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「あーあ、面白くないの」
長い髪を一本に結い上げオレンジ色のバンダナをつけた少女は、ぶしつけなまでに不遜な様子で頭を掻いた。
着ている衣服はユニフォームですらない。既製の黒のジャージを何気なく着こなし、首から似合わぬごついゴーグルを提げている。
「嘘だろ・・・、相手は小学生だぞ!?」
「マジかよ」
「この俺たちが、五対一で手も足もでねえだと!!?」
場違いともいえる暢気な態度に、帝国学園のユニフォームを身に着けた少年たちが戦慄した。
フットボールフロンティアで常勝無敗を誇る帝国学園。
自身が選んだエリートの無様な様子に、影山は口角を持ち上げる。
「───これでは、レギュラー陣の見直しを考えなくてはならないな」
「そうしなよ、総帥。この人たちのシュートぬる過ぎ」
「そう言うな、守。お前が特別なんだ」
「これなら有人とプレイしてるほうが百倍は楽しいよ。あーあ、詰まんない。こいつらのサッカーには楽しみがない」
特殊ルールとして攻守共に一人で賄う守は、愛らしい顔立ちを歪めて不機嫌に嘯く。
足元に転がっていたボールをリフティングで眼前まで持ち上げて、右から振り抜いた手でキャッチする。
器用に指先で転がしたボールを眺めながら、こてりと首を傾げた。
「それで、総帥。俺はまだ付き合わなきゃ駄目なの?」
「ああ。・・・西野」
「は、はい!」
「お前、先日皇帝ペンギン1号をマスターしたと言ったな?」
「はい、総帥!」
「ならば見せてみろ」
「ですが、相手はまだ子供でっ」
「その子供相手に押されているのは誰だ。私はお前を現在の帝国イレブンのエースとして育てたつもりだが、その期待を裏切るか?」
「っ、いいえ!」
「守、ボールを」
「はいはい、リョーカイ」
しなやかな仕草でボールを蹴った守は、正確無比なコントロールで西野と呼ばれた少年の足元でボールを止める。
並々ならぬ技術に瞳を見開いた少年は、唇を噛み締めると右の人差し指と親指を合わせて緩い輪を作った。
「見せてやる、俺の実力・・・!」
唇で軽く指を咥えた少年は、高らかと口笛を吹き鳴らした。
帝国学園のサッカーフィールドに甲高い音が響く。
間を置かずしてオレンジがかった赤色のペンギンが五羽飛び出ると、少年の足に喰らいついた。
「喰らえ、俺の必殺技。───皇帝ペンギン1号!!」
額から冷や汗を流しながら一直線に蹴られたボールは、今までの勢いを嘲笑う強さで放たれた。
風を切り呻るような音を響かせて守へと向かう。
少しだけ意外そうに瞳を瞬かせた教え子は、嘆息すると足を肩幅に開いて構えた。
「これが皇帝ペンギン1号ねぇ。総帥は一体あなたに何を教えてるんだか」
「・・・負け惜しみを。この技を取れた奴なんて今まで一人もいない」
「なら俺が最初の一人だ。未完成の技で胸を張るようじゃまだまだだね」
「何を───」
「ビーストファング!」
「っ!!?」
息を呑む音がここまで聞こえた気がした。
驚くのも無理はないだろう。組んでいた足を代え、サングラスを指先で持ち上げると影山は嗤った。
今の帝国学園に影山が考案した『ビーストファング』を扱えるキーパーは居ない。
名の通り獣を思わせる技は扱いが難しく、対象者に多大な負荷が掛かる。
技術的な面でも体力的な面でも、そして天性の才能も含め何もかも求める基準に達していない。
名前だけは聞いたことがある技を発揮した守を、信じられないと目を見開いて見ている彼らに影山は嘆息した。
「守」
「何、総帥」
「攻守交替だ。キーパーなどはやめて元のポジションに戻り、本物の皇帝ペンギン1号を見せてやれ」
