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久しぶりに足を踏み入れる土地で、初めての学校の門を潜る。
アメリカとは違い制服がある日本は、同じ格好の生徒が何人も居て私服姿の自分を不思議そうに眺めていた。
しかしそんなことは今の一之瀬には欠片も気にならない。
きょろきょろと周りを見渡し、ずっと会いたかった人を探す。
彼女がいる場所は判らないが簡単に見つけ出せることは知っていた。

門に足を踏み入れてしばらく視線を彷徨わせれば、グランドと思しき場所でユニフォーム姿の少年たちがサッカーボールを転がしていた。
一之瀬の瞳が歓喜で輝く。
サッカーボールを見つけたのなら、もう会いたい人を見つけたも同然だ。
何しろ一之瀬の想い人は、稀に見るサッカー馬鹿で、自分よりも才能があるサッカープレイヤーだった。

少し小高い場所からベンチの隣に立っている少女の傍まで降りると、その練習風景を観察する。
そして吸い込まれるように視線が誘われた場所には、一之瀬の大好きなあの子が立っていた。
長かった栗色の髪が短くなり、まるで顔を隠すように黒縁のお洒落眼鏡をかけているが一之瀬が彼女を見間違うはずがない。


「・・・守、見っけ」


くしゃり、と子供みたいな顔で笑った一之瀬は、タイミングよく転がってきたボールをリフティングするとそのまま駆け出した。





「スピニングシュート!!」


久しぶりに目にする姿に瞳をまん丸にして驚いていると、その隙を狙ったようにシュート体勢に入った友人に慌てて身構えた。
勢いの乗ったシュートは相変わらずすばらしく切れがよく、豪炎寺に並ぶな、と少し苦笑する。
だがゴールを奪われる気にはならず、胸の前で拳を握った。


「ゴッドハンド!」


流れるような動きで頭上に手をやり、出現した金色の掌を操る。
一瞬だけ視線が絡み、にっと笑えば、相手はくしゃり、と楽しそうに微笑み返した。

激しい衝撃とともに体が押される。
どうやら覚えていた頃よりもパワーアップしているらしく、自然と気持ちが高揚した。
負けるか、と足に力を入れ踏みとどまると、何とか片手の中にボールが納まる。
勢いが消えたそれに息を吐くと、もう目の前には彼の姿があった。


「久し振り、守!」


自分とほとんど変わらない体型の癖に、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が詰まる。
遠くから風丸の悲鳴が聞こえた気がして苦笑した。
ぽんぽんと背中を叩き宥めたつもりが益々手に力を入れられる。
さらに頬に頬を摺り寄せられ、風丸の悲鳴が鶏を絞め殺したときのような声(聞いたことはないが)みたいになった。


「久し振り、一哉。How are you?」
「I'm fine。 And you?」
「Me too」


チュッと頬に口付けられ、同じように頬に返す。
アメリカでは慣れた仕草だが、日本に帰ってまですると思ってなかった。
漸く顔が離れると、きらきらとした大きな瞳が自分を映す。


「一之瀬君!?」
「一之瀬!!?」


背後からの声にぴくりと体を動かした一之瀬は、首だけで後ろを振り返った。
そこに居たのは木野と土門で、折角弱まった腕の力がまた強くなり、彼の機嫌が更に向上したのに気づく。
はぁ、と軽くため息を吐き出すと、疾風のような走りで駆け寄った風丸に無理やり引き離された。
そのまま腕に抱きこまれ背後からぎゅっと抱きしめられる。
ああ、厄介だなぁなんてぼんやりと考えると、鬼気迫るような響きで風丸が叫んだ。


「円堂、こいつは誰だ!?」
「───こいつは一之瀬一哉。アメリカでの俺の友達で、フィールドの魔術師って言われるほどの実力を持ってる。アメリカでも有名な天才プレイヤーだ。そんでもってついでに土門と木野の幼馴染」
「円堂君、知ってたの?」
「うん。アメリカに居るとき二人のことは耳にたこができるくらい聞かされたからな。な、一哉」
「あははは!俺もお前から何回も幼馴染の話は聞かされたけどな。心配性の幼馴染の風丸君は君だろ?」
「っ」


自分を抱きしめる風丸が息を詰めたのに気がつき、緩んだ手から身を抜け出す。
驚いたように目を丸くする風丸に、へらりと笑って見せた。


「何だ、風丸。俺がお前の話をするのは変か?」
「いや・・・だって、俺なんかの話を誰かにしているなんて、思ってもなかったから」


口元を掌で覆い俯いた風丸の髪から覗く耳は真っ赤に染まっている。
どうしようもなく照れている幼馴染に目を細め、一之瀬を振り返った。
突然の来訪は昨日受け取ったメールにも何も書かれていなかった筈だ。
悪戯が成功した子供みたいに笑っている彼は、綺麗にウィンクを決めるとまたこちらに近づいた。
しかし警戒するように間に入った風丸に苦笑すると足を止める。


「守。俺の力必要でしょ?」
「え?」
「だーかーら。守の力を活かすにはこの二年間一緒に居た俺の力が必要になるでしょ?だから、俺来たんだ」
「来たんだって・・・だってお前アメリカのジュニア選抜は?」
「勿論、通ってるよ。でも守も放っておけなかったから。マークやディランも守に宜しくって」


頭の後ろで腕を組んで笑った一之瀬は、アメリカで見たときと同じ軽やかな笑顔を浮かべた。


「約束しただろ?どっちかが心底困ってるときは、必ず助けに駆けつけるって」
「一哉」
「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーますってね」


小指を立ててこちらに向けた一之瀬に、少しだけ昔を思い出す。


『守。俺、君が困ってるときは世界の何処にいても必ず駆けつけるよ』
『んじゃ、俺も。一哉が真剣に悩んでるときは世界の何処にいても必ず隣に行く』
『じゃあ、約束』
『へ?』
『小指出して。日本人の約束は、やっぱあれでしょ』
『って、ここアメリカだぞ?』
『いいからいいから。ほら指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます』
『指切った!』


今より体は小さくて、顔立ちだってもっと幼かった。
身長だって円堂よりも低かったのに、いつの間にか視線はほとんど同じ位置にある。
僅かな時間しか離れていなかったのに男の子の成長は早いものだ。
なんとなく感慨深い気持ちになって、風丸の横から体を出すと腕を伸ばして頭を撫でる。
擽ったそうに首を竦めた表情は、やっぱり昔と少しも変わってなかった。

掲げられた手に昔と同じように音を立てて手を合わす。
ハイタッチの後から左腕を合わせ、そのまま右の腕を合わせるとがっしりと腕を組んだ。
額をつき合わせて至近距離で笑いあう。
懐かしく、穏やかな空気は心地よい。


「頼むぜ、一哉。俺、まだ目的達成してないんだ」
「判ってる。でも、無理は禁物だ。それも約束して」
「善処する───つうことで許して。そのために来てくれたんだろ」
「はぁ・・・しょうがないなぁ、本当に。じゃじゃ馬なのは相変わらずだ。───ところで話は変わるけど」
「ん?」
「髪を切った理由、きっちり教えてよね。俺、守の髪気に入ってたんだから」


にこりと微笑んだ一之瀬はどこか風丸を髣髴とさせる圧力をかける笑みを浮かべていて。
はははは、と渇いた笑みを浮かべて、一歩そっと距離を取った。
そう言えば彼が結構なフェミニストで女性の髪の手入れなどにうるさいのを思い出し、風丸の説教再来かと苦く笑った。

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