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「まさか、鬼道さんと音無が兄弟だったなんて」


驚愕の事実に震える掌で顔に触れる。
動揺のあまりしばらくは動けそうにないな、なんて考えているところで不意に声が掛かった。


「さてさて土門君。今の話を聞いちゃったね?」


音無と鬼道の会話に気配を殺していた土門は、聞こえた声にびくりと体を震わせた。
慌てて顔を横に向ければ、いつの間に隣に居たのか腕を組んで壁に背を凭せ掛けている円堂と、さらに頭の後ろで腕を組んで立っている一之瀬の姿。
絶対に見られたくない二人の登場に土門は息を呑み体を強張らせた。


「よ、土門!」
「一之瀬・・・」
「板ばさみは辛いねぇ、土門」
「円堂」


にっと笑う円堂に、土門は体を震わせる。
驚きで動けないでいると、ゆっくりと壁から背を離して体をこちらに向けた。


「何でって思ってる?」
「・・・・・・」
「簡単だよ。俺、お前がサッカー部に入部した初日から、帝国のスパイって判ってたもん」
「なっ!?」
「駄目だろ、キラースライドは。あれは帝国じゃなきゃ覚えられない技だ。自分で『帝国のスパイです』って言ってるようなもんだよ」


まさか、気づかれていると思っておらず目を見開いた。
最初から知っていたなら今までの円堂の態度は何だったんだ。
自分こそ裏切っていたのに、裏切られたように感じたのはきっとそれだけ心を許していたからだろう。
唇を噛んで俯けば、ひょこりと近づいた一之瀬が下から顔を覗き込む。


「何、土門。落ち込んでるの?」
「・・・そりゃ、落ち込むだろ。まさか最初から見破られてると思ってなかったからな。今までの態度は全部俺を騙すための演技か、円堂?」
「演技?何が?」
「一緒に練習したり、笑ったり、話したりしたこと全部だよ。俺がスパイって判ってたから逆に騙してたのか?」


問いかけにきょとりとした顔をした円堂と一之瀬は、互いに顔を見合わせるとぷっと吹き出した。
けらけら笑う二人はどこか似た雰囲気を醸し出し肩を抱き合い思い切り笑顔だ。
そして笑い尽くしたと言わんばかりに目尻に涙まで溜めて漸く笑いを収めると、息を整えながら腹を抱えてこちらを見た。


「んなわけないじゃん。俺は一之瀬からお前の人となりは聞いてたし、実際に自分の目で見てもいい奴だって思った。お前、冬海先生がバスに細工しようとしたの止めてただろ」
「───そんなことまで見てたのか」
「まあね。あ、別に土門を見張ってたんじゃないぞ?冬海先生は初めから疑ってたからな」
「疑う?」
「ああ。あの先生は帝国───引いては帝国学園を率いる影山と繋がってる。違うか?」
「いや・・・当たってる。だが、何故その名前を」


問いかければ初めて円堂は黙り込み、ちらりと視線を一之瀬に向けた。
迷うような表情の円堂に一之瀬は小さく微笑みかける。
その笑顔は昔自分がよく見た彼の笑顔と全く違って、どこか男を感じさせる力強い励ますような笑みだった。
一之瀬の瞳を見詰めた円堂は、一つため息を吐くと苦笑する。
眉根を下げて困ったように笑う円堂に、土門は全てを理解した。


「俺には言えないってか」
「悪いな土門。お前を信じてないとかそういうんじゃない。ただ、俺にも言えない理由があるんだ」


きゅっと服の上から心臓の辺りの服を掴んだ笑顔はどこか切ないものを含んでいて、土門はそれ以上聞けなくなる。
黙り込んだ土門に一之瀬が近寄り、ぽんと肩を叩いた。


「その内判るよ───俺たちと一緒に戦っていればね」
「え?」
「え?って何驚いてるんだよ。お前は雷門イレブンだろ」
「けど、俺は」
「雷門にはお前の力が必要だよ、土門。お前はさっき鬼道にもうスパイは嫌だって言ってたじゃないか。なら本当に俺たちの仲間になればいい」
「そうそう!守とのサッカーは楽しいしね。俺もお前と一緒にプレイしたい」
「だが冬海先生を放っておくわけには」
「告発は俺が手紙で理事長室のドアに挟んどいたよ。夏美なら冬海先生に上手くやってくれるさ」
「・・・冬海先生は俺が帝国のスパイだって知ってる」
「なら先に皆に自分から謝っちまえばいい。お前を許さない奴なんて、雷門のサッカー部には居ないだろうよ。な、一哉」
「俺はまだ良く雷門の皆を知らないけど、守が言うならそうなんだろうね。大丈夫!いざとなれば俺と守も一緒に謝ってあげるよ」
「お前ら」


肩を組んで笑いあう二人に、土門も思わず表情が崩れた。
泣きたくなるくらいの安堵感に、自分がどれほど彼らの仲間になりたかったのか漸く理解する。
帝国とはまったく違う雷門のサッカー。
勝つために手段を選ばないのではなく、正攻法で真っ向から勝利を得る。
努力し喜びを分かち合うサッカーは、帝国では甘いとなじられるだろう。
それでも、土門どれだけプレイしても心から楽しめない帝国のサッカーより、甘いと言われても心から信頼し合える仲間とプレイしたかった。


「あ、でも一発殴られるくらいは覚悟した方がいいかもな」
「へ?」
「風丸ってああ見えて意外と手が早いんだよ。見た目可愛いけど性格男前だから」


円堂以外が口にしたならそれこそ速攻で殴られそうな発言に、土門はひくりと口の端を引きつらせた。
サッカーを楽しめる仲間を手に入れる前の試練は、自業自得とは言え存外に厳しそうだった。

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