「・・・ったく、始めはキーパーの真似事をしろって言った割りに、俺がキーパーしたら不機嫌になるのはやめてよね。あと俺、夕方までに家に戻って準備しなきゃいけないから、1ゴール決めたらお終いにしてよ」
「良かろう。・・・聞こえたように今から攻守を代える。守から五分でもゴールを守りきれたら良し、そうでなければお前らは一軍から外す」
「そんな!総帥、俺たちは」
「口答えはいい。出来るか、出来ないか?」
「───っ、出来ます!」
「なら、スタートだ。守」
名を呼べば、心得たと一つ頷いた少女は、首に提げていたゴーグルを顔に嵌めた。
厳つい装備品は守には似合わないが何故かしっくりと様になる。
手に持っていたボールを足元へ落とすと、キーパーグローブを口を使って外してポケットに仕舞って一つ伸びをした。
「それじゃ行くよ、先輩方。あんまり詰まらないサッカー、しないでよね」
唇だけで不適な笑みを浮かべた少女は、次の瞬間信じられないスピードで走り出した。
あっという間にゴールを守る一人を抜いた四人中二人が抜かれる。
呆然と背中を見つめたのは一瞬。そこは帝国学園のレギュラーを勤める意地を見せすぐに後を追う。
「あんなの、ドリブルするスピードじゃねえだろっ・・・!」
ボールを持たない状態で全力疾走しているのに、一向に追いつかない背中に舌打ちする。
視線で合図するとまだ辛うじて抜かれていないディフェンスの二人が守目掛けて走り出した。
彼らにとってもレギュラーを奪われるかどうかの背水の陣だ。
時計を見ればまだ一分を少し過ぎたところ。
どうやらまたスピードが上がったらしい。
教え子の成長に頬を緩ませた影山は、『守』の動向だけを視線で追う。
「キラースライド!!」
左右同時のキラースライド。あれも影山が考案した技の一つだ。
息の合った一糸乱れぬ動きは、正確無比な狙いで守の脛を狙った。
しかし。
「甘いね。イリュージョンボール!!」
ボールを足ではさんだ守が、どんと地面を踏みしめる。
瞬間ボールが分裂し増え、イリュージョンの言葉通りに神秘的な動きを見せる。
道化師が操るお手玉のように軽やかなボールに、ディフェンス二人が戸惑った瞬間を狙い宙を飛んだ。
「キラースライドはもっと足の動きを繊細に、膝を中心に動いたほうがいいよ」
「っ!!?」
すたり、と真横に着地した守に瞳を見開いたディフェンスの少年に笑いかけると、首だけ曲げて背後を見た。
無邪気で子供っぽい雰囲気を放つが、あの子供の本質はそんな生易しいものではない。
それをこの場の誰より知る影山は、組んだ手の上に顎を乗せて喉を奮わせた。
年を追うごとに可愛くなく成長する教え子は、誰より影山の理想に近い。
むしろ理想を具現化したといっても過言ではないだろう。
何処までも傲慢で、頼まなければ恩師である影山の意図も汲もうとしない。
今回の遣り取りも態々時間を作らせるのに実に骨が折れた。
だがその我侭で傲岸な部分も気に入っている。
「ねえ、先輩。本物の皇帝ペンギン、見せてあげます」
「どういう意味だ」
「そのままだよ。キーパーの人、気をつけ下さいね。この技、コントロールは出来るけど威力の制御は出来ないから」
指名を受けたキーパーが額から汗を流し息を呑む。
あんながちがちの体では捕れるボールも取れまい。
呆れたとため息を吐き出し、意識を切り替える。
イタリアへ留学してもうすぐ一年。乾いた砂が水を吸うように成長する彼女の実力はどこまで伸びたのか、そちらの方が重要だ。
緩く輪を描いた指を口へ咥えて高らかと笛を鳴らす。
顔を出したペンギンはどれもこれも混じりけない赤一色。
凶暴に瞳を光らせて舞い上がると、守の足へ喰らいつく。
「これが本家本元の皇帝ペンギン1号だ!!」
