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■真選組&神楽




傘を片手に、構えを取る。半身になり重心は低く足をすり足で動かした。力も大事だがどちらかといえば自分はスピード勝負のタイプだ。遠心力は速度に応じて強くなる。ならば元々力のある神楽の動きに、スピードが加われば天下無双の覇者となる。
 神楽は自分の特性をよく知っていた。理解しているからこそ、どのように動けばいいのかシュミレーション出来る。それは生まれ持った天賦の才であり経験では生まれない感覚でもある。絶対的勝算を胸に、それでも逃げ出そうとする足を叱咤した。

「──一人で、やるつもりなんですかィ?」

見慣れた金茶の髪の男が刀の柄に手を掛ける。真っ黒な腹の色を感じさせない綺麗な瞳はすでに瞳孔が開き、紅潮した目尻が彼の興奮を伝えてきた。くつり、と愉快そうに喉を震わせると、躊躇なく抜刀し、抜き身の刀身が月光に光る。彼に迷いも惑いも一切ないらしく、本気で斬ると殺気が溢れた。
 唇を歪める。今更震えだしそうな体に、笑いが漏れそうだ。

「当然アル。お前らみたいな雑魚、私一人で十分ネ。財布の中身は補充してきたアルか?」
「生憎、この間アイマスクを買っちまったんで財布の中はすっからかんでさァ。土方さんはどうですかィ?」
「オレも、マヨネーズの特売があったもんで、給料日までマヨネーズで食いつないでる状態だ。残念ながら金は持ってねぇなァ」
「はっはっは。二人とも貧乏人だな!オレなんかお妙さんが預金全額下ろして来いっつったから財布の中身はパンパンだぞ」
「──あんた、貢君扱いじゃねぇか。それでいいのか?」
「何言ってるんだトシ!これは、お妙さんがオレに少しでも束縛して欲しいという愛情の裏返し──」
「ストーカーは黙ってろヨ。お前の想いはゲーム出るたびに姫を攫うクッパと同じくらいに報われないアル。愛が重すぎるアル」
「重いとか言うなァァァァ。オレの愛は人より少しだけねちっこいだけだ!」

 下らない軽口を交し合いながらも、彼らの間から緊張は解かれない。それもそのはず。今や彼らは完全な敵同士で、はっきりとした線引きは出来ていた。
 神楽は万事屋で働いていた無害なチャイナ娘ではなく、何人もの幕府の人間を殺害した殺人犯。例え相手が生きている価値のない屑だったとしても、見逃すには神楽は手を汚しすぎたし顔が知られすぎていた。
 山崎が拾ってきた情報通りに神楽は港に一人でいた。まるで、真選組が到着するのを待つように。ただ、一人で黒のチャイナ服を身に纏い、最大の武器である傘をクルクルとまわして遊んでいた。その仕草は幼げで、頼りなく儚いものであるのに、誰の助けも必要とせず背中で全てを拒絶している。闇に融け入るチャイナドレスは、まるで喪服のようだった。
 桃色の髪に整った容姿。大きな青い瞳は相変わらず澄んでおり、少し痩せた印象はあるが愛らしさに相違は無い。白い肌に黒い衣服は映えるのに、以前の彼女を知っていただけにどうしても違和感が拭い去れない。そこ居るのは太陽が似合った溌剌とした少女でなく、月光が似合う静かな一人の天人だった。

「変態の愛なんてどうでもいいネ」
「お前から話を振ったんだろうが」
「──ケツの穴がちっちゃい男アル。お前、痔を隠し持ってるんダロ?」
「オレは痔じゃねェェェェェ!」
「うわッ、土方さん、えんがちょ。近寄らないで下せェ。痔が移っちまいまさァ」
「だから違うって言ってンだろォォォォ!!」

 淡々と繰り返された軽口の応酬が、終わりを告げたのは唐突だった。揶揄する沖田の発言に土方の視線が自分から逸れた瞬間、神楽は一息に距離を詰めた。

「!?」

 呆れるほどのスピードに真選組が目を見張る。だが動けずに居るなら好都合。これ以上やりやすい相手は居ない。動きの遅れた土方の脇腹を目掛け、右手に構えた傘を容赦なく振るう。

「グゥッ・・・」

 悲鳴を堪えたのはさすがというべきか。先日、高杉から受けた傷はまだ治っていないだろう。あれほどの重傷を完治させるには人間の体は惰弱すぎ、ついで言えば脆弱すぎる。脆く砕き壊すのも容易。現に土方は、ただの一撃で地に伏し悶絶している。斬ってもいないのに彼の周りに血が滴っているのは、先日の傷が開いたからだろう。
 ふっと唇を上げ、そのままの勢いに乗り舞うように周りの隊士たちに仕掛けた。
 誰も彼も一撃。なんて簡単な『作業』なのか。以前と違い殺さないよう加減をしていないお陰で、全員が致命傷の傷を負っているが片付けるスピードは比べ物にならない。阿修羅の如き一方的な強さ。これは戦闘ではなく、虐待に近い。それほどに力の差は歴然とし、赤子の手を捻るように次々と倒れ伏していく。
 瞬く間に隊士の半分がやられ、近藤は眉間に皺を刻んだ。神楽が強いのは知っていたが、甘く見ていたとしか言いようがない。

