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■実は親しい間柄
「・・・お嬢様は、眠ってらっしゃるんですか」
「おう。無邪気なもんだぞ」
本性のまま、尻尾を軽く揺らした海燕は、自分に体を預けて眠る少女の髪をぺろりと舐めた。
大きな海燕の体に包まれて眠る人間の少女は、先日自分の主である浮竹の隊に入隊したばかりの子供だった。
少し猫毛の黒髪に、アーモンド形の目をした端整な面立ちの華奢な少女。
───朽木ルキア。
主より聞かされ予てより名を知っていたが、実物は想像していたよりもずっと小さく、触れれば折れてしまいそうなくらい細かった。
白い肌に端整な面持ちを持つルキアは、隊の中でも浮いていた。
貴族的な気品のある雰囲気に、警戒心の強い野良猫並の人見知り。けれど人はそれを生意気と捉え彼女の本心を見ようともしない。
人の群れに放り込まれた小さな子供は、常に怯えて心が震えているというのに、誰も見ようともしなかった。
だから、海燕は一人ぼっちのこの少女に手を伸ばすのを決めた。
他の誰も必要としないなら、自分が構ってもいいだろうと思ったのだ。
人には警戒心の強い子供は、けれど獣には心を解いた。
おずおずと伸ばされた手を許容すれば、少しだけ躊躇したように指先で触れた後、嬉しそうに掻き撫でる。
小さな掌から繰り出される力など高が知れているので遠慮はいらないのに、いつでも擽ったくなるような柔らかな力で海燕へと触れてきた。
ルキアは海燕には何でも話した。
隊であった失敗談。自分への噂に、先輩達と打ち解けれない悩み。
人見知りな自分への嫌悪や、どうすれば仲良くなれるのかと訴える悲しみ。
反面嬉しいことも良く話した。
綺麗な花が咲いていたとか、隊長に誉められたとか、三席の二人が話しかけてくださったとか、猫に子供が生まれたとか。
本当に些細なことから幸せを見つけられるルキアは、隊士が告げる冷血漢などではなく、感受性が豊かな一人の少女でしかなかった。
そんな少女の素顔を自分しか知らないのは、海燕の胸に優越感を湛える。
本当はルキアに執着していて、けれど海燕よりも遥かに不器用な主は、毎日報告がてら告げる話に笑って頷くばかりだ。
自分が動けばいいのに、と呟けば、あいつはまだお前の方がいいだろう、と眉を下げて情けなく笑った。
『まだ』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、そうかと頷いた海燕は未だにルキアを独占している。
このままじゃ駄目なのは良く判っていたけれど。
「あまり、うちのお嬢様を甘やかさないで下さい」
「なんだ突然。俺が朽木を甘やかしすぎているとでも?」
「ええ。これではひとり立ちが遅くなります。雛をかいがいしく面倒を見るのはいいですが、千尋の谷にも突き落としてやらなくては」
「何で?こいつは子供だ。子供ってのは可愛がって甘やかして、悪いことをやったら叱ってやって、間違った道へ進まないように補助してやるものだ」
「彼女はただの子供じゃありません。朽木家の子供です」
「それが何だ。朽木は甘える場所が必要だ」
「・・・それが、あなただって言うんですか?」
「少なくとも、あんたじゃないな。あんたは朽木のために、朽木を甘やかせない」
真っ直ぐな視線で告げれば、海燕の前では珍しい執事服姿の浦原は、ため息を一つ吐き首を振った。
「あなたがお嬢様の居場所になってくれるって言うんですか?」
「ああ。こいつはもっと世間を知らないといけねぇ。その為には口利けと縁がない俺の方がいいだろう」
「───きっと、そうなんでしょうね」
寂しげに笑った浦原に、海燕はついっと眉を上げた。
目の前の男がうそ臭い笑顔を崩すことはそうない。
へらへらした表情で全てを隠す。それが海燕の知る浦原という男のはずだが、何かしら心境の変化でもあったのだろうか。
彼との付き合いは思い出すのも億劫な昔からだが、今更変わる生易しい男ではなかったと思うのに。
まあ、自分には関係ないか、と眠る少女を抱えなおした。
それは獣が我が子を護る光景ととても似ていた。
「お嬢様の魔獣が焼き餅を妬くでしょうね」
「ははっ!上手く誤魔化せよ、朽木の守護者」
「はぁ。あなたといいご当主といい厄介ごとばかりを押し付けるんですから」
肩を竦めた男は、そのまま踵を返し数歩歩く。
「───お嬢様を頼みましたよ」
ぽつりと聞こえた声に、海燕が目を丸くしていると、彼は振り返ることなく立ち去った。
随分と珍しい、というより初めて聞く『人間臭い』言葉。
その違和感をはっきりさせるには情報が少なすぎ、去った彼と同じように肩を竦めるともう一度惰眠を貪ろうと、いい香がする体に鼻を押し付けた。
