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「初めまして!俺の名前は円堂守。好きな科目は体育で、得意なスポーツはサッカーです。勉強は苦手で給食が大好きです!ずっと昔は稲妻町に住んでましたが、ここに帰ってくるのは久しぶりです。慣れないことも多いので迷惑かけると思うけど、仲良くしてください」


にこにこと満面の笑みを浮かべる円堂に、豪炎寺は瞬きを繰り返した。
先日転校生が入ったばかりのクラスなのに、また間をおかずに転校生が来たから驚いているのではない。
そうではなく、円堂が着ている制服にこそ問題があった。

だが驚く豪炎寺をよそ目に、クラスメイトは一気に盛り上がる。
先日行われたばかりのサッカー部の試合に助っ人として登場した姿を見ているものがいたからだろう。
帝国のボールを止めたキーパー。
噂は流れていたのに、転校したといった円堂本人はずっと学校に顔を見せていなかった。
試合終了から一週間が経ってもしや転校はその場しのぎの嘘だったのだろうかと疑問に思い始めたときに、その噂の張本人が現れたのだ。
盛り上がらない方がおかしいだろう。

自分のときよりも激しく質問が飛び交い、愛想よく円堂が応えていく。
しばらく問答が続いた後、漸く冬海がハンカチで汗を拭きながら間に入った。


「えー・・・円堂君は二年間アメリカで留学していて日本への帰国は久しぶりになるそうです。慣れないことも多いと思いますので、仲良くしてあげてください。ええと、円堂君の席は・・・」
「先生。俺、豪炎寺の近くがいいです」
「え!?あ、ああ・・・じゃあ、豪炎寺君の隣で。けれど豪炎寺君も転校してきたばかりなので、あまり学校のことには詳しくないですが」
「全然構いません。俺、豪炎寺と友達なんで」
「・・・・・・」


たった二回の会合しかしていないのに、相手はもう豪炎寺を友達認識しているらしく、内心で密かに驚く。
しかし一切表情に出さず、近づいてきた『彼女』を見上げた。

ぴょこんと跳ねる癖の強い栗色の髪に今日はバンダナは巻かれていない。
好奇心一杯の瞳を隠すように黒縁のお洒落眼鏡を指の先で押し上げ、さっと右手を差し出した。
見慣れた制服は綺麗に着こなされ、何の違和感もないほど似合っている。


「よろしくな、豪炎寺」
「・・・ああ」


左の肩口に入る稲妻のマーク。
自分のものと全く同じ、『男子生徒用』の学生服を身に纏った円堂は、コケティッシュな表情でウィンクを決めると人差し指を口元に当てた。






毎放課ごとに人に囲まれる円堂と結局ほとんど会話できないままに時間が過ぎ、気がつけば昼の時間になっていた。
弁当を持ち席を立ち上がろうとした豪炎寺に、隣の席から人の波を縫って円堂が声を掛ける。


「あ、豪炎寺、俺と一緒に昼飯食べない?」
「・・・・・・」
「えー!?俺たちと一緒に食おうぜ」
「そうだよ、円堂君。こないだのサッカーの試合のことも聞きたいし」
「ごめんなー。俺、幼馴染と昼は約束しててさ。豪炎寺も連れてくってメールしちゃってるんだ」
「幼馴染?この学校に幼馴染がいるのか?」
「うん!風丸一郎太って言うんだけどさ。知ってる?」
「知ってる!サッカー部のキャプテンだよね。だからこの間の試合で助っ人したの?」
「ま、そんなとこ。だからごめんな!また今度誘ってくれよ」
「しょうがねえな」
「また今度、絶対よ」


ぶつぶつと文句を言いながらも離れていったクラスメイトを見送り、豪炎寺は一つため息を吐き出した。
どうやら自分は円堂と食事を獲ることになったらしい。
応じたわけでもないのに周りの展開からなんとなく断れずに弁当を持った円堂の後に続く。
しかし聞きたいこともあるし丁度いいか、とため息一つ零してついていくと、くすくすと楽しそうに声が聞こえる。
踵を軸にこちらを振り返った彼女は自分とほとんど変わらぬ背丈で、まっすぐな瞳と視線が絡んだ。


