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■銀時→神楽


「銀ちゃん、ゴメンアル」
「神楽っ」

 必死に伸ばしたては、どうしても届かない。
 汗まみれになりながら、それでももっとと腕を伸ばした。
 あと少し。
 あと少し。
 手が、触れる寸前。

「──残念だったな、銀時」
「高杉!?」
「おい、行くぜじゃじゃ馬」
「黙るヨ、片目」

 少女が取ったのは。
 自分ではない男の右手。





「うわっ」
「わっ。どうしたアルカ、銀ちゃん」

 目を覚ますと、そこはいつもの公園のベンチ。横になっていた自分を覗き込むように眺めていた神楽は、目を丸くして銀時を見た。夢見の悪さで乱れる息を深呼吸を繰り返し何とか落ち着かせようと試みる。

「大丈夫、銀ちゃん?」

 優しい掌が、汗で濡れた額を宥めるように撫でた。銀時と比べ随分と小さく白いその感触は本物で。

「・・・夢か」

 やけにリアルな悪夢の果ての現実に、銀時はホッと胸を撫で下ろした。
 汗だくの銀時を見た神楽が、不思議そうに首を傾げる。

「何か嫌な夢でも見たアルか?」
「ああ・・・」
「じゃあ、私に話すヨロシ。悪夢は人に話せば本当にならないってマミーが言ってたネ。他人の夢の内容聞くなんてウゼェけど、銀ちゃんのは特別に聞いてやるヨ」
「・・・そりゃ、ありがたいこって」
「さあ、言ってみるヨロシ」

 ニコニコとする少女の頭を撫でる。かさついた掌に感じるその感触は現実で、手が届くのも本当で、それだけで酷く安堵する自分が、滑稽だった。
 先ほど見た夢の衝撃は収まりつつあるが未だに鼓動はバクバクと五月蝿い。どうしようかと少しだけ迷い、結局ゆっくりと口を開く。

「お前が・・・」
「私が?」
「・・・・・・いや。やっぱいい。所詮は夢だからな。銀さんの夢はあたらねぇって有名なんだよ」
「ふーん。有名なのカ」
「そっ、有名なの。だから、神楽が心配する事ねぇよ」
「そっか。なら、私はもう帰るアル」
「帰る?帰るって何処へ」

 愚問だ。
 神楽が帰る場所など、この星では一つしかない。──一つしかなかったはずだ。
 嫌になるくらいにバクバクと響く心音に眉根を寄せる。脈打つ鼓動は鼓膜を打ち、脳髄にまで木霊した。

「──晋助たちの所ネ」

 そこで銀時は初めて気づく。立ち上がった神楽の服はいつもの赤ではなく。闇に溶け込むような混じり気ない闇を紡いだ漆黒。
 あれは、夢だったはずだ。でなければ、神楽が自分の傍にいるわけなどない。自分の手が、神楽に届かないなんてない。荒くなる呼吸を宥めつつ、震える腕をゆっくりと伸ばす。
 抵抗する事無くその掌を受け止めた神楽は、心地よさそうに目を細めた。
安堵で脱力した銀時の顔を眺め、そして、寂しそうに微笑む。

「銀ちゃんの傍は、居心地が良すぎるネ。離れたくないって思っちゃうヨ」
「──・・・離れる必要なんて、ねぇじゃねぇか」
「あるヨ。私は、どうしてもしなきゃいけないことがあるネ。銀ちゃんの傍に居たら、私はそれが出来ないアル」
「っ。敵討ちなんて、誰も望んじゃいねぇだろ!?」

 溢れた言葉の意味に気づき、思わず両手で口元を覆った。
 夢だ。あれは、夢だったはず。なのに。

「──望んでいるヨ」

 悲しい目をした神楽は、トレードマークの番傘を差す。器用に片手で柄を掴み、くるりくるりと回転させた。そしてそのまま体を強張らせ、無言でいる銀時からゆっくりと距離を置く。
 桜色の唇がゆっくりと持ち上げられ、今から聞かされるであろう言葉を拒否できたならと痛切に願う。だが祈りは届かず無常にも銀時の耳に神楽の声は響いた。

「他の誰でもなく、私自身が」

 標準語で吐き出された言葉は、すとんと心に落る。一切の感情を削ぎ落とした少女は、銀時の知る神楽からかけ離れていた。いつでも精力的に瞳を好奇心で輝かせた、少し生意気で意地っ張りで、けれどこの上なく可愛がっていた神楽とは。
 囁かれた言葉は飾っていないだけに神楽の気持ちをストレートに知らせる。昏い瞳は少女の絶望を余すことなく伝えた。

「アバヨ、銀ちゃん。こんな所で無防備に眠っていると、晋助に刺されるアルよ」

 腕が重い。拒否される事が怖くて、腕が伸ばせないなんて、どこの思春期の男だと。
 遠ざかる姿を見つめ、一人呟いた。
 

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