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ぱっちりとした二重の大きな黒目がちの瞳。
綺麗な曲線を描いた頬はマシュマロのように柔らかくいつも淡く色づいている。
琉夏よりも真っ直ぐなさらさらの髪を肩口で切りそろえ、小首を傾げるたびに揺れるそれを眺めるのが大好きだった。
一人きりで泣いてるところを見つけた少女は、まるで自分のために存在するただ一人のお姫様。
寂しくて悲しくて、けど新しく家族になった人には何も言えなくて、学校には友達一人居なくって、誰にも胸の内を曝け出せなかったから神様がこの子をくれたのだと思った。
教会の端にあるサクラソウの絨毯の上で、ほろほろと涙を零していた少女が、琉夏を見てふわりと嬉しそうに涙を止めて微笑んだ瞬間から。
───この子は自分のものだと、自分を判ってくれる存在だと、自分を好きになってくれると、奇妙なまでに確信した。
「冬姫」
「ルカくん」
息を切らして走って行けば、嬉しそうに少女は瞳を細める。
琉夏が近寄っても学校の皆みたいに嫌がらないし、嫌な言葉を吐いたりしない。
冬姫は琉夏を何も知らない。
ただ会いに来るたびに嬉しそうに花が綻ぶように綺麗に笑うから、その度に琉夏の胸はドキドキして、その喜びに息が詰まった。
一週間前に知り合ったばかりの少女は、とても可愛い女の子だった。
レースが幾重にも重ねられた白いワンピースを着た冬姫は絵本から飛び出たお姫様そのもので、初めて見つけた時に琉夏は鼓動が早くなった。
何故って言えばお姫様が待っているのは何時だって王子様と決まっていて、もしかしたら自分が彼女の王子様なのかもしれないと思ったから。
緊張しながら眺めていたら、琉夏を見つけただけで少女はゆっくりと嬉しそうに微笑んだ。
いつの間にか握っていた拳を開いて手を差し伸べれば、彼女は躊躇なく手を握ってくれた。
転校してから無条件に手を握ってくれる相手なんて新しい家族以外居なかったから、琉夏は飛び跳ねそうなくらいに嬉しかった。
それから毎日この場所に通った。
毎日会えるわけではなかったけれど、それでも琉夏は毎日通った。
訝しげにこちらを見る琥一を宥め、一人でこの場所まで走った。
新しい家に移ってから一人で行動するのは初めてで、それもまたとても新鮮だった。
「ねぇ、今日は何をして遊ぶ?」
「そうだな・・・花が一杯咲いてるし、花冠を作ろうか?冬姫にきっと似合うよ」
「ルカくんにも絶対に似合うよ。ルカくん、可愛いもん」
「・・・男に可愛いはないだろ」
「でも可愛い。私よりずっと綺麗」
「そんなことない。冬姫の方がずっと可愛い。冬姫はお姫様だもん」
「・・・お姫様?」
「うん。サクラソウの花園の中で見つけた、俺の大事なお姫様。俺が願ったから冬姫は来てくれたんだ」
へらり、と微笑みかければ、戸惑うように眉を寄せる。
そんな様子すら可愛くて、出来上がった花冠をふわりとかぶせた。
白い肌と対比して色とりどりの花が栄える。
やっぱり可愛いと呟けば照れて視線を外し、むっと唇を尖らせた。
「俺、冬姫が居てくれて嬉しい」
「・・・私も。ルカくんが居てくれて嬉しいよ」
眉尻を下げ微笑んでくれる姿がとても大事だ。
彼女は琉夏の宝物。
いそいそと花を摘み、どんどんと連ねていく。
二人きりの遊びに刺激はないが、とても優しく穏やかだ。
「今度さ」
「ん?」
「コウを紹介するね」
「コウ?」
「うん。コウは俺の特別。きっと、冬姫も気に入る」
「そっか。ルカくんに似てる?」
「全然。いっつもこーんな顔してる。コウはガキ大将だから」
目を指で吊り上げれば、ぷっと小さく冬姫が笑った。
その可愛らしい声に琉夏も笑う。
「コウは心配性だから、ガキ大将だけど凄く優しい」
「ふーん。じゃ、やっぱりルカくんに似てるね」
「どうして?俺はコウみたいに強くないよ」
「ふふふ。ルカくんはとっても優しいもの」
くすくすと微笑んだ少女は出来上がった花冠を琉夏の頭にひょいと乗せる。
やっぱり、ルカくんも可愛い。
嬉しげに告げる冬姫に、眩いものを見たみたいに目を細めた。
「コウには俺たちが知り合いなのは内緒な」
「どうして?」
「仲間はずれみたいに感じるかもしれないから。言ったろ、コウは心配性なんだ」
「ふーん。判った」
本当はまだ少し迷っている。
琥一であれ、琉夏の特別を取られるかもしれないのは怖い。
でも冬姫なら大丈夫だろうと、琉夏は信じてみる事にした。
きっと少女なら自分と琥一を比較し、どちらかを選ぶなんてしないと。
こくり、と頷いた冬姫に、最高の兄で親友の琥一を紹介するのは数日後。
初めて見た少女の姿に、風邪薬を飲むときと同様に渋い顔をした琥一の姿は、予想通り過ぎて笑えた。
三人の遊びが『かくれんぼ』に固定され、難しい顔をした鬼がむすっと唇を尖らせて隠れた子を探しに来る日はもうすぐそこだった。
