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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。






「だからよ、ゾロのこれは病気だとおれ思うんだ」

右隣から聞こえた言葉に、ゾロはびしりと青筋を浮かべる。

「ごめん。おれ、まだ駄目に利く薬作れてないんだ」

左隣から聞こえた言葉に、真摯な響きを感じ取り一気に脱力感を覚えた。

「お前ら、おれを馬鹿にしてんのか?」

ぎりぎりと歯を食いしばりながら、やっとの思いで言葉を搾り出せば。

『至ってマジだ』

全く悪気なくそう告げる年下二人組みに、怒りすら萎え肩を落とした。


今現在ゾロとルフィとチョッパーは道に迷っていた。
それもこれも目の前の船長がいつもの如く食料を食いつくし、怒り狂ったコックと航海士によりついたばかりの島に蹴り飛ばされ、傍に居たゾロとチョッパーが巻き添えを食らったからだ。
何となくデジャヴを感じる気がするが、首を振って気を取り直す。
否、取り直そうとした。
だがそれは無情にも空気を読まない相棒の発言により、根っこから踏み潰される。

「おれさー、絶対にゾロは遭難して死ぬと思うんだよな。チョッパーはどう思う?」
「んー・・・いつもだったら戦って死ぬ気がするって言うけど、でも遭難してってのも否定できない」
「だろ?こいつの方向音痴ってさ、もう病的じゃん。本能が曲がってるってサンジが言ってたぞ。曲がった本能は医学で直せねぇのか?」
「ごめん、ルフィ。おれが知ってる医学じゃ無理だ。ごめんな、ゾロ」
「謝るんじゃねぇよ!おれは別に本能が曲がってるわけじゃねぇ!」
「んじゃどうしてこんなに方向音痴なんだ?そんでもって、どうしてそんなに自分が進む道に自信があるんだ?お前がこっちだって言うからついてってんのに、どうして海じゃなくて山の頂上に着くんだよ?」
「あ、ルフィあそこにサニー号が見えるぞ。おーい!みんなー!」
「ホントだ。おーい!」
「・・・・・・」

言いたいことだけ言ってゾロから興味を失ったらしい二人は、崖の上から両手を振って叫ぶ。
ここから声張り上げても聞こえるわけねぇだろと内心で突っ込みつつ、口にしたらまた火の粉が降りかかりそうで代わりにため息を落とす。
顔を俯けたら肩に乗せている虎もどきの尻尾が額から垂れ下がり、ちっと舌打した。
ちなみにチョッパーも両手に果物と、背に背負う篭に植物を一杯取っていて、ルフィはゾロに負けず劣らず大物のライオンもどきを持っている。
腐るといけないのでまだ生かしているが、また暴れだしたら面倒だと渋々年少組に声を掛けた。

「おい、さっさと行くぞ。日のある内に船に戻んなきゃいけねぇんだろうが」
「お、そうだったそうだった。んじゃ行くかチョッパー」
「おう、ルフィ」

あっさりと船から向き直った二人は顔を見合すと、同時にゾロに視線をやった。
そして歩き出そうとしていたゾロを制すると、邪気のない笑顔で告げた。

「おい、ゾロ。お前はどうせ迷子になるからいいや。チョッパー、匂い辿れるか?」
「うん。多分大丈夫。途中まで戻れれば、ナミたちの匂いも辿れると思う」
「ししし。なら良し!いやぁ、最初っからこうしてりゃ良かったなー。悪かったな、ゾロ」
「そうだな。すぐに気づかなくて、ごめんなゾロ」
「おれに謝るな!」

ぎりぎりと怒りを研ぎ澄ましても、ある意味鈍い彼らはまったく頓着しない。
どころかゾロに背を向けるとさっさと歩き出す。

「やっぱさ、これは世間には内緒にしといた方がいいよな。ウソップが言ってた。伝説は美しいままがいいって。だからゾロの壊滅的で魂に刻まれた本能の曲がってる方向音痴は、おれたちだけの秘密だぞチョッパー」
「うん、判った。最強の剣豪に憧れてる奴も多いもんな。ゾロの壊滅的で魂に刻まれた本能の曲がってる方向音痴はおれたちだけの秘密だ!おれ、頑張って駄目を治す薬を作るからな、ゾロ!」
「だから、おれはそんな薬いらねぇ!!」

