど優秀な教え子はいない。お前ならじきにイタリアサッカー界を変えるだろう」
「まかせてよ。俺はイタリアから世界に出る。他の誰でもない、あなたから教えられたサッカーでね」
首に腕を巻いて頬を摺り寄せると、ぽんぽんとあやすように背中を叩かれた。
心地よい振動にくふふと声を漏らすと、猫みたいだと呆れられた。
「それにしても」
「何だ?」
「あなたももっと実用的な技を開発すればいいのに。皇帝ペンギン1号もビーストファングも俺以外には扱えないだろ?理想を形にしたとしても選手が潰れるような技は駄目だろ」
「それはお前じゃなく私が決めることだ。お前はお前の実力を上げることだけ考えておけばいい。───そう言えば、最近は南イタリアのフィディオ・アルデナと親しくしているようだな」
「ん?さすがに情報早いね。うん。あいつ、サッカーセンスも抜群だし、格好いいし性格もいい。今はライバルだけど、もしかしたら、近い将来一緒のチームでプレイするかもしれない」
「ほう・・・お前にしてはべた褒めだな。噂以上にいい選手らしい」
「まあね。あなたも一度プレイを見てみるといい。きっと、気にいるよ」
指を立ててウィンクする。ぴんと長い指先で額を弾かれ唇を尖らせると、影山はくつくつと楽しげに喉を奮わせた。
「私のお前ほど優秀ではないだろうが、次回の試合は見てみるとしよう」
「そうしなよ」
「ああ。さて、練習でも始めるか?今日明日とスケジュールを空けたから、みっちりとしごいてやる」
「そりゃ怖いな。でも総帥のメニューは効率的だから好きだ。あ、そうだ。俺の新技見てよ。微調整が上手くいかないんだ。日本では総帥も俺も忙しいし、俺の作った技のチェックまでは見てもらえないもんな」
「かまわん」
満足げに頷いた影山は、守を片腕に座らせるよう抱き上げた。
痩身だが以外に筋肉がついているので安心して身を預けていると、そのまま出口へと向かう。
トレーニングウェアへ着替えさせるために私室へと連れて行く気なのだろう。
ドアを開けるとそこで待機していた執事と一瞬眼が合い、彼は慌てて頭をさげた。
昔から鬼道家に仕える彼は、普段は誰かに表立って甘えない守が影山に抱き上げられるのも幾度も目にしている。
驚きでざわめくメイドを宥め、夕食まで戻らないと伝えた守に一礼し姿を消した。
絵画や観葉植物が飾られている廊下に出て、リビングから一つ角を曲がり二部屋目が守の私室だ。
長い廊下を靴音を立てて歩く影山は、たわいない会話の途中で不意に思い出したと口を開いた。
「そう言えば、面白い話を耳にした」
「何?総帥の面白い話って、そもそも本当に面白いの?」
「さあな。だがお前も興味は持つだろう。何しろお前の許婚の話だからな」
「許婚って・・・エドガー?」
「ああ。彼は愛しの許婚の趣味に合わせて、サッカーを始めたそうだ。バルチナス財閥でチームを作ってな」
「・・・エドガーが」
流石に驚いて目を丸くすると、やはり知らなかったかと影山が呟く。
以前教えたいことがあると楽しそうに嘯いていたが、これのことだったか。
なら、今知ってしまったのは少し申し訳ない。彼は自分で守に知らせたかっただろうから。
それにしても、サッカーなどと言っていたエドガーがチームを作るなど信じられない。
彼の趣味はオペラやクラシック鑑賞、美術館巡りや馬術にフェンシングだったと思ったが、意外すぎた。
なんにでも万能なエドガーだから本気で打ち込めばいいプレイヤーになるだろうが、それだけの情熱が果たしてあるのか。
小首を傾げた守に、影山は内緒話をするよう声を潜めてとっておきの情報を与えた。
「彼の作ったチームの名は『ナイツオブクィーン』。直訳すればイギリス紳士らしく女王陛下に対するものだろうが───さて、彼が想う本当の女王は誰だろうな」
「・・・・・・」
嫌そうに眉間に皺を寄せてすっぱい顔をした守に、らしくない笑い声を上げた恩師は心底愉快そうだった。
真っ直ぐな望美の質問を笑顔で受け止めた少女は、微かに首を傾ける。
無邪気であどけない仕草であるのに不思議と色気が漂い、同性でありながら見惚れてしまった。
格好は以前と同じメイド服。もしかしたら仕事の休憩時間に抜けてくれたのかもしれないと今更ながらに気がつく。
優雅な仕草でカップを手に取り一口お茶を飲むと、ゆっくりと息を吐き出した。
「・・・私は『鬼』の船の在り処など知りません」