綺麗な曲線を描いた頬はマシュマロのように柔らかくいつも淡く色づいている。
琉夏よりも真っ直ぐなさらさらの髪を肩口で切りそろえ、小首を傾げるたびに揺れるそれを眺めるのが大好きだった。
一人きりで泣いてるところを見つけた少女は、まるで自分のために存在するただ一人のお姫様。
寂しくて悲しくて、けど新しく家族になった人には何も言えなくて、学校には友達一人居なくって、誰にも胸の内を曝け出せなかったから神様がこの子をくれたのだと思った。
教会の端にあるサクラソウの絨毯の上で、ほろほろと涙を零していた少女が、琉夏を見てふわりと嬉しそうに涙を止めて微笑んだ瞬間から。
───この子は自分のものだと、自分を判ってくれる存在だと、自分を好きになってくれると、奇妙なまでに確信した。
「冬姫」
「ルカくん」
息を切らして走って行けば、嬉しそうに少女は瞳を細める。
琉夏が近寄っても学校の皆みたいに嫌がらないし、嫌な言葉を吐いたりしない。
冬姫は琉夏を何も知らない。
ただ会いに来るたびに嬉しそうに花が綻ぶように綺麗に笑うから、その度に琉夏の胸はドキドキして、その喜びに息が詰まった。
一週間前に知り合ったばかりの少女は、とても可愛い女の子だった。
レースが幾重にも重ねられた白いワンピースを着た冬姫は絵本から飛び出たお姫様そのもので、初めて見つけた時に琉夏は鼓動が早くなった。
何故って言えばお姫様が待っているのは何時だって王子様と決まっていて、もしかしたら自分が彼女の王子様なのかもしれないと思ったから。
緊張しながら眺めていたら、琉夏を見つけただけで少女はゆっくりと嬉しそうに微笑んだ。
いつの間にか握っていた拳を開いて手を差し伸べれば、彼女は躊躇なく手を握ってくれた。
転校してから無条件に手を握ってくれる相手なんて新しい家族以外居なかったから、琉夏は飛び跳ねそうなくらいに嬉しかった。
それから毎日この場所に通った。
毎日会えるわけではなかったけれど、それでも琉夏は毎日通った。
訝しげにこちらを見る琥一を宥め、一人でこの場所まで走った。
新しい家に移ってから一人で行動するのは初めてで、それもまたとても新鮮だった。
「ねぇ、今日は何をして遊ぶ?」
「そうだな・・・花が一杯咲いてるし、花冠を作ろうか?冬姫にきっと似合うよ」
「ルカくんにも絶対に似合うよ。ルカくん、可愛いもん」
「・・・男に可愛いはないだろ」
「でも可愛い。私よりずっと綺麗」
「そんなことない。冬姫の方がずっと可愛い。冬姫はお姫様だもん」
「・・・お姫様?」
「うん。サクラソウの花園の中で見つけた、俺の大事なお姫様。俺が願ったから冬姫は来てくれたんだ」
へらり、と微笑みかければ、戸惑うように眉を寄せる。
そんな様子すら可愛くて、出来上がった花冠をふわりとかぶせた。
白い肌と対比して色とりどりの花が栄える。
やっぱり可愛いと呟けば照れて視線を外し、むっと唇を尖らせた。
「俺、冬姫が居てくれて嬉しい」
「・・・私も。ルカくんが居てくれて嬉しいよ」
眉尻を下げ微笑んでくれる姿がとても大事だ。
彼女は琉夏の宝物。
いそいそと花を摘み、どんどんと連ねていく。
二人きりの遊びに刺激はないが、とても優しく穏やかだ。
「今度さ」
「ん?」
「コウを紹介するね」
「コウ?」
「うん。コウは俺の特別。きっと、冬姫も気に入る」
「そっか。ルカくんに似てる?」
「全然。いっつもこーんな顔してる。コウはガキ大将だから」
目を指で吊り上げれば、ぷっと小さく冬姫が笑った。
その可愛らしい声に琉夏も笑う。
「コウは心配性だから、ガキ大将だけど凄く優しい」
「ふーん。じゃ、やっぱりルカくんに似てるね」
「どうして?俺はコウみたいに強くないよ」
「ふふふ。ルカくんはとっても優しいもの」
くすくすと微笑んだ少女は出来上がった花冠を琉夏の頭にひょいと乗せる。
やっぱり、ルカくんも可愛い。
嬉しげに告げる冬姫に、眩いものを見たみたいに目を細めた。
「コウには俺たちが知り合いなのは内緒な」
「どうして?」
「仲間はずれみたいに感じるかもしれないから。言ったろ、コウは心配性なんだ」
「ふーん。判った」
本当はまだ少し迷っている。
琥一であれ、琉夏の特別を取られるかもしれないのは怖い。
でも冬姫なら大丈夫だろうと、琉夏は信じてみる事にした。
きっと少女なら自分と琥一を比較し、どちらかを選ぶなんてしないと。
こくり、と頷いた冬姫に、最高の兄で親友の琥一を紹介するのは数日後。
初めて見た少女の姿に、風邪薬を飲むときと同様に渋い顔をした琥一の姿は、予想通り過ぎて笑えた。
三人の遊びが『かくれんぼ』に固定され、難しい顔をした鬼がむすっと唇を尖らせて隠れた子を探しに来る日はもうすぐそこだった。
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10日
>>将望スキー様
こんばんは、将望スキー様!
