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■銀時→神楽
父の首に、刀が振り下ろされるのを目を閉じずに見ていた。公開処刑。小規模でも、そう呼ばれるものらしい。目立たぬように気配を殺し潜んだそこには、幾人もの幕府の重鎮がいた。彼らは、白装束に着替えさせた父を見て笑っていた。
宇宙に名を馳せたエイリアンハンターの父の最期は呆気ないものだった。刀が振り下ろされる直前。彼は、神楽を見て笑った。
とても、優しく、満足気な顔で。
神楽は。その光景を、無表情に、見ていた。
──────────────────────────────
「嫌な夢、見ちまったな」
自分以外誰も居ない家で、夜中に目を覚ました銀時は寝汗の酷さに眉をしかめた。寝巻きはぴたりと肌に張り付き、額に手をやれば汗で濡れる。寒々しい空気に体が震えた。それは体感温度だけではなく、誰も居ないこの部屋に対する寒さを感じた所為であり、たった数年で誰かの気配に慣れていた自分を自覚し自嘲する。
「──ははっ、今更だな」
呟いた声は自覚している以上に悔恨に満ちていて、布団を掴んでいた手に力を込めた。白くなるほど握っても、まだ気持ちは落ち着かない。一つため息を吐くと、銀時は立ち上がった。そのまま部屋を抜けると目的地はすぐそこにある。この家で彼女の名残を感じられる場所。押入れの前でひたりと立ち尽くす。
「・・・・・・・・・」
少しだけ躊躇し、意を決すると襖を開ける。そこに人の気配がなくなってから、どれくらいの時間が流れたのだろう。まだそれ程経っていないはずなのに、もう何十年も一緒に暮らしていないみたいだ。考え、己の思考に苦笑した。まるで、恋する乙女のようだ。出会ってから数年で勝手に胸の奥に居座った少女は、これまた勝手にある日さくっと出て行った。未練など何もないとでも言うように、後悔などしないと振り返ることもせず。
「あーあ、嫌だね、年を取るっていうの。何て言うの?感傷的になっちゃうみたいな?」
誰もいない部屋に、銀時の声だけが響く。少女が出て行った時そのままの姿の押入れは、まだ彼女の温度を残しているような気がして、そっと布団に手を伸ばす。けれど、当たり前にそれは冷え切っていて、当然の事なのに、胸が痛んだ。
「ホント、アイツってば自分勝手だからな~。勝手に居候したと思ったら、礼も言わずに出てきやがって。だいたい、このぴん子のサイン、宝物じゃなかったのかよ。こんなとこに置きっぱなしでいいの?銀さん、売っちゃうよ?」
温もりを探すように枕を辿り壁を伝い、それでも感じることが出来ないそれに、諦めたように手を下ろした。
「・・・わんっ」
「おっ、定春。何?お前も寝苦しかったのか?悪いな、貧乏だから空調なんて使えねぇんだ。大体、エアコンすらないしね~」
違うと判っていながらも、いつの間にやら隣で座っていた白い獣の頭を撫でる。心地よさそうに目を細める定春に、銀時も頬を緩めた。自分以外の温もりは、これほど心を満たすというのに。
「悪いな、神楽じゃなくて」
するりと出た言葉に、驚く。少女が出て行ってから、まるで禁句のように一人の時には名前を呼ばなくなった。何故って?
そうでもしないと、寂しすぎる。返事をしたらすぐに返ってきたあの時を、過去と自覚するには哀しすぎる。
「・・・神楽。神楽・・・。なあ、お前は今、何処で何を見てるんだろうな」
あの日、自分と決別した少女は、きちんと笑えているのだろうか。
神楽の父が殺された事を、間抜けな事に銀時は土方から知らされた。極秘事項というものだったらしい。神楽はそのことを知っていた。どうやってそれを知ったか判らない。だがあの感情豊かな少女は、目の前で父が殺されていくのを息を潜め、気配を殺し、何処かから見ていたらしい。これは土方の推測だろうがきっと当たっている。だが銀時は神楽の父が殺されたなんて知らなかった。誰にも教えられなかったし、気づこうともしなかった。神楽の様子がおかしいことに気がついていたのに、追求する事を躊躇って。
「くそっ」
拳を握り締める。爪が食い込み、血が滲んだ。
止めなくてはいけなかったのだ。他の誰でもなく、自分が。うぬぼれでも何でもなく、神楽を止めれたのは自分だけだったはずだろう。止めていたら、神楽はまだ自分の傍で笑っていたかもしれない。傷は深くても、癒してやる事が出来たはずだった。その力が銀時にはあったのに。
いつかは元に戻るだろうという傲慢とも取れる思い込みで何もしなかったから、息を顰めじっと構えていた獣に、兎は掻っ攫われた。白くて強い兎を、獣が狙っている事を知っていたのに。
「神楽っ・・・神楽、すまねぇ」
声を絞り出す。悔恨に滲んだ声。だが、聴いて欲しい人間は、そこに存在していない。ぺろり、と血の滲んだ手を定春が舐めた。決して美味しくないであろうそれを、癒すように舐め続ける獣にゆっくりと掌を開く。
「早く、迎えに行かないと」
無表情に泣いている兎の涙を止められるのは、きっと、自分しかいないと。奇妙な程の自信を持って、銀時は強く瞼を閉じた。
押入れに、温度が戻ってくる日を、強く強く願いながら。
