×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
夜中、酷い寝汗を掻いて目を覚ました。
肩を上下させベッドサイドの目覚し時計を手に取り時間を確認する。
デジタル時計の表示は午前三時。まだ眠ってから一時間も経っていない。
「何だったんだ」
時計を力任せに握り、憤怒を篭め呟く。一時間の短い間に見たとは思えないくらい濃縮された夢だった。
有り得ない内容で、夢なら夢らしくさっさと消えてしまえばいいのに何故か焼きついて離れない。
「ふざけるな。この俺があんな女に」
夢で見た玲士そっくりの男は、女の後を追い自殺した。
死に行く瞬間が生きた中で一番穏やかな心地など、どんなマゾだ。
馬鹿馬鹿しく一考する価値すらない夢。しかも王子だ姫だと下らないオプションつき。
「何なんだ、あのリアリティのない夢は」
童話のパロディーかと全力で突っ込みたいくらいに下らない夢だったが、リアリティがなくとも現実感はあった。
現に鰐に噛み千切られた腕がまだ痺れている気がして数度振る。血が流れていないか確認してしまい、鋭く舌打ちした。
夢の中の玲士は、大臣の息子だった。
しかも絵に描いたような名家の出身で、将来を約束されレールが轢かれた人生を送りそれに満足していた。彼の目標は国を豊かにし守る事、そして。
「女を守るだと?しかも、あいつは───」
彼が守りたいと思っていたもう一つは、彼が想い焦がれた存在。
単純に愛してると一言で表せない複雑な感情を抱いていたが、根本は彼女へと焦がれる気持ち。玲士にとって最悪にも、その王女は随分と見知った顔をしていた。
ずきずき痛む頭に手をやり深呼吸を繰り返す。
どくどくと早鐘のように打っていた鼓動は少し落ちつきを取り戻し、玲士に冷静さを与える。
夢の中で、玲士・・・否、別人であると信じる『彼』は、彼女の幼馴染だった。
子供の頃から二人で過ごし、共にあるのを疑問視せず、お互いのいいところ悪いところ全てを理解し支え合えるいいパートナーだった。
寛厚な彼女は可憐な容姿と華奢な身体を持ち、随分と鈍く運動神経はなかったが人に愛される才能を持っていた。
夢の中の彼は国への理念を持ち、冷静な判断力と時に冷酷になれる部分があり、恐れられながらも尊敬されていた。
彼らは二人で居るのに何の疑問もなく、彼の妹も含め随分と仲睦まじかった。特に幼い頃は身分の差を考えず、色々な事をして過ごしていた。
年を経ても根本的な関係は変わらず、毎日毎日突拍子もない彼女に振りまわされ、彼は怒りながらも面倒を見て、妹はそれを楽しそうに微笑んでいた。
変わらぬと信じていた日常が崩れたのは、彼女が縁談を結んでからだ。
彼女が選んだのは栄えている帝国の跡取。第一王子である彼は、第一王女である彼女を望んだ。
一国の王女と王子でも、彼らの関係は対等ではない。王子の国は大陸でも随一と言われる発展を遂げていて、国の発展を望むならまたとない縁談だった。
それは、本当は彼だって判っていたのだ。
彼が変わってしまったのは、尊敬していた彼の父の言葉が切欠だった。
長年見ているだけで諦めていたあの存在が手に入るかもしれない。それは彼の強固な理性を崩し、選んでは行けない道を選択させた。
国のためだと建前を翳し、彼の望みは一つだけ。
「愚かな」
他に言葉はない。彼は愚かな男で、彼自身誰よりもそれを理解していた。
国を考えるなら、縁談を受けた方がいいに決まっている。自国の文化は薄れても、技術や食料、そして大国の庇護を受けるとなればメリットが大きく、付きつけられた条件も悪いものではなかった。
彼女はそれを理解していたから、選択したのだ。
本当に国を想っていたのは、革命を起こした彼ではなく、自分を捧げる覚悟をしていた彼女の方だったのに。
「貴様は、そこまでして手に入れたかったのか」
問いかけに答えはないけれど、玲士はその答えを知っていた。
彼は彼女の選択を受け入れられなかった。それが全てだ。彼女の問いを否定できなかった、それは彼自身が理解していたからだ。どれだけ己が愚かであるか。
彼は彼女を怨んでいた。
国を第一と考え自分を捨てていくと感じたから。
彼は彼女を憎んでいた。
共に発展させると誓いを立てたのに、それを忘れてしまったと思ったから。
彼は彼女を嫌っていた。
いつだって彼を掻き乱し冷静な判断力を奪ったから。
だが。
「貴様は愚かだ」
彼は彼女を欲していた。
太陽に焦がれる人のように。もしくは月が欲しいと泣く子供のように。
彼の取った行動は浅はかで同意できない。愚の骨頂であり馬鹿だと唾棄すべき行為だ。
だが全てを否定できないのは。
「俺も、同じだからと言うのか」
玲士はかなでが憎い。玲士の音楽を否定し受け入れてくれなかった彼女が。そしてあれほど玲士が羨んだ音を捨て、ひっそりと表舞台から去った行為が。
憎くて憎くて憎すぎて───今では憎んでいるのか愛してるのかも判らない。
焦がれて欲して望んで願って。
ただ、かなでだけが玲士を変えられ、狂おしいまでの強制力で玲士を支配する。
「貴様も同じだと言うのか」
『月が綺麗ですね』と彼女の言葉を理解した瞬間、恨みや憎しみも確かにあるのに、彼を支配したのは紛れも無い歓喜。
国を守るのを誇りとしていた自分を踏みにじり、道を違えさせた彼女を殺してしまいたいほど憎んでいたのに、他の男のものになると微笑んだ彼女を消し去りたいほど怨んでいたのに。