世界最強と名高い剣豪ゾロに向かい、言いたい放題の海賊王とその船医に向かい全力で叫ぶ。
しかしながらその顔は怒りだけではない思いで紅潮し、普段の迫力は僅かに削がれていた。
そしてそんな彼に向かう二人の視線は善意に満ちて生暖かい。

「大丈夫だ、ゾロ。海賊王の名に掛けて、絶対に秘密は守る」
「そうだぞ。おれも海賊王の船医の名に掛けて、絶対に薬を作ってやるからな!」
「だから、余計なお世話だっつってんだろ!!」

糠に釘、暖簾に腕押し。
親切心ゆえの大きなおせっかいに、世界最強と名高い剣豪も、白旗を振らないで居るのはとても難しかった。

拍手[26回]

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【3日目】


獄寺はとても幸せだった。
いつもはつり上がり気味の切れ長の瞳をこれ以上ないくらいに垂れさせ、盛大に表情を崩しながら器用にボールをかき混ぜる。
ちゃっちゃっちゃっちゃとリズム良く混ぜる獄寺の足元には、オレンジ色に天空ライオンのアップリケがついた手作りエプロンをして必死に彼を真似る子供がいた。
大人サイズのものでは遣りにくかろうと、もてる伝を駆使して手に入れた子供用クッキングの手が切れない包丁や小さいサイズのボールに泡だて器。
頬や頭に生クリームをつける彼の、何と可愛らしいことか。
必死に手を動かしているのにほとんどの中身が床に零れ落ち、角が立つ気配が全くないのにきゅんきゅんしてしまう。
残り僅かになった生クリームを見て、獄寺は笑顔でそれを継ぎ足した。
ちなみに彼は賽の河原的発想はなく、あくまで好意のつもりである。
誰かその場に理性的な第三者がいたなら、一生クリーム出来ねぇよと突っ込んだだろうが、普段は回転が良すぎる脳を持つはずの彼にはその考えは全くない。
彼はただ、可愛らしい子供を長く見詰めていたいだけなのだから。
固まらない生クリームを長時間混ぜ続ける子供は、確かに人間ではないだろう。
だがそれは獄寺にとって些細な話だった。
自分が泡立てていた生地をケーキの型に流し込むと、空気を抜き予め余熱で温めてあったオーブンに手早く入れる。
そして一息ついてから彼自慢のエプロンに汚れがないのを確認し、そっとそれを外して丁寧に畳んだ。

「ウーノさん、いらっしゃい」
「・・・うん」

気がつけば全身生クリームだらけになった子供に向かい腕を広げれば、こくりと頷いた彼はボールと泡だて器を持ったまま近づいた。
他の誰であろうとこの格好で近づけば果たしているが、目の前の彼と彼のオリジナルは例外だ。
固まっていない生クリームと同様に蕩けた表情の獄寺は、自身のブランド物のTシャツが汚れるのも気にせずに子供の体を拭う。
ちなみにその際床の汚れは放置だ。
簡易キッチンのあるこの部屋は、獄寺ではなく山本のものだった。
獄寺の部屋は十代目グッズを置く隠し部屋を拡大しすぎて十分なスペースがなくなったため、もう何年も前にキッチンは取り去ってあった。
そして山本の部屋を利用するもう一つの利点は、片づけをしなくていいことだ。
唯一作れるチーズケーキを激しく料理した後、彼は一切片付けはしない。
現在も手際よくクリームを混ぜ型に流し込んだ手つきと裏腹に、彼自身の顔やキッチンの惨状は凄まじかったりする。
しかしながら本人はその惨状に慣れたものなので全く気にしない。
そして部屋の惨状も全く気にしない。