お久しぶりですw
また遊びに来てくださって凄く嬉しいですww
はい、いつの間にか先生登場してます。
CPで書くのはあまりないんですけど、先生大好きなんですよねw
正確に言うと先生⇒望美の関係が大好きなんです。
なのでこの話の先生も一見そう見えないかもしれないですが、かなり望美へ依存してます。
他のメンバーとは違って、生きる意味としての依存なのでかなり重いです。
管理人の趣味がもろ出ているので、今後ともこの話は逆ハーになっていくでしょう(笑)
ヒノエと先生は直接対決予定してないんですけど(まず係わり合いがなさそうなので)、将臣vsヒノエはまた書きたいです。
取り合えず今日はヒノエと望美のほのぼの過去話をアップしたので、こじれた様子も書きたくて仕方ないですw
将臣君、ゲームでは確かに絶対言わないですよねw
でも子供ならではというとこで許してくださいw
どんどんにやついてくださると嬉しいです!
これからもマイペースに更新しますので、また是非遊びにいらして下さい。
Web拍手、ありがとうございました!!
>>大っっ好きです!召喚士・・・の方。
大好きといってくださってありがとうございますww
久しぶりに召喚士をアップしたので、ちょっとドキドキだったのですが、そう言ってくださると嬉しいです!
本編から書こうかなと思ったんですけど、もう本編書きにくいやといきなり番外編にいきました。
召喚士では海燕殿は死なないですし、奥方もいない設定ですw
その感情はただ小動物を愛でるだけのものなのか、それとも色を変えているのか、それはまだまだ判りません。
でも今度海燕殿を出すときには、隊長とルキアと三人で絡める気満々です!
レギュラーメンバーではなく、三人だけが好きなんです!!
でも、一護を絡めるのはいいかも・・・?なんて思います。
同じ猫科の生き物ですし(笑)
これからもマイペースに頑張りますので、是非また遊びにいらして下さいw
Web拍手、ありがとうございました!!
11日
>>スイミー様
初めまして、スイミー様!
管理人の国高と申しますw
こんな辺境のサイトまでようこそお越しいただけましたww
数あるGSサイト様の中から見つけ出してくださってありがとうございます。
スイミー様の気持ち、私も良く判りますっ!
あの三人の△関係やばすぎですよね!
むしろ一生三角で居てよっ!って感じですよねw
このトライアングル・ラブは絶対的△主義が基本なので、気に入ってくださって嬉しいですw
むしろ私も三人が気に入りすぎて次が中々攻略できなかった人なので、もう本当に同士よっ!って感じです。
判ります、もう本当にお気持ち判ります。
このサイトの桜井兄弟を理想と言ってくださって本当に恐縮ですw
バンビ行き遅れるどころか、最終的には掻っ攫われるに決まってますよね!
彼らは三人なら絶対に幸せなのですから(断言!)
これからもマイペースに頑張りますので、是非また遊びにいらしてくださいませw
Web拍手、ありがとうございました!!
>>将望スキー様
こんばんは、将望スキー様!
お久しぶりですw
また遊びに来てくださって凄く嬉しいですww
はい、いつの間にか先生登場してます。
CPで書くのはあまりないんですけど、先生大好きなんですよねw
正確に言うと先生⇒望美の関係が大好きなんです。
なのでこの話の先生も一見そう見えないかもしれないですが、かなり望美へ依存してます。
他のメンバーとは違って、生きる意味としての依存なのでかなり重いです。
管理人の趣味がもろ出ているので、今後ともこの話は逆ハーになっていくでしょう(笑)
ヒノエと先生は直接対決予定してないんですけど(まず係わり合いがなさそうなので)、将臣vsヒノエはまた書きたいです。
取り合えず今日はヒノエと望美のほのぼの過去話をアップしたので、こじれた様子も書きたくて仕方ないですw
将臣君、ゲームでは確かに絶対言わないですよねw
でも子供ならではというとこで許してくださいw
どんどんにやついてくださると嬉しいです!
これからもマイペースに更新しますので、また是非遊びにいらして下さい。
Web拍手、ありがとうございました!!
>>大っっ好きです!召喚士・・・の方。
大好きといってくださってありがとうございますww
久しぶりに召喚士をアップしたので、ちょっとドキドキだったのですが、そう言ってくださると嬉しいです!