たった一言で、彼女は彼を変えてしまった。
「俺は、違う。違うはずだ」
耳鳴りがしきつく瞼を閉じる。
神南との戦いで漸く元の音に近づいた彼女。玲士が憧れ一心に見詰めつづけた輝きをかなでは取り戻し始めていた。
「俺は違う」
玲士が望むのはかなでとの別離。
かなでの音を完膚なきまでに破壊して、奪われた欠片を取り戻すこと。
彼のように繋がれたいなどと願っていない。望んでいないはずだ。
時計の時間がまた刻まれる。
訣別のときは数時間後に迫っていた。
肩を上下させベッドサイドの目覚し時計を手に取り時間を確認する。
デジタル時計の表示は午前三時。まだ眠ってから一時間も経っていない。
「何だったんだ」
時計を力任せに握り、憤怒を篭め呟く。一時間の短い間に見たとは思えないくらい濃縮された夢だった。
有り得ない内容で、夢なら夢らしくさっさと消えてしまえばいいのに何故か焼きついて離れない。
「ふざけるな。この俺があんな女に」
夢で見た玲士そっくりの男は、女の後を追い自殺した。
死に行く瞬間が生きた中で一番穏やかな心地など、どんなマゾだ。
馬鹿馬鹿しく一考する価値すらない夢。しかも王子だ姫だと下らないオプションつき。
「何なんだ、あのリアリティのない夢は」
童話のパロディーかと全力で突っ込みたいくらいに下らない夢だったが、リアリティがなくとも現実感はあった。
現に鰐に噛み千切られた腕がまだ痺れている気がして数度振る。血が流れていないか確認してしまい、鋭く舌打ちした。
夢の中の玲士は、大臣の息子だった。
しかも絵に描いたような名家の出身で、将来を約束されレールが轢かれた人生を送りそれに満足していた。彼の目標は国を豊かにし守る事、そして。
「女を守るだと?しかも、あいつは───」
彼が守りたいと思っていたもう一つは、彼が想い焦がれた存在。
単純に愛してると一言で表せない複雑な感情を抱いていたが、根本は彼女へと焦がれる気持ち。玲士にとって最悪にも、その王女は随分と見知った顔をしていた。
ずきずき痛む頭に手をやり深呼吸を繰り返す。
どくどくと早鐘のように打っていた鼓動は少し落ちつきを取り戻し、玲士に冷静さを与える。
夢の中で、玲士・・・否、別人であると信じる『彼』は、彼女の幼馴染だった。
子供の頃から二人で過ごし、共にあるのを疑問視せず、お互いのいいところ悪いところ全てを理解し支え合えるいいパートナーだった。
寛厚な彼女は可憐な容姿と華奢な身体を持ち、随分と鈍く運動神経はなかったが人に愛される才能を持っていた。
夢の中の彼は国への理念を持ち、冷静な判断力と時に冷酷になれる部分があり、恐れられながらも尊敬されていた。
彼らは二人で居るのに何の疑問もなく、彼の妹も含め随分と仲睦まじかった。特に幼い頃は身分の差を考えず、色々な事をして過ごしていた。
年を経ても根本的な関係は変わらず、毎日毎日突拍子もない彼女に振りまわされ、彼は怒りながらも面倒を見て、妹はそれを楽しそうに微笑んでいた。
変わらぬと信じていた日常が崩れたのは、彼女が縁談を結んでからだ。
彼女が選んだのは栄えている帝国の跡取。第一王子である彼は、第一王女である彼女を望んだ。
一国の王女と王子でも、彼らの関係は対等ではない。王子の国は大陸でも随一と言われる発展を遂げていて、国の発展を望むならまたとない縁談だった。
それは、本当は彼だって判っていたのだ。
彼が変わってしまったのは、尊敬していた彼の父の言葉が切欠だった。
長年見ているだけで諦めていたあの存在が手に入るかもしれない。それは彼の強固な理性を崩し、選んでは行けない道を選択させた。
国のためだと建前を翳し、彼の望みは一つだけ。
「愚かな」
他に言葉はない。彼は愚かな男で、彼自身誰よりもそれを理解していた。
国を考えるなら、縁談を受けた方がいいに決まっている。自国の文化は薄れても、技術や食料、そして大国の庇護を受けるとなればメリットが大きく、付きつけられた条件も悪いものではなかった。
彼女はそれを理解していたから、選択したのだ。
本当に国を想っていたのは、革命を起こした彼ではなく、自分を捧げる覚悟をしていた彼女の方だったのに。
「貴様は、そこまでして手に入れたかったのか」
問いかけに答えはないけれど、玲士はその答えを知っていた。
彼は彼女の選択を受け入れられなかった。それが全てだ。彼女の問いを否定できなかった、それは彼自身が理解していたからだ。どれだけ己が愚かであるか。
彼は彼女を怨んでいた。
国を第一と考え自分を捨てていくと感じたから。
彼は彼女を憎んでいた。
共に発展させると誓いを立てたのに、それを忘れてしまったと思ったから。
彼は彼女を嫌っていた。
いつだって彼を掻き乱し冷静な判断力を奪ったから。
だが。
「貴様は愚かだ」
彼は彼女を欲していた。
太陽に焦がれる人のように。もしくは月が欲しいと泣く子供のように。
彼の取った行動は浅はかで同意できない。愚の骨頂であり馬鹿だと唾棄すべき行為だ。
だが全てを否定できないのは。
「俺も、同じだからと言うのか」
玲士はかなでが憎い。玲士の音楽を否定し受け入れてくれなかった彼女が。そしてあれほど玲士が羨んだ音を捨て、ひっそりと表舞台から去った行為が。
憎くて憎くて憎すぎて───今では憎んでいるのか愛してるのかも判らない。
焦がれて欲して望んで願って。
ただ、かなでだけが玲士を変えられ、狂おしいまでの強制力で玲士を支配する。
「貴様も同じだと言うのか」