大人しく顔を拭かれる子供に胸をときめかせた獄寺は、ついに辛抱堪らず腕に掻き抱く。
全身からクリームの香がしたが、それがまた彼を煽った。

「ウーノさん、汚れちゃったから俺と一緒にお風呂に入りましょうね」
「・・・うん」
「それで風呂から上がったら二人で十代目のところに行きましょう。俺の十代目は、冷えたケーキも好きだけれど温かいのも好きなんです」
「わかった、隼人」

こくり、と頷く彼を抱き上げると、自室へ向かうべく早足で進む。
一見ごく普通の好青年に見える彼の脳裏は、綱吉とウーノのハーレムで一杯だった。
今日も彼はとても幸せだ。

拍手[8回]

■高杉→神楽




「言ったよな、神楽。オレから、目を放すなと」

 ニヤリと笑う隻眼の男を見て、強く、強く目を瞑った。


 初めはそこまで本気ではなかった。と、言うよりも自分で言った事すら覚えていなかったのだ。
 自分を見つけ追って来た男は、ひくりと痙攣するように体を動かした。まだ生きているらしいそれに唇が弧を描く。刀を伝い、自分の手まで染め上げた色を見て愉しくて目を細める。女物の着物に、色が移ったがそれは着物によく映えた。人の身から出たばかりの紅。点々と飛び散るそれは刹那の美を感じさせる。
 自分の刀に貫かれた相手は、弱々しくもがいた。まるで、標本にされた虫のような格好で無様に這い回る姿には兆章しか浮かばない。

「・・・弱い、な」
「っ!!」

 伝った赤を舐め取る。木に縫いとめられた状態の男が怒りで頬を染め、叫ぼうとして、また血が溢れる。避けることなくそれを身に浴び、突き刺したままの刀を動かした。

「ぐっ──」

 ぐり、と柄ごと捻った刀は鈍い感触を晋助に伝える。内臓まで貫通しているだろうそれに、男は呻いただけで悲鳴は上げない。大した精神力だ。口角が上がる。甚振りがいのある獲物は、大好きだった。
 縫いとめられた敵は、真選組鬼の副長と呼ばれた男。屈辱に暗い焔を瞳に灯し自分を睨み続けていた。その反抗的な眼差しに益々気分が高揚する。空いていた手に小太刀を握り突き刺そうとしたまさにその瞬間。

「──何、してるアルか?」

 聞こえた声に、抉っていた手を止めた。面白い事になった。本能がそう告げる。目の前の男は、目を見開いて自分の背後を見ていた。

(──こんな、情けない格好。見られたくはなかっただろうにな)

 思うと、笑いがこみ上げる。声を漏らさないよう堪えるのに苦労した。それでも震える肩は隠しようが無く、刀に力を込めたまま、ゆっくりと振り返る。
 表通りから一本入り込んだだけの道は、それでもほとんど日が入らない。闇に属するものに優しい場所だ。だが、そんな場所でも少女は傘を差していた。光にに忌み嫌われた白い肌を守るために。酢昆布を片手に、くちゃくちゃと咬みながら。そして、無表情にもう一度口にした。

「何してるアルか、晋助」

 感情の読めない声。この子供は、時として大人である自分よりも冷静な部分がある。知り合いが串刺しにされているのに、目を逸らす事すらしない。血が飛び鉄錆び臭さが蔓延する凄惨な場面に表情は動かず、動揺も見受けられなかった。
 普通の子供なら発狂して失禁でもしているだろう場面で、声を荒げるでもなく、いかにも慣れているといった風情の神楽を、晋助は気に入っていた。

