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約一年ぶりに会った女性は、出会った頃と変わらず可愛らしかった。
高校時代に恋した時と変わらず柔らかな春の日差しのような笑顔を浮かべ、おっとりと楽しげに微笑む。
男からすると庇護欲が掻き立てられる華奢な体躯と幼げな容姿の持ち主だが、その芯が誰よりも強いのはよく知っていた。

出会いは十年前に遡り、今でも瞼を閉じれば鮮やかに記憶は蘇る。
透明な色の無い音しか奏でれなかった天宮のピアノに、初めての色をつけたのは彼女だった。
『君に恋をする』なんて、今考えれば笑ってしまうくらいに滑稽な言い草だ。
恋はしようと思ってするものではなく、いつの間にか落ちているもの。
自分を作る余裕も無くて、全てを捨てて必死になれる。
苦しくて切なくて悲しくて哀しい。
嬉しくて幸せで恋しくて希う。
複雑な矛盾が入り混じり、そして一直線にただ一人に向かう。
形振りなんて構ってられない。格好悪くても後悔したくない。
───それが、高校時代に天宮が体験した唯一で最高の恋だ。

あれから時は流れて、天宮はピアニストになり彼女もヴァイオリニストとなった。
新進気鋭と呼ばれていても、まだ駆け出しにしか過ぎず、二人は世界を回っている。
四季折々のメッセージカードと、繰り返されるメールや手紙。
そしてたまに我慢できなくなってする電話だけが彼ら二人の繋がりだった。

願掛けをしていたのだ。十年間も、辛抱強く。
馬鹿みたいだと人に話せば笑われるだろうけど、決意を覆さない程度に覚悟は決めていた。
そして今日は天宮が願掛けした十年を過ぎた一日目だった。

「久しぶりだね。元気にしてた?」
「はい!天宮さんこそ。手紙やメールで元気にしてるのは知っていたけど、久しぶりに会えて嬉しいです」
「僕も嬉しい。───一年ぶり、くらいだっけ」
「はい。仕事でも擦れ違うときは擦れ違うものですね。一昨年は何度も重なったのに」

不思議そうに首を傾げる彼女は知らないだろう。天宮が敢えてかなでとの仕事を断り続けていたのを。
時間が欲しかったのだ。自分ではなく、彼女に。

予約したレストランのVIPルームでワインを傾けた天宮は、ミステリアスな笑顔を浮かべる。
彼と腐れ縁の幼馴染が見たなら眉間の皺を深くし、『何を企んでいる』と即効で問い詰めただろうが、彼とは違うかなでは笑顔を返した。
無邪気な様子は年を感じさせず、少女のまま大人になったと表現するに相応しい。
きっと今から十年後も、かなでは変わらずこうなのだろう。想像すると胸の奥がほっこりと温かくなり自然と口元が緩む。
後にも先にもこんなに容易に天宮の感情を上下させる存在など、彼女だけに違いない。

そしてその先を永遠にするため、天宮は口火を切った。

「実はね、今日は報告したいことがあるんだ」
「報告・・・ですか?」

大きな目を瞬かせたかなでは、じっと天宮を見詰める。
彼女の背中越しには宝石箱をひっくり返したような夜景が広がっていた。
予定通りに二人きりの空間。自分で計画したのに、急に二人きりの空間が息苦しく感じネクタイを緩めたい衝動に駆られる。
だがドレスコードが必須のレストランでそれはマナー違反と骨身に渡り知っているので、その衝動は何とか堪えた。
視線を改めてかなでに向けると、たった今気づいたのだが彼女のドレスは高校時代を髣髴とさせる白い可憐なものだった。
食事を取る一時間。その間そんな些細な事にすら気づかなかった自分は余程緊張していたらしい。
こっそりとスーツのポケットを探り、目的のものに指を触れる。伝わる感触はひんやりとしていて、らしくなく緊張している自分に苦笑した。

「僕はね、結婚しようと思うんだ」
「え?」

まん丸に目を見開いたかなでは、天宮をじっと見詰める。
その瞳の中に何か感情が無いかと素早く探るが、驚き以外の何も見つけられない。

「天宮さんが、結婚、ですか?」
「そう」
「好きな人がいるんですか?」
「うん。もう、ずっと長い間ね」
「天宮さんが、片思い?」
「そうだよ。この僕が、片思い」

情けなく眉が下がる。辛うじて笑顔は浮かべているが、心配そう眉が顰められたかなでの顔を見るに、その表情は失敗してるらしい。
どうやら、自分で思うより、ずっとずっと落胆している。
一年も会うのを我慢したのに。抱きしめて自分の物にしたくて、でもそんな欲求も押し殺して。