『月が綺麗ですね』と彼女の言葉を理解した瞬間、恨みや憎しみも確かにあるのに、彼を支配したのは紛れも無い歓喜。
国を守るのを誇りとしていた自分を踏みにじり、道を違えさせた彼女を殺してしまいたいほど憎んでいたのに、他の男のものになると微笑んだ彼女を消し去りたいほど怨んでいたのに。
たった一言で、彼女は彼を変えてしまった。
「俺は、違う。違うはずだ」
耳鳴りがしきつく瞼を閉じる。
神南との戦いで漸く元の音に近づいた彼女。玲士が憧れ一心に見詰めつづけた輝きをかなでは取り戻し始めていた。
「俺は違う」
玲士が望むのはかなでとの別離。
かなでの音を完膚なきまでに破壊して、奪われた欠片を取り戻すこと。
彼のように繋がれたいなどと願っていない。望んでいないはずだ。
時計の時間がまた刻まれる。
訣別のときは数時間後に迫っていた。
*ルフィたちが海賊王になる少し前の設定です。
海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
だが───今から語る話は、まだ彼らがその栄誉ある称号を手に入れる少しだけ前の物語である。
「よう、フランキー!せいが出るな!」
「おお、まぁな。なんたって、もうすぐおれの夢が叶うんだからな」
「しししし!おれの夢もだ」
そう言って子供みたいに無邪気に笑うルフィは、随分と精悍になったが未だに幼く見える。
子供みたいに残酷で強欲、そして傲慢で真っ直ぐ。それがフランキーが愛する麦わら海賊団の長で、大黒柱だった。
今日のような青空が良く似合い、夏の日差しが絵になる男。
かといって暑苦しいわけではなく、しなやかに鍛えられた体は痩身とも言える。
ゾロやサンジと並んで大人しくしてれば女にももてるだろうに、未だにウソップとチョッパーとつるんで面白いことばかりに目が行く。
何も経験していない、などとは思わないが、あまりに変わらないので時折将来が心配になってしまう。
もっとも彼が変わってしまったら、それはそれで心配どころではすまないと判っているのだけれど。
麦藁帽子を首からぶら下げている、いつまでも子供みたいな男の頭をくしゃりと撫でる。
潮に噴かれて随分とぱさついていたが、その感触はもう慣れていた。
縁とは不思議なものだ。
初めは敵対する立場だったのに、いつの間にかどうしようもないほど引き込まれている。
まるで蟻地獄に嵌められた蟻のようだ。
違うのは吸い込まれても何ら後悔なく、最終的に彼が綺麗なウスバカゲロウに羽化してくれればそれで良いと思えるとこだろう。
ルフィのためになるのなら、この船で自分を構う人間はいない。
きっと、それは船長である彼が思うより絶対の想いで、そして誰もが彼に知られたいと思っているわけでもない感情だ。
別に自分たちの感情を背負わせたいわけではなく、彼は自然体のままでいてくれるのが一番いい。
この笑顔が曇らぬように、強くなる決意をした自分のためにも。
ぐしゃぐしゃになった髪を直すでもなくそのままにして笑い続けるルフィの額を弾くと、フランキーはまた船の整備を始める。
騒がしく大人しく出来ないルフィだが、フランキーが船を弄っているときは比較的静かにしている。
今回もじっと黒い瞳を好奇心旺盛に輝かせ、素早く動く手を見詰めていた。
その様子を横目で眺め小さく笑うと、何気ない風を装い口を開く。
「なぁ、麦わら」
「んー?」
「あん時、強引におれを連れ出してくれて、ありがとうな」
さりげなく口にした台詞は、こんなときでもなければ口に出来ない内容だった。
何か切欠がなければ改めて言葉に出来る話ではなく、天邪鬼な自分が簡単に言える言葉でもない。
だから、今このタイミングでフランキーは口を開いた。
ずっと、伝えたいと思っていた想いを告げるために。
夢が叶う、その前に。
「おれはさ、ずっと子供の頃から夢があった。凄く憧れてる人がいて、その人に追いつきたかった。子供の頃からの夢で、野望だったんだ」
「野望か。そりゃかっこいいな!」
「だろ?スーパーなおれさまにぴったりだ」
くくくくっと笑うと、機嫌よさげに目を細めたルフィはフランキーを覗き込む。
「おれさまは夢の船をずっと作りたかった。ずっと、ずっとだ。もうずっと、たった一人の背中を追ってきた」
「へぇ」
「隣に立てるくらい、凄い男になりたかったんだ」
万端の想いを篭めた言葉の意味は、フランキーの他にその想いを理解できるのはきっと兄弟子くらいだろう。
誰よりも憧れていた、でかい男。
『造った船に!!!男はドンと胸をはれ!!!!』
誰よりも憧れ、誰よりも目指した人。
そして今尚追い続け、未だに並び立つことが出来なかった人。
先走るばかりだったフランキーを、あっさりと包める度量を持った、最高に格好いい漢だった。
胸をはれと言って貰えたから、その言葉を思い出したからこそ今のフランキーはあり、サニー号も存在する。
フランキーにとって夢であり望みであり願いであり野望であるそれは、彼が居たからこそ形を作った。
でも本当は嘘だ。
隣に並びたかったんじゃない。
フランキーは、ずっと、子供の頃から。
「本当は、違う。並びたかったんじゃない。おれは、憧れたあの人を追い越したかったんだ」
リズム良くかなづちを振るっていた手が止まる。
顔を上げれば思ったよりも近い場所にルフィの顔があり、サングラスの奥で瞳を見開いた。
だがこの船で最年長の彼は、それを素直に表情に出さずに僅かに口角を上げると言葉を続けた。