本編から書こうかなと思ったんですけど、もう本編書きにくいやといきなり番外編にいきました。
召喚士では海燕殿は死なないですし、奥方もいない設定ですw
その感情はただ小動物を愛でるだけのものなのか、それとも色を変えているのか、それはまだまだ判りません。
でも今度海燕殿を出すときには、隊長とルキアと三人で絡める気満々です!
レギュラーメンバーではなく、三人だけが好きなんです!!
でも、一護を絡めるのはいいかも・・・?なんて思います。
同じ猫科の生き物ですし(笑)
これからもマイペースに頑張りますので、是非また遊びにいらして下さいw
Web拍手、ありがとうございました!!
11日
>>スイミー様
初めまして、スイミー様!
管理人の国高と申しますw
こんな辺境のサイトまでようこそお越しいただけましたww
数あるGSサイト様の中から見つけ出してくださってありがとうございます。
スイミー様の気持ち、私も良く判りますっ!
あの三人の△関係やばすぎですよね!
むしろ一生三角で居てよっ!って感じですよねw
このトライアングル・ラブは絶対的△主義が基本なので、気に入ってくださって嬉しいですw
むしろ私も三人が気に入りすぎて次が中々攻略できなかった人なので、もう本当に同士よっ!って感じです。
判ります、もう本当にお気持ち判ります。
このサイトの桜井兄弟を理想と言ってくださって本当に恐縮ですw
バンビ行き遅れるどころか、最終的には掻っ攫われるに決まってますよね!
彼らは三人なら絶対に幸せなのですから(断言!)
これからもマイペースに頑張りますので、是非また遊びにいらしてくださいませw
Web拍手、ありがとうございました!!
初めて泊まる木造立ての家は、畳と呼ばれる草が敷かれていていい匂いがした。
その畳の上に寝具を敷き、ルキアは横になっていた。
外はまだ雪が降り続いているらしいが、部屋の中はそれほど寒くない。
暖房機器は見えないのにどういう原理かは判らなかったが、取り敢えずの不便がないからと気にしないでおく。
耳鳴りがするほど静かな空気は久しぶりで、腕を突くと上半身を起こした。
貸し出された衣服は着慣れない所為か少し心もとない。
浦原が私服で着ている『甚平』と呼ばれるものと少しだけ似ている気がしたが、それが判断できるほどルキアには知識はなかった。
部屋と外を区切る障子へ近づくと、そっと手を当てる。
音も立てずに開いたそれは、木枠と紙で出来ていてとても不思議だが安心感があった。
「やはり、降っているのか」
じっと空を見上げれば、真っ暗な空からひらひらと白い雪が降ってくる。
月は見えないが雪が反射してそれほど暗くない。
闇に強いルキアには、外の光景が苦労せず見えた。
「・・・さて、どうしたものかな」
吐き出す息がほわりと白くなる。
それが面白くて幾度か繰り返すが、考えが纏まらずに結局連れてきた相棒を呼び出すことに決めた。
自身の魔力を展開するのではなく、兄に渡された護符を使い結界を張る。
白哉手製のそれは余程力が強い魔獣でも魔法の気配を悟れぬ、強固な結界を安易に作ることが出来た。
だが反して規模は小さい。
ルキアを中心に半径1mほどの中で、縁側と呼ばれる木の板に座ると、指に嵌めている指輪に口付けを落とす。
「Erscheinen Sie(現れよ)」
ルキアの呼びかけに応え、サファイアの指輪が輝くと、へたりと耳を垂らした黒兔が現れた。
眠いのか幾度も目を瞬かせる彼の脇に手を差し込むと、そのまま膝の上に抱き上げる。
頭を撫でると小さく欠伸を漏らした兔は、じっと赤い瞳をルキアに向けた。
「どうしたんですか~、ルキアさん。こんな夜中に」
「うむ。眠っているところを悪いな。どうしても花太郎の意見が聞きたくて」
「こんな時間に、結界まで張ってですか?」
「ああ・・・昼間私がお会いした御仁、お前は見えていたか?」
「・・・はい。指輪の中からでしたけど、凄い力の持ち主でしたね」
「ああ。傍に居るだけで肌がぴりぴりとするほどの力の持ち主だった。───だが、彼が本当にこの村の長だろうか」
「どうしてそう思うんです?」
「彼は・・・魔獣と違う、ような気がした」
オリエンタルブルーの長い髪をした精悍な顔立ちの青年。
顔に大きな傷があったが、それは彼の美貌を少しも損ねていなかった。
ぴんと背筋を伸ばし正座していた彼は、涼やかでいながら人を落ち着かせぬ雰囲気の持ち主であった。
案内役であった冬獅郎を後ろに控えさせた彼は、確かに大物の気配がした。
それは貴族連中と始終渡り合っていたルキアには安易に悟れたが、だが何か違うのだ。