会わなければ、何か変わると思っていた。
寂しいと思ってくれると、どうしてそう思うか考えてくれると、そしてあわよくば、それを恋愛感情と勘違いしてくれればと。
馬鹿みたいだ。子供より稚拙で愚かであさはかな望み。
でも希望を捨てるのは出来なかった。今だって、傷つく自分を見て痛そうに泣きそうな顔をしてるかなでに期待してしまってる。

すっと胸に一杯息を吸い込み、十数えながらゆっくりと吐き出した。
緊張を和らげる方法は、昔目の前の彼女に教わったものだ。
プロとして初めて共に舞台に立ったとき、内緒の魔法ですとこっそりと耳打ちしてくれた。
天宮よりも、自分の方が余程青い顔をしていたのに。
思い出し小さく笑うと、真っ直ぐにかなでを見詰める。
どうせ断られても諦める気なんて欠片もないのだ。よく考えたら当たって砕けても失うものはなにもない。

「僕は、結婚します」
「・・・はい」
「だからさ、小日向さん」
「はい」
「天宮かなでになってくれる?」
「はい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

するりと返事を返した彼女は、暫く間を空けた後、ぽかんと口を開いて大きな目を更に大きくした。
可愛らしい子リスのような表情だが、その言質を逃がすつもりは無い。
先ほどまでのしおらしい表情はさっぱりと捨て、天宮はにこにこ微笑んだ。

「じゃあ、決まりね。式はいつにする?」
「は、え?」
「月並みだけど、六月はどう?日本は梅雨時かもしれないけど、海外なら晴れてるとこ多いし。ドレスは絶対に白は入れて欲しいな。お色直しは淡い菜の花色とか、浅黄色とかも似合いそう」
「え、ええと」
「君にはマーメイドラインよりもプリンセスラインの方が似合いそうだよね。ヴェールは絶対に必須。サムシングフォーも用意するから幸せな花嫁になれるよ」
「ちょ、待っ」
「花嫁付き添いはやっぱり枝織ちゃん?招待客は誰にしようか。ああ、冥加は絶対に呼ぼうね。花嫁姿の君を見たときの顔が見たいから」
「ちょ、天宮さん!」

怒涛と零れる言葉を止めるべく焦ったようにかなでが声を張り上げる。
その慌てぶりに漸く現状を理解してくれたらしいと、にっこり天宮は微笑んだ。
今やかなでの頬は桜色に染まり、可愛らしいことこの上ない。

「あの、天宮さん。お話を聞いてると、まるで私が結婚するみたいに聞こえるんですけど」
「そうだよ?僕は君にプロポーズしたんだから」
「でも!さっきずっと片思いしてたって」
「うん。高校時代から、ずっと君に片思いしてる。僕の音はいつだって君に捧げられたのに、君は少しも気づいてくれないんだもの」
「高校時代から!?だってもう、十年経ってますよ?」
「そう。長い、ながーい片思い。案外一途でしょ」
「はい。・・・って、そうじゃなくて!何で十年も経ってからプロポーズするんですか」
「十年前に願掛けしたから。十年後も君を好きで居るなら、君が一人で居るなら、結婚を申し込もうって。───馬鹿みたいかもしれないけど、永遠を信じたかったんだ。十年間、想いの形が変わらなければ、君が誰を好きでも、僕は君を好きで居られると思ったから」
「私がその間に誰かを好きになるかもしれないのに?」
「うん。君に近づく男は粗方排除してきたけど、でも、君が好きになった男なら諦めれなくても納得できるかと思ったから」

本当はそんな甘い考えは微塵に吹き飛んでしまうほど、嫉妬していただろうけど。
そんな思いは欠片も見せずに、言葉を放つにつれ赤く染まる頬を楽しげに眺める。
もしかしたら、と僅かな期待が胸に沸く。
もしかしたら、かなでも自分を少しは好いてくれているのではないか、と。

