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小雨そぼ降る夜の道、傘を差しながら夜道を歩く。
耳につけたイヤホンから流れる音楽を小さくハミングし、コンビニ袋を片手に提げて小道を行けば、人通りの少ない道の端で街灯の下でぽつんとした影を一つ見つけた。
小首を傾げて近寄れば、瞳を潤ませてこちらを見てくる。
綺麗な毛並みをびしょびしょにして悲しげな顔をしている。
頭の天辺からつま先までずぶ濡れの彼に、そっと傘を傾けた。


「何だよ、お前。迷子か?」
「・・・・・・」
「仕方ないな、家に来いよ」


頭を撫でれば冷えた感触が手に伝わる。
温もりを与えるよう頬を撫で、小さく笑った。




「一哉ー!バスタオル一枚持ってきて!」
「バスタオル?何に使うのさ」
「外で子犬拾ったー。びしょびしょなんだ」


玄関で叫ぶ円堂に苦笑した一之瀬は、仕方がないなと呟きながら洗濯して畳んだばかりのタオルを一枚手に取る。
料理中だったためにピンクのエプロンをつけたままだが、火は消したから大丈夫だろう。
雨のせいで冷えた廊下をぱたぱたともこもこのアニマルスリッパを履いた状態で走り、目にした『子犬』に驚愕した。

真っ白な毛並みに、凛とした切れ長の瞳。
随分と躾が良さそうな『子犬』に、一之瀬はじとりと半眼になり苦笑して頭を掻く円堂を睨む。


「・・・『子犬』?」
「そう、『子犬』。毛並みもいいし素直だし、それっぽくない?」
「───俺にはどう見ても人間に見えるけど。しかもそれお前と同じクラスのエースストライカーじゃないのか?」
「よく知ってるなぁ、一哉。俺、紹介したっけ?」
「してない。でも秋から聞いた」


ぷくっと頬を膨らませつつ、持っていたバスタオルを円堂に手渡せば、くしゃりと笑った彼女はびしょ濡れの彼の頭を乱暴に拭いだした。
結構な力で拭かれているらしく首がえらい勢いでがっくんがっくんと揺れている。
普段は立てている髪がへたれているせいか、覇気のない姿は学校でのものとは重ならず一之瀬は一つため息を吐き出した。


「服は俺のを貸すから、風呂に入っておいでよ」
「・・・・・・」
「行けよ、豪炎寺。ちゃんと新品のトランクスはあるぞ」
「守、女の子がそういう発言しない!豪炎寺も玄関がびしょびしょになるから早く入ってくれよ」
「あ、足はきっちりと拭けよー。廊下が濡れたらお前が拭くんだからな」
「・・・わかった」


こくり、と頷いた豪炎寺を円堂が風呂場まで案内し、二人はそのまま並んでリビングへ抜ける。
一之瀬が住んでいるのは円堂のマンションで、彼女は中学生らしくもなく一人で5LDKの値が張る部屋を借りている。
一つを寝室、一つを書斎として空いた三部屋の内一つを自分の領域にしている一之瀬は、自分の部屋から新品の下着とジャージを取り出し持っていくと、空いている一室ではなくリビングへと布団を運ぶ円堂に眉根を寄せた。


「何してるの、守」
「いやぁ、今日はここで雑魚寝しようかと思って」
「お前は一応女の子なんだぞ!?何警戒心ないこと言ってるんだよ!」
「って、人の家にちゃっかり居候しているお前が言うなよ。それに豪炎寺が俺に手を出すとか、ないね」
「男は皆獣だよ」
「・・・だから、お前が言うなって。見ただろ、あの有様。捨てられた子犬みたいにびしょ濡れで、ボケッと空見て立ってたんだぞ?あの目を見て、そんなこと本気で言ってんの?」
「・・・・・・」


