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『サッカーしようぜ、有人!』
『・・・いやだ。サッカーはあそびでするものじゃない。だから、ねえさんとはしない』
『何意味わかんねぇこと言ってんだよ、お前は。チビの癖に生意気だなー』
『・・・・・・』
『サッカー、好きなんだろ?』
『まえは、すきだった。でも、いまはわからない』
『判らない?何でだよ』
『まいにちまいにちうまくなるためだけにボールをけってる。ひとりでするさっかーに、たのしみなんて、ない』
俯いて訴えれば、くしゃくしゃに頭を撫で回された。
がくがくと揺れる首に痛みを覚えて顔を上げて睨めば、お日様よりも明るい笑顔とぶち当たる。
楽しくて楽しくて仕方ない、とばかりに満開の微笑を向けた姉は、鼻が触れ合う距離で囁いた。
『馬鹿だなぁ、有人は。サッカーは楽しむもんだ』
『けど・・・』
『楽しいのがサッカーだ!俺と一緒にプレイしたら判る。ほら、一緒にサッカーするぞ』
『・・・・・・』
『言っとくが、俺のプレイはお前より上だ。併せてやるよ、お前のレベルに』
『・・・おれのほうがうまい』
『上手くないね。なんなら勝負してみるか?勝った方が次の父さんの土産を先に選ぶ権利をもらうんだぜ』
『じゃあ、ねえさんはあまりものだ』
『くくっ───バーカ。百年早いよ、有人』
サッカーボールを器用にリフティングした姉からボールを奪おうと飛び掛るが、ぴょんぴょんと移動するそれにたたらを踏んで芝生へ転がる。
何度飛び掛っても地面にボールを落とすことなくリフティングを続ける姉に、むっと唇を尖らせた。
いつもなら同じ年代のやつらは自分のプレイについて来ることすら出来ないのに、余裕たっぷりの姉は意地の悪い表情で見下ろしてくる。
必死に飛び掛っても、吸い付いたように離れないボールにいつの間にか久し振りに真剣にサッカーをプレイした。
絶対勝てない実力差に自然と唇が緩む。
一方的な展開なのに、悔しくて腹立たしくて負けたくなくて、───そして、とても楽しい。
『やーい、有人の下手っぴ』
『うるさい!』
『取れるもんなら、取ってみろー』
『くっ・・・!』
華奢な体で華麗にボールを操る姿は、どうしようもなく格好いい。
姉が居れば独りでないと信じられた。
闇を照らす光を具現化したような姉は、どれだけ全力で走り続けても追いつけない先に居て、その癖距離が出来ると立ち止まって手を差し伸べてくれる、道標のような人だった。
ぱちりと瞳を開いた先の闇に、鬼道は驚いて身を起こす。
幾度も瞬きを繰り返し、そうして自分が光射す庭ではなく、自室のベッドの上に居たのだと気がついた。
心臓は鼓動を早め、どくどくと全身に血流を送る。
眉間の血管が疼いた気がして、上半身を屈めて布団に顔を埋めた。
「何故、今更こんな夢を見る」
陽だまりの中笑っている過去は、紛れもない悪夢だ。
憎んで怨んで仕方ない存在が現れるなど許しがたい。
もう囚われていないはずだ。
もう恐れていないはずだ。
もう怯えていないはずだ。
もう忘れたはずだ。
震える拳を力づくで押さえ込み、荒くなる呼吸に瞳を細めた。
「今の俺はあなたを超えている。超えている、はずだ」
次に再会した時は、いつだって追いかけていた背中は遥か後方へとあるはずなのだ。
憧れ、尊敬し、前を走り続けていた背中は、もう見なくていいはずだ。
振り返って微笑んだ姿など、手を差し伸べる幻想など思い出さずに済むはずだ。
「サッカーは手段でしかない。試合に勝ち続け、妹を取り戻す手段でしか」
楽しいと教えた彼女自身に裏切られたのだ。
利用する術以外を考える必要もない。
所詮自分の兄弟は一人だった。
気を許し、懐き、心の柔らかい部分を捧げた自分が馬鹿だった。
「俺はもう傷ついてない。恨みしか抱いてない。憎しみしか持ってない。もう、惑わされたりしない」
幾度も幾度も繰り返す。
口にした言葉が耳に入るたび、少しずつ落ち着きを取り戻し呼吸が楽になってきた。
額に浮いていた汗を乱暴に拭い、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「俺は強い。あなたなど必要ない」
篭めた想いは本心だ。
それなのに。
痛みを訴える胸をぎゅっと服の上から掴み取り、鬼道は固く瞼を閉じた。
頬を冷たい感触が流れているのは、絶対に気のせいだと体を震わせて。
