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私なんかに一途では、君が濁ってしまうじゃないか
--お題サイト:afaikさまより--
「そんなに泣くと目が落ちちゃうよ」
ぼろぼろと声を失くして涙を零し続ける獄寺に、スーツの裾で目元を拭ってくれた綱吉が苦笑した。
最後に会ったのは中学生時代の彼だった。
薄茶色の髪に琥珀色の大きな瞳。疑問符を一杯に並べて驚きながら獄寺を見ていた彼は、あの後どうなったのだろう。
記憶が平行して存在していて、テレビを見るように過去が影像として浮かぶ。
これは自分が経験したものではない『過去』だが、確かに獄寺の中に根付くものだった。
白いスーツに緋色のワイシャツ、紺色のネクタイの彼は、過去の彼が着た黒のスーツよりも様になっている。
あの頃は、着るより着られる、といった愛らしさが前面に出ていたが、今の綱吉は着こなしていて、とても格好よく綺麗だった。
「・・・もう、貴方に会えないかと思いました」
涙が頬を伝う。
『過去』の自分は、やはり命がけで彼を守った。
十代目命でそれまで逆らったことはなかったのに、彼に反論し自分を押し通して、全てをかけて戦った。
それは自分の過去ではないのに、確かに獄寺の指には失ったはずの嵐の指輪があって、完成されたそれは当たり前に鈍い色で輝いている。
綱吉が生きていたと知り、彼の策を理解した。
これから徐々にミルフィオーレの惨劇の記憶は薄れ、いずれこの世界では存在しなくなるのだろう。
しかし自分は二つの記憶を両方とも失くすと思えない。彼を守って戦った中学生の自分も、彼を失ったと絶望を覚えこまされた自分も、両方とも獄寺の中で薄れないだろう。
戦った記憶は構わない。痛みはあったがそれは名誉の負傷で、自分が伸びる切欠になった。
あの過去があるから新しい武器を使いこなせるし、完成したリングの意味を知っている。
戦い方も身についているし、ありがたいとさえ思える。
だがもう一つの記憶。
彼が、綱吉が死んでしまった時の記憶は、一生掛かっても消せないトラウマとなるだろう。
棺の中で白い花に囲まれて眠る彼はとても綺麗で、今にも目を覚ましそうなのに、手を組んだまま動かなかった。
泣いて泣いて泣いて泣いて、生き返ってくれと叫んでも、苦く笑って窘めてくれる彼は居なかった。
握った掌の冷たさを忘れない。触れた肌の色を忘れない。こちらを見ない、声を発しない、動かない彼を忘れない。
ほろほろほろと涙が零れる。
眉を八の字に下げた綱吉が、困ったように涙を拭う。
触れた手は暖かくて、慰める声は懐かしくて、一瞬たりとも見逃したくないのに、涙で視界が滲んでしまう。
噛んでも殺しても嗚咽が止まらず、ぐるぐると回る思考は纏まらない。
ただ一つ言えるのは。
「あなたがっ」
「ん?」
「あなたがっ、死んでしまったかとっ思いっました」
震える声で訴える。
こんな情けない姿、一生見せたくなかったのに。
誰よりも格好つけたくて、誰よりも弱いと思われたくない人の前で、獄寺はただ涙を零す。
『綺麗な顔』と綱吉に褒められたこともあるのに、きっと今の自分は世界で一番みっともない顔をしているに違いない。
鼻を真っ赤にして目を泣き腫らす男なんて、獄寺も見たら速攻で果たす。
嫌われたくなくて、引かれたくなくて、何とか落ち着こうとするのに、努力すればするほど空回りした。
「・・・本当に、君は俺が好きだね」
「・・・は、いっ」
飽きれを含んだ綱吉に、けれど躊躇なく頷けば、彼は益々苦笑を含めた。
そして不意に真面目な表情になると、頬に掌を沿わせる。
指先で涙を拭った彼は、酷く真剣な目をしていた。
「ごめんね、獄寺君」
「じゅ、代目?」
「ごめんね。君がこうなるのを判ってて、俺は何も教えなかった。信用してなかったんじゃない、信頼してなかったんでもない。それでも俺は何も伝えなかった。だから、ごめんね。いっぱい泣かせて、ごめんね」