「悪いな、豪炎寺。一人で飯食いたかったか?」
「・・・いや、別に構わない」
「目的地はサッカー部の部室だから、一度靴を変えるぞ。飲み物は一応俺が持ってる。緑茶は飲めるか?」
「大丈夫だ」


軽い会話を交す内に目的地であるサッカー部にたどり着く。
普段なら鍵が掛かっているが、幼馴染と約束していると彼女は言っていた。
風丸はサッカー部のキャプテンで、それなら鍵くらいは持っているのだろう。
躊躇いなくドアノブを回した円堂は転校初日とは思えない堂々とした態度で扉を潜った。


「やっほー、ちろた」
「だからそれは止めろって言ってるだろ、円堂!」


女性的な綺麗な顔を赤く染めて拳を握り訴える風丸に少し驚く。
普段は割りと冷静な面を見せる彼が、個人相手に熱くなるのは初めて見た。
驚く豪炎寺に気づいたらしい風丸は、こほん、と咳払いして姿勢を正す。


「態々悪いな豪炎寺。どうしても円堂がお前を呼ぶって聞かなくて」
「あー、風丸酷いんだ。それじゃ俺が凄い我侭言ったみたいじゃん」
「事実そうだろう。豪炎寺は昼はいつも一人で摂ると聞いている」
「どうしてクラスが違うお前が豪炎寺の昼時まで知ってるんだよ。・・・まさか、風丸」
「違う!!誤解だ!豪炎寺は転校当初から女子たちに人気があって」
「冗談だよ、冗談。風丸はそんじょそこらの女の子より綺麗な顔立ちしてるけど、性格は男前だもんな」
「・・・それは褒められてるのか?貶してるのか?」
「褒めてるに決まってるだろ。格好いいって言ってんだから」
「っ・・・そんなの、初めて聞いた」


顔を赤らめて照れる風丸は、とても判りやすかった。
恋愛沙汰に疎い豪炎寺でも判るくらいのあからさまな様子で、風丸は円堂に懸想しているらしい。
円堂を見てもその笑顔から気づいているかどうかは読み取れないが、関係ないか、と結論付ける。
手持ち無沙汰にしている豪炎寺に気づいた円堂が風丸に視線を向けた。
無言の訴えに気づいたらしい風丸が頷くと、にこりと笑って口を開く。


「とにかく、座ってくれ。一応片付けたんだけど」


机と椅子まで綺麗に用意されていて、促されるままに豪炎寺は腰掛けた。
弁当を置くとさりげなく隣に円堂が座る。
一瞬風丸の眉根が寄せられたが、何も言わずに彼も円堂の前に座った。
どうやら最初から円堂の弁当は風丸が持っていたらしく、座った彼女の前に弁当箱を置く。
その間にペットボトルで用意されていたお茶を紙コップに注いだ円堂が、風丸と豪炎寺の席の前に並べた。


「さて、とりあえず、いただきます!」


ぱちん、と両手を合わせた円堂が頭を下げるのにつられ同じように頭を下げる。
見れば風丸も箸を両手の親指に挟んだ状態で同じように手を合わせて頭を下げていた。
妙な行儀のよさに苦笑し弁当に手をつけ、しばらく無言が続く。
会話の皮切りをしたのはやはり円堂だった。


「それで、豪炎寺。俺に何か聞きたいことがある?」
「・・・直球だな」
「まあな。だって顔中疑問符だらけだったし。お前って感情がすぐに顔に出るな」
「そんなことは初めて言われた」


むしろあまり表情が動かず判りにくいと言われてきた。
幼い頃はそうでもなかった気がするが、母が亡くなってからはその手の言葉ばかりをもらっていた気がする。
しっかりした子供、と言われれば聞こえがいいが、何を考えているか判らないと大人たちにも言われてきたのに。
驚きで箸を止めると、風丸が苦笑した。