「遊んでるんだよ」

 だから、上機嫌に、踊るような声で教える。無邪気に、無抵抗の虫の羽をもぎ取る子供のような残酷さで。

「──お前、やっぱりサドアルナ」
「マゾに見えたか?」
「精神的苦痛で自分を逆境に追い込むのが好きみたいだったから、てっきりマゾかと思ったヨ。けど、本当は両刀って奴だったアル」
「両刀ってのは、言葉の意味が違うぞ」
「いやいやいや。お前はサドとマゾの属性を持つ、奇異な存在アル。例えて言うなら、オスの機能とメスの機能を兼ね備えたカタツムリのような存在ネ」
「──その例え、意味がわからねぇぞ?しかも、やっぱり両刀の意味が違うし」

 ククッと咽喉の奥で笑いを噛み殺すと、目の前で青ざめた顔をしている男を見た。出血が酷く貧血を起こしかけているのだろう。それでも意識を繋いでるのはさすがと誉めてもいいところだ。

「晋助」
「何だ?」
「止めるヨロシ」

 再び顔を神楽に向ける。静かな眼差しをした少女は強要するでもなく焦るでもなくただ自然体でそこに居た。暫しの間神楽を観察していた晋助は徐に、にいっと歪んだ笑みを浮かべる。
そして。

「言ったよな、神楽。オレから、目を放すなと」

 睦言を囁くような甘い声で言うと同時に、抜き取った刃をもう一度目の前の男に沈めた。ざくり、と重たい感触が体に響く。

「ぐっあああああ!」

 今度こそ、声を堪えられずに男は絶叫した。零れんばかりに目を見開き、苦痛に耐えかねる姿はいつ死んでもおかしくない。

「大串君!!」

 その様子を見て、始めて神楽が声を荒げた。些細な事。だが、それすら気に入らず腕に力を込める。ざくり。鈍い音が響き、足元にかなりの血だまりが出来る。これは、致死量の出血だ。
 流れ出る血を眺め、ふっと笑う。命の輝きが失せる瞬間とはどうしてこうも美しいのか。

「神楽、知ってるか?侍ってのは昔へまをしたら切腹ってのをしたんだ。腹に刀をぶっさしてな」
「・・・・・・」

 いきなりの晋助の言葉に、何を考えているのか見定めるように神楽は晋助の目を見た。これほど業に塗れても未だ澄んだ色の青い瞳が真っ直ぐに晋助を捕らえる。あの目に自分が映るのは、とても気分がいい。

「切腹ってのは、中々死ねねぇ方法なんだよ。人間、腹を掻っ捌かれた位じゃ簡単に死ねねぇ」

 そして、また刀を抜く。三度突き刺そうとしたその瞬間。

「やめろヨ」

 一瞬で移動した神楽に、刀を掴まれた。指が千切れるかもしれないのに遠慮のない力を出す神楽に、刀がピクリとも動かせなくなり哂う。幼い少女でもさすがは夜兎というところか。人間の自分では、力で勝つ事は難しい。
 先程まで貫いていた男の血の上に、刀身を伝う神楽の血が重なった。天人の癖に赤いそれは、だが先程とは別の輝きを持っているように映った。刀を引っ張ると、一瞬眉をしかめた神楽は手を離す。刀の構造上ただ押さえるよりも弾く摩擦力で指を深く切ったのだろう。眉間に皺を寄せると晋助をじとりと睨んで来た。
 突き刺していた男は、崩れ落ちるように倒れている。それを庇うように立つと、神楽は血の出ていない方の手で酢昆布を握った。くちゃくちゃと咀嚼する音が響く。それに倣うように、晋助も刀についた血を舐め取った。

「──オレから、目を放すなよ神楽。次は、コイツじゃなく」

 愉しそうに目をきらめかせると、少年のように晋助は笑った。

「お前の大事な、『銀ちゃん』かも知れねぇぜ?」


 別に、目の前の男を狙っていたわけじゃない。真選組の副長なんて、獲物としてはいいものだがそこまで興味を持ってもいない。それでも無視できなかったのは、無視しようとしたときに一匹のうさぎが頭をよぎったから。
 残酷とも取れる行動の裏にあった感情は、うさぎの目を、他の何かに向けたくない。ただそれだけだった。 