「でも、いきなりプロポーズは」
「駄目?」
「だって、告白もされてないのに」

その言葉にゆっくりと席を立つと、眉を八の字にしたかなでの傍で足を止めた。
床に膝をつき白く滑らかな掌を両手で恭しく包み込むと、そのままこつりと己の額に当てる。

「好きです。十年前からずっと、君の事が好きです。ずっと君に恋してきた。そして今では愛してる。この感情は一時的なものなんて甘いものじゃない。ここで君が頷いたら、僕は一生君を束縛する。他の誰にもあげないし、ずっとずっと独占する」

祈るような気持ちで顔を上げ、こちらを見ている琥珀色の瞳に微笑みかけた。

「この想いはきっと重たいね。自分でも判ってる。でも、どうかお願い。僕の、お嫁さんになってください」

ポケットから探り出した指輪を彼女へと掲げる。
取ったままの左手に近づけると、軽く握られていたはずの手がゆるりと解けた。

ダイヤではなくピジョンブラッドの紅玉を嵌めた指輪は、彼女の白い指に良く映える。
この指輪の石言葉は『情熱』。褪せぬ想いをそのまま篭めた指輪は、誂えたようにかなでの指に嵌った。

「返事は、イエスでいいのかな?」
「・・・・・・」

真っ赤に染まった顔を俯ける彼女に、天宮は晴れやかに笑った。
立ち上がりぎゅうぎゅうと抱きしめれば、苦しいです、と小さな声が非難するように上げられる。
だがそれでも腕の力は弱められず、代わりにまろやかな頬に頬をすり合わせた。

「いいの?撤回は利かないよ?」
「はい。───私、鈍くてごめんなさい。天宮さんの気持ちにも、自分の気持ちにも。天宮さんが結婚すると聞いて哀しかった。私にずっと片思いしててくれたって聞いて嬉しかった。この人は、私のものだって思っちゃいました。これって、恋ですか?」
「それを僕に聞くの?僕は、僕に都合のいい言葉しか返さないよ」
「はい。都合のいい言葉を返してください。私は、天宮さんの言葉を信じます」
「そう。なら、答えてあげる。君のそれは『恋』だよ。僕を独占したくてたまらないって、心が叫んでるんだ」

柔らかな髪に鼻先を埋め、甘い香を胸に吸い込む。
本当は、それを恋と断言すべきではないと知っていて、天宮は敢えて黙殺した。
かなでの感情は雛が親鳥を慕う感情と同じかもしれない。兄に似た人を独占したいと望む子供っぽい想いかもしれない。
だがそれでも敢えて断言したのは、もう逃がす気がないからだ。

「僕と結婚してくれますか?」
「私でよければ」
「君がいいんだ」

細い体は小柄な天宮が抱きしめても腕が余る。
華奢な彼女が愛しくて、益々笑顔が深まった。

「もう逃がしてあげないよ」

その想いが、重ならなくとも構わない。
漸く天宮を男として見てくれた。ならそれを刷り込んでいけばいい。
かなでの感情が自分に追いつくことはないと天宮は確信している。
だから、その何十分の一でもいいから想いを返してくれるだけで幸せだった。

「結婚しよう」

もう一度囁くと、くすぐったげに首を竦めた彼女は今度は躊躇なく頷いた。
それがとても嬉しくて、天宮も笑みを深くした。

拍手[21回]

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男には絶対に譲れないものがある。
涼やかな瞳に熱い闘志を宿し、琉夏は不敵に微笑んだ。
目の前の男は自分が誰よりも信頼し尊敬する相手。
浅黒い肌に精悍な顔立ちの彼は、琉夏の挑発を受けるように口の端を持ち上げるとニヒルに笑う。
少し悪そうな笑顔がこの上なく似合い、今度は含みなく笑った。

「───俺は負けない、コウ」

囁いた瞬間、兄の瞳が悪戯っぽく煌いた気がした。





「──────てか、早くして欲しいんだけど」

ピンボールで対決している二人を後ろから眺め、冬姫は一つため息を吐く。
はっきり言って、何が彼らをここまで駆り立てるのかさっぱりと理解できない。
ついでに理解する気もない。
格闘ゲームやレーシングゲームならともかく、何故ピンボールでここまで熱くなるか。
あの桜井兄弟の異名を知る人間がまだいるらしく、ぼそぼそとしたささやきの中距離を微妙に置かれるのも居心地の悪さを倍増させる。
熱くなる兄弟から僅かに離れた場所で一人ぽつねんと佇む冬姫は、大してゲームが好きなわけでもないのでかなり浮いていた。