ぐっと言葉に詰まれば、苦笑した円堂に頭を撫でられた。
こんなときたった一つでも年の差を感じてしまい、無性に悔しくなる。
拳を握って俯いた一之瀬の髪をくしゃくしゃにして満足したのか、にっと笑った円堂は枕を片手に指差した。


「だからさっさと布団を運ぶの手伝えって。お前も一緒に寝るんだぞ」
「俺も・・・?」
「当然だろ。俺と豪炎寺二人きりにしたいのか?」
「それは絶対に嫌だ!」
「んじゃ、手伝って。あ、今日のご飯は何?」
「カレー。寸胴一杯に作ったから、豪炎寺の分も余裕であるよ」
「それならよし。布団は片隅に纏めておいて、ご飯食べたらちゃぶ台をどかして敷こうか。あ、そうだサッカー雑誌やDVDも準備しないとな。折角三人で寝るんだし、徹夜で遊ぼうぜ!」
「あ、なら新作のゲームも良くない?俺、スカウトでいい人材引き抜いたから、今度は負けないよ」
「いいな!俺だって育成しまくったから負けないし」


二人で顔を見合わせて笑っていると、いつの間に風呂から上がったのかほかほかとした湯気を立ち上らせて豪炎寺がこちらを覗いていた。
積み上げた布団の上に立ち上がった一之瀬は、ジャンプして降りるとキッチンへ向かう。
つんつん頭が降りているだけで随分と幼い印象に変わる豪炎寺に笑いかけると、掌を差し出す。


「俺の名前は一之瀬一哉。守のボーイフレンドで同棲相手だよ」
「同棲じゃなくて同居な、同居。んでもって本当にフレンドな」
「守は黙っててくれよ。・・・君は豪炎寺修也だろう?君は用事で居なかったけど、俺、今日付けでサッカー部に入部したんだ。改めて、宜しく」
「・・・ああ、宜しく」
「そうだ、豪炎寺。今日は泊まってくだろ?もう用意したし、親御さんに電話入れろよ」
「だが」
「用意はもう出来ちゃってるからさ。今日はリビングで三人で夜更かし決定だよ。サッカーゲームやDVD、あとは雑誌も用意して徹夜覚悟で遊ぶからね!」
「・・・いいのか?」
「いいって。どうせここには俺と一哉しか住んでないし、遠慮も無用だぜ!な、一哉ー!」
「うん、そうそう。君が電話している間にカレーの準備してくるからさ、早くかけておいでよ」
「わかった」


小難しそうな顔をしていた豪炎寺は、眉間の皺を解くとふわりと笑った。
円堂が電話の場所を教えると素直に踵を返した彼は電話をかけに部屋の隅へ向かう。
それを見送って二人でリビングから続きになっているキッチンへと行き、カレーを作った寸胴に火をかけた。
先に作っておいたサラダを円堂が冷蔵庫から出し、空のコップ三つとお茶を合わせてトレイに乗せる。
リビングが覗けるカウンターに置くと、そのままカレー皿とスプーンも用意しご飯をよそった。


「俺も手伝おう」
「ん、サンキュー!お前ご飯はこれくらいでいい?」
「・・・十分だ」
「了解。じゃあそっちのトレイに乗ってるサラダとかをリビングにあるちゃぶ台の上に持ってって。置き方は適当でいいぞ。一哉はこれくらいでいいか?」
「ん、オッケー!じゃ、頂戴」
「ほい」


手渡されたカレー皿にカレーをよそうと、そのままカウンターへ置く。


「豪炎寺、これも持ってってー」
「わかった」


素直な返事をした豪炎寺が置いたカレー皿を全て運び、食事の準備は整った。
一之瀬が外したエプロンを受け取ると、適当に畳んで椅子に引っ掛ける。
そのまま豪炎寺も呼んで座らせると、コップを並べてお茶を注いだ。


