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結局吹雪士郎を調べても、あやふやな噂しか出てこなかった。
こんな人材をどうやって響木は調べてきたんだとむしろ感心してしまう。
彼独自のネットワークがあるのだろうが、それにしても大したものだ。

画像も公式記録もほとんど残っていないのなら、吹雪にはそれを残せない理由があるのだろうか。
そんなことを考えながらバスの窓から夜景を見ていると、後ろからひそひそとした声が聞こえた。
シートベルトをしているので身動きはせずすっと瞼を閉じ聴覚を鋭くする。
暢気な寝息に混じって聞こえたのは、どうやら土門の声らしい。


「なあ、伝説のエースストライカー吹雪ってどんな奴だろう」
「うちのエースストライカーは豪炎寺に決まってるだろ」
「いや」


不機嫌な染岡の声に、円堂は瞼を閉じたまま苦笑した。
きっと土門からしたら気を使って声を掛けたつもりだろうに、予想以上の強さで跳ね返されている。
以前は俺がエースストライカーだと豪炎寺と張り合っていたはずなのに。
豪炎寺を想うからこそ強くなる言葉に、染岡らしいと考えながら八つ当たりされた土門に同情する。
もしかすると、染岡の怒りは円堂が思う以上に根深いのかもしれない。
だとしたら今向かっている白恋中でもひと波乱ありそうだと、ゆるゆると息を吐き出した。

今日一日無理をした所為で体は休息を欲している。
あざだらけな外の部分だけでなく、内部から痛みを感じた。
気を利かせて酸素や薬を持ってきてくれた一之瀬様様だ。
過保護な部分はあるが、人をよく見ている彼ならではのタイミングで抜け出してくれたのだろうと思うと感謝の念が絶えない。
どくどくと脈打つ心臓の上の部分の服を握り締めると、不意にバスの中に機械音が響いた。


「えっ・・・!?パパが見つかった!!!?」


思わず、とばかりに声を張り上げた塔子に、ぱちりと瞼を持ち上げる。
あまりの大きな声に眠っていた仲間も目を覚まし、視線を彼女に集中させた。
話が聞こえていたらしい監督の指示でバスが路肩に停車される。
しっかりと動きが止まったのを確認してからシートベルトを外すと、前に座っている塔子へ身を乗り出した。


「親父さんが見つかったって本当か、塔子」
「ああ。今、連絡があって」
「皆さん、見てください!今テレビでも緊急ニュースが流れてるみたいです!」


春奈の言葉に席を立ち、彼女の持つパソコンを中心に並ぶ。
確かに、キャスターが報道する番組で、緊急速報と銘打って情報が流されていた。
居なくなっていた数日間所在は未だに判明していないらしいが、財前総理その人が映像にも映っている。

ちらり、と視線だけで塔子を見れば、勝気な瞳が微かに潤んでいるのが見て取れた。


「良かったじゃない」
「お父さんに会えますね!」


秋と春奈が笑顔で塔子を見上げる。
けれど強張った表情をした塔子は、体の脇で拳を握り締めると強い口調で断言した。


「東京には戻らないよ」
「え?」
「あんな奴らは絶対に許せない。だから、皆と一緒にサッカーで戦う」


静かだがきっぱりとした声に円堂は嘆息した。
強い子だ。震えるほどの怒りを漸く宥めている塔子の決意は固く揺ぎ無い。
責任を感じているのだろう。
彼女の脳裏には幾度も一方的にやられた円堂の姿が刻まれているに違いない。
それは決して彼女の責任ではないけれど、自分が巻き込まなければ、とどこかで感じているのだ。
だから今、我慢しようとしている。
自分が円堂たちを仲間にと誘ったのだから、父親と会うのは全てのかたがついてからだと。
そんな意地を張る必要は、どこにもないのに。


「円堂、一緒に戦おう」


つり上がり気味の瞳に強い光を宿して訴えた塔子に、小さく笑う。
こういう勝気な子は嫌いじゃない。


「よし。地上最強のチームになろうぜ」


にっと口角を持ち上げ、拳を付き合わせる。
一瞬だけ見せた泣きそうな表情に気づかないフリをして、呆れ半分のマネージャーの視線を無視すると笑いあった。



深夜の道路。
全員が寝静まったのを確認して、のそりと身を起こす。
本来ならあまり芳しくないが、シートベルトを外すと走行中の車内で座席を立った。
バランスを取りながら最前列へ辿り着くと、腕を組んで静かに前を見ている瞳子へ声を掛ける。


「監督」
「・・・何かしら」
「東京に戻ってください」
「何故?」
「塔子を父親と会わせたいんです」


静かな眼差しを向ける瞳子は、円堂の発言に驚いた様子も見せずに瞬きを一つした。
きっと自分が言わなくても他の誰かが言い出すと予想していたに違いない。
たまたま円堂が一番初めだっただけで、そうじゃなくても仲間の誰かが『戻りたい』と口にしたはずだ。
座ったまま腕を組んだ瞳子はため息を一つ落とすと髪を払った。


「誰かが言い出すとは思っていたけど、あなたではないと思っていたわ」
「あれ?俺そんなに冷たい人間に見えます?」
「いいえ。でもあなたはとても合理的で理性的に見えたわ。この場に居る誰よりも冷静で状況を判断する目を持っている。あの鬼道君よりもずっと」
「はは、それは買いかぶり過ぎですよ」


頭を掻きながら笑うと、すいっと観察するように目を細めた。
一挙一動、不振な部分はないかと眺められ首を傾げる。


「大丈夫です」
「何がかしら」
「心配しなくても、今日は大した怪我は負ってません。体中にあざが出来たくらいで、それも一週間もあれば消えます」
「・・・そう」


心配しているとの言葉を否定しなかった瞳子に、小さく笑う。
その理由が世界最強のチームを作るためだとは言え、正直な人だ。
思えば辛辣な言葉を吐いてきたが、彼女は嘘はついていない。
ぎりぎりの部分で騙しは入れるが根本的に嘘をつくのに向いていない人種なのだろう。
真っ直ぐで飾らない言葉はきついが的を得ている。
中立の立場を保つつもりの円堂から見れば、この監督はそれほど外れではないというのが今のところの見解だ。
選手を潰すのではなく、伸ばす方向で考えてくれている。
それは仲間を重んじる円堂にとって一番大事な事項だった。


「それで?俺のお願いは聞いてもらえるんですか?」
「・・・どうせ断ってもまた別の子が来るだけでしょ。戻ったってそれほどのタイムロスにはならないわ」
「さすが監督。ありがとうございます」
「あなたのためにすることじゃないからお礼は不要よ。・・・宜しいですか?」
「勿論です!じゃあ、帰りは高速を使いますか!その方が早くつくし、こちらも休める」
「お願いします」


快く引き返すことを承諾してくれた運転手の彼にも礼を言うと、そのまま席に戻る。
先ほど窓際の席を交換してもらい通路側に換わっていた円堂は、仲間の寝息が聞こえる中ひっそりと瞼を閉じた。


「・・・俺も、適当なとこで父さんに連絡入れなきゃな」


何もかもを知り、あえて好きなようにさせてくれる父はきっと心配してくれているだろう。
セカンドオピニオンではないけれど、全国の何処の病院でもすぐにカルテを送れるように準備してくれている彼は、今頃どうしているだろうか。
明日は小さな親孝行をしようと便箋と切手を買うことを心に誓いつつ、ゆっくりと意識を闇へと沈めた。

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