「まだ終わらないの、琥一君」
「まだだな。この負けず嫌いな弟に言ってやれよ」
「───琉夏君?」
「コウがしつこいんだ」

話す間も視線をボールから放さない兄弟に、呆れたと肩を竦める。
そもそも勝負の原因を作ったのは冬姫だったが、かれこれ一時間付き合っているのだからもう勘弁してくれてもいいのではないか。
鞄に手をやると原因となったそれを掴む。

「折角遊園地のチケットゲットしたんだけどなぁ」

商店街のくじ引きで引き当てたペアのチケット。
たまたま一緒に居た兄弟が、それを原因に勝負を始めたのは運命だったのだろうか。
どちらにせよこれを手に入れたときの輝かしい気持ちは今は随分と薄れ、もうどうでも良くなってきた。
きっと彼らも勝負の原因など空の彼方に飛んで行っているに違いない。
これは長い付き合いから出た経験による結論だ。

「コウ、俺の勝ちー」
「何!?もう一度だ、ルカ!!」

普段の兄らしい態度をかなぐり捨て大人気なく叫ぶ琥一に、余裕たっぷりにシュールな笑みを浮かべる琉夏。
二人はどう考えても冬姫の存在を忘れている。

どうしたものかと遠い目をすると、不意に携帯電話が鳴った。
取り出してみると着信は大好きな親友からで、幼馴染の争いを横目にさくっと電話に出る。

「みよちゃん?」
『こんにちは、バンビ。今、暇かしら?映画を観に行きたいんだけどどう?』

誘いの言葉に迷ったのは一瞬で、すぐさま是と応える。
そして握っていたチケットを、近くに居たカップルに差し出した。

「これ、どうぞ」

にこり、と微笑み反論を許さずすかさず渡す。
そして未だに冬姫の行動に気づかない兄弟を一瞥すると、そのままゲームセンターから足早に去った。

兄弟が冬姫の不在に気づくのはそれからさらに一時間が経過した後で、携帯の電源を切っていた冬姫を日付が変わるまで慌てて捜索した彼らは自宅で睡眠中の冬姫をたたき起こす羽目になる。
そしてそれが原因で珍しくも喧嘩をした彼らが一週間は口を利かなくなるのだが───それはまた別の話。

拍手[7回]

>>かなん様

こんばんは、かなん様!
お返事が遅くなってしまい、本当にごめんなさい!
そしてコルダ3MIX創作、読んでくださってありがとうございますw
あれはコルダ部屋のSSSの続編なのですが、なるべく頑張って続きも書きたいと思ってますw
かなでちゃん、私も大好きですw
マイペースなサイトですが、またお時間ございましたら是非遊びにいらして下さい!
Web拍手ありがとうございました!



>>ひねみと様

こんばんは、ひねみと様w
ご無沙汰しております。
そしてお返事が遅くなってすみませんでした!!
恋に焦がれてシリーズ、読んでくださってありがとうございます。
冥加さん話、泣いて下さってありがとうございます。
実はこの話の設定で基本両想いなしなのですが、彼の話だけ例外なのです。
冥加さんとかなでちゃんは両片想いの設定で、身分があるからこそ口に出来ず、身分があるからこそ擦れ違うがモットーです。
好きだからこそ身を引いた冥加さんですが、別の道を差し出されて乗ってしまいました。それが過ちと理解していても求める気持ちは抑えられなかった。これ以外に手がないと思い込み、また実際にそうだったんですよね。
子供の頃は誰しも永遠を夢見るのに、どうして難しいんでしょうね、がコンセプトのあの話、泣いて下さって本当にありがとうございました。
絶対悲恋を謳うように彼らがあのシリーズで結ばれることはないですし、冥加さんにいたっては後日談でもかなでちゃん出てきません(汗)
でもいつか和解して未来捏造設定の二人に代わるに決まっています。
またお時間ございましたら、是非遊びにいらして下さいw
Web拍手、ありがとうございました!



