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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「おれの仲間に、手を出したな?」

たった一人で現れたその人は、野蛮な海賊に囲まれても怯むことなく正面を見ていた。
季節外れの麦藁帽子に、デニムのパンツと赤いベスト。
春島のここには少々涼しすぎるだろう格好の彼は、けれど寒さは感じていないようだった。
精悍な顔つきのその人は、目尻に傷痕があり、細身であるのに筋肉質な、しなやかな獣を思わせる男だった。
百人近い敵の中にただ一人乗り込んだ男は、自分を手当てしてくれた獣に視線をやると一つ頷く。

「迎えに来たぞ、チョッパー」
「うん・・・信じてた、ルフィ」
「当たり前だ」

自分を威嚇する敵の存在すら関係ないとばかりに、彼は獣の傍に寄ると彼の手錠を外した。
触れても居ないのに何故か壊れた手錠に、子供は大きく目を見張る。
そして手錠を解かれた獣が、くたり、と身を崩し小さな狸の姿になったのにもっと驚いた。
その狸の頭をひと撫ですると、優しく彼は地面に置く。
柔らかい手つきはこの場に居る誰もが持たぬもので、慈愛と温かさに溢れていた。

どくどくと心臓が逸る。
何故か判らないが、彼から目が放せなかった。

首から提げていた麦藁帽子を片手で被ると、彼はもう一度正面へと向き直る。
その瞳に先ほどまでの優しさは欠片もなく、ただ怒りに染まった色だけが燃えている。
ぞくりと背筋を駆け抜けるものは、それでも恐怖ではなかった。

「お前、おれの仲間に手を出したな」

疑問系であるくせに、確信に満ちた声。
凄まじい怒りに恐怖を感じてもおかしくないのに、不思議と彼を綺麗だと思えた。

「ぎゃははは!何だ、その化け物か?海楼石をつけても馬鹿みたいに屑どもの治療をしてたみたいだがな、痛めつけがたりなかったかぁ?」
「体ばかり頑丈な奴だったなぁ!殴っても蹴っても無抵抗で、鞭打っても悲鳴一つ上げねぇ面白みがねぇ化け物だ!」
「そんな屑どもを庇っても、何も見返りはねぇのにな!」

笑い合う下卑る声。
心理的に受け付けないその声は、紛れもなく自分たちを治療してくれた狸を嘲笑するもので、考えるよりも先に体が動いた。

「あんたたちが・・・あんたたちが、狸さんを笑う権利なんてない!狸さんは、凄く強いんだから!私達のために我慢してくれたんだから!」

恐怖よりも怒りが先に来た。
こんなことは今まで一度もなかった。
けれど、自分たちを助けようとしてくれた彼を、馬鹿にされたくなかった。
だが怒りは持続せず、近くに居た男に振り上げられた手により叩き飛ばされる。
がつんと床に頭をぶつけ、衝撃で視界がぶれた。
そして髪を掴まれ引き上げられると、光るナイフが目に入る。
自分を見る男の瞳に、記憶がフラッシュバックした。
そう、以前顔に傷をつけられた時も、男は自分を笑って傷つけた。

低い笑い声に、身が竦んで動けなくなる。
助けての声も出せぬまま、兇刃が自分へと近づくのを瞬きせずに見詰めていた。
だが、恐れていた瞬間は、ついに訪れることはなかった。

「何、くだらねぇことやってんだ」

怒りに満ちた声は、先ほど自分を掴んでいた男のものとは違った。
自分よりも僅かに高い体温。
直接頬に当たる肌は、自分を護るように胸に抱いた、あの麦藁帽子の男のものだった。
子供といえども体重がある自分を、片手で軽々と抱き上げた男は、心配そうに顔を覗きこんでくる。
何故かその些細な行動で心臓が跳ね上がり、あっという間に顔が赤くなった。

