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通い慣れた道を、防具と竹刀を持って歩く。
小学校低学年の身でありながらすでに結構な上背のリズヴァーンは、夏も近づいてきたというのにストールを顔半分に巻いていた。
雨が降ると未だに痛むその場所には、家族を失った証がくっきりと残っている。
その証を知らぬものは学校にも道場にもいないが、見て気分がいいものではないだろうとずっとそうしていた。
幾人か通り過ぎる顔見知りに挨拶をしながら真っ直ぐに歩く。
角を曲がって見えてきた場所が、リズヴァーンが現在住んでいる家だった。

指をインターホンに伸ばそうとして、暫し躊躇う。
きっとこの家の玄関は今日も開いている。外部からの侵入者であるリズヴァーンのために、開放されている。
だからこそ、躊躇うのだ。この家は以前はきちんと鍵は閉められていたのを、知っているから。
この家はリズヴァーンの親戚の家だ。少し遠い場所にあったここには、数ヶ月に一度の単位で遊びに来ていた。家族みんながどこか暢気な気質を持ち、暖かで優しい。
そんな場所に異分子が紛れ込んでいいか、未だにリズヴァーンには判らない。
ドアノブに手を伸ばし、躊躇っていると。

「おかえり!リズおにいちゃん!」

勢い良く開いたドアを慌てて避ける。そして僅かな後に高い子供特有の声が響き、どんと腰元に衝撃が走る。
誰かなんて確かめなくても判った。

「望美」
「えへへー。きょうものんがいちばんにわかったんだよ!」

凄いでしょ。誉めて。とばかりに目を輝かせる、低い位置にある頭に手を載せる。
リズヴァーンが帰ってきた喜びを隠さず、もし尻尾があったなら千切れんばかりに振っているのが目に浮かぶ。
何故か理解し難いが、この小さな少女はリズヴァーンが好きらしい。それも、赤ん坊の頃から筋金入りだ。彼女の母親曰く、『一目惚れってやつかしら?』らしい。だが、赤ん坊にそんな機微がわかるとは思えないので、きっと単純に気に入ってくれているのだろう。
クラスメイトが忌避の眼差しで眺めるこの金色の髪も青い瞳も、彼女にとってはこの上なく美しいものらしいから。

腕を広げて待ち構えている望美は、自分が拒絶されると考えていない。
全幅の信頼で、リズヴァーンに抱き上げられるのを待っている。
愛されるのを当然とした少女に、リズヴァーンは小さく笑うと防具を肩に掛けなおした。
そして柔らかく小さな体を抱き上げると、顔の辺りまで持ち上げる。

「おかえりなさい、リズおにいちゃん」

もう一度。今度は近い距離に少し照れたように、望美は告げる。
両手を伸ばしリズヴァーンの頬に当てると、嬉しげに顔を摺り寄せてきた。
そうして自分は今日も安心する。

望美は自分を必要としていると。自分はここにいていいのだと。
きっといつかはなくなるかもしれないこの習慣は、リズヴァーンがこの家に馴染むまでは少なくとも続くのだろう。
子供らしい石鹸の香りに、目元が緩んだ。

「ただいま、望美」

柔らかな頬から離れ額をこつりと合わせる。
くすくすと笑い体を震わせた望美は、腕を伸ばしてリズヴァーンの首を引き寄せた。
落とさぬようにもう一度位置を変え、ぽんと背中を叩く。

「ただいま」

今度こそ躊躇なくドアノブを捻れば、家の奥からおかえりなさいの声が響いた。

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