幾度もごめんと繰り返す彼を、癇癪を起こした後の子供のようにしゃくり上げながらじっと見詰める。
綱吉が自分に何も言わなかったのを、責める気持ちはないのに、それでも彼は謝罪を続けた。
だから頬に合わされた掌に擦り寄ると、瞼を閉じて彼の暖かさに集中する。
生きている。彼は生きている。それだけが重要で、それだけが全て。
「謝らないでください、十代目。俺っは、貴方が生きててくれれば、それでいいんですっ。それだけでっ、いいんです」
「───うん。そんな君だから謝るんだよ。俺なんかの為に綺麗な顔ぐしゃぐしゃにして泣いちゃう君だから、普段の冷静さやツンツンした態度をかなぐり捨てて身も世もなく泣いちゃう君だから、ごめんねって言うんだよ」
「・・・じゅうだいめ」
「君は本当に綺麗だね、獄寺君。・・・帰ってくるのが遅れてごめん。次はないから、もう泣かないで」
「約束して下さいますか・・・」
「うん。約束するよ。もう、君を置いていかないって。君が死ぬのを見届けてから、俺は死ぬよ。君を絶対に一人にしない」
「約束です、十代目。・・・俺はっ、信じますから」
「うん」
「だから、もうっ、二度と俺の前で、死なないで下さい」
しゃくり上げながら訴えれば、綱吉はこくりと頷いた。
両腕を広げた彼に抱かれて、壊れた涙腺を直す作業は放棄する。
綱吉のスーツに染みがじんわりと染みが出来て、クリーニングに出さなければと冷静な脳裏が囁いた。
「俺が死ぬのを、見届けてください」
「・・・うん」
困ったように笑った綱吉に、酷な願いをしていると理解している。
それでも俺は一生撤回しないし、するつもりもない。
俺なんかにどうして、と彼は言うけれど、もう理屈じゃなく彼が特別なのだ。
インプリティングと笑われたが、それでも傍に居られればそれが幸せ。
手に届く場所に戻った大空に、その暖かさにまた涙が零れた。
それはとても、幸せな涙だった。
--お題サイト:afaikさまより--
「そんなに泣くと目が落ちちゃうよ」
ぼろぼろと声を失くして涙を零し続ける獄寺に、スーツの裾で目元を拭ってくれた綱吉が苦笑した。
最後に会ったのは中学生時代の彼だった。
薄茶色の髪に琥珀色の大きな瞳。疑問符を一杯に並べて驚きながら獄寺を見ていた彼は、あの後どうなったのだろう。
記憶が平行して存在していて、テレビを見るように過去が影像として浮かぶ。
これは自分が経験したものではない『過去』だが、確かに獄寺の中に根付くものだった。
白いスーツに緋色のワイシャツ、紺色のネクタイの彼は、過去の彼が着た黒のスーツよりも様になっている。
あの頃は、着るより着られる、といった愛らしさが前面に出ていたが、今の綱吉は着こなしていて、とても格好よく綺麗だった。
「・・・もう、貴方に会えないかと思いました」
涙が頬を伝う。
『過去』の自分は、やはり命がけで彼を守った。
十代目命でそれまで逆らったことはなかったのに、彼に反論し自分を押し通して、全てをかけて戦った。
それは自分の過去ではないのに、確かに獄寺の指には失ったはずの嵐の指輪があって、完成されたそれは当たり前に鈍い色で輝いている。
綱吉が生きていたと知り、彼の策を理解した。
これから徐々にミルフィオーレの惨劇の記憶は薄れ、いずれこの世界では存在しなくなるのだろう。
しかし自分は二つの記憶を両方とも失くすと思えない。彼を守って戦った中学生の自分も、彼を失ったと絶望を覚えこまされた自分も、両方とも獄寺の中で薄れないだろう。
戦った記憶は構わない。痛みはあったがそれは名誉の負傷で、自分が伸びる切欠になった。
あの過去があるから新しい武器を使いこなせるし、完成したリングの意味を知っている。
戦い方も身についているし、ありがたいとさえ思える。
だがもう一つの記憶。
彼が、綱吉が死んでしまった時の記憶は、一生掛かっても消せないトラウマとなるだろう。
