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仕事が終わり、玄関でネクタイを緩めながら靴を脱いだ蓬生の目は、すいっと細くなった。
小さく舌打ちをすると、不機嫌な表情で廊下を闊歩する。
普段ならにこにこと端整な顔を盛大に崩してスキップしそうな勢いなのに、生憎今日はそんな気分になれなかった。

リビングへと続くドアを開ければ、やはり想像通りの光景が広がっており益々蓬生の機嫌は下がる。
だがその原因である男は、最近より磨きがかかった男前でにいっと唇を持ち上げた。

「よう、蓬生」
「よう、じゃないわ。何で仕事が終わったのに千秋が家におんの?」
「俺が招待したんや。この間一緒に遊びに行ったとき約束したんやよなー?」
「おう。ちゃんとかなでにも説明してあるぜ?見ろよ、このご馳走。ちゃんと俺の好物ばかりだ」

にやにやと笑った千秋が指差した先には、なるほど。
言葉どおりに彼の鉱物ばかりが並んでいる。
一家の主を待たずに箸を伸ばした千秋は、茄子のしぎ焼きに手を伸ばすと口に入れた。

「んー・・・やっぱ、かなでの料理が一番口に合うな。早く俺のものになればいいのに」
「ちょおやめてくれへん?かなでちゃんは俺の嫁さんやで」
「ああ、今はな。いつ気が変わるともしれないだろう?」
「かなでちゃんは俺と一生を誓い合ったんや。離婚なんてありえへんわ」
「いや、もしかしたら未亡人になるかもしれないだろ」
「やめてくれる!その不吉な言葉。死の宣告!?」
「はははは」
「笑ってスルーしんといて」
「大丈夫や、おとん。千秋くんがおれば安心して天国へ行けるで」
「お前も不吉なこと言うな。仮にも俺の息子やろ」
「息子やから言うんですー」

つん、と顔を背けた息子の頭をぐしゃぐしゃにかき乱す。
髪の長い自分とは違い、千秋のように短く刈られた髪はそこまで大げさに乱れない。
並んで仲良く話す様は本当の親子のように見えなくもない。
だが生まれた時から付き合いがあればそれもまた仕方ないだろう。
気のせいか性格も似てきている気がするが、それは本当に気のせいだと思い込みたい。

「あら。蓬生さん、おかえりなさい」
「かなでちゃん」

愛しい女房の声に、蓬生の顔はぱっと明るくなる。
いつでもどこでも彼の世界の中心はかなでだ。
学生時代これ以上好きになることはないと思っていたが、日毎愛は増していき死ぬまでにどうなってるかと今では楽しみになるくらいだ。
子供を生んでも相変わらず少女めいた美貌の彼女を腕に抱くと、料理が零れちゃいますと困ったように眉を下げられた。
視線を下げれば確かに。
手に持ったお盆には二人分の味噌汁とご飯。

「千秋になんか気を使わんでええよ」
「でも、千秋さんは大事なお客さんです。それに美味しい美味しいって沢山食べてくれるから作りがいもありますもの」
「実際お前の料理の腕は確かだからな。───お前の飯を食ってるときが一番ホッとする」
「ならいつでもいらしてくださいね。千秋さんなら大歓迎です」
「そうそう。なあ、千秋君、今日泊まっててんか?」
「・・・いいのか?」
「もちろん、いいですよ。千秋さん用のお布団もあるんですから」
「・・・・・・その内、千秋の部屋まで出来そうやな」
「おとんにしてはいい考えやん。部屋は幾つか空いてるし、かなでちゃんどう?」
「そうね。千秋さんと蓬生さんさえ良ければいいわ」

嬉しげに語るかなでの視線を向けられた二人は、輝くような笑顔を同時に浮かべた。

『もちろん・・・』
「いいに決まってる」
「駄目に決まってう」

爽やかな表情の割りに、二人の目は全く笑っていなかったが、高校時代から変わらぬ鈍感さを発揮したかなでは全く気づかず、二人の遣り取りを敏感に察知した子供はひょいと器用に肩を竦めた。

拍手[16回]

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天気のいい日曜日。
冬姫と二人でゲームセンターで思い切り遊ぶ琉夏は、五勝四引き分け一敗の好成績に満足していた。
もっとも冬姫は琉夏に連れられて来たゲームセンターで初めてコンシューマーの格闘ゲームをプレイしてから、数回通うだけで腕を上げているので油断は出来ない。
だが競り合う楽しみを覚える相手との対戦は心踊るもので、その後もメダルゲームや音ゲーをプレイし、最終的にクレーンゲームへと足を向けた。