白哉や浮竹が持つ組織のトップとしての『何か』が彼には足らない。
それが何か明確に出来ないのだが、だが彼ではないとルキアの勘が訴えていた。
「私は彼がこの村の長だとは思えぬ」
「・・・ルキアさん」
「違和感がありすぎるのだ。・・・それに、彼の力は魔獣のものとは違う。そうであろう?」
腕の中の赤い瞳を覗き込めば、困ったように視線を逸らした彼はひくひくと鼻を動かす。
何故答えを渋るのか判らないが、それこそが答えなのだろう。
だからこそルキアは確信を抱いて花太郎に問うた。
ルキアが知る誰よりも感知能力に優れた、ルキアの魔獣に。
「氷輪丸殿は精霊だな?」
赤い瞳が、怯えるようにルキアを見詰めた。
その畳の上に寝具を敷き、ルキアは横になっていた。
外はまだ雪が降り続いているらしいが、部屋の中はそれほど寒くない。
暖房機器は見えないのにどういう原理かは判らなかったが、取り敢えずの不便がないからと気にしないでおく。
耳鳴りがするほど静かな空気は久しぶりで、腕を突くと上半身を起こした。
貸し出された衣服は着慣れない所為か少し心もとない。
浦原が私服で着ている『甚平』と呼ばれるものと少しだけ似ている気がしたが、それが判断できるほどルキアには知識はなかった。
部屋と外を区切る障子へ近づくと、そっと手を当てる。
音も立てずに開いたそれは、木枠と紙で出来ていてとても不思議だが安心感があった。
「やはり、降っているのか」
じっと空を見上げれば、真っ暗な空からひらひらと白い雪が降ってくる。
月は見えないが雪が反射してそれほど暗くない。
闇に強いルキアには、外の光景が苦労せず見えた。
「・・・さて、どうしたものかな」
吐き出す息がほわりと白くなる。
それが面白くて幾度か繰り返すが、考えが纏まらずに結局連れてきた相棒を呼び出すことに決めた。
自身の魔力を展開するのではなく、兄に渡された護符を使い結界を張る。
白哉手製のそれは余程力が強い魔獣でも魔法の気配を悟れぬ、強固な結界を安易に作ることが出来た。
だが反して規模は小さい。
ルキアを中心に半径1mほどの中で、縁側と呼ばれる木の板に座ると、指に嵌めている指輪に口付けを落とす。
「Erscheinen Sie(現れよ)」
ルキアの呼びかけに応え、サファイアの指輪が輝くと、へたりと耳を垂らした黒兔が現れた。
眠いのか幾度も目を瞬かせる彼の脇に手を差し込むと、そのまま膝の上に抱き上げる。
頭を撫でると小さく欠伸を漏らした兔は、じっと赤い瞳をルキアに向けた。
「どうしたんですか~、ルキアさん。こんな夜中に」
「うむ。眠っているところを悪いな。どうしても花太郎の意見が聞きたくて」
「こんな時間に、結界まで張ってですか?」
「ああ・・・昼間私がお会いした御仁、お前は見えていたか?」
「・・・はい。指輪の中からでしたけど、凄い力の持ち主でしたね」
「ああ。傍に居るだけで肌がぴりぴりとするほどの力の持ち主だった。───だが、彼が本当にこの村の長だろうか」
「どうしてそう思うんです?」
「彼は・・・魔獣と違う、ような気がした」
オリエンタルブルーの長い髪をした精悍な顔立ちの青年。
顔に大きな傷があったが、それは彼の美貌を少しも損ねていなかった。
ぴんと背筋を伸ばし正座していた彼は、涼やかでいながら人を落ち着かせぬ雰囲気の持ち主であった。
案内役であった冬獅郎を後ろに控えさせた彼は、確かに大物の気配がした。
それは貴族連中と始終渡り合っていたルキアには安易に悟れたが、だが何か違うのだ。
白哉や浮竹が持つ組織のトップとしての『何か』が彼には足らない。
それが何か明確に出来ないのだが、だが彼ではないとルキアの勘が訴えていた。
「私は彼がこの村の長だとは思えぬ」
「・・・ルキアさん」
「違和感がありすぎるのだ。・・・それに、彼の力は魔獣のものとは違う。そうであろう?」
腕の中の赤い瞳を覗き込めば、困ったように視線を逸らした彼はひくひくと鼻を動かす。
何故答えを渋るのか判らないが、それこそが答えなのだろう。
だからこそルキアは確信を抱いて花太郎に問うた。
ルキアが知る誰よりも感知能力に優れた、ルキアの魔獣に。
「氷輪丸殿は精霊だな?」
赤い瞳が、怯えるようにルキアを見詰めた。
その女の子を初めて見たとき、これ以上ないほど胸がドキドキした。
紫がかった長い黒髪。大きな緑色の印象的な瞳に、ぷくっとした唇。
桃色の頬は愛らしくて、思わず手を伸ばしたくなるほど。
入園式の日隣に座った女の子を、ヒノエはすぐに好きになった。
「のん!いっしょにあそぼ」
「うん!」