>>ぴよりん様

こんばんは、ぴよりん様。
お返事が遅くなってすみませんでした。
そして心配してくださってありがとうございますw
すっかり元気になりました!
ぴよりん様も私のように盛大に体調を崩さないように、どうぞご自愛ください。
同居人の方も自分で思っているより意外とやばい場合もあると思うので、ぴよりん様自信も含めてお気をつけください。
実際一番熱射病になりやすい場所って台所らしいので、料理中など換気扇は回した方がいいみたいです。
些細なことでもすると随分違いますし、本当にご自愛くださいませ。
心配してくださって、ありがとうございましたwとても嬉しかったですww

さて、GS3更新読んでくださってありがとうございますw
琉夏くん浮気と見せかけただの風邪でした★
熱を出しててもぎりぎりまで我慢するタイプの典型っぽくないですか、彼?しかもなぜか自分は平気と思い込んでいるタイプっぽいですw
琥一君は自分の限界を理解しつつ無理する感じに見えますが、琉夏君は自分の限界を無視するタイプに見えます。
なのでそこを踏まえるとどうしても二人きりではなく三人の話になってしまいました(苦笑)
実は次回も未来篇でネタが大体固まってます。
休んでいた分頑張って書きたいですw
そして、別サイトも読んでくださってありがとうございますw
拝啓・・・は次のシーン大体決まっているものの続きが書けずもやもやしてましたw早速続きをかきあげたいですw
伽羅と初代勇者様、そして魔王側近達との話も早く書きたくてうずうずしてます。またそちらの方もどうぞ宜しくお願いしますねw
本当にマイペースなサイトですが、これからもどうぞ宜しくお願いします!
Web拍手ありがとうございました!



>>華楠様

はじめまして、華楠様w
国高と申します。
いつもBLEACH話を読んでくださってありがとうございますw
そしてこんな管理人のことまで心配してくださって、本当にありがとうございます!!
退院して一日たち、大分元気を取り戻しました!
ご心配おかけして本当にすみません。
華楠様も私のように盛大に体調を崩されないように、どうぞご自愛ください。
この夏思ったよりも倒れる人が多いらしく、病院はとても人が多かったです。
自分は大丈夫の考えは駄目だと注意されました。
私みたいな人間ばかりではないと思いますが、熱中症、日射病など外と中との寒暖差に体調を崩す方が多いみたいです。
華楠様も気をつけてくださいませ。温かいお言葉、ありがとうございました!
これからもマイペースなサイトですが頑張ってまいりますので、また是非遊びにいらして下さいw
Web拍手ありがとうございました!

拍手[1回]

はっと瞼を持ち上げ青い空を脳が認識し、そこで初めて吐息を漏らす。
 未だ働かない脳を叱咤し腕を突いて上半身を持ち上げると、軽く頭を振って瞬きを繰り返した。

「夢・・・か」

 夢だとするなら、随分とリアリティのある夢を見たものだ。苦く笑い、額に浮かぶ汗を拭った。
 深呼吸して周りを見渡せば、そこは見慣れた森の広場。本で読んだ中世のヨーロッパ的な建物も、映画の中みたいな服を纏い、くるくるな髪型をした人間もいない。
 大地が居るのは星奏学院の敷地内で、今はコンクールの最中だ。午前中最終セレクションの練習をして、そして、日頃の受験勉強や副部長としての仕事に疲れ何時の間にか眠ってしまっていたらしい。

「・・・嫌な夢を見たもんだな」

 じとり、と不機嫌に眉を寄せた大地は顎に手をやり首を傾げる。
 舞台設定は日本ではなく、ヨーロッパの何処かの方がイメージに近かった。
 自分はどこぞの名家の跡取り息子で、妹を溺愛する兄だった。そして気狂いにも程があるが、実の妹に懸想する男でもあった。夢の中の自分は可愛がっていた妹に対し、異性に対する劣情を抱いていたのだ。
 そこまで思い出すと、額に手を置き空を仰ぐ。
 夢の中の妹の顔は、大地にとって良く知るもので、なんと名前まで一緒だった。

「・・・かなで、ね」

 現実では面と向かって呼んだことがない名前。それを夢の中の大地は、特別な感情を込めて、愛しさを隠さず連呼していた。それこそ、悪友が気づいてしまうくらいに。
 眉間の皺を深くして、不機嫌そうに唇を尖らせる。