振り抜かれた威力のボールは、先ほど西野が放ったものとスピードも威力も比べ物にならない。
一瞬でゴールネットに突き刺さったボールに、キーパーは情けなく腰を抜かした。
立ち上がることすら出来ずにいる年上の少年の姿に肩を竦めると、そのまま右手でゴーグルを外す。
柳眉を顰め、大きな栗色の瞳を不機嫌そうに眇めた守は緩く首を振った。
「・・・やっぱり詰まらない。良くこんなサッカー好んで続けてるね、先輩方」
「こんな、とは酷い言い草だな。お前も私から教えを受けているだろう?」
「俺が欲しいのはあなたの志じゃない。勝てば何をしてもいい、なんてナンセンスだ。こんなサッカー楽しくない」
「その割りに、容赦ないプレイをしていたがな」
「面白くないからって手抜きするほど子供じゃないよ」
「これで彼らはレギュラーから外れる。罪悪感は?」
「ないよ。実力不足なら仕方ないでしょ。それに彼らを外すのは俺じゃない、あなただ」
「クククっ、その通りだな」
地面に平伏す元・レギュラーに冷ややかな視線を送る。
負け犬に用はない。否、初めから負けるのは予想していたが、もう少し抵抗はあるかと思っていた。
帝国学園のサッカー部の層は厚い。彼らに代わる人材は幾らでもいる。
「お前らは明日から二軍で鍛えなおす。レギュラーの座が欲しければ、また技術を磨くのだな。・・・そうだな、皇帝ペンギン1号を完璧に扱えるようになれば、考えてもいい。行くぞ、守」
腰に手をやり守を促す。
一瞬だけ後ろを振り返った少女は、振り切るように前を向いた。
そして彼らに聞こえないよう、小声で囁く。
「俺はあなたを尊敬してるよ、総帥。サッカーを求める俺が望むままに技術を与え、環境を与え、場を与えてくれた」
「・・・そうか」
「でもあなたのサッカーは嫌いだ。勝つためなら、仲間も選手も犠牲にしろって考え方、俺には合わない」
「そうか。だから公の場で私の教えた技を使わないのか?」
影山の問いかけに、肩を竦めただけで守は何も答えない。
だが長くの付き合いから知っていた。
飄々としている少女は、見た目以上に強かで頑固だ。
最高の才能と実力を持つ教え子は、技術面以外では全く思い通りに育たない。
柔らかな栗色の髪の上に手を置くと、くしゃりと撫ぜる。
その思い通りにならない部分も含め可愛がっている最高の弟子に、らしくないとひっそり自嘲した。
長い髪を一本に結い上げオレンジ色のバンダナをつけた少女は、ぶしつけなまでに不遜な様子で頭を掻いた。
着ている衣服はユニフォームですらない。既製の黒のジャージを何気なく着こなし、首から似合わぬごついゴーグルを提げている。
「嘘だろ・・・、相手は小学生だぞ!?」
「マジかよ」
「この俺たちが、五対一で手も足もでねえだと!!?」
場違いともいえる暢気な態度に、帝国学園のユニフォームを身に着けた少年たちが戦慄した。
フットボールフロンティアで常勝無敗を誇る帝国学園。
自身が選んだエリートの無様な様子に、影山は口角を持ち上げる。
「───これでは、レギュラー陣の見直しを考えなくてはならないな」
「そうしなよ、総帥。この人たちのシュートぬる過ぎ」
「そう言うな、守。お前が特別なんだ」
「これなら有人とプレイしてるほうが百倍は楽しいよ。あーあ、詰まんない。こいつらのサッカーには楽しみがない」
特殊ルールとして攻守共に一人で賄う守は、愛らしい顔立ちを歪めて不機嫌に嘯く。
足元に転がっていたボールをリフティングで眼前まで持ち上げて、右から振り抜いた手でキャッチする。
器用に指先で転がしたボールを眺めながら、こてりと首を傾げた。
「それで、総帥。俺はまだ付き合わなきゃ駄目なの?」
「ああ。・・・西野」
「は、はい!」
「お前、先日皇帝ペンギン1号をマスターしたと言ったな?」
「はい、総帥!」