「──アンタ、変わりましたねィ」
「ッ」

 必殺の勢いで繰り出した傘を止められ、相手を睨んだ。やはり、と言うべきだろうか。鍔迫り合う神楽の傘を止めたのは、真選組随一の腕を持つ沖田総悟で、楽しそうに唇を歪ませた彼は、神楽の目を見て囁いた。
「以前のアンタなら、話してる途中に手を出すなんてセコイ真似してこなかった。アンタ、随分と余裕がなさそうだ」
 一撃二撃と刀と傘を合わせる。天賦の才を持つ二人のやり合いは常人が手を出すにはあまりにも速く、手を出した瞬間には敵も味方もなく致命傷を負うのはすぐに判る。一見すれば斬撃を繰り出す沖田が押しているかに見えたが、全てを躱す神楽の表情は変わらない。どころか神速のそれを受けても息も上がらず傷一つ負っていなかった。
 ごくり、と喉を鳴らす。下手に手を出せば沖田の方が裁ききれずに怪我をしてしまうだろう。今まで得た経験からその推測を導き出し、近藤は額に汗を浮かべた。背筋をぞくぞくとしたものが駆け抜ける。実践を謳う自分たちの剣は、あの幼さを拭いきれない少女に劣る。
 それを判らない沖田ではないだろうに、彼の刀が止まる事は無い。どころか益々速度を増し、火花を散らして足を踏み込む。白熱する戦いに誰もが息を呑んで見守る中、けれど当の本人は光る眼差しをただ一人に向けていた。

「それに」

 笑って沖田は競り合う刀から無造作に力を抜く。均衡を保っていた力が急に失せ、傘に乗せていた力の分だけバランスが崩れた。沖田総悟は、その隙を見逃すような甘い相手ではなかった。
 しまったと思う間もなく右腿が熱くなる。貫かれたと知ったのは、刀が抜かれてからだった。赤く染まった刀身に小さく舌打をする。苛立った神楽の様子を見て、沖田はぺろりとそれを舐めた。

「──随分と弱くなったようだ。そんなんで、よくオレたちの前に姿を現せたなァ。オレたちも舐められたもんでさァ」

 容赦なく次の攻撃を浴びせ沖田は笑った。慌てて避けるが先ほどまでと違い、モーションは大きくなる。着地した瞬間腿から血が吹き出崩れそうになるのを踏ん張り堪えた。清々しいほどの笑顔を向ける青年に、罪悪感など欠片も見当たらない。どころか目の前の獲物を傷つけることが出来、心底嬉しそうに上機嫌だ。
 まるで、お気に入りのおもちゃを壊す子供のようだと考えて胸糞が悪くなった。彼は、晋助に少しだけ似ている。ふっと息を吐き出し痛みを意識の外に押しやると、そのまま傘を構えなおした。振りかぶるフリをして動きを変えた沖田ににっと笑う。彼がその意味を理解して表情を変えた時にはもう遅い。柄の部分に隠してあるボタンを押せば。

「ッ」

 破裂音とともに沖田は吹っ飛んだ。

「油断大敵アルヨ。これだから、単細胞生物は嫌いアル」

 両足と脇腹を至近距離で打たれた沖田は立ち上がることすら出来ない。無様にもがく姿にまだ意識を失わないかともう一度傘を向けようとした瞬間。

「総悟ォォォォ」

 近藤の悲痛な声が響いた。だが、神楽にはその声も届かない。沖田を倒したことで士気を失った隊士は脆く、呆気ないほど弱かった。それとも比較する対象が悪すぎるだろうか。ゆるやかに唇が弧を描き、顔についた血を舐め取る。
 近藤との距離を詰める間にも彼の盾になろうとした別の隊士を倒していく。近藤へと辿り着いたとき、他に立っていた人間は誰も居なくなった。

「チャイナさん」
「・・・・・・」

 近藤は、沖田を抱きしめ周りで倒れている自分の部下を見て手を握り締めた。そっと沖田を地面に横たえると、己の刀に手をやりゆっくりと立ち上がる。神楽を見る目に迷いはなく、そこに普段のおちゃらけた男は居なかった。