「・・・お嬢様は、眠ってらっしゃるんですか」
「おう。無邪気なもんだぞ」
本性のまま、尻尾を軽く揺らした海燕は、自分に体を預けて眠る少女の髪をぺろりと舐めた。
大きな海燕の体に包まれて眠る人間の少女は、先日自分の主である浮竹の隊に入隊したばかりの子供だった。
少し猫毛の黒髪に、アーモンド形の目をした端整な面立ちの華奢な少女。
───朽木ルキア。
主より聞かされ予てより名を知っていたが、実物は想像していたよりもずっと小さく、触れれば折れてしまいそうなくらい細かった。
白い肌に端整な面持ちを持つルキアは、隊の中でも浮いていた。
貴族的な気品のある雰囲気に、警戒心の強い野良猫並の人見知り。けれど人はそれを生意気と捉え彼女の本心を見ようともしない。
人の群れに放り込まれた小さな子供は、常に怯えて心が震えているというのに、誰も見ようともしなかった。
だから、海燕は一人ぼっちのこの少女に手を伸ばすのを決めた。
他の誰も必要としないなら、自分が構ってもいいだろうと思ったのだ。
人には警戒心の強い子供は、けれど獣には心を解いた。
おずおずと伸ばされた手を許容すれば、少しだけ躊躇したように指先で触れた後、嬉しそうに掻き撫でる。
小さな掌から繰り出される力など高が知れているので遠慮はいらないのに、いつでも擽ったくなるような柔らかな力で海燕へと触れてきた。
ルキアは海燕には何でも話した。
隊であった失敗談。自分への噂に、先輩達と打ち解けれない悩み。
人見知りな自分への嫌悪や、どうすれば仲良くなれるのかと訴える悲しみ。
反面嬉しいことも良く話した。
綺麗な花が咲いていたとか、隊長に誉められたとか、三席の二人が話しかけてくださったとか、猫に子供が生まれたとか。
本当に些細なことから幸せを見つけられるルキアは、隊士が告げる冷血漢などではなく、感受性が豊かな一人の少女でしかなかった。
そんな少女の素顔を自分しか知らないのは、海燕の胸に優越感を湛える。
本当はルキアに執着していて、けれど海燕よりも遥かに不器用な主は、毎日報告がてら告げる話に笑って頷くばかりだ。
自分が動けばいいのに、と呟けば、あいつはまだお前の方がいいだろう、と眉を下げて情けなく笑った。
『まだ』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、そうかと頷いた海燕は未だにルキアを独占している。
このままじゃ駄目なのは良く判っていたけれど。
「あまり、うちのお嬢様を甘やかさないで下さい」
「なんだ突然。俺が朽木を甘やかしすぎているとでも?」
「ええ。これではひとり立ちが遅くなります。雛をかいがいしく面倒を見るのはいいですが、千尋の谷にも突き落としてやらなくては」
「何で?こいつは子供だ。子供ってのは可愛がって甘やかして、悪いことをやったら叱ってやって、間違った道へ進まないように補助してやるものだ」
「彼女はただの子供じゃありません。朽木家の子供です」
「それが何だ。朽木は甘える場所が必要だ」
「・・・それが、あなただって言うんですか?」
「少なくとも、あんたじゃないな。あんたは朽木のために、朽木を甘やかせない」
真っ直ぐな視線で告げれば、海燕の前では珍しい執事服姿の浦原は、ため息を一つ吐き首を振った。
「あなたがお嬢様の居場所になってくれるって言うんですか?」
「ああ。こいつはもっと世間を知らないといけねぇ。その為には口利けと縁がない俺の方がいいだろう」
「───きっと、そうなんでしょうね」
寂しげに笑った浦原に、海燕はついっと眉を上げた。
目の前の男がうそ臭い笑顔を崩すことはそうない。
へらへらした表情で全てを隠す。それが海燕の知る浦原という男のはずだが、何かしら心境の変化でもあったのだろうか。
彼との付き合いは思い出すのも億劫な昔からだが、今更変わる生易しい男ではなかったと思うのに。
まあ、自分には関係ないか、と眠る少女を抱えなおした。
それは獣が我が子を護る光景ととても似ていた。
「お嬢様の魔獣が焼き餅を妬くでしょうね」
「ははっ!上手く誤魔化せよ、朽木の守護者」
「はぁ。あなたといいご当主といい厄介ごとばかりを押し付けるんですから」
肩を竦めた男は、そのまま踵を返し数歩歩く。
「───お嬢様を頼みましたよ」
ぽつりと聞こえた声に、海燕が目を丸くしていると、彼は振り返ることなく立ち去った。
随分と珍しい、というより初めて聞く『人間臭い』言葉。
その違和感をはっきりさせるには情報が少なすぎ、去った彼と同じように肩を竦めるともう一度惰眠を貪ろうと、いい香がする体に鼻を押し付けた。
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