「ならば見せてみろ」
「ですが、相手はまだ子供でっ」
「その子供相手に押されているのは誰だ。私はお前を現在の帝国イレブンのエースとして育てたつもりだが、その期待を裏切るか?」
「っ、いいえ!」
「守、ボールを」
「はいはい、リョーカイ」
しなやかな仕草でボールを蹴った守は、正確無比なコントロールで西野と呼ばれた少年の足元でボールを止める。
並々ならぬ技術に瞳を見開いた少年は、唇を噛み締めると右の人差し指と親指を合わせて緩い輪を作った。
「見せてやる、俺の実力・・・!」
唇で軽く指を咥えた少年は、高らかと口笛を吹き鳴らした。
帝国学園のサッカーフィールドに甲高い音が響く。
間を置かずしてオレンジがかった赤色のペンギンが五羽飛び出ると、少年の足に喰らいついた。
「喰らえ、俺の必殺技。───皇帝ペンギン1号!!」
額から冷や汗を流しながら一直線に蹴られたボールは、今までの勢いを嘲笑う強さで放たれた。
風を切り呻るような音を響かせて守へと向かう。
少しだけ意外そうに瞳を瞬かせた教え子は、嘆息すると足を肩幅に開いて構えた。
「これが皇帝ペンギン1号ねぇ。総帥は一体あなたに何を教えてるんだか」
「・・・負け惜しみを。この技を取れた奴なんて今まで一人もいない」
「なら俺が最初の一人だ。未完成の技で胸を張るようじゃまだまだだね」
「何を───」
「ビーストファング!」
「っ!!?」
息を呑む音がここまで聞こえた気がした。
驚くのも無理はないだろう。組んでいた足を代え、サングラスを指先で持ち上げると影山は嗤った。
今の帝国学園に影山が考案した『ビーストファング』を扱えるキーパーは居ない。
名の通り獣を思わせる技は扱いが難しく、対象者に多大な負荷が掛かる。
技術的な面でも体力的な面でも、そして天性の才能も含め何もかも求める基準に達していない。
名前だけは聞いたことがある技を発揮した守を、信じられないと目を見開いて見ている彼らに影山は嘆息した。
「守」
「何、総帥」
「攻守交替だ。キーパーなどはやめて元のポジションに戻り、本物の皇帝ペンギン1号を見せてやれ」
「・・・ったく、始めはキーパーの真似事をしろって言った割りに、俺がキーパーしたら不機嫌になるのはやめてよね。あと俺、夕方までに家に戻って準備しなきゃいけないから、1ゴール決めたらお終いにしてよ」
「良かろう。・・・聞こえたように今から攻守を代える。守から五分でもゴールを守りきれたら良し、そうでなければお前らは一軍から外す」
「そんな!総帥、俺たちは」
「口答えはいい。出来るか、出来ないか?」
「───っ、出来ます!」
「なら、スタートだ。守」
名を呼べば、心得たと一つ頷いた少女は、首に提げていたゴーグルを顔に嵌めた。
厳つい装備品は守には似合わないが何故かしっくりと様になる。
手に持っていたボールを足元へ落とすと、キーパーグローブを口を使って外してポケットに仕舞って一つ伸びをした。
「それじゃ行くよ、先輩方。あんまり詰まらないサッカー、しないでよね」
唇だけで不適な笑みを浮かべた少女は、次の瞬間信じられないスピードで走り出した。
あっという間にゴールを守る一人を抜いた四人中二人が抜かれる。
呆然と背中を見つめたのは一瞬。そこは帝国学園のレギュラーを勤める意地を見せすぐに後を追う。
「あんなの、ドリブルするスピードじゃねえだろっ・・・!」
ボールを持たない状態で全力疾走しているのに、一向に追いつかない背中に舌打ちする。
視線で合図するとまだ辛うじて抜かれていないディフェンスの二人が守目掛けて走り出した。
彼らにとってもレギュラーを奪われるかどうかの背水の陣だ。
時計を見ればまだ一分を少し過ぎたところ。
どうやらまたスピードが上がったらしい。
