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自分の腕の中で、彼女は柔らかく形を変える。
スレンダーでしなやかな体つきだが、出るところは出ている体型の彼女はとても抱き心地がよく誂えたように琥一の腕に納まった。
胸に掌を押し付け距離を測ろうとする彼女に犬歯を剥き出しにして笑うと、微弱な抵抗を抑えるため更に強く腕に力を篭めた。
大型の動物が甘えるように鼻先を首へ擦り付ける。
首を竦めたのか、頬を掠めた髪からふわりと甘い香が立ち上る。
「・・・もっと、傍に来い」
我ながら嫌になるくらいに甘ったれた声。
だが、いいだろう。
どうせこれは、都合のいい夢なのだから。
「・・・おい」
地べたを這いずった低い声が知らず漏れる。
寝起きな所為で僅かに掠れているそれは、しかしながら彼の怒りを薄めるには至らない。
目の前に並ぶ二対の瞳をじとりと睨みつければ、へらり、と琥一の気分を逆なでするように二人は笑った。
「人の部屋で何してやがる」
「母さんに頼まれてコウを起こしに来たんだ。ね、冬姫」
「そうそう。私達っていい子だよね、琉夏君」
系統は違っても綺麗な顔立ちの二人が微笑めば場が華やぐ。
高校時代よりも少しばかり黒くなった髪を一つに纏めている繊細な美形の琉夏。
さらさらの肩を少し超える髪に小花のヘアピンを差し込んだ愛らしく整った顔立ちの冬姫。
だがその美貌にも見慣れた琥一は彼らの微笑みなんかに誤魔化されはしなかった。
「俺が聞いてんのは、お前らが部屋に居る理由じゃなくて」
「お前らが何で俺の部屋で携帯やデジカメ構えてんのかってことだ!」
苛立ちに逆らわず布団を跳ね上げると、手に持っていた何かを投げつけた。
それは狙い違わず琉夏の顔面にクリーンヒットし、ずるずると床に落ちる。
そんな琥一すらデジカメで激写していた冬姫をギロリと睨みつければ、えへへとごまかし笑いをしながらそそくさとデジカメを鞄に仕舞った。
「酷い、コウ。折角冬姫と二人でプレゼントしたのに」
「ああ?」
「これ。等身大抱き枕」
「名づけて『コウ君1号・兔だからって舐めんじゃねえぞ★』だよ」
「・・・・・・」
全く悪びれない二人に紹介されたそれは、随分とシュールな兔(?)だった。
琉夏が膝立ちで抱き上げてもまだ膝が伸びている大きなそれは、兔にしては少々目がニヒルすぎ、意地の悪い三日月形に口元が上がっており、何故か髪の毛があった。しかもリーゼント。
中学時代の制服を思わせる黒の学ランを身に纏い、短い眉がインパクトがある。
色は黒だが、可愛げがない。これが世間で流行のキモカワだろうか。
それ以前に何なんだそのネーミングセンス。ダサすぎる。
不細工な兔は琥一が持つ枕よりも随分と柔らかそうで、布も琉夏の手に沿ってよく伸びていた。
「素材はビーンズクッションと同じだよ。何と俺と冬姫の合作です」
「見てよこの学ラン。裏に『四露死苦』って刺繍頑張って入れたんだ」
「柔らかくて抱き心地がいいんだ。あ、手洗いOKだよ」
「一応着替えセットは琥一君とお揃いのパジャマと、ワイシャツにズボンのセットがあるよ。もしリクエストがあったら作るから言ってね」
「この眉がアクセントなんだ。コウそっくりだろ?」
「それは琉夏君がつけたんだよ。凄いよね」
「リーゼントは冬姫のアイディアだ。コウらしくて笑える」
「我ながら傑作だと思うよ。ね、琉夏君」
「ね、冬姫」
誰かこのきゃらきゃらと笑っている馬鹿二人を静かにさせてくれないだろうか。
この馬鹿どもの言葉を並べると、まるで琥一をモデルにこのへんてこ兔を作ったみたいではないか。
