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イナビカリ修練場の地下にある建物に、目を瞬かせて嘆息する。
ここを設計した誰かは一体何を予見して作ったのかと問いたくなるような内装に、けれど素直なチームメイトたちは歓声を上げていた。
興奮する彼らを一歩離れた場所で観察していると、すぐ隣に豪炎寺が並んだ。
いつも通りに淡々とした態度の彼は、心なしかつい先日までと纏う空気が違っている。


「・・・夕香ちゃん、目を覚ましたのか?」
「!!?」


鎌をかける気はなかったのだが、ぼそりと囁いた一言に大袈裟なまでに体を震わせた豪炎寺に、当たりかと小さく微笑みかける。
すると周囲を窺い誰も見ていないのを確認してから、彼も微かに笑みを浮かべた。


「ああ。優勝報告をしに行ったときに」
「そっかぁ。そりゃ嬉しかったな」
「・・・だが、こんなときだから喜んでばかりはいられない」
「何でだよ。夕香ちゃんが目を覚ましたのと関係ないだろ。そこは兄貴として存分に喜べ」


後ろから肩を組み頬を近づけてにいっと笑うと、驚いたように瞳を丸め、ついで嬉しげに頷いた。
きっと今の状況を見て嬉しくても誰にも言えなかったのだろう。
仲間なんだから一緒に分かち合えばいいのに、変なところで空気を読む豪炎寺に苦笑した。
もっとも仲間が宇宙人にやられて入院した挙句、学校まで崩壊状態では無理もないかとも思うので、代わりに一人で仲間分祝福することにする。


「おめでと、豪炎寺。またひと段落したらさ、一緒にお見舞いに行ってもいい?」
「ああ、勿論だ。夕香も円堂に会いたいと言っていた。来てくれるなら、喜ぶ」


こくりと目元を綻ばせて喜びを表現した豪炎寺の肩を叩くと、いつの間にか騒がしかった仲間が静まり返っていた。
正面には理事長が立っていて、仲間たちは固唾を呑んで彼を見ていた。
入院していたはずだが、体は大丈夫なのだろうか。
観察すれば伸びきっていない背筋や呼吸するたびに揺れる体に不調を隠しているのかと推察し、無理を通さねばならぬ場面かと気を引き締める。
宇宙人とのサッカー対決は、知らされていない何か深いものが隠されているのかもしれない。
些細な動き一つ、表情が変わる瞬間に浮かぶ微表情にこそ注意しながら眺めていると、唐突に理事長が口を開いた。


「なんとしても欠けたイレブンを集め地上最強のサッカーチームを作らなければならない」


後ろ手を組み言い放つ理事長に、他の誰にも見えないよう顔を僅かに俯かせる。
地上最強。本当にそれを望むなら、こんな狭い国の中だけを見るものじゃない。
ならば国内で収めねばならない要因があると考察するのが自然だ。
臭いな、とポーカーフェイスの奥で考えていると、一通りの説明を済ました理事長から響木へとバトンが渡った。


「円堂、頼んだぞ」


さり気無い口調で全てを任され、小首を傾げる。
今の言い草だと、まるで彼はついて来ないみたいだ。


「・・・響木監督はどうされるんです?」


当然の質問には、理事長が答えてくれた。
小難しい顔のままの彼は、いかにも大人がする言い回しを使う。


「響木監督には私から頼んでいることがある。これもエイリア学園と戦うために必要なことだ」
「そんな」
「俺、監督いないなんていやっす」
「俺もでやんす!!」


不安げな声を上げた染岡に、年少組の二人も続く。
不満を訴える仲間の中でも栗松、壁山の年少組は幼さが抜けない。
彼らだけに限らないが、確かに監督が居ないと不安ではあるがこの場合大人の監督がいないわけがないと少し考えれば判るだろうに。
未熟さゆえに曇る観察眼に苦笑しながら彼らの騒ぎっぷりを眺めていると、響木が特に騒ぐ二人の頭を優しく撫でた。


「心配するな。俺は行かないが、新しい監督が就任する」
「新しい監督?」
「ああ」


驚きに瞳を丸めた面々を端に、入り口のドアが開いた。
現れたのは綺麗な女性だった。
真っ直ぐに伸びた黒髪に、目鼻立ちのくっきりした顔。
背筋を伸ばして大股に歩き、ハイヒールがかつんかつんと音を響かせる。
スタイルのよい体にジャケットが沿い、すらりとした長い足は濃い色合いのパンツで隠されていた。