教え子の成長に頬を緩ませた影山は、『守』の動向だけを視線で追う。
「キラースライド!!」
左右同時のキラースライド。あれも影山が考案した技の一つだ。
息の合った一糸乱れぬ動きは、正確無比な狙いで守の脛を狙った。
しかし。
「甘いね。イリュージョンボール!!」
ボールを足ではさんだ守が、どんと地面を踏みしめる。
瞬間ボールが分裂し増え、イリュージョンの言葉通りに神秘的な動きを見せる。
道化師が操るお手玉のように軽やかなボールに、ディフェンス二人が戸惑った瞬間を狙い宙を飛んだ。
「キラースライドはもっと足の動きを繊細に、膝を中心に動いたほうがいいよ」
「っ!!?」
すたり、と真横に着地した守に瞳を見開いたディフェンスの少年に笑いかけると、首だけ曲げて背後を見た。
無邪気で子供っぽい雰囲気を放つが、あの子供の本質はそんな生易しいものではない。
それをこの場の誰より知る影山は、組んだ手の上に顎を乗せて喉を奮わせた。
年を追うごとに可愛くなく成長する教え子は、誰より影山の理想に近い。
むしろ理想を具現化したといっても過言ではないだろう。
何処までも傲慢で、頼まなければ恩師である影山の意図も汲もうとしない。
今回の遣り取りも態々時間を作らせるのに実に骨が折れた。
だがその我侭で傲岸な部分も気に入っている。
「ねえ、先輩。本物の皇帝ペンギン、見せてあげます」
「どういう意味だ」
「そのままだよ。キーパーの人、気をつけ下さいね。この技、コントロールは出来るけど威力の制御は出来ないから」
指名を受けたキーパーが額から汗を流し息を呑む。
あんながちがちの体では捕れるボールも取れまい。
呆れたとため息を吐き出し、意識を切り替える。
イタリアへ留学してもうすぐ一年。乾いた砂が水を吸うように成長する彼女の実力はどこまで伸びたのか、そちらの方が重要だ。
緩く輪を描いた指を口へ咥えて高らかと笛を鳴らす。
顔を出したペンギンはどれもこれも混じりけない赤一色。
凶暴に瞳を光らせて舞い上がると、守の足へ喰らいつく。
「これが本家本元の皇帝ペンギン1号だ!!」
振り抜かれた威力のボールは、先ほど西野が放ったものとスピードも威力も比べ物にならない。
一瞬でゴールネットに突き刺さったボールに、キーパーは情けなく腰を抜かした。
立ち上がることすら出来ずにいる年上の少年の姿に肩を竦めると、そのまま右手でゴーグルを外す。
柳眉を顰め、大きな栗色の瞳を不機嫌そうに眇めた守は緩く首を振った。
「・・・やっぱり詰まらない。良くこんなサッカー好んで続けてるね、先輩方」
「こんな、とは酷い言い草だな。お前も私から教えを受けているだろう?」
「俺が欲しいのはあなたの志じゃない。勝てば何をしてもいい、なんてナンセンスだ。こんなサッカー楽しくない」
「その割りに、容赦ないプレイをしていたがな」
「面白くないからって手抜きするほど子供じゃないよ」
「これで彼らはレギュラーから外れる。罪悪感は?」
「ないよ。実力不足なら仕方ないでしょ。それに彼らを外すのは俺じゃない、あなただ」
「クククっ、その通りだな」
地面に平伏す元・レギュラーに冷ややかな視線を送る。
負け犬に用はない。否、初めから負けるのは予想していたが、もう少し抵抗はあるかと思っていた。
帝国学園のサッカー部の層は厚い。彼らに代わる人材は幾らでもいる。
「お前らは明日から二軍で鍛えなおす。レギュラーの座が欲しければ、また技術を磨くのだな。・・・そうだな、皇帝ペンギン1号を完璧に扱えるようになれば、考えてもいい。行くぞ、守」
腰に手をやり守を促す。
一瞬だけ後ろを振り返った少女は、振り切るように前を向いた。
そして彼らに聞こえないよう、小声で囁く。