『・・・いやだ。サッカーはあそびでするものじゃない。だから、ねえさんとはしない』
『何意味わかんねぇこと言ってんだよ、お前は。チビの癖に生意気だなー』
『・・・・・・』
『サッカー、好きなんだろ?』
『まえは、すきだった。でも、いまはわからない』
『判らない?何でだよ』
『まいにちまいにちうまくなるためだけにボールをけってる。ひとりでするさっかーに、たのしみなんて、ない』
俯いて訴えれば、くしゃくしゃに頭を撫で回された。
がくがくと揺れる首に痛みを覚えて顔を上げて睨めば、お日様よりも明るい笑顔とぶち当たる。
楽しくて楽しくて仕方ない、とばかりに満開の微笑を向けた姉は、鼻が触れ合う距離で囁いた。
『馬鹿だなぁ、有人は。サッカーは楽しむもんだ』
『けど・・・』
『楽しいのがサッカーだ!俺と一緒にプレイしたら判る。ほら、一緒にサッカーするぞ』
『・・・・・・』
『言っとくが、俺のプレイはお前より上だ。併せてやるよ、お前のレベルに』
『・・・おれのほうがうまい』
『上手くないね。なんなら勝負してみるか?勝った方が次の父さんの土産を先に選ぶ権利をもらうんだぜ』
『じゃあ、ねえさんはあまりものだ』
『くくっ───バーカ。百年早いよ、有人』
サッカーボールを器用にリフティングした姉からボールを奪おうと飛び掛るが、ぴょんぴょんと移動するそれにたたらを踏んで芝生へ転がる。
何度飛び掛っても地面にボールを落とすことなくリフティングを続ける姉に、むっと唇を尖らせた。
いつもなら同じ年代のやつらは自分のプレイについて来ることすら出来ないのに、余裕たっぷりの姉は意地の悪い表情で見下ろしてくる。
必死に飛び掛っても、吸い付いたように離れないボールにいつの間にか久し振りに真剣にサッカーをプレイした。
絶対勝てない実力差に自然と唇が緩む。
一方的な展開なのに、悔しくて腹立たしくて負けたくなくて、───そして、とても楽しい。
『やーい、有人の下手っぴ』
『うるさい!』
『取れるもんなら、取ってみろー』
『くっ・・・!』
華奢な体で華麗にボールを操る姿は、どうしようもなく格好いい。
姉が居れば独りでないと信じられた。
闇を照らす光を具現化したような姉は、どれだけ全力で走り続けても追いつけない先に居て、その癖距離が出来ると立ち止まって手を差し伸べてくれる、道標のような人だった。
ぱちりと瞳を開いた先の闇に、鬼道は驚いて身を起こす。
幾度も瞬きを繰り返し、そうして自分が光射す庭ではなく、自室のベッドの上に居たのだと気がついた。
心臓は鼓動を早め、どくどくと全身に血流を送る。
眉間の血管が疼いた気がして、上半身を屈めて布団に顔を埋めた。
「何故、今更こんな夢を見る」
陽だまりの中笑っている過去は、紛れもない悪夢だ。
憎んで怨んで仕方ない存在が現れるなど許しがたい。
もう囚われていないはずだ。
もう恐れていないはずだ。
もう怯えていないはずだ。
もう忘れたはずだ。
震える拳を力づくで押さえ込み、荒くなる呼吸に瞳を細めた。
「今の俺はあなたを超えている。超えている、はずだ」
次に再会した時は、いつだって追いかけていた背中は遥か後方へとあるはずなのだ。
憧れ、尊敬し、前を走り続けていた背中は、もう見なくていいはずだ。
振り返って微笑んだ姿など、手を差し伸べる幻想など思い出さずに済むはずだ。
「サッカーは手段でしかない。試合に勝ち続け、妹を取り戻す手段でしか」
楽しいと教えた彼女自身に裏切られたのだ。
利用する術以外を考える必要もない。
所詮自分の兄弟は一人だった。
気を許し、懐き、心の柔らかい部分を捧げた自分が馬鹿だった。
「俺はもう傷ついてない。恨みしか抱いてない。憎しみしか持ってない。もう、惑わされたりしない」
幾度も幾度も繰り返す。
口にした言葉が耳に入るたび、少しずつ落ち着きを取り戻し呼吸が楽になってきた。
額に浮いていた汗を乱暴に拭い、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「俺は強い。あなたなど必要ない」
篭めた想いは本心だ。
それなのに。
痛みを訴える胸をぎゅっと服の上から掴み取り、鬼道は固く瞼を閉じた。
頬を冷たい感触が流れているのは、絶対に気のせいだと体を震わせて。
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