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初めて女を家に連れて帰った。
少なくとも琥一が物心ついてから自発的に連れてきたのは初めてのはずだ。

「あらあらあらあら、まあまあまあまあ」

両頬に手を当て微かに頬を紅潮させた母親に、苦虫を噛み潰す。
琉夏と琥一の間に挟まれた冬姫は、大きな黒目がちの瞳をきょとりと彼女に向けた。
ちなみに今日の彼女の服装は白いワンピースに麦藁帽子。細い肩紐の右側に黒のリボンが縫い付けられたその装いは、以前母親に見せられた名作らしいアニメに登場した高原の少女。
琉夏は母親の変貌にこてりと首を傾げ不思議そうにしているが、彼より長い付き合いがある琥一は彼女の心が手に取るように見えた。

「何て可愛いのかしら」

ほう、と吐息混じりに呟くと冬姫の手を取り家の中へと招く。
戸惑うように二人を見た彼女に、食われないから大丈夫だと嘯けば頭を一つ殴られた。
痛む箇所を押さえ蹲っている間にとっとと彼女は拉致される。

「・・・母さんどうしたの?」

普段と些か様子の違う母親の姿に首を傾げたままの琉夏に、琥一は教えてやった。

「母さんはな、女の子が欲しいんだ」

それも、冬姫みたいないかにも可愛らしい女の子が。
うんざりと呟けば、琉夏もそう言えばと相槌を打った。

「母さん、可愛い子が好きだもんね」
「・・・ああ」

言葉を交わしながら慣れた様子で靴を脱ぐとそのままリビングへと入る。
絨毯の敷かれた床の上でクッションに座る冬姫は、行儀良く姿勢を正し正座していた。
その姿に蕩けるような微笑みを浮かべた母親は、お盆片手にすぐさま奥続きになっているキッチンから顔を覗かす。

今日友人を連れて行くのは告げていたので、きっちりと三人分用意されたケーキと四人分のコップにオレンジジュース。
勘のいい琥一は気づいてしまった。
この母親が自分たちに混じる気満々であるのに。

嫌そうな顔をしている琥一に気づかないはずないのに、さっさと冬姫の隣にと腰掛けた彼女は琉夏と琥一も座らせた。
そしていただきますと手を合わせケーキを口に運んだ冬姫に、爆弾を投下した。

「それで冬姫ちゃんはどっちが好きなの?」

飲んでいたオレンジジュースを思い切りよく噴出すと、隣にいた琉夏が嫌そうに眉を顰める。
それでも差し出されたティッシュで口元を拭うと、布巾で机を拭いた。

「どっちが?」
「そうよ。琥一と琉夏、どっちが好き?」
「・・・二人とも大好きです」

幾度か目を瞬きした冬姫は、当然の如くそう告げる。
それに内心で盛大に胸を撫で下ろした琥一は、隣に座る弟が少しも取り乱していないのに驚いた。
彼女に対し人並みはずれた独占欲を有する彼なら、絶対に自分を好きだろうと主張するかと思ったのに。

困ったように眉を下げた母親は、さらに追撃の手を進めた。

「んー・・・そういう意味じゃなくてね。どちらのお嫁さんになりたいの?っていう意味よ」

先程より噛み砕いたつもりらしい母親の言葉に、琥一は顔を赤く染めた。
怒りと羞恥が理由だが、口を挟むことも出来ないのは、彼女がどう応えるか気になったからだ。
息を詰めて待っていると、琉夏を見て、それから琥一を見た冬姫は、ふわりと満面の笑みを浮かべる。
愛くるしい笑顔にぼうっと見惚れると、母親が笑ったのが視界の端に映り慌てて顔を逸らした。

「冬姫は俺のお嫁さんになるんだ。ね、冬姫」
「うん」
「あら。琥一の負けか。やっぱりね」

断言した琉夏と冬姫、そして母親の言葉に密かに傷つきながら唇を噛み締める。
だがそれも長く続かなかった。

「それでコウくんとも結婚するの」
「俺たち三人でずっと一緒なんだ」
「・・・・・・あらあら」

驚きと喜びで息が詰まり思わず顔を上げるとこちらを見ていた二人と目が合う。
嬉しそうに笑う彼らに嘘はなく、胸に暖かな想いがこみ上げた。
だから。

「ね、コウくん」
「ずっと一緒だよな」
「・・・ああ」

照れくささを押さえ込み、何とかかんとか返事をする。
また顔が熱くなり赤面してるのが判るが、止められないから仕方ない。




思わず微笑んでしまいたくなる可愛らしい風景を見ながら、彼らの母親は苦笑した。

「これは将来苦労するわね」

息子は二人。彼女は一人。
子供である今は折り合いがつけれても、大人になれば違うだろう。
だがそれでも、今はこのままでいいのかもしれない。

初めて見せる穏やかで優しげな表情を少女に向ける息子達に、こうして大人になっていくのねと彼女は少しだけ感傷的に思った。

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