「俺はあなたを尊敬してるよ、総帥。サッカーを求める俺が望むままに技術を与え、環境を与え、場を与えてくれた」
「・・・そうか」
「でもあなたのサッカーは嫌いだ。勝つためなら、仲間も選手も犠牲にしろって考え方、俺には合わない」
「そうか。だから公の場で私の教えた技を使わないのか?」
影山の問いかけに、肩を竦めただけで守は何も答えない。
だが長くの付き合いから知っていた。
飄々としている少女は、見た目以上に強かで頑固だ。
最高の才能と実力を持つ教え子は、技術面以外では全く思い通りに育たない。
柔らかな栗色の髪の上に手を置くと、くしゃりと撫ぜる。
その思い通りにならない部分も含め可愛がっている最高の弟子に、らしくないとひっそり自嘲した。
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「ただいま、有人!!」
「!?」
ベッドが大きく軋み、驚きで目が覚める。
体の丁度隣が凹み右へと転がった。そして何かに軽くぶつかり、勢いが止まる。
ぱちぱちとルビーアイを瞬きさせた有人は、次第に焦点を結ぶ先にある人影に、徐々に顔が喜色に染まった。
「姉さん?」
「そうだよ!おはよう」
まだ転がったままの有人に抱きついてきた姉は、そのままぎゅうぎゅうと遠慮のない力を篭める。
すりすりと寄せられる頬に眉根を寄せながらも拒絶せずに享受していたら、守の背後からこほんとわざとらしい咳払いが聞こえた。
「・・・はしたないぞ、マモル」
「あっそ」
「あっそ、じゃない!君は鬼道財閥の娘なんだぞ!?もう少し慎みを持て!!」
「五月蝿いなぁエドガーは。ついこの間自分から俺に抱きついて離れなかったくせに」
「!!?マモル!」
聞こえた声は随分と覚えがあるもので、軽快な遣り取りにひっそりと眉根を寄せる。
姉以外は進んで居れたことがない寝室で叫ぶ男に不機嫌に唇を尖らせた。
「・・・どうしてエドガーが俺の部屋に?」
「ごめんな、有人。あいつどうしてもついていくって聞かなくてさ。自分を一緒にいれなければ、有人に会わせないって言うんだ。酷いよな」
「酷くない。君のブラコンは行き過ぎている。私は許婚として当然の」
「・・・焼もち妬いただけの癖に」
ぼそりと響いた守の一言で、白皙の美貌を真っ赤に染め上げたエドガーは、言葉につまり視線を逸らした。
言葉より余程有言な態度に益々機嫌が降下する。
どうして自分の家なのに守を独占できないのか全くわからない。
「バルチナス財閥の跡取りともあろうものが、部屋の主の許可を得ないどころか挨拶もなしとは、一体どういう了見ですか?いくら姉さんの許婚とは言え、無礼ではないですか?」
「───すまない、軽率だった。おはよう、ユウト。気分はどうだ?」
「おはようございます、エドガー。つい先ほどまでは良かったですよ」
守の腕に抱かれたまま、にこりと微笑む。
射抜いた青緑色の瞳が眇められ、仮面を被るように彼の顔から表情が消えた。
ばちばちと見えない火花が散る。
そんな二人の空気など知らぬとばかりに有人を抱きしめたままの守が、ちゅっと頬にキスをしてきて、一瞬で顔が赤く染まった。
会えない時間がそうさせるのか、スキンシップ過多になりつつある姉は、凄い勢いで睨み付けるエドガーを鮮やかに無視する。
普通の人間なら大人でも震え上がるだろう絶対零度の視線をスルーする姿に、さすがだと感心しながら、エドガーに見えるよう勝ち誇った笑みを浮かべた。
だが口はあくまでも守を窘めるように自然と言葉がついて出る。
「姉さん。許婚のエドガーの前で、いいんですか?彼は俺たちの家族じゃないですよ?」
さりげなく棘を交えると、エドガーの柳眉が釣りあがる。
彼が西洋の魔物なら、きっとメデューサのように髪が蛇となりうねっていただろう。
