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「俺ってよくよく拾い物と縁があるのかな~」


近道して帰ろうとした先で見つけた存在に、円堂は頭を掻きながら嘆息した。
手にはコンビニの買い物袋。
月の光が微かに差し込むだけの裏道は、一本向こうにある本道と違い静まり返っていた。

ぼろ雑巾のようになり、動かないそれに近づくとしゃがみ込んで指先で突く。
呻き声は上げれども意識を取り戻さないそれに、仕方ないなと携帯を取り出した。


「もしもし、一哉?ちょっと助けてー」


気の抜けた声でヘルプコールをした円堂は、倒れ付す相手に視線をやり小首を傾げた。




「・・・だから、どうして守はこうすぐに拾ってくるんだよ」
「しょうがねえじゃん。拾ってくださいとばかりに行き倒れてるんだぜ?それとも行き倒れてる奴をそのまま放っておけって言うのか?」
「そうは言わないけど」
「まー、いざとなれば何とかするし、大丈夫だって」
「・・・守は楽観的だな」
「はは、まあね。んじゃ俺は夕飯作ってくるから、ちょっと待ってろ。今日は昨日から煮込んだデミグラスハンバーグだぞ!一哉には一個おまけしてやる」
「ホント!?俺、守のハンバーグ大好きだ!」


嬉しげな声が耳元で響き、たゆたうようにしていた意識が唐突に覚醒した。
ばっと音を立てる勢いで身を起こすと、驚き目を丸めた少年と視線が合う。
幼い輪郭をした少年をじっとりと睨み威嚇するように声を上げた。


「お前は誰だ」


広々とした空間。置かれているのは観葉植物とテレビと絨毯、そして背の低いテーブルとクッションのみのシンプルな部屋は、素っ気無いというより上品という言葉が似合う。
寝転んでいた何かに手を置くと、予想外の柔らかさにバランスを崩した。
慌てて身を起こしながら何かと見るとふっくらとした枕があり、固さの違いから自分が寝ていたのはソファの上だと気がつく。
黒を基調としたそれは随分と座り心地がよいもので、体に掛けられた布団は手触りもよかった。

徐々に自分の状況を理解し始めると、不意に頭上から声を掛けられた。


「お?お目覚めか?」
「・・・お前は」
「俺は円堂守。コンビニの帰りに道端で転がってるお前を見つけて、こいつに手伝ってもらって家まで連れてきたんだ。一応見える範囲の怪我は治療したけど、どうだ?体に違和感は?」
「・・・大丈夫だ」
「そっか。頭も殴られてるみたいだし、明日ちゃんと病院行けよ」


きょろりとした大きな栗色の瞳を向けた少女に、何故か素直に頷いた。
普段なら突っ張ってしまうはずなのだが、見知らぬ相手と言う気の緩みがあるのかもしれない。
円堂と名乗った少女は明らかに怪しい風体の自分を前にしてにこにこと太陽みたいな笑顔を見せた。
眩しいものを見るように目を眇めると、視界を遮るようにそれまで黙っていた少年がひょいと顔を出す。


「俺は一之瀬一哉。守のボーイフレンドで、同棲相手だ」
「っ、あ、ああ」
「あー、そいつの言うことは気にしないでくれな。本当にただの友達で、ついでに同居相手だから」
「は?」
「お前も本当に何とかの一つ覚えみたいなことするね、一哉」
「守がすぐ他の男を家に上げるのがいけないんだ」
「・・・人聞きが悪い。お前と俺の共通の友達しかあげてないだろうが」


会話の内容に驚いていると、疲れたように笑った円堂は一之瀬の頭を掌でぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
その手を両手で押さえて膨れっ面を晒す一之瀬は、渋い表情だが嫌がってはないらしい。
まるで子犬の戯れのような遣り取りに、つい小さく笑うと、急に動きを止めた二人は顔を見合わせた。


「見たか、一哉」
「うん、見た見た」
「・・・どうしたんだ?」
「いや、お前笑ったからさ。寝てるときもこーんな渋い顔してうんうん魘されてたもんな」
「そうそう。こーんな渋い顔してた」


二人揃ってぎゅっと眉間に皺を寄せる彼らに、つい噴出す。
今まで感じたことがない柔らかで賑々しい空気に、張り詰めていた心が和んだ。
笑いの発作がおさまると、きょとりと瞬きする彼らに向かって正座する。
不思議そうに手を見詰める彼らに、居住まいを正した。


「俺を助けてくれて感謝してる」
「あー・・・まあ、成り行きだけどな」
「俺の名前は飛鷹征矢。こう見えて中学二年生だ」
「なーんだ、俺たちと同じじゃん。老けてるからもっと上かと思った」
「こらっ、一哉!」
「守だって絶対に年上って言ってたじゃない。実際は守のが年上だったけど」
「え?」


どう見ても自分より幼い顔立ちの円堂を弾かれたように見詰めれば、少女は苦笑して頬を掻いた。


「一応、年は俺が上みたいだけど、学年は同じだから。一年ダブってんの、俺」
「・・・・・・」


罰が悪そうに眉を下げて教えられた真実に、飛鷹は益々驚く。
聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして忙しなく視線を彷徨わせると、結局下を向いて俯いた。


「ま、気にするな。俺は気にしてないし」
「けど」
「いーっていいって。それより、お前腹へってないか?」
「腹?」
「今から我が家は晩御飯なんだけど、折角だし食ってけよ。三人分あるんだけど、今日は待ち人現れずって奴でさ。俺特製の煮込みハンバーグ、激ウマだぜ」