「琉夏君」
「ん?」
「あのストラップ欲しい」

服の裾をくいくいと引っ張った冬姫を見れば、白く細い指で何かを指差していた。
今日の冬姫の服装はガーリックなもので、ワンポイントのカチューシャがとても可愛らしい。
ワイルドな服装も難なく着こなすくせに、その時の艶やかな様子を微塵も感じさせず、どころか守ってあげたくなる庇護欲をそそる姿だ。
暫しじっと見詰め、それから指差す方向へ視線を向けた。
そこにはピンクと白と黒の兔のストラップ。
ピンクはリボンをして、白はスカーフ、黒はチェーンのネックレスと中々のお洒落さんだ。

「あの三匹?」
「そう。取れる?」
「当然」

一回では無理だろうが何回かに分ければ簡単だ。
ぺろりと唇を舌で舐め上げ、早速コインを投入する。

「あれ、三匹とも取れたらさ」
「ん」
「三人で携帯につけようね」

誰と言われなくとも冬姫の告げる三人目が誰か琉夏は知っていた。
脳裏を過ぎる男の影が、渋い顔でそれを受け取る姿を思い浮かべくくっと小さく笑う。
嫌そうに眉間に皺を刻んだ三人目である琥一は、迷惑だと言いながらも結局これを受け取ってしまうのだろう。
そして何だかんだ言って琉夏と冬姫に甘いあの男は、渋々妥協してくれると想像がつく。
きっと琉夏の発案なら呆気なく却下されるだろうが、自分で思っているより遥かに冬姫に甘い琥一は彼女の訴えを無碍に出来るはずがない。
硬派な琥一の携帯に、黒い兔のストラップ。
想像するだけでこみ上げる笑いを抑えるのに一苦労だ。

程なくして三つ取れたストラップに、冬姫が嬉しそうに微笑んだ。
それに釣られて琉夏も嬉しげに微笑み返すと、彼女をもっと喜ばせる案が一つ浮かんだ。

「なぁ、冬姫」
「ん?」
「今からガソリンスタンドに行って、それ押し付けてこないか?」

悪戯っぽく笑って告げれば、瞳を丸くした冬姫もすぐさま同じような笑みを返した。
公衆の面前で愛らしいストラップを手渡された琥一のリアクションを思い浮かべ、二人はバイクにまたがった。

拍手[12回]

「お姉ちゃん」
「何?」

ほわほわとした微笑みを浮かべる年上の女性は、全く年上には見えない愛らしい顔立ちをしている。
華奢で小さなかなでは女性である自分すら守ってあげたいと感じる庇護欲を掻き立てられる存在で、硬派でありながら庇護欲の塊のような兄の恋女房だ。
高校時代に運命的に知り合った彼らは、その後一度も別れることなくゴールインした。
お互い初めての彼氏彼女で、喧嘩も繰り返したと言っていたが、自分が知る限り遠距離恋愛でも一途な想いを昇華させた人たちだ。
この人たちのような運命の相手を見つけたい、と乙女心に願ってしまうほど理想的な恋人同士であり、現在は理想的な夫婦であった。
新婚家庭に頻繁に遊びに行っても邪険にされることはなく、どころか熱烈歓迎で美味しい手料理を振舞ってくれるかなでが大好きだった。
今では兄を抜きに二人で遊びに行くほどの関係だが、最近は少しばかり悩みも出来ている。

「かーのじょ」
「奢るから一緒に遊ばない?」

軽いノリの声に、眉間に皺を刻み込んだ。
馴れ馴れしく肩に手を置かれ、むっと唇を噛み締める。
体を振ってその手を避ければ馬鹿にするような口笛を吹かれ益々苛立った。

隣に居る義姉を見れば、眉を下げ掴まれた腕をどうすればいいかと困惑顔だ。
ナンパ男に遠慮する必要はないと口を酸っぱくして言ってるのに、彼女はいつも強く出れない。
人が絡まれていたら果敢にも挑むくせに、どうして自分ごとになるとここまで無防備なのだろうか。
かなでが自分を過小評価しているのは知っているが、自分が標的になりやすい可愛らしい容貌をしているのをいい加減に自覚して欲しかった。