ただならぬ殺気を撒き散らすエドガーは、つかつかと長いリーチであっという間に詰め寄ると、守の襟首を掴んで引っ張った。
蛙が潰れたような声をだしながらも有人を放さなかったお陰で、一緒にバランスを崩す。
二人分の体重を難なく受け止めたエドガーは、眉間の皺を深めながら薄情な許婚の顔を覗きこんだ。
「・・・マモル、いつまでそうしてるつもりだ。今日は、恩師と会うのだろう?スケジュールは分刻みだ。弟に一目会いたいと言う願いは叶えたと思うが?」
「・・・あーあ。折角有人に会えたのにもうタイムアップ?」
「仕方あるまい。明日の夜には君の父上の生誕パーティーだろう?ただでさえぎりぎりのスケジュールを組んでいた挙句、イタリアまで行き二日もロスした」
「ロスとは思ってないけどね。俺には必要な時間だった。お前もだろ、エドガー」
「言葉を選び違えた。すまない」
「謝罪は必要としてない。ああ、でも有人にはお礼を言わなきゃな。お前が俺の代わりを勤めてくれたお陰で、俺は時間を作れたんだから。ありがとうなー、有人」
再び腕の力を強められ、目を白黒させる。
抱擁は痛いくらいだが嫌じゃない。むしろ体温に包まれて安心できる。
守の腕の中は、有人が世界で唯一無防備に甘えれる場所だ。
いつだって自分を特別扱いしてくれる姉のためになら、大抵の事ならなんでも出来た。
「少しでもお役に立てなら嬉しいです」
「お礼は何がいい?」
「───姉さんの、時間がいいです。忙しいのは判ってますけど、少しだけ、駄目ですか?」
「いいに決まってるだろー!もうお前は本当に世界一可愛い弟だな!!」
すりすりと高速で頬を摺り寄せられて、恥ずかしさと嬉しさで黙り込んでいると、また守の襟首が引っ張られた。
一緒に倒れこみながら上目遣いでこちらを睨みつけてくる男を睨み返すと、ぐいと眼前に何か突き出された。
白地にバラが描かれた紙袋を訝しげに見ていると、押し付けるようにして手放される。
慌てて受け止めると、守の腰に手を回したままのエドガーが不機嫌に口を開く。
「それは私からの礼だ」
「・・・何故俺があなたに礼を言われるんです?」
「君がマモルに与えてくれた時間は、私にとっても掛け替えのないものだったからだ。確か君はマモルと違いコーヒーよりも紅茶が好きだったな?」
「ええ」
「中身はスコーンだ。お茶請けにでもしてくれ。一応、私の手作りだ」
エドガーの手作りと聞いて流石に驚きで瞳を丸めた有人は、まじまじと渡された袋を眺めた。
「それ、本当にエドガーの手作り。あ、俺からはクッキーね。有人が好きなバタークッキーだぞ」
「ありがとうございます、姉さん!!──エドガーも」
「・・・とってつけたような言い草だな」
「そんなことはないです。少し神経過敏になっているんじゃないですか?」
「それならどれだけいいか。・・・そろそろ本当に時間だ。行くぞ、マモル。午前中は衣装合わせとパーティーの流れの説明だろう?」
「ああ。・・・全く、名残惜しいなぁ。夜は一緒に過ごせるからな、有人」
「はい」
優しい掌で頭を撫でられ目を細める。
心地よい感触は暖かな体温と共に離れ、ベッドから降りると部屋を出て行く二人を見送った。
「あのな、有人。離れがたくなるからそんな顔は止めろ」
「そんな顔?」
「捨てられた子犬が主を探してるときの顔。大丈夫。夜なんてすぐに来るよ」
ぱちり、とウィンクをした守は、もう一度だけ有人の頭を撫でると苦笑した。
その襟首をエドガーが掴む。まるで飼い猫を引っつかむような仕草に苛立ち視線を鋭くさせると、ひょいと肩を竦めた彼は退出の意を告げるとささと姉を連れて行ってしまった。
手元に残った白い袋をじっと見詰める。