止めて欲しい。この阿呆どもには、琥一はこんな変に映っているのだろうか。
ならばイメチェンも辞さない覚悟だと唇を噛み締めると。
『HAPPYBIRTHDAY!』
嬉しそうに、誉められるのを待つ子供のように馬鹿二人が微笑んでクラッカーを鳴らした。
何処から取り出したんだとか、寝起きにこれはないだろうとか、誰がこれを片付けるんだとか言いたいことは山ほどあるが。
にこにこしながら自分の反応を伺う琉夏と冬姫に、眉尻を下げると仕方ないと苦笑した。
「サンキュ」
どうしようもない馬鹿だが、二人は琥一にとって特別だった。
そしてきっと彼らにとっても琥一は特別だろう。
だから大学がある冬姫が朝一番で桜井家に足を伸ばしたのだろうし、バイトと受験勉強の合間に琉夏もプレゼントの用意をしたのだろう。
琥一の反応を想像しながら針と布を握る彼らを想像すると、何とも微笑ましく胸の奥が暖かくなる。
嬉しそうに表情を崩した琥一に、琉夏がにっと唇を上げ近づいた。
そして。
「ちなみに香は冬姫の香水と同じ。いい夢見れただろ?」
ぼそりと囁かれ、まさかと息を詰まらせた。
ぼんと勢い良く顔が赤く染まり、それを見ていた冬姫が目をまん丸にする。
「どうかしたの、琥一君?」
「っ、何でも、ねえよ!!」
伸ばされた腕を避け、布団にもぐった琥一は知らない。
彼が寝ている間に侵入を果たした二人組みが、『コウ君1号・兔だからって舐めんじゃねえぞ★』をそっと琥一のベッドへと潜り込ませ、尚且つ十数分を撮影タイムに費やしたことも、琥一の寝言ごと琉夏が携帯にきっちりと撮影していたことも、後日それが発覚し、発狂しそうなくらい羞恥に悶えることも、幸運にもまだ知らずにいられた。
三人の中で一番年上に当たる彼の受難はまだまだ続きそうだ。
スレンダーでしなやかな体つきだが、出るところは出ている体型の彼女はとても抱き心地がよく誂えたように琥一の腕に納まった。
胸に掌を押し付け距離を測ろうとする彼女に犬歯を剥き出しにして笑うと、微弱な抵抗を抑えるため更に強く腕に力を篭めた。
大型の動物が甘えるように鼻先を首へ擦り付ける。
首を竦めたのか、頬を掠めた髪からふわりと甘い香が立ち上る。
「・・・もっと、傍に来い」
我ながら嫌になるくらいに甘ったれた声。
だが、いいだろう。
どうせこれは、都合のいい夢なのだから。
「・・・おい」
地べたを這いずった低い声が知らず漏れる。
寝起きな所為で僅かに掠れているそれは、しかしながら彼の怒りを薄めるには至らない。
目の前に並ぶ二対の瞳をじとりと睨みつければ、へらり、と琥一の気分を逆なでするように二人は笑った。
「人の部屋で何してやがる」
「母さんに頼まれてコウを起こしに来たんだ。ね、冬姫」
「そうそう。私達っていい子だよね、琉夏君」
系統は違っても綺麗な顔立ちの二人が微笑めば場が華やぐ。
高校時代よりも少しばかり黒くなった髪を一つに纏めている繊細な美形の琉夏。
さらさらの肩を少し超える髪に小花のヘアピンを差し込んだ愛らしく整った顔立ちの冬姫。
だがその美貌にも見慣れた琥一は彼らの微笑みなんかに誤魔化されはしなかった。
「俺が聞いてんのは、お前らが部屋に居る理由じゃなくて」
「お前らが何で俺の部屋で携帯やデジカメ構えてんのかってことだ!」
苛立ちに逆らわず布団を跳ね上げると、手に持っていた何かを投げつけた。
それは狙い違わず琉夏の顔面にクリーンヒットし、ずるずると床に落ちる。
そんな琥一すらデジカメで激写していた冬姫をギロリと睨みつければ、えへへとごまかし笑いをしながらそそくさとデジカメを鞄に仕舞った。
