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【5日目】


それは唐突であり、想像もしていないことで、獄寺の素晴らしく回転の速い脳は一端動きを止めた。
ぱちぱちと二度瞬きを繰り返し、吐く吐息にあわせ言葉を呟く。

「はい・・・?」
「だから。俺は十代目に会いたい」
「・・・・・・」

ゆっくりと脳に浸透していく言葉を、理解できないのは何かが拒否しているからかもしれない。
じっと静かな眼差しで自分を見上げる子供は今日も変わらず愛くるしいのに、何故頭が拒否をしているのだろう。
くるくると空回りする思考で、ごくり、と喉を鳴らす。
取りあえず。

「朝ごはんを食べましょうか、ウーノさん」

そんな言葉しか出てこない自分に、獄寺は苦笑した。



ご飯を食べて、眠る子供をじっと見詰める。
最近の彼は成長期なのか、良く眠っていた。
仕事の片手間でちらちらと視線をやりながらその様子を伺っていた獄寺は、ふう、と一つため息を落とす。

『十代目に会いたい』

いつの間に『オリジナル』の呼び名から『十代目』に変わったのか気づかなかったが、子供は確かに彼への面会を望んでいた。
子供が願うなら何でも叶えてやりたかったが、口にしたものは些か実現が難しく思えきゅっと眉間に皺を刻む。
そもそも何故彼が綱吉に会いたいと急遽思い立ったのかが判らない。
否、もしかしたら獄寺が気づかなかっただけでずっと会いたいと願っていたのだろうか。
ぐるぐると思考が回る中、無意識に書類を片付けながら渋面を作る。
無性に煙草が吸いたくなって、仕事中だと首を振った。
もやもやとする頭で苛々仕事を進めていると、唐突にドアがノックされ柳眉を上げる。
今、ウーノがお昼寝中だ。起きてしまったらどうする、と全力で殺気を向けながら入室を促せば、顔を青ざめるどころか白くした部下がおずおずと室内に入ってきた。

「何の用だ」
「その、あの・・・」
「さっさと言え」

威嚇するように唸り声に似た低音で促せば、冷や汗を滝のように流す部下は書類を差し出しながら声を振り絞った。

「ドンがお呼びですっ」
「それをさっさと言え、このクソボケ!果たすぞ!」

がつんと一言叫んで獄寺は、脱いでいた上着を引っつかむとすぐさま駆け出す。
部屋を抜けるドアを潜り、ふと思い出して顔だけ室内に戻す。

「俺が戻るまでウーノさんの面倒を見ていろ。・・・くれぐれも扱いに気をつけろよ。もし俺が戻ってきた時に何かあったら・・・」

親指で首を水平に切る仕草をし、そのまま地面に向ける。
言葉よりもハッキリした意思表示に慌てて頷く部下をそのままに、呼び出された先へと足早に向かった。



「いやぁ、ごめんね獄寺君。助かったよ」
「いえ、十代目のお役に立てたなら幸いです」

一切の偽りなく躊躇なく告げれば、眉を下げて困ったように微笑んだ綱吉は、持っていた書類を執務机に置いた。
彼の呼び出しの用件はまさにその書類に関することで、獄寺が作成した書類のデータに疑問があったらしい。
バインダーに纏められた1cmはある書類の束の中に問題のデータがあるのは判っていたが、急ぎの用件だったために獄寺が呼ばれた。
全てを記憶しているわけではないが、幸い重要度の高い内容で覚えていた獄寺は、綱吉の役に立てたと機嫌がいい。
彼が獄寺の記憶に一切の疑問を持たずに信頼してくれるのも、幸せの一端を担っていた。

「君は相変わらずそればっかりだね。仕事の邪魔をしちゃったんだから怒っていいのに」
「俺が十代目を邪魔なんて思う日はありません!世界の最後の一日だって、絶対に傍に居たいと願うに決まってます」
「───君の場合は願うだけじゃなく絶対に実行しそうだけどね」
「当然です!!」

拳を握り力説すれば、益々困ったような笑みを深めた綱吉は机に肘をつき顎を乗せた。
行儀がいい仕草ではないが、今は別に格好をつける場ではないからと気にしない。
むしろリラックスしてもらえていると考えると、また嬉しさに胸が詰まった。
彼が誰の前でもこんな態度をするわけじゃないと知っているからこそ、喜びは募る。
敬愛と、尊敬と、口に出せない感情のもろもろが混ざり合い、獄寺は無意識の内に微笑む。
その笑顔を見た綱吉は、仕方ないね、と呟き体勢を整えた。

「それで獄寺君」
「はい」
「俺に、何を頼みたいの?」
「え?」
「さっきから仕事してる俺を物井言いたげに見詰めてたでしょう?君、ポーカーフェイス得意なくせに、俺に関しては感情がだだもれだよね」
「っ・・・、そんなに、判りやすかったですか?」
「うん、とっても」

にこり、と先ほどまでとは違い、悪戯を見つけた子供みたいな顔で笑った綱吉に、口元を掌で覆い俯く。
一番隠し立てしたい相手に何もかもを見透かされるのは存外に恥ずかしい。
そして見透かされるほど自分を見ていてもらっていると考えると、羞恥を遙かに超えた幸福が訪れる。
初心な小僧でもあるまいが、耳まで赤くなっているだろう己を彼相手に隠し切る自信のない獄寺は、くすくすと笑う声に耳を傾けた。

「それで?どうなの?」
「───・・・俺が、お願いしたら、あなたは叶えてくださいますか?」
「内容にもよるな。けど滅多に俺に何かを強請らない君の言葉だから、なるべくなら叶えてあげるつもりだよ」

さらり、と告げられた台詞に心臓が爆発しそうだ。
ぼぼっと顔が更に熱を持ち、綱吉の顔を直視出来ない。
ああ、でもここで言わなければと、震える拳を握り渾身の力で口を開いた。

「それなら・・・お願いがあります、十代目」

ほんの些細なことでも彼に願い事をするのはこんなに緊張するもので、十年の付き合いの中、変わらないものの一つでもあった。

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