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「えーんど!」
「あん?」
「これやるよ!!」
にっと爽やかな笑顔を浮かべた綱海が、どさりと両手一杯の何かを押し付けてきた。
首筋を擽る感覚に目を瞬かせて、一瞬で奪われた視界の焦点をあわせる。
ふんわりと甘い薫りと特徴的な紫がかった小さな花々に、その正体を知った。
「何これ、チェリーパイじゃん」
「チェリーパイ?違うぞ。それは花だ」
「・・・そんなのみりゃ俺だって判る。そうじゃなくて通称だよ。俺が前に暮らしてたとこで、この花はチェリーパイって二つ名があんの」
何言ってんだと不思議そうに訂正した綱海に、ひょいと肩を竦めて教えてやる。
温帯から熱帯に咲くこの花の正式名称は『ヘリオトロープ』。
数多い種類を持つ花だが、その甘い香りから香水草とも言われ、実際に香水の生成に使われたりもする。
基本的に春から秋にかけて咲く花なのだが、気候が暖かなこの島には普通に分布しているらしい。
いかにも手で摘んできたむき出しの花は茎の部分が無残に折れ、ひっそりと眉根を寄せる。
よくよく見れば綱海の手も草の汁で緑色に染まっており、押し付けられた服を覗いたら緑の液体が付着していた。
お気に入りのTシャツに入った新たなラインにため息を吐くと、腰に手を当てた綱海は首を傾げる。
「あれ?嬉しくねぇ?」
「いや、嬉しいよ。嬉しいけどさ・・・どうしたんだよ、唐突に」
「唐突って、今日は特別な日だろ?」
「特別?」
「そ、今日はバレンタインデーだぜ!日本じゃ女からが主流だが、欧米では男から渡すのが普通だってテレビで見たからさ。だから俺から円堂に」
「バレンタインねえ」
「金の掛かってるプレゼントじゃねぇし受け取ってくれよ。あるのは俺の想いと労力だけだ」
「・・・その想いってのが厄介なんだろ」
なんとも確信犯な悪友は、にっと口角を持ち上げた。
仲間の前では滅多に見せない挑発的な笑みに、どうしたものかと眉を下げる。
気が合う友人だけあって綱海のチョイスは的を得ていた。
お金が掛かる高価すぎるプレゼントなら受け取らなかったし、コレが無機物なら突っ返していたかもしれない。
生きている植物を選んだ挙句、使ったのは労力だけなら遠慮する方がおかしい。
だが篭められた想いは紛れもなく厭うもので、それすら理解して手渡した彼に苦笑する。
「まあ、気にすんな。海のように広い心で受け止めろ」
「だから俺の心はミジンコ並にちっちぇえんだってば」
「けど今回はお前の負けだろ?油断してたし、もう受け取っちまってるしな」
「捨てるって選択肢もあるぜ?」
「お前ならそれはしねえだろ。けどまあ、捨てられたっつうんならそれもまた仕方ねぇ。花には悪いが、俺は後悔しないからな」
「───最悪だ」
「何とでも言え」
くつくつと喉を震わせた綱海は、ばんばんと無遠慮に円堂の肩を叩いた。
最早勝敗は決しており、これ以上抗っても何も意味はない。
片方でも手放せばすぐに落ちてしまいそうな花を気遣いつつ肩で綱海をごつくと、諦めて踵を返した。
「何処に行くんだ?」
「宿舎だよ。この花を加工すんの」
「加工?」
「乾燥させてポプリを作る。・・・お前へのお返しはそれに決定だから、期待するなよ」
わざと冷えた目で睨みつけると、瞳を丸くした綱海は嬉しそうに笑った。
思いも寄らぬ反応に小首を傾げる。
『想い』を形にしたそれを突き返すと宣言しているのに、何故彼は嬉しそうなのか。
訝しげな眼差しに疑問を嗅ぎ取ったらしい綱海は、顔をくしゃくしゃにして教えてくれた。
「だってさ、それって来月にしっかりお返しをくれるってことだろ?何も期待してなかったから、嬉しいんだ」
先ほどまでの強張った空気など何処吹く風で、言葉どおり幸せそうな綱海に。
呆れを通り越した何かを感じて、今度こそ背を向けたまま早歩きでその場から脱出を図った。
反比例の方程式
ヘリオトロープの花言葉・・・献身的な愛、熱望
「あん?」
「これやるよ!!」
にっと爽やかな笑顔を浮かべた綱海が、どさりと両手一杯の何かを押し付けてきた。
首筋を擽る感覚に目を瞬かせて、一瞬で奪われた視界の焦点をあわせる。
ふんわりと甘い薫りと特徴的な紫がかった小さな花々に、その正体を知った。
「何これ、チェリーパイじゃん」
「チェリーパイ?違うぞ。それは花だ」