幼稚園に入園して一週間。
ヒノエは同じクラスの望美という少女と常に一緒に過ごしていた。
可愛くて優しくて素直な望美。
ヒノエを好きという女の子は沢山居たけれど、ヒノエが大好きと断言する女の子は望美一人だ。
いつだって手を伸ばせば当たり前に重ねられ、きらきらした瞳で見詰めてくる。
かくれんぼも鬼ごっこも探検も何だって付き合ってくれて、誰よりも気が合う友達だった。
昨日初めて家に連れて帰ったら、父親は『随分と可愛いガールフレンドだな』と笑い、母親は『良かったわね、ヒノエ。素直なガールフレンドでお母さん嬉しいわ』と喜んでくれた。
言っている意味は良く判らなかったが、喜ぶ両親にヒノエも喜んだ。
少なくとも望美が歓迎されてるのが判ったから。
「なぁ、のん」
「なに、ヒノエくん?」
「おれたち、ずーっといっしょだよな?」
「うん。ずーっといっしょだよ」
「ずーっとずーっとともだちだよな?」
「うん!ずーっとずーっとともだちだよ!」
望美の言葉にヒノエは嬉しくて首を竦めてくすくす笑う。
飾り気ない言葉が擽ったくて、心の中があったかい。
「おれ、のんがだーいすき」
「わたしもヒノエくんだーいすき」
秀でた額をつき合わし、秘密を打ち明けるように囁きあう。
きっとこの関係は永遠に違いない。
それはまだ、彼らが仲良しだった頃の、甘くて優しい記憶の欠片。
紫がかった長い黒髪。大きな緑色の印象的な瞳に、ぷくっとした唇。
桃色の頬は愛らしくて、思わず手を伸ばしたくなるほど。
入園式の日隣に座った女の子を、ヒノエはすぐに好きになった。
「のん!いっしょにあそぼ」
「うん!」
幼稚園に入園して一週間。
ヒノエは同じクラスの望美という少女と常に一緒に過ごしていた。
可愛くて優しくて素直な望美。
ヒノエを好きという女の子は沢山居たけれど、ヒノエが大好きと断言する女の子は望美一人だ。
いつだって手を伸ばせば当たり前に重ねられ、きらきらした瞳で見詰めてくる。
かくれんぼも鬼ごっこも探検も何だって付き合ってくれて、誰よりも気が合う友達だった。
昨日初めて家に連れて帰ったら、父親は『随分と可愛いガールフレンドだな』と笑い、母親は『良かったわね、ヒノエ。素直なガールフレンドでお母さん嬉しいわ』と喜んでくれた。
言っている意味は良く判らなかったが、喜ぶ両親にヒノエも喜んだ。
少なくとも望美が歓迎されてるのが判ったから。
「なぁ、のん」
「なに、ヒノエくん?」
「おれたち、ずーっといっしょだよな?」
「うん。ずーっといっしょだよ」
「ずーっとずーっとともだちだよな?」
「うん!ずーっとずーっとともだちだよ!」
望美の言葉にヒノエは嬉しくて首を竦めてくすくす笑う。
飾り気ない言葉が擽ったくて、心の中があったかい。
「おれ、のんがだーいすき」
「わたしもヒノエくんだーいすき」
秀でた額をつき合わし、秘密を打ち明けるように囁きあう。
きっとこの関係は永遠に違いない。
それはまだ、彼らが仲良しだった頃の、甘くて優しい記憶の欠片。
「君が琉夏ちゃん?」
「は?」
いきなり話かけて来た見知らぬ青年に、冬姫は眉を顰める。
親しげな笑みを浮かべる彼は怪しい人物には見えないが、唐突な言葉の意味は理解しかねた。
スタリオン石油の制服をこんなに間近で確認するのも初めてなら、ここまで馴れ馴れしい会話をしたのも初めてだ。
今日の冬姫は琉夏と一緒にWestBeachで過ごしていた。
実家に居た母親が、いつもお世話になっているのだからと、大量のバーベキュー用の肉と、親戚から送られてきた野菜を差し入れにと持たせたのが切欠だ。
野菜も入れるとダンボール箱一杯まで嵩張った荷物に、どうしたものかと兄弟にメールを入れたのは昨夜で、それならバイトが休みの琉夏がバイクで取りに行くから一緒に夜に焼肉をしようと誘われた。
琥一が一日バイトだから琉夏と二人で準備をし、彼が帰って来次第取り掛かれるように二人で朝から足りないものの買出しに出かけていたのだが。
琥一の昼ごはんを琉夏が冷蔵庫を開けて発見し、なら二人で冷やかしがてら届けようかとバイト先まで足を延ばしたのが先ほどまでの回想だ。
こてり、と首を傾げた冬姫は、少し警戒を滲ませた視線で青年を見上げる。
すると冬姫の心境を悟ったらしい青年は、笑って掌をひらひら振った。
まるで心配することないと言っているような仕草に、益々眉が寄る。
「どうして俺が君のことしてるか、不思議?」
「・・・・・・」
そもそも、自分は琉夏じゃない。
琉夏はバイクの給油場所に自分を残し、琥一が居る休憩所へ足を運んでいる。