「義姉さんに触らないで!」
「姉さん?へぇ、姉妹なんだ?似てないね」
「君はどっちかって言うと綺麗系でこっちの子は抱きしめたくなる可愛い系じゃない。姉妹でもこっちの子が年下に見えるのにねえ」
「そうそう。ちょっと鈍い感じがするし、大人しいし」
「義姉さん!やめてよ!」
「ひゅー、強気じゃん。いいね。一緒に遊ぼうよ」
「嫌よ!」

さっと周りを見渡してもこちらをちらちらと見る視線はあるのに、誰も助けの手を差し伸べてくれない。
厄介ごとに巻き込まれたくないのは判るが、ならせめて警察くらい呼んでくれてもいいだろうに。
ぎりぎりと唇を噛み締め苛立ちを堪えていると、不意に男たちの後ろから見知った姿を見つけた。

「あんたたち、今すぐその手を離しなさい。じゃないと後悔するから」
「後悔?お嬢さん二人でどう後悔させる気か教えてくれる?」
「お前も一緒に来いって言ってんだよ」
「ちょ、やめて!」

伸ばされた腕に身構えた瞬間、救世主はやってきた。
ぱしん、と乾いた音を響かせて伸びてきた腕を止めた男に、ほっと胸を撫で下ろす。
そのまま自分を庇うように前に立った男は、最高の兄の司郎だった。

「・・・人の妹に何してんだ」
「ヒっ!?」

低い声と、きっと傷の入った強面にびくりと体を竦ませた男は、伸ばした手を引っ込めようと腕を引く。
だが力を篭められているのかそれが果たせず、情けなく涙目になった。
ざまあみろ、と彼の後ろから舌を出すと、目を白黒させた男は一歩あとずさる。

「すすすすみません!妹さんでしたか」
「そうだ」
「すると、こちらも妹さんで?」

声を震わせてかなでの腕を掴んでいる男が彼女を指差すと、司郎は益々低い声で。

「そっちは俺の嫁だ」
「よ・・・よぉめぇ!?」

訳の判らない発音で言葉を繰り返した男は、火を掴んでいたように手を離した。

「俺の女と妹に何か用か?」
「ななななななななんでもありません!」
「なら二度と声はかけないで貰おうか」
「はい!当然です」

体を震わせたチャラ男は、司郎が腕を放すと同時に脱兎の勢いで駆け去った。
それを見送るとかなでの傍に近寄った司郎は、厳つい顔を心配そうに歪ませる。

「・・・大丈夫か」
「うん。私は大丈夫。でも・・・」
「お前は?」
「私も大丈夫だよ。義姉さんと違って腕を捕まれてたわけじゃないから。・・・義姉さんの腕赤くなってる」
「・・・・・・一発殴ってやれば良かった」
「もう、司郎君たら。冗談でもそんなこと言わないの。私は大丈夫って言ったでしょう?」

困ったように眉を下げたかなでは本気にしてないが、妹である自分にはわかる。
兄は紛れもなく本気だったと。
だが敢えてそれを口にする代わりに、大きな兄の腕に腕を絡めた。

「!?おい」
「いいじゃない。迎えに来てくれたってことは、兄さんも仕事が一区切りしたってことでしょう?一緒に買い物に行こう」
「だが、今こんな目にあったばかりだぞ」
「ふふ、慣れてるよ司郎君。私も久しぶりに一緒に買い物がしたいな」

慣れてるの言葉に眉を跳ね上げた司郎は、けれど次いで回されたかなでの腕に頬を染めて沈黙した。
何時までも初心な兄に、妹として微笑ましいばかりだ。
彼らの間にマンネリなんて言葉はないに違いない。

「私クレープ食べたいな」
「じゃあ、私も」
「・・・仕方ねぇな」

ため息一つで妥協した司郎に、彼を挟んで瞳を合わせたかなでと微笑みあった。


なんて愛しい休日。

拍手[12回]

「琉夏君」
「うん」

並んで歩く男女を一歩下がった場所で眺める。
思えば昔から少し控えたこの場所が琥一の居場所だった。
夕暮れの帰り道。
どこか物悲しさを感じさせる景色を眺め、話の尽きない二人の後をゆっくりと追いかける。