「・・・そんなのみりゃ俺だって判る。そうじゃなくて通称だよ。俺が前に暮らしてたとこで、この花はチェリーパイって二つ名があんの」
何言ってんだと不思議そうに訂正した綱海に、ひょいと肩を竦めて教えてやる。
温帯から熱帯に咲くこの花の正式名称は『ヘリオトロープ』。
数多い種類を持つ花だが、その甘い香りから香水草とも言われ、実際に香水の生成に使われたりもする。
基本的に春から秋にかけて咲く花なのだが、気候が暖かなこの島には普通に分布しているらしい。
いかにも手で摘んできたむき出しの花は茎の部分が無残に折れ、ひっそりと眉根を寄せる。
よくよく見れば綱海の手も草の汁で緑色に染まっており、押し付けられた服を覗いたら緑の液体が付着していた。
お気に入りのTシャツに入った新たなラインにため息を吐くと、腰に手を当てた綱海は首を傾げる。
「あれ?嬉しくねぇ?」
「いや、嬉しいよ。嬉しいけどさ・・・どうしたんだよ、唐突に」
「唐突って、今日は特別な日だろ?」
「特別?」
「そ、今日はバレンタインデーだぜ!日本じゃ女からが主流だが、欧米では男から渡すのが普通だってテレビで見たからさ。だから俺から円堂に」
「バレンタインねえ」
「金の掛かってるプレゼントじゃねぇし受け取ってくれよ。あるのは俺の想いと労力だけだ」
「・・・その想いってのが厄介なんだろ」
なんとも確信犯な悪友は、にっと口角を持ち上げた。
仲間の前では滅多に見せない挑発的な笑みに、どうしたものかと眉を下げる。
気が合う友人だけあって綱海のチョイスは的を得ていた。
お金が掛かる高価すぎるプレゼントなら受け取らなかったし、コレが無機物なら突っ返していたかもしれない。
生きている植物を選んだ挙句、使ったのは労力だけなら遠慮する方がおかしい。
だが篭められた想いは紛れもなく厭うもので、それすら理解して手渡した彼に苦笑する。
「まあ、気にすんな。海のように広い心で受け止めろ」
「だから俺の心はミジンコ並にちっちぇえんだってば」
「けど今回はお前の負けだろ?油断してたし、もう受け取っちまってるしな」
「捨てるって選択肢もあるぜ?」
「お前ならそれはしねえだろ。けどまあ、捨てられたっつうんならそれもまた仕方ねぇ。花には悪いが、俺は後悔しないからな」
「───最悪だ」
「何とでも言え」
くつくつと喉を震わせた綱海は、ばんばんと無遠慮に円堂の肩を叩いた。
最早勝敗は決しており、これ以上抗っても何も意味はない。
片方でも手放せばすぐに落ちてしまいそうな花を気遣いつつ肩で綱海をごつくと、諦めて踵を返した。
「何処に行くんだ?」
「宿舎だよ。この花を加工すんの」
「加工?」
「乾燥させてポプリを作る。・・・お前へのお返しはそれに決定だから、期待するなよ」
わざと冷えた目で睨みつけると、瞳を丸くした綱海は嬉しそうに笑った。
思いも寄らぬ反応に小首を傾げる。
『想い』を形にしたそれを突き返すと宣言しているのに、何故彼は嬉しそうなのか。
訝しげな眼差しに疑問を嗅ぎ取ったらしい綱海は、顔をくしゃくしゃにして教えてくれた。
「だってさ、それって来月にしっかりお返しをくれるってことだろ?何も期待してなかったから、嬉しいんだ」
先ほどまでの強張った空気など何処吹く風で、言葉どおり幸せそうな綱海に。
呆れを通り越した何かを感じて、今度こそ背を向けたまま早歩きでその場から脱出を図った。
反比例の方程式
ヘリオトロープの花言葉・・・献身的な愛、熱望
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(06/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)
(03/31)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/24)
(03/24)
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(03/23)
(03/14)
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(03/13)
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