「紹介しよう、新監督の吉良瞳子君だ」
「ちょっとがっかりですね、理事長。監督が居ないと何も出来ないお子様の集まりだなんて思いませんでした。本当にこの子達に地球の未来をたくせるんですか?彼らは一度、エイリア学園に負けているんですよ?」


ふさり、と髪を掻き上げて挑戦的な笑みを浮かべ哂った。
子供相手に中々な態度じゃない、と悟られないよう俯きがちにくすくすと笑う。
勝気な女性は嫌いじゃない。自分に自信がある人間も。

そして、不意に気がついた。彼女の顔に見覚えがあるのに。
顔を合わせて話をしていれば忘れるはずがない。
ならば、脳裏に残る程度───つまりすれ違うなり何なりしたことがある人物。
自慢じゃないが記憶力には自信がある。
立場上一度目にした相手は特徴を記憶し忘れない。
声も、姿も覚えがあるなら、彼女はいつかどこかで───。

首を捻る円堂を置いて、仲間たちは突然現れた新監督を名乗る女性に突っかかっている。


「俺たちは負けたままじゃ終らねぇ!」
「そうだ。絶対に次は勝つ!」
「ああ───俺たちは諦めない」
「諦めないことこそが俺たちのサッカーだ!そうだよな、守!」
「守?」


円堂の名を呟き訝しげな顔をした瞳子は、仲間の後ろに隠れるようにしていた円堂を見つけ瞳を丸めた。
真正面から合わさる瞳に、唐突に記憶が繋がる。
にいっと口角を持ち上げて楽しげに瞳を煌かせると、瞬く間に表情を隠した瞳子に近づいた。


「負けたままで終るつもりはありません、吉良新監督。少なくとも、この場に居るみんなは負けたからこその可能性がある。二度と負けたくないと思うから、もっともっと強くなれる。そう、思われませんか?」


黒縁眼鏡を指の腹で持ち上げながら問うと、戸惑ったように瞳を揺らして首を振った。
感情の切り替えが早いタイプなのだろう。次の瞬間にはまた好戦的な笑みに変わっている。


「頼もしいわね。でも私のサッカーは今までとは違うわよ。覚悟しておいて」


腕を組んで微笑む美女は中々に手強そうで、子猫のように警戒心に毛を逆立てる仲間にふむ、と頷く。
子供ゆえの鼻の良さは波乱万丈な旅路を予感させ、クツクツと喉を奮わせた。





「夕香、暫く来ることができなくなりそうなんだ。だからこれを、俺だと思ってくれよ」


一抱えもあるピンクの熊を椅子に置くと、瞳を細めて眠る妹の姿を眺める。
少し前まで一生目覚めないんじゃないかと不安に震えていた心は、今では大分落ち着いていた。
高揚する気分は収まらず、ふわふわとした雲の上を歩いているようだ。
幾度も夢に見た。幼い妹が目を覚まし、その瞳に自分を映してくれるのを。
目を覚まし何度絶望したか。夢なら目覚めないでいてくれればいいものを、と。

宇宙人の襲来なんて事態がなければずっと傍についているのだが、仲間の無念を晴らすためにも円堂たちと一緒に戦いたかった。
円堂が戦うというのなら、彼女の力に、支えになりたかった。
彼女が居なければ、豪炎寺は未だにサッカーなどしないで病院通いしているだけで、奇跡を信じきることも出来ずにいたと思う。
大好きなサッカーを、『お兄ちゃんがサッカーをしている姿を好き』だといってくれた妹を、全てを裏切り心の殻に閉じ篭っていたに違いない。
背中を押してくれた円堂は掛け替えのない存在で、隣に並んで立ちたい戦友で、それ以上に特別な人だった。


「宇宙人を倒したら、円堂と一緒にお見舞いに来る。だから少しだけ待っていてくれ」
「・・・・・・」


眠る妹の頬を撫でると、踵を返して歩き出す。
一度は膝を屈した宇宙人との戦いだが、再び見えるのに気負いはない。
完膚なきまでに叩きのめされた過去があっても前進できると信じている。
今回は先回と違う。雷門の守護神と呼ばれる、『円堂守』その人がいるのだから。
緩やかに唇が孤を描き、ドアノブを押し開けたところで動き止った。
目の前に立つ異色の三人組に、ひっそりと眉根が寄る。
身内を守ろうとする狼のように毛を逆立てて警戒心をあらわにして、豪炎寺は問いかけた。


「豪炎寺修也か。少しお話が」
「お前たちは」
「われわれはエイリア学園の志に賛同するものだ。君にお願いしたいことがありましてね」


ひっそりと近づく底の見えない闇に、豪炎寺は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

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