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「どーもんくん」
「あーそびましょっ」
「おわっ!!?」


どん、と背中に激しい衝撃を受け、土門はバランスを崩す。
たたらを踏みながらも顔面から地面にダイブするのだけは必死で堪えると、人を窮地へ追い込みながらも全く悪びれることなく笑っている二人を首を回して睨み付けた。
細いが身長がある土門の首にぶら下がるようにしてしがみ付く問題児は、案の定円堂と一之瀬で、締め付けられる首に敗北ししゃがみ込んだ。
すると遠慮を知らない彼らは背中にぼふんと覆いかぶさる。
一之瀬はともかく円堂の柔らかな感触に、普段つけているサポーターを外していると気がついて慌ててもう一度立ち上がりぐえっと惨めな声を漏らした。


「おー、良く締まるな」
「うんうん、動き回って元気だね」
「暢気な感想言い合ってないでさっさと手を放してくれ!特に円堂!お前、胸、胸!!」
「んー?胸がどうした、青少年?」
「胸が背中に当たってるんだよ!お前女の子なんだからちょっとは配慮してくれ!!」


恥を忍んで悲鳴に近い叫びを上げれば、一瞬黙り込んだ二人は爆笑した。
思わぬ反応に身じろぐ体を止めると、首を絞めるようにしていた二人が地面へ降りる。
にやにやと性質の悪い顔で笑う二人に、土門は一歩あとずさった。


「おいおい一之瀬君、聞いた?土門君の破廉恥な発言」
「聞いた聞いた。いやぁ、親友の彼がこんな発言するなんて、彼の成長に感動ですね」
「胸、胸と連呼するなんて、欲求不満なのかねぇ」
「本当だよねぇ。当たってたのは単なるメロンパンなのにねぇ」


口元を手で押さえながら、ご近所のおばちゃんたちがするヒソヒソ話のようにこれ見よがしにちらちらと視線を寄越しながらの会話に、土門の顔に徐々に血の気が上ってきた。
つまり、彼らの会話を整理すると、先ほどまで土門の背中に当たってたのは円堂の胸ではなく、メロンパンと言うことか。
それにしてはそれらしいものはないと注視してると、円堂がジャージの中に手を突っ込んでひょいとそれを取り出した。


「んなっ!!?」


両手に持ったそれは、確かにメロンパン。
しかし態々胸に詰める意味なんて見出せず、最初から引っ掛けるつもりだったのかと顔を真っ赤にして睨み付けると、してやったりと悪戯好きの二人は顔を見合わせた。


「俺の胸元でほかほかに温もったメロンパン。欲しい?」
「いるか!!」


笑いを堪えるようにして差し出されたそれを拒絶すると、そのまま袋を開けて齧り付いた。
もう一つを一之瀬に渡すと、彼も躊躇せずに袋を開けて齧り付く。


「一之瀬!?お前、何食べてんの!?」
「え?メロンパン」
「そうじゃなくて、どうして今それを普通の顔で食えるんだよ!?」
「だってこれ普通のパンだし」
「そうそう。やましい気持ちを持ってなければ、単なるパンだし」
「円堂っ!!」
「分厚いサポーターの上においてただけだし、別に温もってもないよコレ。変な妄想しなきゃな」
「うん。土門をからかうために仕込んだだけだし、食べなきゃ勿体無いしな」


可愛い顔してえげつい二人に顔を引きつらせると、多大に諦めを含んだため息を吐き出した。
一之瀬一人でも手に負えないのに、円堂まで加われば土門に勝ち目はない。

突然の合宿宣言で学校に泊まり気にたのだが、これが終るまであと何回引っ掛けられるだろうか。
夕食が終わって僅かな休憩を楽しんでいたはずなのに、どっと疲れを覚えて首を振った。
この場に彼女の過保護な弟と幼馴染が居なくてよかった。
抱きつかれるなんて現場を見られれば、言い訳を重ねても有罪判決が下ってしまう。


「それで?俺に何の用だ?」
「用事がなきゃ構っちゃいけないのか?」
「この場面で用もないのに構いに来る性格してないだろ」


円堂はアフロディのシュート程度なら止めれると断言した。
力強い宣言だったが、同時に彼の言葉を否定しなかった。
幾らシュートを止めても点を入れられなければ勝つことは出来ない。
この合宿は、彼女のためにと言うより、自分たちの基礎を上げるためのものと考えるのが妥当だった。
ならばこの場に円堂が居るのは不自然だ。
勝つための士気が向上している今、豪炎寺や鬼道のように後輩たちの指導に当たるのが普通だろうに、イナビカリ修練場に消えた彼らを追うでもなく一人グランドに佇んでいた土門の元へ来ている。
土門がここに居るのは懐かしい親友からメールを受けたからだが、もしかして休憩時間を早めて練習を再開するつもりだろうか。

