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悲しそうに笑った少女の顔が忘れられない。
痛みを堪え、それでも出来ないと身を縮めた彼女は、何かに怯える子供のようだった。
華奢な体を震わせ、一歩二歩とブラッドから距離を置く。

(───何故だ)

その瞳は、ブラッドを向いている。
向いているのに、その瞳にはブラッドは映っていない。
彼女はブラッドを通して、別の誰かを見ていた。

その瞬間、心を巡ったのは怒り、妬み、苛立ち、反感。
心配していた想いは一瞬で塗り替えられ、その華奢な肩を掴み思い切り揺さぶりたくなる。
そんな自分の強すぎる感情に戸惑いを覚え、その油断で彼女は走り去った。

「アリス!」

足は縫い付けられたように動かせず、焦燥が滲み出る声に、舌打した。
気づかぬ内に、思ったよりも侵食されていたのだと、その瞬間に理解してしまった自分が、殺したいほど憎かった。




「───久しぶりだな、お嬢さん」
「あら、ブラッド様。ご機嫌麗しゅう」

庭で優雅に侍女に給仕させお茶を飲んでいた姫は、侍女を下がらせると流れるような動きで立ち上がると一礼した。
小国ながらも大国の王や王子へとその名が広まるほどの美姫の彼女は、白百合のようだと誉れ高い微笑みを浮かべるとブラッドの許可を待つ。
視線を合わすことすら許可が必要で、確かに彼女は控えているのに、彼女の頭が真に自分へと向かい垂れているわけではないと直感し鼻を鳴らした。

「頭を上げろ。そんな茶番は必要ない」
「まあ、ブラッド様。随分な仰りようですわ。今日のブラッド様は何処かいつもと違う雰囲気をまとってらっしゃりますわね」
「・・・私が言いたいことくらい、判っているのだろう?」
「申し訳ございません。私、人の機微には疎くて・・・。お役に立てずにこの身を嘆くばかりです」

大国であるブラッドの国の大臣ですら怯む視線に、けれども柳のような乙女は取り出した扇子で口元を隠すと悲しげに目を伏せた。
その様子に騙される男は数多いだろうが、知りたい情報を引き出せぬブラッドからすれば苛立たしいだけ。
睨みつけてもさらりと躱すこの女狐ぶりは大したものだ。
いっそ自分の側近へとスカウトしたいくらいだと、苦々しい思いで睨みつければ、楽しそうに彼女は笑う。
どうあっても自分から切り出そうとしない彼女に、業を煮やしたのはやはりブラッドだった。

「アリスのことだ」
「妹がどうかしまして?」

ことり、と小首を傾げる彼女は無邪気に見えたが、その瞳が油断なく光っているのに気がついた。
言わせて貰おう。
彼女を小鳥のように愛らしいと表現する男は単なる愚者だ。
本性は生まれたばかりの子を護る雌ライオンのように油断ならない。
こんなときでもなければ面白いと会話を続けるだろうが、生憎今はそんな気分にならなかった。

「君は以前、アリスは私を選ばないと言ったな」
「ええ、申し上げましたわ」
「それは今でも変わらずか」
「ええ、ブラッド様。私も本当に残念ですのよ」
「口先だけの言葉はいい。───私が聞きたい事柄は一つ」
「何かしら?」
「君が想像するとおりだよ。・・・何故、アリスが私を選ばないと断言できるのか、君に聞きたい。答えてくれ、ロリーナ嬢」

敢えてその名を口にすれば、意表を突かれたとばかりに、彼女───ロリーナはその美しい瞳を見開く。
漸くまともに自分を見た瞳に、ブラッドは満足気に口角を上げた。

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