「───隠し通しても意味はないよ。あなたが黙秘を通すなら、あなたの主である橘卿に問いただすだけ」
「友雅さんは何も知りませんよ」
「何も知らない?」
「ええ。何も聞かず、何も調べない。それが私があの人の傍に居る条件ですから」
ふわり、と微笑みを浮かべたあかねは新緑のような瞳を伏せる。
眉を下げて笑う姿は今にも泣き出しそうで、それでも気丈に顔を上げた。
「望美様が何処まで私を調べたのか存知かねますが、私を調べても無意味です。だって」
一拍置いて、声を震わせながら吐き出す息と共に、漸く言葉を告げた。
「───その昔、『紫の姫』と呼ばれる姫が極東の島に住んでいました」
「あかねさん?」
「ほんの『御伽噺』です。興味はありませんか?」
真っ直ぐに射抜く視線は強く、こくりと喉を鳴らす。
彼女が何故『御伽噺』をはじめようとしたかは理解できないが、それが譲歩だと敏感に悟った。
「いいえ。聞きたい」
瞳を見返し頷けば、柔らかく微笑んだ彼女は瞬き一つで態度を一変させた。
「今はもう昔のこと。東の国に『紫の姫』と呼ばれる少女がおりました。生まれながらに島を守る龍に神子として選ばれた少女は、社と呼ばれる住まいから毎日外を眺めて暮らしました。少女は神に愛された存在。島の住民には、少女も神に等しかったのです」
遠くを見るように瞳を細めて、揺れるカップの中心を見詰めるあかねは微笑みを絶やさない。
「少女には幼馴染が二人いました。部屋から出ることの叶わない少女の世界は、窓から眺める景色と彼らの話から想像する光景だけ。歴代で最高の力を持つと言われた『紫の姫』。彼女の毎日は島の住民の幸せを祈る、ただそれだけ。毎日毎日それを繰り返し十四年経ったとき、少女の日常に異変が起こりました」
一拍間を置くと、こくりとまた一口お茶を飲み込む。
カップに注がれた茶の表面が波立っていて、あかねが震えているのに気がついたが、止めようとしたら視線で制された。
深呼吸を繰り返して、また語りを始める。
「『鬼』と呼ばれる者たちの襲来です」
「・・・『鬼』の襲来!?でも、『鬼』が住む海域は東ではなくてこっちでしょう?」
「さあ、詳しいことは私も知りません。唯一つ言えるのは、『鬼』が一時期でも極東の島に住み、住民に迫害されて海へと逃げ延びたという真実だけ。歴史の闇に隠された話です。その見た目と異形の力ゆえに彼らはどの地でも迫害された伝承が残っています。勿論、望美様が住むこの国でも。───しかしながら歴史を語るのは勝者のみ。視点が変われば内容も変わります。『鬼』にとっては迫害でも、こちらの人間にとっては成敗。歴史とは、そんなものです」
淡々としたあかねの発言に感情は混じらない。
それだけに心に響く何かがあり、望美はきゅっと眉根を寄せる。
難しい顔をした望美にあかねは少しだけ口角を上げた。
「あまり深く考えないで下さいな。単なる『御伽噺』ですもの。そこからの話しは早いです。『紫の姫』は歴代で最高の力を持っていた。しかし同時に力を活かしきれぬ弱点も抱えていた」
「弱点?」
「ええ。通常神子が天元する場合、龍より授かりし玉が守護者を選びます。『八葉』と呼ばれる彼らの内、『紫の姫』の元にいたのはただ二人。力を活かしきれぬ神子は龍の力に縋ろうとしましたが、それも許されませんでした」
「何故?」
「『鬼』に幼馴染と、そして住民の命を盾に取られたからです。抵抗できぬ住民に対し、『鬼』達はもっとも効果的な罰を与えました。何か判りますか?」
「・・・まさか」
「そう、そのまさかです。『鬼』たちは、命を救う代わりに神とも崇める神子を差し出せと要求したのです」
「『紫の姫』はどうなったの?」
「ご想像の通りですよ」
ならば最悪だと眉根を寄せた望美は、紅茶を一息に飲み干した。
温くなっていたそれは十分な味ではないが、喉を潤すには足りる。
胸の中に渦巻く嫌な感情を制御しきれないでいると、ふふっと鈴を転がしたような笑い声が聞こえた。
「望美様はお優しいですね」
「・・・そうでもないよ。ただ自分の身の安全の代わりに他の誰かを差し出した彼らに納得できないだけ」
「反対してくれた人たちもいたらしいですよ?例えば、幼馴染の二人とか」
「どちらにせよ聞き入れられなかったなら同じだよ」
「ふふふふふ。では、この続きのお話は止めておきますか?」
「続き?」
「ええ。もう少しだけお話はあります。どうします?」