「酷い、コウ。折角冬姫と二人でプレゼントしたのに」
「ああ?」
「これ。等身大抱き枕」
「名づけて『コウ君1号・兔だからって舐めんじゃねえぞ★』だよ」
「・・・・・・」
全く悪びれない二人に紹介されたそれは、随分とシュールな兔(?)だった。
琉夏が膝立ちで抱き上げてもまだ膝が伸びている大きなそれは、兔にしては少々目がニヒルすぎ、意地の悪い三日月形に口元が上がっており、何故か髪の毛があった。しかもリーゼント。
中学時代の制服を思わせる黒の学ランを身に纏い、短い眉がインパクトがある。
色は黒だが、可愛げがない。これが世間で流行のキモカワだろうか。
それ以前に何なんだそのネーミングセンス。ダサすぎる。
不細工な兔は琥一が持つ枕よりも随分と柔らかそうで、布も琉夏の手に沿ってよく伸びていた。
「素材はビーンズクッションと同じだよ。何と俺と冬姫の合作です」
「見てよこの学ラン。裏に『四露死苦』って刺繍頑張って入れたんだ」
「柔らかくて抱き心地がいいんだ。あ、手洗いOKだよ」
「一応着替えセットは琥一君とお揃いのパジャマと、ワイシャツにズボンのセットがあるよ。もしリクエストがあったら作るから言ってね」
「この眉がアクセントなんだ。コウそっくりだろ?」
「それは琉夏君がつけたんだよ。凄いよね」
「リーゼントは冬姫のアイディアだ。コウらしくて笑える」
「我ながら傑作だと思うよ。ね、琉夏君」
「ね、冬姫」
誰かこのきゃらきゃらと笑っている馬鹿二人を静かにさせてくれないだろうか。
この馬鹿どもの言葉を並べると、まるで琥一をモデルにこのへんてこ兔を作ったみたいではないか。
止めて欲しい。この阿呆どもには、琥一はこんな変に映っているのだろうか。
ならばイメチェンも辞さない覚悟だと唇を噛み締めると。
『HAPPYBIRTHDAY!』
嬉しそうに、誉められるのを待つ子供のように馬鹿二人が微笑んでクラッカーを鳴らした。
何処から取り出したんだとか、寝起きにこれはないだろうとか、誰がこれを片付けるんだとか言いたいことは山ほどあるが。
にこにこしながら自分の反応を伺う琉夏と冬姫に、眉尻を下げると仕方ないと苦笑した。
「サンキュ」
どうしようもない馬鹿だが、二人は琥一にとって特別だった。
そしてきっと彼らにとっても琥一は特別だろう。
だから大学がある冬姫が朝一番で桜井家に足を伸ばしたのだろうし、バイトと受験勉強の合間に琉夏もプレゼントの用意をしたのだろう。
琥一の反応を想像しながら針と布を握る彼らを想像すると、何とも微笑ましく胸の奥が暖かくなる。
嬉しそうに表情を崩した琥一に、琉夏がにっと唇を上げ近づいた。
そして。
「ちなみに香は冬姫の香水と同じ。いい夢見れただろ?」
ぼそりと囁かれ、まさかと息を詰まらせた。
ぼんと勢い良く顔が赤く染まり、それを見ていた冬姫が目をまん丸にする。
「どうかしたの、琥一君?」
「っ、何でも、ねえよ!!」
伸ばされた腕を避け、布団にもぐった琥一は知らない。
彼が寝ている間に侵入を果たした二人組みが、『コウ君1号・兔だからって舐めんじゃねえぞ★』をそっと琥一のベッドへと潜り込ませ、尚且つ十数分を撮影タイムに費やしたことも、琥一の寝言ごと琉夏が携帯にきっちりと撮影していたことも、後日それが発覚し、発狂しそうなくらい羞恥に悶えることも、幸運にもまだ知らずにいられた。
三人の中で一番年上に当たる彼の受難はまだまだ続きそうだ。
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