父の首に、刀が振り下ろされるのを目を閉じずに見ていた。公開処刑。小規模でも、そう呼ばれるものらしい。目立たぬように気配を殺し潜んだそこには、幾人もの幕府の重鎮がいた。彼らは、白装束に着替えさせた父を見て笑っていた。
宇宙に名を馳せたエイリアンハンターの父の最期は呆気ないものだった。刀が振り下ろされる直前。彼は、神楽を見て笑った。
とても、優しく、満足気な顔で。
神楽は。その光景を、無表情に、見ていた。
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「嫌な夢、見ちまったな」
自分以外誰も居ない家で、夜中に目を覚ました銀時は寝汗の酷さに眉をしかめた。寝巻きはぴたりと肌に張り付き、額に手をやれば汗で濡れる。寒々しい空気に体が震えた。それは体感温度だけではなく、誰も居ないこの部屋に対する寒さを感じた所為であり、たった数年で誰かの気配に慣れていた自分を自覚し自嘲する。
「──ははっ、今更だな」
呟いた声は自覚している以上に悔恨に満ちていて、布団を掴んでいた手に力を込めた。白くなるほど握っても、まだ気持ちは落ち着かない。一つため息を吐くと、銀時は立ち上がった。そのまま部屋を抜けると目的地はすぐそこにある。この家で彼女の名残を感じられる場所。押入れの前でひたりと立ち尽くす。
「・・・・・・・・・」
少しだけ躊躇し、意を決すると襖を開ける。そこに人の気配がなくなってから、どれくらいの時間が流れたのだろう。まだそれ程経っていないはずなのに、もう何十年も一緒に暮らしていないみたいだ。考え、己の思考に苦笑した。まるで、恋する乙女のようだ。出会ってから数年で勝手に胸の奥に居座った少女は、これまた勝手にある日さくっと出て行った。未練など何もないとでも言うように、後悔などしないと振り返ることもせず。
「あーあ、嫌だね、年を取るっていうの。何て言うの?感傷的になっちゃうみたいな?」
誰もいない部屋に、銀時の声だけが響く。少女が出て行った時そのままの姿の押入れは、まだ彼女の温度を残しているような気がして、そっと布団に手を伸ばす。けれど、当たり前にそれは冷え切っていて、当然の事なのに、胸が痛んだ。
「ホント、アイツってば自分勝手だからな~。勝手に居候したと思ったら、礼も言わずに出てきやがって。だいたい、このぴん子のサイン、宝物じゃなかったのかよ。こんなとこに置きっぱなしでいいの?銀さん、売っちゃうよ?」
温もりを探すように枕を辿り壁を伝い、それでも感じることが出来ないそれに、諦めたように手を下ろした。
「・・・わんっ」
「おっ、定春。何?お前も寝苦しかったのか?悪いな、貧乏だから空調なんて使えねぇんだ。大体、エアコンすらないしね~」
違うと判っていながらも、いつの間にやら隣で座っていた白い獣の頭を撫でる。心地よさそうに目を細める定春に、銀時も頬を緩めた。自分以外の温もりは、これほど心を満たすというのに。
「悪いな、神楽じゃなくて」
するりと出た言葉に、驚く。少女が出て行ってから、まるで禁句のように一人の時には名前を呼ばなくなった。何故って?
そうでもしないと、寂しすぎる。返事をしたらすぐに返ってきたあの時を、過去と自覚するには哀しすぎる。
「・・・神楽。神楽・・・。なあ、お前は今、何処で何を見てるんだろうな」
あの日、自分と決別した少女は、きちんと笑えているのだろうか。
神楽の父が殺された事を、間抜けな事に銀時は土方から知らされた。極秘事項というものだったらしい。神楽はそのことを知っていた。どうやってそれを知ったか判らない。だがあの感情豊かな少女は、目の前で父が殺されていくのを息を潜め、気配を殺し、何処かから見ていたらしい。これは土方の推測だろうがきっと当たっている。だが銀時は神楽の父が殺されたなんて知らなかった。誰にも教えられなかったし、気づこうともしなかった。神楽の様子がおかしいことに気がついていたのに、追求する事を躊躇って。
「くそっ」
拳を握り締める。爪が食い込み、血が滲んだ。
止めなくてはいけなかったのだ。他の誰でもなく、自分が。うぬぼれでも何でもなく、神楽を止めれたのは自分だけだったはずだろう。止めていたら、神楽はまだ自分の傍で笑っていたかもしれない。傷は深くても、癒してやる事が出来たはずだった。その力が銀時にはあったのに。
いつかは元に戻るだろうという傲慢とも取れる思い込みで何もしなかったから、息を顰めじっと構えていた獣に、兎は掻っ攫われた。白くて強い兎を、獣が狙っている事を知っていたのに。
「神楽っ・・・神楽、すまねぇ」
声を絞り出す。悔恨に滲んだ声。だが、聴いて欲しい人間は、そこに存在していない。ぺろり、と血の滲んだ手を定春が舐めた。決して美味しくないであろうそれを、癒すように舐め続ける獣にゆっくりと掌を開く。
「早く、迎えに行かないと」
無表情に泣いている兎の涙を止められるのは、きっと、自分しかいないと。奇妙な程の自信を持って、銀時は強く瞼を閉じた。
押入れに、温度が戻ってくる日を、強く強く願いながら。
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