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「私があなたにお話できることは何もありませんわ、ブラッド様」

繊細な美貌を持つ賢い貴婦人は、動揺を押し隠すと普段どおりの微笑みを浮かべて小首を傾げた。
妹と似た色をした髪がゆらりと揺れ首筋から流れ落ちる。
その様に幾百人の男が見惚れたとしても、ブラッドは対した感慨は抱かない。
注意深く瞳の奥で観察していたらしい彼女は、そこで初めて人間らしい表情を見せた。
先ほどまでの精巧な人形さながらの微笑ではなく、淡い苦笑を浮かべたのだ。
何故彼女が突然人らしい感情を表に出したのか判らず、警戒するように目を細める。
だが瞬きする間に感情を笑顔の内に押し殺したロリーナは、くすくすと鈴を転がしたような声で笑った。

「ブラッド様、聞こえてらして?お伝えしたように私はあなたの望む答えを差し上げれませんの」
「何故だ」
「『何故』と私に問うあなただからこそ、何もお答え出来ませんのよ」

くすくすと優雅に取り出した扇子の内で微笑む美女に、ブラッドは眉間に皺を刻んだ。
答えられないと彼女は『答えた』。
つまり、それこそが答えだということだ。

王侯貴族が隠しておかなくてはいけない醜聞がそこにあると匂わせ、けれどそれを明言しない。
ロリーナは本当にアリスの姉であろうかと首を捻りたくなるが、アリスの方が王族らしくなく真っ直ぐなのだろう。
自分を捻くれていると表現するくせに、彼女は愚かなまでに素直だ。

自分の感情を瞳に乗せ、ブラッドを見詰めてしまうくらいに。

持っていたステッキで掌を打ちつけ、不機嫌に鼻を鳴らす。
つまりは、『そういうこと』なのだろう。

胸に沸き起こる不快感を何とか飲み下し、苛立ちを発散してしまいそうな自分を無理に抑える。
目の前に居る女の前で自分を曝け出すなど、そんな『不名誉』はありえない。
ブラッド・デュプレはプライドが高く人に心を許さない。
だからこそ心の奥深くでとぐろを巻く黒い感情を表に出さず、常にあるように余裕ある笑みをゆったりと浮かべた。

「私に『答えることが出来ない』。それが君の言い分であると理解していいのか?」
「ふふふ」

笑うばかりの彼女は、これ以上何か情報を漏らすつもりはないらしい。
知りたければ自分で調べろと言外に語るロリーナは、ブラッドを眺め笑みを深めるだけ。

「君は」
「はい」
「本当にアリスの姉か?」

全く似ていないと言葉の外で告げれば、瞳を丸くした彼女は、次には嬉しそうに破顔した。

「私はアリスの姉ですわ。彼女は私の最高の自慢ですもの」

嘘偽りないと断言できるほどに、そう告げたロリーナの瞳は輝いていた。
厄介なものだなと呟くと、言葉どおりに厄介な相手を半眼で眺めたブラッドはさっさと踵を返す。

「出来れば、君は敵に回したくないな」
「最高の賛辞ですわ、ブラッド様」

背を向けている為声しか聞こえないが、鮮やかな笑顔で礼を取っているだろう女性に、ブラッドは苦笑した。

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