「おれの夢は海賊王の乗る船を作ることだった。世界一を果たすその船に乗り、世界を回りきったその船こそがおれの夢の船になる瞬間だった」
「過去形か?」
「おう。今は違うぜ」
きょとり、とフランキーを見詰める瞳は相変わらず一点の曇りもなく真っ直ぐだ。
それが好ましくくすぐったく嬉しくもある。
我侭で馬鹿でどうしようもなく自分勝手だが、真っ直ぐで強い。
そして何があっても潰れない。
きっと理由を聞けばゴムだから、とどんと効果音を背負って言うことだろう。
そんな馬鹿な船長が、フランキーは嫌いじゃない。
だから望む。もっともっと、もっと上へと。
彼自身が上を目指し続けるから、フランキーも上を願っている。
随分と欲張りになってしまったものだ。
ウォーターセブンで過ごした頃には考えられないくらい、自分の夢へ貪欲になっている。
そしてそんな自分も嫌いじゃなかった。
「おれはもっと上を目指すぜ、『海賊王』」
「ししし、もっとか。次はどんな野望を持つんだ?」
「世界一周した夢の船で、『海賊王』と一緒に冒険する。我侭で強引で馬鹿な船長の願いを全部聞き遂げられるスーパーな船を維持し続ける。そんなスーパーな偉業、おれ以外に出来っこないだろ?」
にい、と笑い格好つけてポーズをつければ、ししししと上機嫌にルフィは笑った。
首を竦め、頭の後ろで腕を組んだ彼は、太陽のように明るい笑顔を浮かべる。
面白そうに楽しそうに悪戯を思いついた子供のように。
「いいな、それ!おれが『海賊王』になっても進む最高の船!海の底も空の上も行ける船。素敵機能が一杯あって、どひゃあ!ってなるお前の船!最高だな、フランキー!」
「だろう!」
顔を見合わせ豪快に笑う。
その声は青空に吸い込まれ、船中に響く声に仲間が段々と集まりだした。
きっと自分は彼のためにこの船を維持し続けるだろう。
世界で最高の木を使い造った、彼だけのための船を。
我侭なルフィが望むように、どこにでも行ける船にして、機能ももっと増やすのだろう。
何しろこの好奇心旺盛な子供は、新しいものと面白いものが大好きだ。
そして自分も改造するのが大好きだ。
「おれはお前が死ぬまでこの船を維持し続けてやるよ、ルフィ。だからお前はおれが夢を果たすために、とんでもなく長生きしやがれ」
冗談めかしたこの本音に、彼は気づかなくていい。
好きように生き、後悔なく死んでくれればそれでいい。
彼が進むための船を一生掛けて造ると決めた。
海賊王の船を最高の状態にし続ける。
それが夢の船を造った後の、フランキーの新しい野望だ。
海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
だが───今から語る話は、まだ彼らがその栄誉ある称号を手に入れる少しだけ前の物語である。
「よう、フランキー!せいが出るな!」
「おお、まぁな。なんたって、もうすぐおれの夢が叶うんだからな」
「しししし!おれの夢もだ」
そう言って子供みたいに無邪気に笑うルフィは、随分と精悍になったが未だに幼く見える。
子供みたいに残酷で強欲、そして傲慢で真っ直ぐ。それがフランキーが愛する麦わら海賊団の長で、大黒柱だった。
今日のような青空が良く似合い、夏の日差しが絵になる男。
かといって暑苦しいわけではなく、しなやかに鍛えられた体は痩身とも言える。
ゾロやサンジと並んで大人しくしてれば女にももてるだろうに、未だにウソップとチョッパーとつるんで面白いことばかりに目が行く。
何も経験していない、などとは思わないが、あまりに変わらないので時折将来が心配になってしまう。
もっとも彼が変わってしまったら、それはそれで心配どころではすまないと判っているのだけれど。
麦藁帽子を首からぶら下げている、いつまでも子供みたいな男の頭をくしゃりと撫でる。
潮に噴かれて随分とぱさついていたが、その感触はもう慣れていた。
縁とは不思議なものだ。
初めは敵対する立場だったのに、いつの間にかどうしようもないほど引き込まれている。
まるで蟻地獄に嵌められた蟻のようだ。
違うのは吸い込まれても何ら後悔なく、最終的に彼が綺麗なウスバカゲロウに羽化してくれればそれで良いと思えるとこだろう。
ルフィのためになるのなら、この船で自分を構う人間はいない。
きっと、それは船長である彼が思うより絶対の想いで、そして誰もが彼に知られたいと思っているわけでもない感情だ。
別に自分たちの感情を背負わせたいわけではなく、彼は自然体のままでいてくれるのが一番いい。
この笑顔が曇らぬように、強くなる決意をした自分のためにも。
ぐしゃぐしゃになった髪を直すでもなくそのままにして笑い続けるルフィの額を弾くと、フランキーはまた船の整備を始める。
騒がしく大人しく出来ないルフィだが、フランキーが船を弄っているときは比較的静かにしている。
今回もじっと黒い瞳を好奇心旺盛に輝かせ、素早く動く手を見詰めていた。
その様子を横目で眺め小さく笑うと、何気ない風を装い口を開く。
「なぁ、麦わら」
「んー?」
「あん時、強引におれを連れ出してくれて、ありがとうな」
さりげなく口にした台詞は、こんなときでもなければ口に出来ない内容だった。
何か切欠がなければ改めて言葉に出来る話ではなく、天邪鬼な自分が簡単に言える言葉でもない。
だから、今このタイミングでフランキーは口を開いた。
ずっと、伝えたいと思っていた想いを告げるために。
夢が叶う、その前に。