棺の中で白い花に囲まれて眠る彼はとても綺麗で、今にも目を覚ましそうなのに、手を組んだまま動かなかった。
泣いて泣いて泣いて泣いて、生き返ってくれと叫んでも、苦く笑って窘めてくれる彼は居なかった。
握った掌の冷たさを忘れない。触れた肌の色を忘れない。こちらを見ない、声を発しない、動かない彼を忘れない。
ほろほろほろと涙が零れる。
眉を八の字に下げた綱吉が、困ったように涙を拭う。
触れた手は暖かくて、慰める声は懐かしくて、一瞬たりとも見逃したくないのに、涙で視界が滲んでしまう。
噛んでも殺しても嗚咽が止まらず、ぐるぐると回る思考は纏まらない。
ただ一つ言えるのは。
「あなたがっ」
「ん?」
「あなたがっ、死んでしまったかとっ思いっました」
震える声で訴える。
こんな情けない姿、一生見せたくなかったのに。
誰よりも格好つけたくて、誰よりも弱いと思われたくない人の前で、獄寺はただ涙を零す。
『綺麗な顔』と綱吉に褒められたこともあるのに、きっと今の自分は世界で一番みっともない顔をしているに違いない。
鼻を真っ赤にして目を泣き腫らす男なんて、獄寺も見たら速攻で果たす。
嫌われたくなくて、引かれたくなくて、何とか落ち着こうとするのに、努力すればするほど空回りした。
「・・・本当に、君は俺が好きだね」
「・・・は、いっ」
飽きれを含んだ綱吉に、けれど躊躇なく頷けば、彼は益々苦笑を含めた。
そして不意に真面目な表情になると、頬に掌を沿わせる。
指先で涙を拭った彼は、酷く真剣な目をしていた。
「ごめんね、獄寺君」
「じゅ、代目?」
「ごめんね。君がこうなるのを判ってて、俺は何も教えなかった。信用してなかったんじゃない、信頼してなかったんでもない。それでも俺は何も伝えなかった。だから、ごめんね。いっぱい泣かせて、ごめんね」
幾度もごめんと繰り返す彼を、癇癪を起こした後の子供のようにしゃくり上げながらじっと見詰める。
綱吉が自分に何も言わなかったのを、責める気持ちはないのに、それでも彼は謝罪を続けた。
だから頬に合わされた掌に擦り寄ると、瞼を閉じて彼の暖かさに集中する。
生きている。彼は生きている。それだけが重要で、それだけが全て。
「謝らないでください、十代目。俺っは、貴方が生きててくれれば、それでいいんですっ。それだけでっ、いいんです」
「───うん。そんな君だから謝るんだよ。俺なんかの為に綺麗な顔ぐしゃぐしゃにして泣いちゃう君だから、普段の冷静さやツンツンした態度をかなぐり捨てて身も世もなく泣いちゃう君だから、ごめんねって言うんだよ」
「・・・じゅうだいめ」
「君は本当に綺麗だね、獄寺君。・・・帰ってくるのが遅れてごめん。次はないから、もう泣かないで」
「約束して下さいますか・・・」
「うん。約束するよ。もう、君を置いていかないって。君が死ぬのを見届けてから、俺は死ぬよ。君を絶対に一人にしない」
「約束です、十代目。・・・俺はっ、信じますから」
「うん」
「だから、もうっ、二度と俺の前で、死なないで下さい」
しゃくり上げながら訴えれば、綱吉はこくりと頷いた。
両腕を広げた彼に抱かれて、壊れた涙腺を直す作業は放棄する。
綱吉のスーツに染みがじんわりと染みが出来て、クリーニングに出さなければと冷静な脳裏が囁いた。
「俺が死ぬのを、見届けてください」
「・・・うん」
困ったように笑った綱吉に、酷な願いをしていると理解している。
それでも俺は一生撤回しないし、するつもりもない。
俺なんかにどうして、と彼は言うけれど、もう理屈じゃなく彼が特別なのだ。
インプリティングと笑われたが、それでも傍に居られればそれが幸せ。
手に届く場所に戻った大空に、その暖かさにまた涙が零れた。
それはとても、幸せな涙だった。
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