昼間の伝言を正確に伝えたらしい冬姫が帰り支度をしていた琥一に特攻してきたのは予想の範囲内だったが、その後に続いて彼女と同じように弟も特攻をかけて来た。
曰く『冬姫だけなんてずるい』だそうだ。
一見すると琥一に甘えたように見えるが、その瞳は明確に別の意思を持って光っていた。
弟が自覚しているかどうかは甚だ疑問だが、彼の瞳に込められた意味はきっと理解できている。
琉夏は昔から何物にも執着しなかった。
人であれ物であれ、いつかなくなると最初から諦めるように寂しげな瞳で笑っているのが常だった。
だがそんな琉夏の唯一の例外が彼の隣に居る少女の存在だ。
普通なら仲良くなるはずもない位置にあったのに、偶然知り合った冬姫に初めて執着らしきものを琉夏は見せた。

『・・・信じる?』

瞼を閉じればいつかの教会での会話が思い出される。
信じると問いかけたのは、彼女に向けたものだったのだろうか。
それとも自分自身への問いかけだったのだろうか。
今更聞いても琉夏は教えてくれないだろうが、時々ふと思い出す。
この茜色に染まった景色が郷愁を強めるのかもしれない。

「・・・コウ?」

気がつけば前を向いて歩いていた二人がこちらを振り返りじっと見ていた。
きょとり、と整った顔で疑問符を浮かべる姿は子供の頃から変わらない。
冬姫も琉夏も、まるで何も変わらなかった昔のようだ。
懐かしさに、つい目元を綻ばすと、二人は目を丸めて顔を見合わせた。

「冬姫」
「うん」
「コウが壊れた」
「うん」

ぼしょぼしょと聞こえるように内緒話を始めた二人に、先ほどまでの胸が詰まるくらいの寂寥感があっという間に去っていく。
ぎゅっと拳を握り締めると、意識して凄みのある笑顔を浮かべた。

「スポンサーを怒らせたらどうなるか。判ってねぇみてえだな、お前らは」

怒りに満ちた声に、もう一度顔を見合わせた二人は首を竦めて小さく笑った。
そして視線だけで会話をすると、二人同時に走り出す。
無駄に意思疎通が出来る二人に、待て!と態と声を上げて走り出した。
すぐには追いつかないように、ちゃんとスピードを加減して。

きゃあきゃあと子供みたいに走る二人の後を追いかける。
彼らの背中越しに見えた夕日が眩しくて、じっとり眉を寄せ目を眇めた。
一日が、もう終わる。

拍手[11回]

「ゆーずるくん」

教室の入り口から聞こえた声に、譲はぴくりと反応する。
そして頬を紅潮させ目をきらきらと輝かせてそちらを振り返った。

「のんちゃん!!」

嬉しくて嬉しくて堪らないとばかりに声を上げれば、呼びかけた相手はにこりと綺麗に微笑んだ。
『しつれいします』と律儀に頭を下げた望美は、先生のお話が終わったあとの室内にとことこと入ってくると小さな手を差し伸べる。
今まで遊んでいた友達そっちのけで駆け寄れば、フリルのついたキャミソールに見にスカート姿の幼馴染は、その長い髪をサラリと揺らした。

「のんちゃん、どうしたの?」
「あれ?まさおみくんからきいてない?」
「おにいちゃんから?なにを?」
「きょうね、ゆずるくんたちはわたしのいえにおとまりなんだよー」
「おとまり!ほんとう!?」
「うん、ほんとう」

こくり、と頷いた望美に、譲は益々輝かしい表情になった。
譲はこの生まれた時からずっと一緒にいる幼馴染のお姉さんが大好きだった。
優しくて強くて可愛くて綺麗な女の子。
譲のクラスにも可愛い子は沢山いるけれど、望美には及ばない。
少し意地っ張りなところはあるけれど、素直な望美が譲は大好きだ。

差し出された掌に躊躇なく手を重ねると、帰る準備をしようねと鞄を取って背負わせてくれた望美ににこりと微笑みかける。
そして今の今まで存在を忘れていた友人達を振り返ると。

「みんな、ばいばい!」

爽やかな笑顔で言い放った。
それに続いて望美もさようなら、と譲の友人に挨拶するとスキップしんばかりの彼に続く。
彼の脳裏にはこれから望美の家でしたいことがリストアップされていき、くすくすと幸せそうな声が零れた。

「のんちゃん、はやく!」
「うん」

ぐいぐいと大好きな望美の掌を握り、兄が現れるまでの短時間でも彼女を独占できる喜びににっこりと子供らしい満面の笑みを浮かべた。

拍手[11回]

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