「おれはさ、ずっと子供の頃から夢があった。凄く憧れてる人がいて、その人に追いつきたかった。子供の頃からの夢で、野望だったんだ」
「野望か。そりゃかっこいいな!」
「だろ?スーパーなおれさまにぴったりだ」
くくくくっと笑うと、機嫌よさげに目を細めたルフィはフランキーを覗き込む。
「おれさまは夢の船をずっと作りたかった。ずっと、ずっとだ。もうずっと、たった一人の背中を追ってきた」
「へぇ」
「隣に立てるくらい、凄い男になりたかったんだ」
万端の想いを篭めた言葉の意味は、フランキーの他にその想いを理解できるのはきっと兄弟子くらいだろう。
誰よりも憧れていた、でかい男。
『造った船に!!!男はドンと胸をはれ!!!!』
誰よりも憧れ、誰よりも目指した人。
そして今尚追い続け、未だに並び立つことが出来なかった人。
先走るばかりだったフランキーを、あっさりと包める度量を持った、最高に格好いい漢だった。
胸をはれと言って貰えたから、その言葉を思い出したからこそ今のフランキーはあり、サニー号も存在する。
フランキーにとって夢であり望みであり願いであり野望であるそれは、彼が居たからこそ形を作った。
でも本当は嘘だ。
隣に並びたかったんじゃない。
フランキーは、ずっと、子供の頃から。
「本当は、違う。並びたかったんじゃない。おれは、憧れたあの人を追い越したかったんだ」
リズム良くかなづちを振るっていた手が止まる。
顔を上げれば思ったよりも近い場所にルフィの顔があり、サングラスの奥で瞳を見開いた。
だがこの船で最年長の彼は、それを素直に表情に出さずに僅かに口角を上げると言葉を続けた。
「おれの夢は海賊王の乗る船を作ることだった。世界一を果たすその船に乗り、世界を回りきったその船こそがおれの夢の船になる瞬間だった」
「過去形か?」
「おう。今は違うぜ」
きょとり、とフランキーを見詰める瞳は相変わらず一点の曇りもなく真っ直ぐだ。
それが好ましくくすぐったく嬉しくもある。
我侭で馬鹿でどうしようもなく自分勝手だが、真っ直ぐで強い。
そして何があっても潰れない。
きっと理由を聞けばゴムだから、とどんと効果音を背負って言うことだろう。
そんな馬鹿な船長が、フランキーは嫌いじゃない。
だから望む。もっともっと、もっと上へと。
彼自身が上を目指し続けるから、フランキーも上を願っている。
随分と欲張りになってしまったものだ。
ウォーターセブンで過ごした頃には考えられないくらい、自分の夢へ貪欲になっている。
そしてそんな自分も嫌いじゃなかった。
「おれはもっと上を目指すぜ、『海賊王』」
「ししし、もっとか。次はどんな野望を持つんだ?」
「世界一周した夢の船で、『海賊王』と一緒に冒険する。我侭で強引で馬鹿な船長の願いを全部聞き遂げられるスーパーな船を維持し続ける。そんなスーパーな偉業、おれ以外に出来っこないだろ?」
にい、と笑い格好つけてポーズをつければ、ししししと上機嫌にルフィは笑った。
首を竦め、頭の後ろで腕を組んだ彼は、太陽のように明るい笑顔を浮かべる。
面白そうに楽しそうに悪戯を思いついた子供のように。
「いいな、それ!おれが『海賊王』になっても進む最高の船!海の底も空の上も行ける船。素敵機能が一杯あって、どひゃあ!ってなるお前の船!最高だな、フランキー!」
「だろう!」
顔を見合わせ豪快に笑う。
その声は青空に吸い込まれ、船中に響く声に仲間が段々と集まりだした。
きっと自分は彼のためにこの船を維持し続けるだろう。
世界で最高の木を使い造った、彼だけのための船を。
我侭なルフィが望むように、どこにでも行ける船にして、機能ももっと増やすのだろう。
何しろこの好奇心旺盛な子供は、新しいものと面白いものが大好きだ。
そして自分も改造するのが大好きだ。
「おれはお前が死ぬまでこの船を維持し続けてやるよ、ルフィ。だからお前はおれが夢を果たすために、とんでもなく長生きしやがれ」
冗談めかしたこの本音に、彼は気づかなくていい。
好きように生き、後悔なく死んでくれればそれでいい。
彼が進むための船を一生掛けて造ると決めた。
海賊王の船を最高の状態にし続ける。
それが夢の船を造った後の、フランキーの新しい野望だ。
>>唯様
こんばんは、唯様。
トライアングル・ラブを読んで下さってありがとうございますw
違和感を感じるシチュエーションですみません。
兄弟の下らない争いをさせる場所にゲームセンターを選び、琥一君のイベントからあの場をセレクトしたのですけど、徐々に熱くなって見境がなくなる彼らはやはりまだまだ男の子の部分を残している設定です。
女から見たらどうしてと思うようなものに熱中する男の子を書きたかったので、アホ可愛いといって頂けて嬉しいですw
これからもマイペースに頑張りますので、また是非遊びにいらして下さい!
Web拍手、ありがとうございました!
>>ぴよりん様
こんばんは、ぴよりん様!
爆笑してくださって嬉しいですw
エステ通いは冗談ですが、ナッツコレクションは本気です(笑)
密かに一つ十代目部屋とか作ってると尚良しです★
了平さんに関しては私もとあるサイトの了ツナを読むまでは同じ感じでした。
なぜなら未来篇を読んだときの彼の写真を見た反応で、結構範疇外になってたんですよね(汗)
でもそのサイトさんの了ツナが本気でよくて、もうこれありじゃない?と自分の中で以前火がついたのを覚えています。その炎は暫く冷めず、結構了ツナを扱うサイトを本気で探しました!