「おし、準備できたな」
「ああ」
「じゃあ、せーの」
『いただきます!』


ぱちんと高らかに音を立てると、一之瀬を声を合わせて深く頭を下げる。
ぽかんと口を開ける豪炎寺も同じようにさせ、スプーンを手に取りぱくりと一口カレーを含んだ。
絶妙な辛味に唇が緩む。


「さすが一哉ー。この味絶妙」
「うん、俺も思った。これは成功だね!豪炎寺はどう?」
「・・・美味い」
「それは良かった。一哉の料理は美味いだろ?どんどんと上手くなってるんだぞー」
「料理が出来ない守のおかげで、ね」
「失礼だな。俺は料理が出来ないんじゃなくて、禁止されてるだけだ」
「だって守の料理は天国と地獄の差が激しすぎるよ。無難なところに行ってくれればいいのに、下手に冒険しようとするから不味くなるんだ」
「人間冒険だって。その昔納豆を発見した勇者だって居るくらいなんだから、斬新なアイデアを出せばものすごい味に行き着けるはずだ!」
「・・・普通にすれば料理上手いのに。本当に残念だよね、守は」


はあ、と大げさに肩を竦めるジェスチャーに、豪炎寺が少しだけ笑った。
その笑顔に円堂が瞳を細め、一之瀬は肩を竦める。


「いつもこんな風に賑やかなのか?」
「大体はそうだよな?食事時はテレビをつけない。そんでその間は食べながら話す!」
「話す内容に中身はないけど、一日の報告とかしてるよね。後はサッカーとかサッカーとかサッカーの話!」
「そうそう。一哉はサッカー馬鹿だからな」
「守だってサッカー馬鹿じゃないか。雑誌のスクラップの整理、昨日手伝ったばかりだし」
「はは、だって好きだもんな!」
「そうだな」


顔を見合わせて笑うと、豪炎寺は目を丸くする。


「お前も仲間に入れてやるよ。名づけてサッカー馬鹿同盟!」
「まんまじゃん!」
「何だよ、じゃ、一哉にはいいネーミングでもあるってのか?」
「ない!」
「ないのかよ!」


言い切れば円堂はずびしと掌を使って突っ込んだ。
頭の後ろに手をやり笑った一之瀬は、こちらを注視する豪炎寺に首を傾げる。


「どうした?俺たち、何か変なことを言った?」
「いいや・・・ただ、こんなに騒がしい食卓は久し振りだったから」
「ふーん。なら、いつでもご飯を食べにこればいいよ。ね、守?」
「そうだな。後で合鍵やるから、好きなときに来い。なんなら空いてる部屋もあるし、お前の別荘にしていいぞ!」
「いや、それは・・・」
「遠慮するなよ、豪炎寺。客室にしてるけど、どうせ誰も来ないしな。使いどころもないんだし、お前に貸してやる。んで、何処に行けばいいか迷ったときに使えばいい」
「・・・円堂」
「家族の人にはさ、きちんと言えばいいよ。『友達の家に泊まる』ってな。秘密基地みたいで面白くないか?」
「いいね、秘密基地!響きが格好いい!」
「だろ!?よし、じゃあ今日はあの部屋の改造計画を決めるか!」
「うん!豪炎寺もちゃんと意見を言わないと駄目だよ?部屋にはテレビと布団以外ないから、服をしまう簡易ボックスとか俺の部屋からあげるよ」
「それじゃ俺の部屋からは簡易机!地味に使わないから邪魔だったんだよな」
「・・・守。廃棄物処理は止めて」
「あはははは、まぁまぁ。机、どっちにしろ必要だろ」


な、と声を掛けられ、切れ長の瞳をぱしぱしと瞬いた豪炎寺は、目尻を淡く染めて嬉しそうに微笑んだ。
木野の話からもっと堅物でクールな人物像を思い描いていた一之瀬は、素直な表情の変化に表情に出さぬよう心の底でひっそりと驚く。
ありがとう、と照れくさそうにはにかむ彼に、うかうかしてられないな、と強敵の出現に笑った。

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