「・・・何であいつなんだ」

 鮮明に残る記憶に、大地の機嫌は下降した。
 夢の中の大地が愛した女性を横から掻っ攫ったのは、現実世界でもとても馴染みがある、相性の悪い男だった。
 確かに大地は色々な意味で極端に相性の悪い彼を認めている。だがそれとこれとは別だろう。勝手に人の夢に現れたと思えば、かなでを掻っ攫い、挙句の果てに──。

「最悪だ」

 夢の結末を思い出し、苦虫を百万匹は噛み潰したような顔をする。
 最愛の人は、呆気なくも簡単に奪われた。
 幸せを祈り身を引いたはずなのに、まだ二十歳前の若さで儚くなった。渡したくなかったのに、自分の手では守れぬからと小さな掌を離したのは、死んでしまうのを見届けるためではなかった。
 傲岸不遜な笑みを浮かべいつでも余裕を保っていた男の、最初で最後の謝罪は大地を奈落の底へと叩き落とした。あれは最悪だ。謝ればすむ問題ではない。
 何せ彼は──大地の最愛を道連れに、自殺なんてしやがった。
 現実世界での彼を思い浮かべれば、何となく追い詰められれば同じことをしそうな気がして益々眉間に皺が寄る。それでも恋愛関係がない限りはそんなことは有り得ないと、信じたいところだけれど。

「妹、ねぇ」

 出会った頃は、確かにそんな風に見ていた気もする。
 何しろ彼女は小さく華奢で大きな瞳にふくふくとしたほっぺをしていて、雰囲気も見た目も何処か幼く、『可愛らしい』という単語がこれ以上ないくらい似合う小動物系の女の子だったのだから。
 思わず手を伸ばし、かいぐりかいぐりしたくなる衝動に逆らうことなく行動に移した自分を、今でも大地は責められない。
 抱く感情が親愛から恋愛に変わっても、ぎゅうぎゅうに抱きしめ頬擦りし腕の中に抱きしめて放したくない欲求は常にある。髪を掻き混ぜ膨らんだ頬を突付き、可愛いを連呼して甘やかしたい。
 大地は淡く苦笑した。この感情は、夢に見た彼と一切変わりなく、だからこそ必要以上に感情輸入してしまったのかもしれない。

「愛してる。愛してたんだ、世界中の誰よりも、か」

 吐き出す声は血の滲む叫びで、瞼を閉じるだけでその悲しみを再現できる。
 かなでの訃報を聞いた『彼』からは、世界の全てが色褪せた。置いていかれた子供がなければきっとすぐにでも後を追ったと、確信を篭めて断言できる。それくらい、彼にとって妹は全てだったのだ。
 何事もスマートにこなし、余裕を持ち、距離を測る。出来ることと出来ないことを明確に理解した彼は、だからこそ自分のすべきことを把握していた。
 幼い頃から女性にもて、そつなく誰の相手も出来た彼は、逆に言えば誰にも関心がなかった。
 彼の心には常に春の日差しのように微笑む一人が居て、その子を中心に世界は回転していた。

『お兄様』

 鮮やかな微笑みは華やかなものではないけれど、彼の心をこの上なく癒した。疲れているとき、苛立つとき、悔しいとき、悲しみに沈むとき、彼女だけが使える魔法はいつでも彼の心を解した。

『お兄様』

 兄である自分とは違い彼女は男性との付き合いはほとんどなかった。誰にでもまっすぐに当たる妹に恋をする存在は数多あったけれど、手放すには惜しすぎて彼は少しでも長く彼女と居るために努力していた。

『お兄様』

 その存在は唯一で、汚したくなく傷つけたくなかった。愛らしい顔がいつでも微笑んでいる様をずっと見守っていきたかった。

 だから──彼は己の劣情を心の奥にしまいこんだ。
 幾度も自分のものにしたいと望んだ。
 幾夜も閉じ込めて監禁してしまおうかと悩んだ。
 自覚してから血の繋がりを怨まない日はなく、同時にこれ以上ない繋がりを齎すそれに常に感謝の念を捧げた。
 彼の狂気は彼自身が誰よりも理解して、彼の愛は誰よりも彼自身が知っていた。

「馬鹿な男だ」

 その全てを体験した上で大地は呟く。
 守りたいと願う存在を守りきることも出来ず、別の男に手渡したからと距離を置き、そして情報を得るのを怠け、結果彼女は彼の腕から飛び立ったのだ。