冬姫はその間、ガソリンを入れている最中のバイクの見張り番を頼まれた。
給油のメーターを見ても後どれ位中に入るか冬姫には判断が付かない。
唇を窄め早く終わらないかとメーターを睨んでいると、そんな態度に苦笑した青年が話を続けた。
「たまに桜井が休憩中に電話とかメールするとさ。相手は弟か幼馴染なんだよね」
「・・・琥一君が?」
「そそ。メールはチラ見しただけだけど、電話はたまに折り返しで掛けてるから。そん時に出てくる名前が『冬姫』と『琉夏』だったんだ。んでどんな関係か聞いたら渋い顔で幼馴染と弟って言うからさ。そりゃ、こんなに可愛い幼馴染なら渋るよな」
「ありがとう、ございます」
「ははは!お世辞じゃないぜ?桜井が居なかったら俺がデートに誘いたいくらいだ」
「───それで、私が『琉夏』だと?」
「うん。君が桜井の大事な琉夏ちゃんだろう?」
勘違いも甚だしい彼の発言に、大きく息を吐き出した。
確かに自分は彼の幼馴染で、彼のバイト中に留守電にメッセージを残しているが、琥一の大事な『琉夏』は自分よりもっと彼に近い。
何処から誤解を解こうかと渋い表情で唇に指を当てて思案していれば、背中に何かが覆いかぶさった。
「何してんの?浮気中?」
「は?」
「あれ?彼氏居るの?」
「・・・あんたに何か関係ある?」
「いや俺には関係ないけどさ。桜井の大事な『琉夏』ちゃんに虫が付いてるなんて、桜井も残念だなって思って。ああ、それとも君が『冬姫』くん?」
青年の言葉に、背後から冬姫の肩に顎を乗せ体に腕を回していた琉夏が、なんとも微妙な表情をして顔を覗き込んできた。
その気持ちがよく判る冬姫は、同じように微妙な表情で肩を竦める。
それだけで琉夏は何となく状況が悟れたらしく、眉根をぎゅっと寄せた。
「確かに『琉夏』はコウにとって大事だろうけど」
「何とも言い難い感じでしょ?」
「うん。他人に面と向かって言われるとちょっと複雑」
「はは。もしかして照れてる?」
「そうとも言う」
赤くなった琉夏が、隠すように冬姫の肩口に顔を埋める。
だが色素が薄い琉夏の肌は紅潮を隠すのには向いてなく、耳まで真っ赤だった。
冬姫に甘えるように顔を摺り寄せる琉夏の頭に、ごんと拳が落とされる。
彼の体越しに衝撃が伝わり、思わずよろけた冬姫の腕を、第三者が掴んで支えた。
力強く、けれど壊れ物を扱うような繊細な力で触れる相手に心当たりがあるので、驚かずに身を任す。
冬姫と琉夏の二人分の体重を受けてもビクともしなかった人物は、低い声で不機嫌に唸った。
「何してやがんだ、ルカ」
「痛いよコウ」
「年がら年中発情してんじゃねえぞ。───お前もしっかり抵抗しろ!ルカはこんなでも一応男だ」
「・・・そんなに怒らないでよ、琥一君」
「お前が何回注意しても理解しねぇから怒ってんだよ、俺は」
「───折角お弁当届けに来たのに怒られちゃったね、冬姫」
「うん。お腹を空かせた琥一君のために来たのにね、琉夏君」
「え!?」
きっと意識して名前を告げたのだろう琉夏に合わせ、冬姫もわざとらしく眉を寄せて彼に同調した。
すると先ほどの琥一の『ルカ』の呼びかけに、まさかと言わんばかりに顔を引きつらせていた青年は、震える指を持ち上げる。
「もしかして・・・『琉夏』ちゃん?」
「ソウデース」
「『冬姫』くん?」
「そうですね」
頷いた二人に、益々彼は顔を歪める。
これくらいで罪悪感を感じるなら、やはり彼は善良な青年なのだろう。
ただ一人話題について行けない琥一が、何で先輩がお前らの名前呼んでんだ?と首を傾げる。
そんな彼を傍目に、琉夏と目を合わせて小さく微笑みを交わした。
どうやら琥一は予想以上に琉夏と冬姫を気にかけていると気が付いた、ある夏の日の蝉が鳴く中での出来事だった。
「は?」
いきなり話かけて来た見知らぬ青年に、冬姫は眉を顰める。
親しげな笑みを浮かべる彼は怪しい人物には見えないが、唐突な言葉の意味は理解しかねた。
スタリオン石油の制服をこんなに間近で確認するのも初めてなら、ここまで馴れ馴れしい会話をしたのも初めてだ。
今日の冬姫は琉夏と一緒にWestBeachで過ごしていた。
実家に居た母親が、いつもお世話になっているのだからと、大量のバーベキュー用の肉と、親戚から送られてきた野菜を差し入れにと持たせたのが切欠だ。
野菜も入れるとダンボール箱一杯まで嵩張った荷物に、どうしたものかと兄弟にメールを入れたのは昨夜で、それならバイトが休みの琉夏がバイクで取りに行くから一緒に夜に焼肉をしようと誘われた。