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■新八→神楽



「お前が残れ、神楽」

 低い声に、眉がピクリと動いた。月光の下、自分の腹心を従えた男は隻眼の目をきらめかした。鮮やかな輝きは、悪戯をたくらむ子供のようで、けれど口元に浮かぶ笑みは、狡猾な大人のもの。

「じゃじゃ馬、お前があいつらの相手をするんだ」

 囁かれた声は楽しそうだ。

「・・・晋助様」

 高杉の横で、また子がおずおずと声をかけた。だが、ひと睨みで体を硬直させる。その様を見て、神楽は口を開いた。

「わかったアル」

 酷く静かな同意に、彼女の意思は見つけられない。



 彼女は、一人で立っていた。雨が降っていないのに。陽がさしている訳でもないのに。青い、傘を片手で差して。
 逆光でどんな表情をしているのかは見えないけれど、雰囲気は最後に会った時と何も変わらない。

「──神楽」

 悲痛な声で、銀髪の男が呟いた。その声は、新八の心と同じだ。刀を持つ手が震える。万事屋の仕事で、こんな所で彼女と鉢合わせると思っていなかった。
いや。
 心のどこかでは知っていたのかもしれない。震える新八の肩を、隣にいた桂が叩いた。緊張が和らぐ訳ではなかったが、それでも少し落ち着いた。

「久しぶりアルな、銀ちゃん、新八。後、ついでにヅラ」
「ヅラではない。桂だ」
「どっちでもいいアルヨ、そんな些細な事」
「些細な事と言うなァ!これは、オレと言う存在を表す──」
「ハイハイー、ワカッタヨー」
「片言の言葉で流すなァァァァ!」

 無表情に、桂が怒鳴る。憤る方向は相変わらず斜め上にかっとんでいて、まるで、昔に戻ったみたいだと錯覚しそうになる。3人で、毎日を過ごしていたあの頃に。
 やる気のない、でもここぞと言う時には決める銀時に。口が達者で手も足もすぐにでる、でも顔だけは可愛い神楽。突っ込み役で、いつも右往左往していた新八。離れるなんて、想像していなかった。いや。していなかった訳ではない。いつか、3人ともばらばらになる事はわかっていた。けどそれは、神楽はエイリアンハンターになって、自分は道場を建て直して、銀時は──彼はきっと変わらず今のままで。離れても、関係は変わらないと思っていた。向かい合い、真剣を持って立ち向かうなど考えてもいなかった。

「まあ、お前の呼び名なんて私にはどうでもいいアル」
「酷い事を言うなァァァァ!」

 叫んだ桂を完璧に無視した神楽は、傘を閉じると三人に向けた。桃色の髪は、一つで結い上げられて見慣れぬ髪型に目を瞬かせる。いつもは二つにして、その上に飾りをしていたはずなのに一つで纏め上げているだけで、覚えていた神楽は大人びて見えた。
 まるで、知らない人のようだ。考え、ぶんぶんと頭を振った。

(違う。目の前にいるのは、神楽ちゃんだ。大食いで、口が悪くて、綺麗な目をしていて──そして、時々凄く寂しそうな目をしていた女の子)

 そして、そんな目をした少女に笑ってもらいたくて、美味しいご飯を作ったり酢昆布を買ってあげたり。神楽が寂しそうな時は放っておけなくて、色々と手を尽くしたのに最後に美味しいところを銀髪に持っていかれたり。
 それでも、神楽が笑ってくれれば、それで嬉しかった。

(なのにっ)
 
 現状はどうだろう。笑ってもらいたかった少女に、刀を向けている。真剣を構えるのは初めてじゃないのに、切っ先は定まらずカタカタと揺れた。だが、そんな新八の葛藤など露知らず、神楽は傘を構える。そこには一分の隙も見当たらず、少女の本気が見えていた。
 身に纏うのは赤ではなく、黒のチャイナドレス。赤の刺繍で花が刺繍されたそれは可愛らしいものではなく、艶やかで居てどこか毒々しい。枯れゆく直前なのか、花びらが下を向いている。神楽の趣味ではないだろう。直感で思った。だが、それは今の彼女に良く似合う。