「君は手を放すべきじゃなかったんだ」

 ひっそりと眉を寄せ、自分と同じ顔をした男を思う。
 彼は何から何まで大地と酷似していた。考え方も能力も行動も、彼女への想いも何もかも。けれど同時に決定的に違う部分もある。

「君は結局、女としての彼女ではなく、妹としての彼女を選んだんだよ」

 そうでなくば手を放せるはずがない。同じ思考を持つからこそ断言できる。そしてそれこそが大地と彼の最大の違いだとも。

「俺は、君の二の舞にはならない」

 うっそりとした微笑を唇に乗せる。
 つ、と視線をずらせば、こちらに向かい歩いてくる華奢な姿が垣間見えた。

「君はもし、夢で警告をくれたのならば。──俺は、ちゃんと選んでみせる」

 血の繋がりというタブーは大地とかなでの間にない。
 彼が最大の誇りとし、そして最大の壁として見ていた要因はないのだ。

「ひなちゃん」

 まだ会って一月も経っていないのに、これ以上なく大地の心を縛る名を舌に乗せれば、極上のスイーツを食べたときのような甘さが胸の奥に充満する。

 ゆっくりと瞼を閉じれば思い起こせる。
 陽だまりの午後、微笑み手を繋いだ頃の優しい記憶が。
 小さな少女の掌を握り、胸を熱くした少年の感情が。
 だが、それは『榊大地』には必要がない思い出で、振り切るのに躊躇はない。

「ひなちゃん!」

 今度は少し大きめの声で呼びかければ、自分の名を呼ぶ声にきょろきょろと視線を彷徨わせたかなでは、こちらを向くとふわり、と微笑んだ。
 その笑みがどれ位夢の中のものと似ていようと、大地は心動かされない。ああ、だが。

「君が禁忌を気にして『俺』になったのなら、『俺』は必ず君の『願い』を叶えるよ」

 嬉しそうに駆け寄るかなでに目を細め、夢の中のもう一人へと宣言する。
 彼と違い、今はまだ名前で呼べないけれど、自分は彼女を苗字で呼ぶ資格がある男だから。夢の中の彼が欲し、望んだ立場に居るものだから。

「こんにちは、大地先輩。休憩中でしたか?」
「うん。ご飯を食べて寝ちゃってたみたいだ。──ねぇ、ひなちゃん」
「はい?」
「この後もし時間があるなら、俺と一緒に練習しない?今無性に君の音と合わせたい気分なんだ」

 目を丸くしたかなでは、こくりと頷く。
 その愛らしい仕草に目を細め、大地は掌を彼女の頭に置くとゆるゆると撫でた。出会った頃は抵抗していたのに、今ではすっかり慣れたものだ。
 無防備な様子に喉を震わす。

「ねぇ、ひなちゃん」
「はい?」
「俺は、君が好きだよ」

 長い腕を回して囁けば、ぼんと顔中が赤くなる。兄であったときには得られなかった反応に、大地の唇は弧を描いた。
 そう、自分と彼は似ていても違う。彼の言葉に彼女は照れても、こんな反応返してくれなかった。
 赤面するかなでに大地は満足気に頷くと、僅かに抵抗する体をそのまま腕に閉じ込める。小さな檻に囚われた姿に胸が高鳴り、ずっとこのままでいれればいいのにと詮無い事を考えた。

「俺は君が好きだよ、ひなちゃん」

 だから、俺を好きになって。他の誰かを選ぶのではなく、今度こそ俺自身を。
 沸き起こる希求は何処までも深く大地の心に根付いている。

「大好きだ」

 夢の中と同じように、けれど夢の中よりも一層艶やかに微笑んだ大地は、自分を意識してくれる娘に、幸せそうに擦り寄った。

拍手[10回]

ご無沙汰しております、国高です。
最近は更新も出来ずにすみません。
ちょっと体調を崩して入院をしておりました。今日漸く退院できた次第です(涙)
真夏の猛暑にやられ土曜の夜からの緊急入院ですが、皆様もくれぐれ体調にはお気をつけ下さい。
拍手に頂いたコメントは、本当に申し訳ないのですが、明日コメントを変えさせていただきますのでどうぞお許しください。
Web拍手を押下してくださった皆様、また遊びに来てくださった皆様、本当にありがとうございます!

拍手[2回]

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