そしてその少なさに自分でも量産しようと決意し、ようやっと彼は日の目を見ました。
マイナーキャラもしかと総受けにするための要因にしてますwなのでぴよりん様に共感いただくと仲間が増えた感じがしとても嬉しいですww
捏造お題シリーズは甘さを含むシリアスをモットーとしております。過去現在未来を含めた彼らを書き、捏造してるんですがこれがとても楽しいですw
私のサイトの復活の基盤を書いてる感じがして、読んでいる方に共感いただけるのは凄く幸せです。
本当に、ありがとうございますw
そしてはっきりと書いてないのにあのチーズケーキが獄寺君の手作りと見抜いてくださってありがとうございますw
サイト内のオリジナル設定でチーズケーキ好きな綱吉ですが、本編ではどうか全く知りません(笑)
そして綱吉君のために作ったチーズケーキを食べたこと、自分から獄寺くんにその後暴露します★
「おお、タコヘッドではないか!」
「んだよ、テメェ。相変わらず鬱陶しいな。てか俺はタコヘッドなんて名前じゃねぇ!」
「ははは、そんな小さなこと極限に気にするな!時に獄寺。次はいつチーズケーキを作るのだ?」
「ああん?んなことがテメェに何か関係あるのか?」
「極限にある!あれは美味かったからな!また沢田の休憩時間に押しかけて分けてもらいたい」
「はぁぁああ!?テメ、十代目のためのチーズケーキに手を付けたってのか!?それ以前に十代目の休憩時間を邪魔し、あまつさえ一緒に時間を過ごしたってのか!!?」
「そうだ!中々有意義な時間だったぞ!」
「ざっけんなテメェ!果たす!そこになおれ!」
「ははは!時代劇のような言い回しだな!」
とこんな感じにまた屋敷の修理代金を天引きされる嵌めになるでしょう★
了平さんにはまったく悪気はなく、獄寺君は全力でお怒りです。
擦れ違う彼らを止めたのは雨の守護者ですが、給料の半分くらいの代金をつぎ込む修復費が必要だったみたいです。
拝啓・・・も読んでくださってありがとうございますw
実は抽選魔王もアップしようと思ったところ、データが消えやや気落ち中で更新できてません。
この落ち目の時に書けない自分がやや情けないですが、また時間を置いて書きたいと思いますw
いつも感想を頂けて本当に嬉しいですwありがとうございます!
親戚のちびちゃんは五人中二人がばあちゃんを怒らせ結局来ませんでした。
だからと言って楽になったわけではなく、常におんぶお化けとかし体中が筋肉痛となった次第です。
でも子供の頃から面倒見ているだけあり、可愛くて仕方ないです。
正確にははとこになるんですけど、成長の早さに目を見張ります。
もうすぐ中学生なんて信じられません。子供が大きくなるのは、本当に早いものです。
おかげさまで体調もそれほど崩さなかったので、心配してくださってありがとうございますw
ぴよりん様もまだまだ残暑が続く中無理されないように気をつけてくださいね?またお時間ございましたら是非あそびにいらしてくださいw
Web拍手、ありがとうございました!
>>返信不要の方。
お礼だけでも言わせてください。
読んでくださってありがとうございました!
こんばんは、唯様。
トライアングル・ラブを読んで下さってありがとうございますw
違和感を感じるシチュエーションですみません。
兄弟の下らない争いをさせる場所にゲームセンターを選び、琥一君のイベントからあの場をセレクトしたのですけど、徐々に熱くなって見境がなくなる彼らはやはりまだまだ男の子の部分を残している設定です。
女から見たらどうしてと思うようなものに熱中する男の子を書きたかったので、アホ可愛いといって頂けて嬉しいですw
これからもマイペースに頑張りますので、また是非遊びにいらして下さい!
Web拍手、ありがとうございました!
>>ぴよりん様
こんばんは、ぴよりん様!
爆笑してくださって嬉しいですw
エステ通いは冗談ですが、ナッツコレクションは本気です(笑)
密かに一つ十代目部屋とか作ってると尚良しです★
了平さんに関しては私もとあるサイトの了ツナを読むまでは同じ感じでした。
なぜなら未来篇を読んだときの彼の写真を見た反応で、結構範疇外になってたんですよね(汗)
でもそのサイトさんの了ツナが本気でよくて、もうこれありじゃない?と自分の中で以前火がついたのを覚えています。その炎は暫く冷めず、結構了ツナを扱うサイトを本気で探しました!
そしてその少なさに自分でも量産しようと決意し、ようやっと彼は日の目を見ました。
マイナーキャラもしかと総受けにするための要因にしてますwなのでぴよりん様に共感いただくと仲間が増えた感じがしとても嬉しいですww
捏造お題シリーズは甘さを含むシリアスをモットーとしております。過去現在未来を含めた彼らを書き、捏造してるんですがこれがとても楽しいですw
私のサイトの復活の基盤を書いてる感じがして、読んでいる方に共感いただけるのは凄く幸せです。
本当に、ありがとうございますw
そしてはっきりと書いてないのにあのチーズケーキが獄寺君の手作りと見抜いてくださってありがとうございますw
サイト内のオリジナル設定でチーズケーキ好きな綱吉ですが、本編ではどうか全く知りません(笑)
そして綱吉君のために作ったチーズケーキを食べたこと、自分から獄寺くんにその後暴露します★
「おお、タコヘッドではないか!」
「んだよ、テメェ。相変わらず鬱陶しいな。てか俺はタコヘッドなんて名前じゃねぇ!」
「ははは、そんな小さなこと極限に気にするな!時に獄寺。次はいつチーズケーキを作るのだ?」
「ああん?んなことがテメェに何か関係あるのか?」
「極限にある!あれは美味かったからな!また沢田の休憩時間に押しかけて分けてもらいたい」
「はぁぁああ!?テメ、十代目のためのチーズケーキに手を付けたってのか!?それ以前に十代目の休憩時間を邪魔し、あまつさえ一緒に時間を過ごしたってのか!!?」
「そうだ!中々有意義な時間だったぞ!」
「ざっけんなテメェ!果たす!そこになおれ!」
「ははは!時代劇のような言い回しだな!」
とこんな感じにまた屋敷の修理代金を天引きされる嵌めになるでしょう★
了平さんにはまったく悪気はなく、獄寺君は全力でお怒りです。
擦れ違う彼らを止めたのは雨の守護者ですが、給料の半分くらいの代金をつぎ込む修復費が必要だったみたいです。
拝啓・・・も読んでくださってありがとうございますw
実は抽選魔王もアップしようと思ったところ、データが消えやや気落ち中で更新できてません。
この落ち目の時に書けない自分がやや情けないですが、また時間を置いて書きたいと思いますw
いつも感想を頂けて本当に嬉しいですwありがとうございます!