「私、銀ちゃんたちをここで止めなければならないアル。三人まとめて掛かってくるヨロシ」

 無表情に綺麗な青い目を向けた少女に、最初に気を取り直したのは桂だった。構える姿は様になり、歴戦の戦士というところだろう。

「ふん。今度はそう簡単にやられんぞ、リーダー」
「私も、今度は加減をしないアルよ、ヅラ」
「だから、私は桂だ」

 そして、目を瞬かせると銀時と新八を見る。感情のうつらない瞳は酷く空虚だ。

「・・・銀ちゃんも、新八も構えるヨロシ。じゃないと、一瞬で吹っ飛ぶ羽目になるヨ?」
「──神楽、本気か?」
「当たり前ヨ。私は、いつでも本気アル」
「わかった」

 ゆっくりと銀時が腰に手をやる。彼が持っているのも、木刀ではなく真剣だ。最近になって、近藤に渡されたものだ。いらないと渋る彼に、近藤はそれでも無理やりに刀を渡した。

『お前に何かあったら、お妙さんが悲しむ』

 その言葉に、渋々と銀時は刀を手にした。きっと、頼み込む近藤の目が、本気だったからだろう。

「新八は、どうするネ?構えるなら、さっさとしろヨ」
「・・・・・」

 先程から、刀は手にしている。抜き身のそれは、鈍く輝き、自分には重すぎた。震える手では、持ち上げ、彼女に向かい構えることは出来ない。それを見て取ったのか、神楽は肩を竦めると。

「行くアル」

 一気に桂へと距離を詰めた。速い。すばらしいスピードは、目で追うのがやっとだ。アレが、神楽の実力。辛うじて刀で受けた桂にあわせ、銀時が神楽の背後から刀を振るった。それをすれすれで避ける。チャイナドレスの一部が切れ、暗闇に紛れた。だがそれを視線だけで見送った神楽はニンマリと笑う。

「ヅラ。お前、まだ怪我が治ってないアルな」

 その言葉に、目を瞬かせた。桂が怪我をしたなんて話は聞いていない。無表情に体を動かす桂に、悪いところなんて見当たらなかった。動きは滑らかで健康体の新八よりも余程鋭い。

「その状態で、私に喧嘩を売った事だけは誉めてやるアル」

 楽しそうに言いながら、神楽は傘を構えると軽快な音を響かせ発砲した。銀時と桂は一瞬足を止める。そしてその瞬間を狙い、銀時の背後を取った。慌てて振り返り、刀を構えた銀時に神楽はそっと囁いた。

「──また、私を斬るアルか?」

 その言葉に、銀時の動きが止まる。凍りついたように、と言うのはまさしくこういうのをさすのだろう。冷や汗を流し、目を見開いて神楽を見つめる銀時ににこりと微笑むと神楽は遠慮なく傘を一閃させた。

「ぐはっ」

 呻き声とともに、銀時の体は吹っ飛んだ。──新八に向け、一直線に。

「ええ!?マジィィィィ!?」

 驚きながらも、刀を捨て銀時を受け止めるために構える。衝撃は一瞬だ。銀時の下敷きになり共に吹っ飛ぶ。勢いが止まった所で体を起こすと、桂の陰が倒れていくところだった。スローモーションのような出来事に、桂の名を叫ぶ。

「・・・弱いアルな。この前の方がまだましネ」

 桂を吹き飛ばした傘を開き、神楽はクルクルとまわした。その仕草は無邪気で幼げ。覚えている頃と何も変わらないのに。

「新八」

 名を呼ばれ、体を竦ませる。勝てるわけがないと、本能が叫んだ。だが、神楽は攻撃する様子もなく新八の方に向く。

「──早く、病院に連れて行くヨロシ」

一言呟き、その場から去った。新八は、結局最後までその場から動く事が出来なかった。



「──ちゃんと、やってきたか神楽?」
「・・・私を誰だと思ってるネ?」
「そうか。・・・折角、ここまで来るかと思って待ってたのによ」

 そう呟いた高杉の背後には、攘夷志士が並んでいた。数にすると100人を超えているだろうか。それぞれが武器を構え狡猾な笑みを浮かべている。

「私が銀ちゃんたちをこんな所に来させるわけがないアル」
「ふうん?オレは来てもよかったぜ?銀時たちが強いって言っても、ここまでそろえりゃ始末できるしな」
「──お前、黙るヨロシ」