問いかけられ、渋い顔をしたまま聞かせてと強請ると、あかねは益々笑みを深めた。
「『鬼』の復讐はそれで終わりではありませんでした」
「終わりじゃない?でも、島の住民には尊厳を踏み躙るという罰を与え、さらに島から姫も奪ったんでしょう?」
「ええ。けれど、肝心の姫に対しての復讐が残っていたんです。『紫の姫』は始めこそ泣き暮らしてましたが、次第に『鬼』達に慣れていきました。一年経ち、二年経ち、世界を見て回る『鬼』の船こそが居場所だと勘違いした時に、それは起こりました」
「『紫の姫』は何をされたの?」
「捨てられたんです。見ず知らずの土地に、一人きりで。前日は少女の十六歳の誕生日でした。飲んで食べて祝福され───目覚めたときには砂浜に一人きり。地平線の何処を探しても船の影すら見つかりません。そうして『紫の姫』は長い夢から目を覚ましたのです」
おしまい、と手を打ったあかねは楽しげに望美の顔を窺った。
「どうですか、今の話」
「どうって・・・あまり後味がいいものじゃないね」
「お気に召しませんでしたか。残念です、折角作ったのに」
「作った?」
「ええ、勿論。始めにお伝えしたでしょう?ほんの『御伽噺』ですって」
上品な仕草で口元に手を当てて笑うあかねは、望美に向かって囁いた。
「嘘かもしれないし、本当かもしれない。『御伽噺』はそういうものです。───では、美味しいお茶をありがとうございました。次があるかわかりませんけど、またお会いできたらいいですね」
ぺこりとメイドらしく頭を下げたあかねは、止める間もなく去っていった。
あっという間に人ごみに紛れた姿に、柳眉を顰め嘆息する。
「将臣君」
「何だ?」
「今の話、本当だと思う?それとも嘘だと思う?」
「さあ、どっちだろうな」
背中合わせに座る幼馴染に問いかけると、素っ気無く返された。
元の髪色を茶色に染めた将臣の背中を軽く叩くと、結局大した収穫なしかと行儀悪く机に懐いた。
無邪気であどけない仕草であるのに不思議と色気が漂い、同性でありながら見惚れてしまった。
格好は以前と同じメイド服。もしかしたら仕事の休憩時間に抜けてくれたのかもしれないと今更ながらに気がつく。
優雅な仕草でカップを手に取り一口お茶を飲むと、ゆっくりと息を吐き出した。
「・・・私は『鬼』の船の在り処など知りません」
「───隠し通しても意味はないよ。あなたが黙秘を通すなら、あなたの主である橘卿に問いただすだけ」
「友雅さんは何も知りませんよ」
「何も知らない?」
「ええ。何も聞かず、何も調べない。それが私があの人の傍に居る条件ですから」
ふわり、と微笑みを浮かべたあかねは新緑のような瞳を伏せる。
眉を下げて笑う姿は今にも泣き出しそうで、それでも気丈に顔を上げた。
「望美様が何処まで私を調べたのか存知かねますが、私を調べても無意味です。だって」
一拍置いて、声を震わせながら吐き出す息と共に、漸く言葉を告げた。
「───その昔、『紫の姫』と呼ばれる姫が極東の島に住んでいました」
「あかねさん?」
「ほんの『御伽噺』です。興味はありませんか?」
真っ直ぐに射抜く視線は強く、こくりと喉を鳴らす。
彼女が何故『御伽噺』をはじめようとしたかは理解できないが、それが譲歩だと敏感に悟った。
「いいえ。聞きたい」
瞳を見返し頷けば、柔らかく微笑んだ彼女は瞬き一つで態度を一変させた。
「今はもう昔のこと。東の国に『紫の姫』と呼ばれる少女がおりました。生まれながらに島を守る龍に神子として選ばれた少女は、社と呼ばれる住まいから毎日外を眺めて暮らしました。少女は神に愛された存在。島の住民には、少女も神に等しかったのです」
遠くを見るように瞳を細めて、揺れるカップの中心を見詰めるあかねは微笑みを絶やさない。
「少女には幼馴染が二人いました。部屋から出ることの叶わない少女の世界は、窓から眺める景色と彼らの話から想像する光景だけ。歴代で最高の力を持つと言われた『紫の姫』。彼女の毎日は島の住民の幸せを祈る、ただそれだけ。毎日毎日それを繰り返し十四年経ったとき、少女の日常に異変が起こりました」
一拍間を置くと、こくりとまた一口お茶を飲み込む。
カップに注がれた茶の表面が波立っていて、あかねが震えているのに気がついたが、止めようとしたら視線で制された。
深呼吸を繰り返して、また語りを始める。
「『鬼』と呼ばれる者たちの襲来です」