「大丈夫か?」
「・・・うん」
「なら、いい。───チョッパーを庇ってくれて、ありがとな」

地面に自分を下ろすと、彼はそのままくしゃりと頭を撫でてくれた。
それがとても心地よく、自然と涙が溢れてしまう。
懇願は、無意識の内に囁かれた。

「助けて。───お願い、私達を助けて」
「・・・ああ。まかせろ」

くしゃり、と子供みたいな顔で笑った彼は、本当に、最高に格好よかった。



結論から言うと、戦いの結末は呆気ないもので、あれほど恐怖していた存在はただ一人の彼により制圧された。
縛られた海賊達は、彼自身が信用していると太鼓判を押した海軍へと引き渡される手はずとなり、それまでは村の復興のために役立たされた。
救いの手を差し伸べてくれたヒーローは、世界に名を馳せる海賊王で、村の復興のためにと一月もの間力と知恵と技術を授けてくれた。
そして、今日。
海賊達の引渡しが決まったその日に、彼らは旅立つ。
何も奪うことなく、何も欲することなく、陽気で最強の海賊達は、海へと出てしまう。

自分の前に立つその人を、じっと見詰めた。
あの日と同じに、麦藁帽子とベストをの彼は、ししししっと楽しそうに、子供よりも無邪気に笑う。
その笑顔がとても好き。
きっと、彼が思うよりもずっと。

一緒に畑仕事をしてくれた。
一緒に料理をしてくれた。
一緒に狩りをしてくれた。
一緒に山で遊んでくれた。
一緒に海に遊びに行って、彼はぶくぶくと溺れていた。

傷がある自分を恥ずかしく思っていたのに、彼は可愛いと笑ってくれた。

胸の前できゅっと手を組み、必死の思いで顔を上げる。
自分は彼について行けない。
少なくとも、今の自分は彼に相応しくないと理解する分別はある。
けど、それでも。
想いを伝えていけないと、神様だって決めれない。

「ルフィ!!」
「んー?どした?」
「私、いつかあなたを追いかけるわ!───もっともっと綺麗になって、あなた好みの料理が作れる女になって!今よりもっと、強くなるから、だから、そしたら・・・っ」

離れていく船。
サニー号の縁に体を凭れ掛け、こちらを眺める黒々とした瞳を見据えて、とっておきの想いを告げる。

「私を、ルフィのお嫁さんにして!」
『ええー!!?』

周りに居た村人達から、絶叫が上がる。
海賊の嫁になりたいなんて、正気の沙汰じゃないと声が上がる。
彼の仲間のチョッパーも、同じように叫んでる。
けれど他の面々は苦笑するに留めてるので、きっと知っていたに違いない。

そして、肝心の彼はと言うと。
少しだけ黒い瞳を丸くすると、やはりしししと首を竦めて笑った。

「十年だ!」
「え?」
「お前が本気だって言うなら、十年だけ待ってやる。その間におれに追いつけたら、考えてやるよ!」

ぱぁ、とその言葉に表情が華やぐ。
端から相手にされないと思っていただけに、喜びが湧き上がった。
彼は約束を破らない。
確約はくれなくとも、それで十分だと思えた。
だから。

「うん!ルフィ、待ってて!私、絶対に追いつくから」
「なら、約束の証だ。これやるよ!」

船の上から投げられたのは、彼が身に纏っていた赤いベストの切れ端。
丁度腕に三周するくらいの長さのそれを、慌ててはしりと抱きしめた。

「髪、伸ばせよ!きっと似合うから」
「うん!・・・ルフィ、またね!」
「おう、またな!」

にっと笑った彼は、手を振ると未練なく踵を返す。
遠方に海軍の船が見えたことを狙撃手が教えたからだった。
マストを巻くと、沖から十分に離れた場所で船は止まる。

「じゃーなー!元気でいろよ!」

最後に聞こえたのは、やはり笑いを含んだ声で、それに泣きながら頷いた。
空を飛んだ船は、それきりあっという間に姿を消した。


その後、ルフィたちが救った島には髑髏に麦わらの旗が掲げられるようになる。
それは彼らが自分たちの恩を一生忘れまいとする想いの現れであり、同時に何かあっても必ず彼らの助けになるという誓いの表れでもあった。
その後海賊王に恋した少女の物語はまだまだ刻まれていくのだが、同じように彼を慕う相手が世界中にいることなど、少女はまだ知らなかった。

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