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 目を閉ざすなどという選択肢は持っていない。それは今まさに処刑されんとする彼も同じらしく、首に刀を突きつけられた状況でも余裕を失わずふてぶてしい表情を浮かべている。さすが歴戦の戦士と言うべきなのだろう。
 唇に刷いた笑みは神楽が良く知るもので、とても死刑にされる虜囚が浮かべるものではない。今からでも『神楽ちゃん』と名を呼び駆け出してきそうな、そんな見慣れたものだった。
 神楽は何故こうなったのか判らなかった。父が今まさに処刑されようとするその理由も、彼が抵抗しない理由も。そして、彼に刀を突きつけている男や歌舞伎町では見ない豪勢な衣装を着た者達がその光景を歪な笑みで持って眺めているのかも。
 息を殺し、気配を殺し、瞬きすら惜しみその光景を眺める神楽には判らない。
 ただ、唯一理解できるのは自分の父が冤罪で殺され、そして彼がそれに抵抗していないという一点のみ。悲しみも限界を超えると涙も零れないらしい。飛んでいった父の首を眺め神楽は瞬きを繰り返す。首から上を失った体は、歪な噴水のように血を吹き出した。

 真っ赤に染まる。視界も、世界も、何もかもが。

 渦巻く感情は複雑で、どうすればいいか判らなかった。無意識の内に握っていた壁が、みしりと音を立てて砕け散る。

「どうだ、じゃじゃ馬」

 背後から声が聞こえた。それは以前にも数度聴いたことがあるもので、神楽をこの場に招いた持ち主のものでもある。傍らに置いていた傘に手をやると、振り返らずに一閃した。
 鈍い感触を伝えたそれに、笑う気配が空気を震動させる。何もかもが煩わしい。怒り、悲しみ、悔しさ、苦しみ。全てが混じり、何を発露させればいいか判らない。

「憎いだろ?親父を殺したあいつらが。お前の親父は何もしてない。ただこの国の役職の玩具になり見せしめに死んでいった。見ただろう、あいつらの笑顔を。あんなに醜悪なもの、お前は見たことあるか?なぁ、憎いだろう?殺したくて仕方ないはずだ。俺はそうだった。俺もあいつらに奪われた。俺ならお前の気持ちを理解できる。俺も目の前で殺されたからな」

 暗示を掛けるように繰り返されるそれは、沈んでいく神楽の心を縛った。優しくきつく、逃れようがない力で。

「俺と共に来い。お前の望みを果たしてやる」

 何よりも甘い誘惑に、逆らう術は見つけれなかった。

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