「こいつらはな、オレの家族みたいなもんなんだ」

 隙がない。初めて素の近藤を見た気がした。彼の体から立ち昇る気迫が白く見えるようだ。殺気は神楽に負けず劣らず強い。いつもとは別人の姿に、知らず口角が上がった。

「オレにとって特別なんだ。仲間、なんだよ」

 目は怒っているのに、それでも哀しい笑顔を見せた男は正眼に刀を構えた。不意に銀時の言葉を思い出す。昔、彼は近藤を強いと言ったことがあった。本気になれば、オレには勝てなくてもあいつらを子分にしてることに疑問が湧かない程度には強いだろうよ、と。その時には銀時の言葉は理解できなかった。認めたくないが神楽の中で真選組最強は沖田総悟であり、彼以上に近藤が強いと思えなかったから。だが今ならわかる。匂い立つような殺気はぴりぴりと肌を刺激して止まない。
 真選組は沖田が最強だと聞いていたし、神楽自身も判断していた。だが、目の前の男も負けず劣らずの腕前だろう。傘を構えなおそうと、腕を持ち上げる。

「オレはアンタを斬る」

 声は間近で聞こえた。瞬きして目の前を見れば、血が吹き出て彼が汚れて。胸を袈裟切りされたのだと吹き出る血を眺め判断する。少しだけ意識がくらくらし、どうやら出血多量で貧血になりかかっているらしい。体の傷がすぐに癒えても、流れる血の生成は追いつかない。先日受けた銃痕もまだ治りきっていないくらいだ。万全の体調とは言いがたい。動こうとする意思に反して、体は思うように脳の指令に従わない。もたもたと体制を立て直している内に、今度は腕の腱を切られた。だらり、と腕が垂れ下がり動きが一気に鈍くなる。ぶらぶら揺れるそれを視界に入れ、ふっと笑った。

「お前、強いアルな」

 気がつけば場違いな声が出た。素直に相手を賞賛し、左腕が動けば拍手もしていたかもしれない。傘を持つ手はもう武器を握り締めていなかった。その握力すらなくなってしまったらしい。脳がくらくらする。先日よりも酷い頭痛に目がかすんだ。どうやら本格的に不味い事態だ。
「すまねぇな、チャイナさん」
 銀光が目をついた。右胸を刀が貫く。鈍い感覚が全身に響き、咽喉元まで競りあがってきたそれを、逆らう事無く吐き出した。おびただしい量の血が、地面に零れる。
 鉄錆びの匂いが充満し、足を踏み出せばびちゃりと音がした。左腕は垂れ下がり胸からは動くたびに出血する。裂かれたチャイナ服はぼろ布に近く、白い肌は赤に塗れた。神楽のその姿を見て、目の前の男が目を瞑る。銀時と同じで心優しいこの男は、きっと自分の姿を直視できなかったのだろう。武装警察真選組のトップともあろう男の、無防備な仕草に神楽は微笑む。
それは、その場には不似合いなほど優しい笑み。

「──悪いアル、ゴリラ」
「!?」

 彼の瞳が開かれる前に、右の腕が彼の腹を突き破った。自身の腹に突き刺された手を眺めた男は、驚くように目を見張る。神楽が無手なので油断していたのだろう。いや、もしかしたらそれ以上にこの姿に同情し動けなかったのかもしれない。どちらにせよ、幾つもの修羅場を潜って来た近藤らしくない油断は、彼と神楽の立場を逆転させるに足るものだった。倒れる姿はスローモーションのようにゆっくりと映ったが実際には瞬き一つ分の時間だろう。

「っハ、ハッ、ハッ、ハッ」

 倒れ伏し動かなくなった近藤を眺め肩で息をする。さすがに、武装警察真選組の名は伊達じゃない。完全な体で相手をしてもきっと負傷はしていただろう。血が噴き出ると困るので、刀を腹に突き刺したまましゃがみ込む。動くたびに角度を帰る刀身に眉を顰め何とか体制を整えた。体中が痛まない箇所はなく、血が脈打つたびに傷自体が意思を持ったように鼓動した。いかに夜兎の体が回復力に優れていると言っても、これは癒えるのに時間がかかりそうだ。少しずつ意識が暗くなってきた。それでも僅かな休憩の後、何とか立ち上がると目の前に不意に影が掛かる。視線を向けなくともそれが誰かは判っていた。

「──これで、お前は後戻りできねぇぜ?これだけやったら、もうアイツもお前に手を伸ばさない。お前は、オレの隣以外に居場所はなくなった」

 何かに酔うような酷く上機嫌な声が聞こえた。肩で息をする神楽には、余力は無かったがそれでも何とか口を開く。

「・・・煩いアル、このクソボケ。お前の、感情も、ゴリラと同じで、重すぎる、アル」

 途切れ途切れになりながら悪態を吐いた。視界が定まらず、気配はわかるのに彼の姿がはっきりと目に映らない。ぼやけた影はゆったりと佇み、嗅覚が血の匂い以外を知らせる。嫌いな香に眉を寄せれば、クッと笑った気配がした。

「・・・ん・・・ちゃ・・・」

 出血のため意識が薄れる。神楽を繋ぎ止めていた痛みもただその熱さのみを伝え苦痛は消えた。意識がなくなる瞬間、囁いた名はやはり誰にも届かず消えた。
 

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