にっと笑った円堂が誘うと、隣の一之瀬も不承不承ではあるが頷いた。


「そんな迷惑掛けるわけには」


いかねえ、と続ける前に、腹が盛大に鳴ってしまう。
主人の意向を無視した体に羞恥を堪えて俯けば、一拍の間を置いてから大爆笑した二人は愉快そうに飛鷹の肩を叩いた。


「迷惑なんかじゃねえよ。きっちりと準備と片付け手伝ってもらうからな」
「ちなみに摂取量は一人四個までだ。食は細い方?」
「いや、そんなことは」
「ならいいね。守、付け合せは何?」
「ジャガイモが大量にあったからジャーマンポテトとポタージュスープ、あと海草サラダ。デザートは特製ベークドチーズケーキだ」
「やった!まもとな料理だ!ほら君───ええと、飛鷹だっけ?お皿の準備始めるから、こっちに来て」


戸惑いながらも誘う手に招かれて近寄れば、両側から伸ばされた手に腕を捕まれぐっと引き寄せられた。
こけないよう何とかバランスを保つと、顔を上げて円堂と一之瀬を見る。
普段、学校や近隣でこのような接し方をする相手が居ないので、優しい掌に戸惑いを隠せない。
怪我だらけで路上に倒れてる明らかに怪しい人間なのに、彼らは怖くないのだろうか。
眉間に皺を寄せて考えると、すっと白い指先がぐりぐりとそこを押した。


「若い内からそんな顔してると、癖になっちまうぞ」


自分の方がずっと幼い顔立ちの癖に、円堂はそう言って笑うと入念にセットされた飛鷹の頭をかき乱すように撫ぜた。
いつもなら髪のセットを乱されると怒りに駆られるのに、何故か彼女相手だと怒れない。
全く悪気のない無邪気な笑顔の所為か、それとも馬鹿にした部分が欠片もないからなのか。
理由は判らないが、不思議な雰囲気の少女は心の中にすとんと嫌味なく入り込んだ。
光を具現化したような子供たちは、あどけない表情で楽しそうに飛鷹を促す。


「お前の担当はご飯な。俺はハンバーグ、一哉はサラダと飲み物。デザートは全部終ってから、一服してからにしような」
「リョーカイ!ほら飛鷹、おしゃもはこっちだよ」
「使い終わったら茶碗の水につけといてくれよー。米粒がかぴかぴになるのやだから」
「あ、ああ」


言われるがままに手渡された茶碗にご飯をつぎつつ、エプロン姿の円堂の指示に従って背の低いテーブルに並べると、右手に持つトレイにはスープを、空いた片手にはコレでもかとばかりにハンバーグを山盛りにした大皿を持った円堂が来て、その後ろから飲み物とコップとサラダを乗せたトレイを両手に抱えた一之瀬が現れる。
こちらがハラハラするバランスで来た二人は、飛鷹の心配も他所にくっちゃべりながら前を見ないで歩いて器用に皿をテーブルに並べた。
ほうっと安堵の息を吐く自分を前に軽やかに皿を並べた二人は、さっさと座るとぱんと手を打ち鳴らす。


「飛鷹も早く座ってくれよ」
「お前はお誕生日席ね」


座布団代わりのクッションを引いてくれたので、勢いこんで腰を下ろす。
埃が舞わなかったかと不安になったが、舞う誇りすらない部屋だった。


「んじゃ、せーの!」
『いただきます!」
「・・・いただきます」


彼らの勢いに釣られて手を合わせると食事を始める。
取り合えず手元にあるスープを口にし、滑らかな口ざわりと深い味わいに目を見開いた。
フランス料理店にでも出てきそうなこの料理は普段なら絶対に口にしない種類だ。
和風好みの飛鷹が選ばないものだが。


「美味い」
「そか?なんならおかわりいっぱいあるからドンと食ってくれよー。ほれ、ハンバーグも食った食った」
「守のハンバーグ激ウマだよ!そこらのレストランより美味しいから!」


空いてる皿にハンバーグを取ってくれた円堂と、ハムスターか何かのように頬を膨らませた一之瀬が笑顔で促す。
渡された皿を見詰め、意を決してハンバーグを箸で割って口にすると、濃厚な肉とデミグラスソースが丁度いい塩梅で口内に広がった。


「・・・美味い」


本当に美味しいときには他に言葉が見つからないものらしい。
せっせとハンバーグを口にすると、あっという間になくなった。
笑顔で飛鷹の食欲を見ていた円堂は、にこにこと皿にハンバーグを追加する。



「こっちは中にチーズ入ってるやつ。こっちは牛肉100パーセントだ!」
「今食べたのは?」
「鶏肉。俺は鶏肉派。一哉は牛肉派。そしてチーズは二人の好物だ」


へらり、と笑う円堂に頷きながら食事は進む。
気がつけば気後れや気まずさなんてどこぞの空に飛んでいて、久し振りの感覚に自然な笑顔が終始浮かんでいた。

見知らぬ他人を家にあげた上に食事まで振舞う警戒心のなさに苦笑しつつすっかり馴染んでいる自分に驚きを隠せない。
泊まっていけばとの言葉は流石に辞退したが、お土産にチーズケーキまで貰ってしまった。
夜の帳が降りた町並みをゆったりと歩き、夢みたいな時間を振り返る。
一期一会と言うけれど、この縁はまたどこかで続く気がして、それを願っている自分に苦く笑った。

明るい光の下を歩く二人と、喧嘩ばかり繰り返す自分とで道が重なるはずもないのに。

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