親戚のちびちゃんは五人中二人がばあちゃんを怒らせ結局来ませんでした。
だからと言って楽になったわけではなく、常におんぶお化けとかし体中が筋肉痛となった次第です。
でも子供の頃から面倒見ているだけあり、可愛くて仕方ないです。
正確にははとこになるんですけど、成長の早さに目を見張ります。
もうすぐ中学生なんて信じられません。子供が大きくなるのは、本当に早いものです。
おかげさまで体調もそれほど崩さなかったので、心配してくださってありがとうございますw
ぴよりん様もまだまだ残暑が続く中無理されないように気をつけてくださいね?またお時間ございましたら是非あそびにいらしてくださいw
Web拍手、ありがとうございました!
>>返信不要の方。
お礼だけでも言わせてください。
読んでくださってありがとうございました!
歌番組のゲストとして登場した彼に、ルキアは紫紺色の瞳を僅かに見開く。
ルキアをセンターにし両隣は恋次と弓親で固めていたが、司会者の案内により恋次が退いた。
テレビに出ている最中なのでその表情は僅かに引きつるだけであったが、こめかみに青筋が浮いている。
彼の背後からおどろおどろしい空気が垂れ流されているのに対し、白哉は涼やかでクールな表情を崩さない。
恋次の豹変に気づいた一角が慌てて他の面々の死角から彼を窘めるのが見えたが、あまり効果はなさそうだった。
今回のルキアたちの仕事はバンドとしての正統派の仕事であるが、同時に今話題のドラマの二期の番宣でもあった。
尸魂界篇と銘打たれたそれは、現世のものと一風雰囲気を変えている。
今回のメインは『ルキア』の過去が主軸になり、その彼女の義兄を演じるからこそ『白哉』は呼ばれたのだろう。
彼の名声はモデルとしても名高く、話題性もあるから。
そして理由はもう一つあるだろう。
白哉の登場に俄然張り切る司会者は、マイクを彼に向ける。
「今回のゲスト、『白哉』さんもドラマに出演されていますよね。先週の初出演の際は視聴率が凄かったと伺いましたが」
「ありがたい限りですね。まだ始まったばかりですし、この視聴率を維持出来れば私も『白哉』も喜ばしく思います」
「白哉さんは普段はモデルの仕事と茶道の家元と二束のわらじを履いている状態ですが、普段はどのようにお過ごしですか?」
「普段はモデルの仕事がない限りは家で茶道を嗜んでおります。今はそれにドラマの仕事が入っている状態ですね」
「今までテレビに出演されることはほとんどなく、雑誌での活躍がメインと伺いました。テレビ出演そのものを断っているという噂もありましたがどうなんですか?」
「ええ、そうですね。私は幼馴染たちと違い、それほど社交的とは言えませんので」
「『幼馴染』?」
「はい」
淡々とした様子で言葉を躱す白哉をぼうっと見ていたが、その発言を耳にし目を見開く。
視線だけで恋次を見れば、同じように驚愕の表情を表している。
慌ててカメラの後ろに居るはずのギンを見れば、ひょいと肩を竦めて見せた。
「ドラマで幼馴染の役を演じる『朽木ルキア』と『阿散井恋次』。彼らが兄妹であるのはご存知の方も多いと思います。ですが、私が彼らの『幼馴染』であるのは意外と知られていない事実みたいですね」
白哉の言葉に水を打ったように周りは静かになり、一拍置いて奇声とも歓声ともつかぬ声がスタジオを満たす。
それは純粋な驚きだったろう。
ルキアも白哉も苗字は公開しているが、血縁関係であることを知る者は極僅かだ。
確か、白哉側の事務所が公開を留めていると聞いたのだが。
ギンの傍に居る白哉のマネージャーを見れば、蒼白を通り過ぎ土気色の顔色をしていた。
哀れな様子に憐憫が沸くが、もう仕方ないと諦めて欲しい。
「あんた、どういうつもりだ」
小声で恋次が唸るように問うが、白哉は何食わぬ顔で言葉を続けた。
「気にすることはないだろう、『義兄さん』?」
にんまりと。
白哉らしからぬ挑発的な笑みに、ルキアは恋次の決して長くない堪忍袋の緒が切れる音をしかと聞いた。
「だから、俺はテメェの『義兄』になった記憶はねぇよ!!」
唾を飛び散らせながら怒鳴りつける恋次に、白哉の機嫌が益々上がったのを感じ、ルキアは仕方ないと一つため息を吐く。
この年上の幼馴染が、実は恋次を結構気に入っているのを本人は理解していない。
白哉の立場上彼に対等に話しかける人間は一握りしかおらず、またルキアのことがあるとはいえ怒鳴りつけるなど彼の両親ですらしない諸行をあっさりと恋次は行う。
確かにルキアを構いたいのも白哉の本心だろうが、恋次でストレス発散している節があるのもルキアはきっちり気づいていた。
「───白哉様。お戯れもほどほどになさってください」
「いいだろう、ルキア。俺に正面から挑むのは、最早あやつくらいなのだから」
ふわり、と。
マイクの集音出来る音量よりも僅かに小さな声で、白哉は囁く。
その言葉の意味を誰より理解できてしまうから、ルキアも苦笑するに留めた。
白哉は恋次が思うより恋次を気に入っている。
その表現はかなり歪んではいるけれど。
「聞いてんのか、コルァ」
不良も真っ青な巻き舌で応じた恋次に、ルキアの肩を抱いた白哉は輝かしい笑顔で返事をした。
「ああ、すまない。今は私が『義兄』だったな」
「人の『義妹』に手ぇ出すな!誰がお前を『義兄』と認めるか!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る恋次を見て、きっとブラウン管の前に座っている人間は気づいたことだろう。
彼が、途方もないシスコンであることに。