 鋭く目を光らせると、神楽は傘を高杉に向けた。怒りを宿した瞳に、益々面白そうに高杉は頬を緩ませる。

「銀ちゃんたちに手を出すなら、お前でも許さないアル。・・・お前にやられるくらいなら、私がじきじきに手を下すネ」
「それで、あいつらに嫌われても?」
「もとより、覚悟の上アル」
「ふん・・・」

 神楽の言葉に、高杉は鼻を鳴らした。

「次は、オレが出る。──嫌なら、見張ってる事だな」
「言われなくても、そうするネ」

 殺気を隠さない神楽に、上機嫌に晋助は笑った。

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市丸ギンという男は、存外に学校行事を大事にする人間である。
彼はルキアと恋次をスカウトした際にもそうはっきりと告げたし、働き始めてからもそのスタンスを崩していない。
理由は彼自身が俳優として過ごした時間にそれらを経験できなかったからと言っていたが、冗談交じりのその言葉が本心であるとルキアも恋次も気づいていた。
だから彼らは参加できる限り行事には参加してきたし、これからも活動を続ける上で学業をおろそかにするつもりはない。
だがそれにおいての弊害は年々増えてはいたが。



「ルキア、お前は何やるつもりだ?」

態々自分の席の前に腰掛けた恋次を見て、ルキアは肩を竦めた。
今は学校の文化祭で何をするか決めている最中だが、ルキアと恋次は特に何がしたいという意見もなく、ざわざわとする生徒達を二人でじっと見物していた。
彼らの周りに近寄る人はなく、それに彼ら自身も慣れていた。
ルキアと恋次が通う学校には音楽科の他に普通科と芸能科があり、芸能人である二人だが選択しているのは音楽科だ。
それは彼らが目指すべき目標がそこにあるからで、その為の技術を学ぶための選択であった。
出席日数が足りない分は補習と補講、さらには増えた課題で何とかつじつまを合わせている現状だが、それは決して楽ではない。
恋次とルキアは子供の頃から実力主義の音楽科のSクラスに在籍し技術面ではトップクラスを維持してきたし、これからもその為の努力は惜しまない所存だ。
ドラマの撮りもあるので睡眠時間も相当削られているが、二人が文句を言うことは一度もなかった。
だが学校でも特別視される彼らは憧れの目で見られる場合が多く、ルキアはもとよりドラマとは違い恋次にもそれほど親しい友人はいなかった。
互いに依存しすぎているのはわかっているが、二人でいる時間が多かった彼らはそれをどうしようとも思わない。
だから当然文化祭で何をしたいかと言う相談は互いにしか出来ず、彼らの周りはそれを見ているだけのはずだった───いつもなら。

数人のクラスメートがそんな二人の空間に足を踏み入れたのに先に気づいたのは、恋次が先だった。
ちらり、とあげられた無感情な視線につられルキアも視線を向ける。
もじもじとお互いに体を突付きあう男子生徒と女子生徒。
顔を知っているようないないような、名前も思い出せない彼らは、しかしながらルキアと恋次を知っているようだった。
面倒そうな予感がする。
ひっそりと眉根を寄せ、仲のいい兄妹は肩を竦めあった。

「あの・・・朽木さん、阿散井君。俺たちと一緒に、文化祭でバンドしませんか!!」

やはり降ってわいたのは面倒ごとか、と恋次がうんざりとため息を吐き、ルキアは無言で彼を諌めた。

拍手[6回]

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