小首を傾げた土門に、にこりと一見すると無邪気で可愛い笑顔を浮かべた円堂と一之瀬は、何処からともなくボールを取り出した。


「よう、土門。それと円堂に一之瀬も先日ぶり」
「こんばんは、西垣。突然の呼び出しなのに、承諾してくれてありがとな」
「やあ、西垣!いきなりごめんな」
「いいよ、どうせ暇してたしな。それにお前らの役に立てるなら、俺も嬉しいしな」


円堂と一之瀬と順に握手をした西垣は、夜の中でも判るほどにこりと笑った。
上下が揃ったスウェットで動きやすい格好をした待ち人の突然の行動に目を白黒させていると、種明かしするように円堂が口を開いた。


「実は俺が一哉に頼んで呼び出してもらったんだ。どうしても覚えたい技があったから、練習相手になって欲しくてな」
「覚えたい技?」
「俺たち三人の技って言ったらあれでしょ。『トライペガサス』だよ」
「『トライペガサス』だって!?けど、あの技は俺たちが苦労して編み出した技で、一朝一夕で覚えれるようなもんじゃないぞ?」
「だから西垣に来てもらったんだよ。理屈を云々講釈されるより、実物を見るのが一番早い」


頭の後ろで腕を組んだ円堂は、にひっと不思議な声で笑った。
確かに理屈を言うより実物を見た方が解釈は早いかもしれない。
だが幾ら幼い頃に編み出した技でも威力は本物だ。
彼女と一緒に技を決めたいと思う心と相反し、むくむくと負けん気が育っていく。
簡単に盗まれて堪るかと、土門の中のサッカー選手としての意地が顔を覗かせた。


「西垣はいいのか?」
「いいよ。俺たちで編み出した技が必要と言われるのは嫌じゃない。もっとも───本当に自分のものに出来るならだけどな」


にっと勝気な笑顔を見せた西垣に土門も頷いた。
一之瀬と円堂と三人で扱う必殺技が出来るのは嬉しいが、西垣の気持ちも一プレイヤーとしてよく判る。
とん、とボールを投げて寄越した円堂は、楽しげに手を叩いた。


「キーパーは必要か?」
「いいや、不要だ。明かりがないのがちょっと辛いけどね」
「暗闇は今回の課題において必須なもんでな。体で距離を覚えるのに闇は感覚を鋭くさせるから丁度いいんだ」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ。もっとも見るだけの立場だと少々辛いけどね。じゃ、始めてくれ」


片手を上げた円堂に、ボールから距離を均一に保つと二人の様子を窺う。
こくりと頷きあい、一之瀬の合図で一気にボールへと走りこんだ。

三人の力を一点で交差させると、気流により空高くボールが跳ね上がる。
渦巻く気の流れが空を翔る天馬へと姿を変え高らかに嘶いた。


『トライペガサス!!』


空に舞うボールに順に足を当て圧を掛ける。
三人の力を合わせて放たれたボールは、空気を裂いてゴールへ突き刺さる。
すたりと地面へ降りると、おおーと暢気な声で拍手する円堂が居た。
心なしか先ほどよりも笑顔が深まり楽しそうだ。


「超格好いいな~、その技。威力も迫力も凄いし、技が綺麗だ。三人の力を一点で交差させ練り上げた気でボールを上げる。天空へ跳ねたボールを、上から押さえつけるようにして順に力を溜め込み、一瞬の後同時に炸裂させる。空気を縫って進むボールはペガサスのごとく美しく壮麗だ。うん、いい技だな」


拍手しながら褒める円堂に、西垣が眉根を寄せた。


「たった一度でそこまで判ったのか?」
「───底知れないな」


唖然とする西垣に、土門が呻るように呟いた。
彼女がイタリアで天才として名を馳せているのは知っていたが、暗闇の中一度確認しただけの技をここまで解析されると思ってなかった。
全く驚いていない一之瀬と違い、彼女に関する情報は少ない。
『天才』の言葉でひと括りにしていたが、見せ付けられる才能に戦慄した。


「でもやっぱ一回じゃ駄目だな。悪い、もうちょっと見せてもらえるか?」
「うん、任せてよ。西垣、土門、準備はいいか?」
「・・・ああ」
「・・・いつでも、大丈夫だ」


ぐうっと喉を鳴らし、息を吐き出すとボールへ意識を集中させた。


ペガサスが夜空へ舞う。
青い白く輝く誇り高いその姿が、不死を語るフェニックスへと変化したのは月が中天を僅かに超えた時間帯だった。

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