ははははと空笑いをしたルキアの肩を、弓親がぽんと叩く。
「大丈夫。僕が後で締めてやるから」
輝かしい笑顔を浮かべた彼の米神には、恋次も真っ青の青筋が浮いていた。
ルキアをセンターにし両隣は恋次と弓親で固めていたが、司会者の案内により恋次が退いた。
テレビに出ている最中なのでその表情は僅かに引きつるだけであったが、こめかみに青筋が浮いている。
彼の背後からおどろおどろしい空気が垂れ流されているのに対し、白哉は涼やかでクールな表情を崩さない。
恋次の豹変に気づいた一角が慌てて他の面々の死角から彼を窘めるのが見えたが、あまり効果はなさそうだった。
今回のルキアたちの仕事はバンドとしての正統派の仕事であるが、同時に今話題のドラマの二期の番宣でもあった。
尸魂界篇と銘打たれたそれは、現世のものと一風雰囲気を変えている。
今回のメインは『ルキア』の過去が主軸になり、その彼女の義兄を演じるからこそ『白哉』は呼ばれたのだろう。
彼の名声はモデルとしても名高く、話題性もあるから。
そして理由はもう一つあるだろう。
白哉の登場に俄然張り切る司会者は、マイクを彼に向ける。
「今回のゲスト、『白哉』さんもドラマに出演されていますよね。先週の初出演の際は視聴率が凄かったと伺いましたが」
「ありがたい限りですね。まだ始まったばかりですし、この視聴率を維持出来れば私も『白哉』も喜ばしく思います」
「白哉さんは普段はモデルの仕事と茶道の家元と二束のわらじを履いている状態ですが、普段はどのようにお過ごしですか?」
「普段はモデルの仕事がない限りは家で茶道を嗜んでおります。今はそれにドラマの仕事が入っている状態ですね」
「今までテレビに出演されることはほとんどなく、雑誌での活躍がメインと伺いました。テレビ出演そのものを断っているという噂もありましたがどうなんですか?」
「ええ、そうですね。私は幼馴染たちと違い、それほど社交的とは言えませんので」
「『幼馴染』?」
「はい」
淡々とした様子で言葉を躱す白哉をぼうっと見ていたが、その発言を耳にし目を見開く。
視線だけで恋次を見れば、同じように驚愕の表情を表している。
慌ててカメラの後ろに居るはずのギンを見れば、ひょいと肩を竦めて見せた。
「ドラマで幼馴染の役を演じる『朽木ルキア』と『阿散井恋次』。彼らが兄妹であるのはご存知の方も多いと思います。ですが、私が彼らの『幼馴染』であるのは意外と知られていない事実みたいですね」
白哉の言葉に水を打ったように周りは静かになり、一拍置いて奇声とも歓声ともつかぬ声がスタジオを満たす。
それは純粋な驚きだったろう。
ルキアも白哉も苗字は公開しているが、血縁関係であることを知る者は極僅かだ。
確か、白哉側の事務所が公開を留めていると聞いたのだが。
ギンの傍に居る白哉のマネージャーを見れば、蒼白を通り過ぎ土気色の顔色をしていた。
哀れな様子に憐憫が沸くが、もう仕方ないと諦めて欲しい。
「あんた、どういうつもりだ」
小声で恋次が唸るように問うが、白哉は何食わぬ顔で言葉を続けた。
「気にすることはないだろう、『義兄さん』?」
にんまりと。
白哉らしからぬ挑発的な笑みに、ルキアは恋次の決して長くない堪忍袋の緒が切れる音をしかと聞いた。
「だから、俺はテメェの『義兄』になった記憶はねぇよ!!」
唾を飛び散らせながら怒鳴りつける恋次に、白哉の機嫌が益々上がったのを感じ、ルキアは仕方ないと一つため息を吐く。
この年上の幼馴染が、実は恋次を結構気に入っているのを本人は理解していない。
白哉の立場上彼に対等に話しかける人間は一握りしかおらず、またルキアのことがあるとはいえ怒鳴りつけるなど彼の両親ですらしない諸行をあっさりと恋次は行う。
確かにルキアを構いたいのも白哉の本心だろうが、恋次でストレス発散している節があるのもルキアはきっちり気づいていた。
「───白哉様。お戯れもほどほどになさってください」
「いいだろう、ルキア。俺に正面から挑むのは、最早あやつくらいなのだから」
ふわり、と。
マイクの集音出来る音量よりも僅かに小さな声で、白哉は囁く。
その言葉の意味を誰より理解できてしまうから、ルキアも苦笑するに留めた。
白哉は恋次が思うより恋次を気に入っている。
その表現はかなり歪んではいるけれど。
「聞いてんのか、コルァ」
不良も真っ青な巻き舌で応じた恋次に、ルキアの肩を抱いた白哉は輝かしい笑顔で返事をした。
「ああ、すまない。今は私が『義兄』だったな」
「人の『義妹』に手ぇ出すな!誰がお前を『義兄』と認めるか!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る恋次を見て、きっとブラウン管の前に座っている人間は気づいたことだろう。
彼が、途方もないシスコンであることに。
ははははと空笑いをしたルキアの肩を、弓親がぽんと叩く。
「大丈夫。僕が後で締めてやるから」
輝かしい笑顔を浮かべた彼の米神には、恋次も真っ青の青筋が浮いていた。
更新内容
|
(06/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)
(03/31)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/24)
(03/24)
(03/24)
(03/23)
(03/14)
(03/14)
(03/13)
(03/13)
(03/13)
(03/11)
(03/10)
(03/08)
カテゴリー
|
リンク
|
フリーエリア
|