「円堂は人の感情を読み取るのが上手いんだ。隠し事しようとしてもすぐに見抜く」
「風丸はポーカーフェイスが苦手じゃん。澄ましてた顔して素直だもんな」
「円堂!」
「ははは!ほらな」


にっと笑った円堂を真っ赤な顔で風丸が睨む。
仲の良い様子に思わず笑うと、ちょっとだけ目を丸くした円堂は瞳を細めた。


「それで質問は?」
「お前は女なのにどうして男子用の制服を着ている」
「お、直球だな」
「婉曲に言っても仕方ないだろう。それで理由は?」
「んー・・・その方が俺には都合がいいから、だな。あ、一応ちゃんと理事長の許可は取ってるし違反はしてないから」
「理事長が、許可を?」
「そ。理由は、そうだな。理由は理事長も許可を与えるものがあるって思ってくれればいい」
「つまり理由は口にする気はないと。その上で俺にはお前の性別を黙っておけと言うのか?」
「さすが、察しがいいな、豪炎寺」
「・・・都合が良過ぎるんじゃないか?」
「俺もそう思う」
「だが、円堂がこの学校に居るためには必要なんだ。頼む、黙っていてくれないか?」
「俺にはお前たちの都合は関係ない」
「うん。───でも、態々俺の性別を口にする気もない。だろ?」
「どうして言い切れる?」
「だって豪炎寺が俺の性別を口にしても何の得もないじゃん。それにお前、告げ口とか嫌いなタイプだろ?」
「・・・・・・」


確かに円堂の言うとおりだが肯定せずに黙っていると、困ったように風丸が眉を下げた。
情けない顔をした風丸に円堂が笑い、そのままの笑顔で豪炎寺を向く。


「それに、永続的に隠せとは言わない。どうせ、いつかはばれるだろうしな」
「なら何故?」
「そうだな・・・お前にとっての夕香ちゃんみたいな存在が、俺にも居るってことだよ」


妹の名を出され、ぴくりと眉が動く。
そう言えば彼女は最初から妹の名前を口にしていた。
警戒するように瞳を細めれば、肩を竦めて弁当へ視線を戻す。


「何故、お前が夕香を知っている」
「そりゃ知ってるさ。友達だからな」
「・・・友達?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないな」
「そりゃ悪い。俺、実は小学時代のお前のサッカーの試合何度か見に行ってるんだ。その先で顔を合わせる内に仲良くなったのが夕香ちゃん。わけ合って俺とは秘密の友達だったけど、結構仲良かったんだぜ」
「・・・」
「その目、信じてないな?んー・・・でも証拠を示すのも難しいしな。・・・あ、これはどうだ?お前、夕香ちゃんにペンダント貰っただろ」
「っ、何故それを!?」
「だって最後に会った時に夕香ちゃんが言ってたからな。『お兄ちゃんがフットボールフロンティアに出場するとき、絶対に渡すんだ』って。あれはお前が小学校のときだったけど、約束は果たされたんだろう?」


小首を傾げた円堂の視線を避けるように俯く。
首から下げられたペンダントを服越しに握り締めると、その固い感触が掌に伝わる。
これは意識があった妹からの最後のプレゼントだ。
内緒で用意したと言っていた存在を円堂が知るなら、本当に夕香と友達だったのだろう。

一つため息を零す。
初めから彼女の性別を誰かに話す気はなかったが、言質は取られる運命らしい。


「判った」
「ん?」
「お前がいいと思うまで、俺の口からは性別は誰にも話さない。それでいいか?」
「やった!サンキュ、豪炎寺!」


くしゃり、と笑顔を浮かべた円堂に苦笑する。
すると益々笑みを深めた彼女は、豪炎寺に向かって爆弾を投下した。


「笑うと益々格好いいな、豪炎寺。ずっとそうしてればいいのに」
「っ!!?」
「───円堂!!」


瞳を見開き息を止めると、顔を真っ赤にした風丸が嗜めるように叫んだ。
けらけらと笑い声を上げる彼女を見詰める自分の顔は、もしかしたら風丸以上に赤いのかもしれない、なんて考え、思い切り顔を俯かせて弁当に箸を伸ばした。

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