琥一が一日バイトだから琉夏と二人で準備をし、彼が帰って来次第取り掛かれるように二人で朝から足りないものの買出しに出かけていたのだが。
琥一の昼ごはんを琉夏が冷蔵庫を開けて発見し、なら二人で冷やかしがてら届けようかとバイト先まで足を延ばしたのが先ほどまでの回想だ。
こてり、と首を傾げた冬姫は、少し警戒を滲ませた視線で青年を見上げる。
すると冬姫の心境を悟ったらしい青年は、笑って掌をひらひら振った。
まるで心配することないと言っているような仕草に、益々眉が寄る。
「どうして俺が君のことしてるか、不思議?」
「・・・・・・」
そもそも、自分は琉夏じゃない。
琉夏はバイクの給油場所に自分を残し、琥一が居る休憩所へ足を運んでいる。
冬姫はその間、ガソリンを入れている最中のバイクの見張り番を頼まれた。
給油のメーターを見ても後どれ位中に入るか冬姫には判断が付かない。
唇を窄め早く終わらないかとメーターを睨んでいると、そんな態度に苦笑した青年が話を続けた。
「たまに桜井が休憩中に電話とかメールするとさ。相手は弟か幼馴染なんだよね」
「・・・琥一君が?」
「そそ。メールはチラ見しただけだけど、電話はたまに折り返しで掛けてるから。そん時に出てくる名前が『冬姫』と『琉夏』だったんだ。んでどんな関係か聞いたら渋い顔で幼馴染と弟って言うからさ。そりゃ、こんなに可愛い幼馴染なら渋るよな」
「ありがとう、ございます」
「ははは!お世辞じゃないぜ?桜井が居なかったら俺がデートに誘いたいくらいだ」
「───それで、私が『琉夏』だと?」
「うん。君が桜井の大事な琉夏ちゃんだろう?」
勘違いも甚だしい彼の発言に、大きく息を吐き出した。
確かに自分は彼の幼馴染で、彼のバイト中に留守電にメッセージを残しているが、琥一の大事な『琉夏』は自分よりもっと彼に近い。
何処から誤解を解こうかと渋い表情で唇に指を当てて思案していれば、背中に何かが覆いかぶさった。
「何してんの?浮気中?」
「は?」
「あれ?彼氏居るの?」
「・・・あんたに何か関係ある?」
「いや俺には関係ないけどさ。桜井の大事な『琉夏』ちゃんに虫が付いてるなんて、桜井も残念だなって思って。ああ、それとも君が『冬姫』くん?」
青年の言葉に、背後から冬姫の肩に顎を乗せ体に腕を回していた琉夏が、なんとも微妙な表情をして顔を覗き込んできた。
その気持ちがよく判る冬姫は、同じように微妙な表情で肩を竦める。
それだけで琉夏は何となく状況が悟れたらしく、眉根をぎゅっと寄せた。
「確かに『琉夏』はコウにとって大事だろうけど」
「何とも言い難い感じでしょ?」
「うん。他人に面と向かって言われるとちょっと複雑」
「はは。もしかして照れてる?」
「そうとも言う」
赤くなった琉夏が、隠すように冬姫の肩口に顔を埋める。
だが色素が薄い琉夏の肌は紅潮を隠すのには向いてなく、耳まで真っ赤だった。
冬姫に甘えるように顔を摺り寄せる琉夏の頭に、ごんと拳が落とされる。
彼の体越しに衝撃が伝わり、思わずよろけた冬姫の腕を、第三者が掴んで支えた。
力強く、けれど壊れ物を扱うような繊細な力で触れる相手に心当たりがあるので、驚かずに身を任す。
冬姫と琉夏の二人分の体重を受けてもビクともしなかった人物は、低い声で不機嫌に唸った。
「何してやがんだ、ルカ」
「痛いよコウ」
「年がら年中発情してんじゃねえぞ。───お前もしっかり抵抗しろ!ルカはこんなでも一応男だ」
「・・・そんなに怒らないでよ、琥一君」
「お前が何回注意しても理解しねぇから怒ってんだよ、俺は」
「───折角お弁当届けに来たのに怒られちゃったね、冬姫」
「うん。お腹を空かせた琥一君のために来たのにね、琉夏君」
「え!?」
きっと意識して名前を告げたのだろう琉夏に合わせ、冬姫もわざとらしく眉を寄せて彼に同調した。
すると先ほどの琥一の『ルカ』の呼びかけに、まさかと言わんばかりに顔を引きつらせていた青年は、震える指を持ち上げる。
「もしかして・・・『琉夏』ちゃん?」
「ソウデース」
「『冬姫』くん?」
「そうですね」
頷いた二人に、益々彼は顔を歪める。
これくらいで罪悪感を感じるなら、やはり彼は善良な青年なのだろう。
ただ一人話題について行けない琥一が、何で先輩がお前らの名前呼んでんだ?と首を傾げる。
そんな彼を傍目に、琉夏と目を合わせて小さく微笑みを交わした。
どうやら琥一は予想以上に琉夏と冬姫を気にかけていると気が付いた、ある夏の日の蝉が鳴く中での出来事だった。
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