「・・・『鬼』の襲来!?でも、『鬼』が住む海域は東ではなくてこっちでしょう?」
「さあ、詳しいことは私も知りません。唯一つ言えるのは、『鬼』が一時期でも極東の島に住み、住民に迫害されて海へと逃げ延びたという真実だけ。歴史の闇に隠された話です。その見た目と異形の力ゆえに彼らはどの地でも迫害された伝承が残っています。勿論、望美様が住むこの国でも。───しかしながら歴史を語るのは勝者のみ。視点が変われば内容も変わります。『鬼』にとっては迫害でも、こちらの人間にとっては成敗。歴史とは、そんなものです」
淡々としたあかねの発言に感情は混じらない。
それだけに心に響く何かがあり、望美はきゅっと眉根を寄せる。
難しい顔をした望美にあかねは少しだけ口角を上げた。
「あまり深く考えないで下さいな。単なる『御伽噺』ですもの。そこからの話しは早いです。『紫の姫』は歴代で最高の力を持っていた。しかし同時に力を活かしきれぬ弱点も抱えていた」
「弱点?」
「ええ。通常神子が天元する場合、龍より授かりし玉が守護者を選びます。『八葉』と呼ばれる彼らの内、『紫の姫』の元にいたのはただ二人。力を活かしきれぬ神子は龍の力に縋ろうとしましたが、それも許されませんでした」
「何故?」
「『鬼』に幼馴染と、そして住民の命を盾に取られたからです。抵抗できぬ住民に対し、『鬼』達はもっとも効果的な罰を与えました。何か判りますか?」
「・・・まさか」
「そう、そのまさかです。『鬼』たちは、命を救う代わりに神とも崇める神子を差し出せと要求したのです」
「『紫の姫』はどうなったの?」
「ご想像の通りですよ」
ならば最悪だと眉根を寄せた望美は、紅茶を一息に飲み干した。
温くなっていたそれは十分な味ではないが、喉を潤すには足りる。
胸の中に渦巻く嫌な感情を制御しきれないでいると、ふふっと鈴を転がしたような笑い声が聞こえた。
「望美様はお優しいですね」
「・・・そうでもないよ。ただ自分の身の安全の代わりに他の誰かを差し出した彼らに納得できないだけ」
「反対してくれた人たちもいたらしいですよ?例えば、幼馴染の二人とか」
「どちらにせよ聞き入れられなかったなら同じだよ」
「ふふふふふ。では、この続きのお話は止めておきますか?」
「続き?」
「ええ。もう少しだけお話はあります。どうします?」
問いかけられ、渋い顔をしたまま聞かせてと強請ると、あかねは益々笑みを深めた。
「『鬼』の復讐はそれで終わりではありませんでした」
「終わりじゃない?でも、島の住民には尊厳を踏み躙るという罰を与え、さらに島から姫も奪ったんでしょう?」
「ええ。けれど、肝心の姫に対しての復讐が残っていたんです。『紫の姫』は始めこそ泣き暮らしてましたが、次第に『鬼』達に慣れていきました。一年経ち、二年経ち、世界を見て回る『鬼』の船こそが居場所だと勘違いした時に、それは起こりました」
「『紫の姫』は何をされたの?」
「捨てられたんです。見ず知らずの土地に、一人きりで。前日は少女の十六歳の誕生日でした。飲んで食べて祝福され───目覚めたときには砂浜に一人きり。地平線の何処を探しても船の影すら見つかりません。そうして『紫の姫』は長い夢から目を覚ましたのです」
おしまい、と手を打ったあかねは楽しげに望美の顔を窺った。
「どうですか、今の話」
「どうって・・・あまり後味がいいものじゃないね」
「お気に召しませんでしたか。残念です、折角作ったのに」
「作った?」
「ええ、勿論。始めにお伝えしたでしょう?ほんの『御伽噺』ですって」
上品な仕草で口元に手を当てて笑うあかねは、望美に向かって囁いた。
「嘘かもしれないし、本当かもしれない。『御伽噺』はそういうものです。───では、美味しいお茶をありがとうございました。次があるかわかりませんけど、またお会いできたらいいですね」
ぺこりとメイドらしく頭を下げたあかねは、止める間もなく去っていった。
あっという間に人ごみに紛れた姿に、柳眉を顰め嘆息する。
「将臣君」
「何だ?」
「今の話、本当だと思う?それとも嘘だと思う?」
「さあ、どっちだろうな」
背中合わせに座る幼馴染に問いかけると、素っ気無く返された。
元の髪色を茶色に染めた将臣の背中を軽く叩くと、結局大した収穫なしかと行儀悪く机に懐いた。
更新内容
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