あのプライドが高いエドガーの手作り料理をいただくなど、考えもしなかった。
彼に協力した覚えはないが、それくらい何か重要なことでもあったのだろう。
かさり、と音を立てて袋を開けると、行儀悪くも立ったまま一つを口に入れる。
見た目は完璧な出来栄えだったスコーンは、作り主のように激辛で、有人は涙目になり水分を探した。
もう当分は辛いものはみたくなくなりそうだ。
「!?」
ベッドが大きく軋み、驚きで目が覚める。
体の丁度隣が凹み右へと転がった。そして何かに軽くぶつかり、勢いが止まる。
ぱちぱちとルビーアイを瞬きさせた有人は、次第に焦点を結ぶ先にある人影に、徐々に顔が喜色に染まった。
「姉さん?」
「そうだよ!おはよう」
まだ転がったままの有人に抱きついてきた姉は、そのままぎゅうぎゅうと遠慮のない力を篭める。
すりすりと寄せられる頬に眉根を寄せながらも拒絶せずに享受していたら、守の背後からこほんとわざとらしい咳払いが聞こえた。
「・・・はしたないぞ、マモル」
「あっそ」
「あっそ、じゃない!君は鬼道財閥の娘なんだぞ!?もう少し慎みを持て!!」
「五月蝿いなぁエドガーは。ついこの間自分から俺に抱きついて離れなかったくせに」
「!!?マモル!」
聞こえた声は随分と覚えがあるもので、軽快な遣り取りにひっそりと眉根を寄せる。
姉以外は進んで居れたことがない寝室で叫ぶ男に不機嫌に唇を尖らせた。
「・・・どうしてエドガーが俺の部屋に?」
「ごめんな、有人。あいつどうしてもついていくって聞かなくてさ。自分を一緒にいれなければ、有人に会わせないって言うんだ。酷いよな」
「酷くない。君のブラコンは行き過ぎている。私は許婚として当然の」
「・・・焼もち妬いただけの癖に」
ぼそりと響いた守の一言で、白皙の美貌を真っ赤に染め上げたエドガーは、言葉につまり視線を逸らした。
言葉より余程有言な態度に益々機嫌が降下する。
どうして自分の家なのに守を独占できないのか全くわからない。
「バルチナス財閥の跡取りともあろうものが、部屋の主の許可を得ないどころか挨拶もなしとは、一体どういう了見ですか?いくら姉さんの許婚とは言え、無礼ではないですか?」
「───すまない、軽率だった。おはよう、ユウト。気分はどうだ?」
「おはようございます、エドガー。つい先ほどまでは良かったですよ」
守の腕に抱かれたまま、にこりと微笑む。
射抜いた青緑色の瞳が眇められ、仮面を被るように彼の顔から表情が消えた。
ばちばちと見えない火花が散る。
そんな二人の空気など知らぬとばかりに有人を抱きしめたままの守が、ちゅっと頬にキスをしてきて、一瞬で顔が赤く染まった。
会えない時間がそうさせるのか、スキンシップ過多になりつつある姉は、凄い勢いで睨み付けるエドガーを鮮やかに無視する。
普通の人間なら大人でも震え上がるだろう絶対零度の視線をスルーする姿に、さすがだと感心しながら、エドガーに見えるよう勝ち誇った笑みを浮かべた。
だが口はあくまでも守を窘めるように自然と言葉がついて出る。
「姉さん。許婚のエドガーの前で、いいんですか?彼は俺たちの家族じゃないですよ?」
さりげなく棘を交えると、エドガーの柳眉が釣りあがる。
彼が西洋の魔物なら、きっとメデューサのように髪が蛇となりうねっていただろう。
ただならぬ殺気を撒き散らすエドガーは、つかつかと長いリーチであっという間に詰め寄ると、守の襟首を掴んで引っ張った。
蛙が潰れたような声をだしながらも有人を放さなかったお陰で、一緒にバランスを崩す。
二人分の体重を難なく受け止めたエドガーは、眉間の皺を深めながら薄情な許婚の顔を覗きこんだ。
「・・・マモル、いつまでそうしてるつもりだ。今日は、恩師と会うのだろう?スケジュールは分刻みだ。弟に一目会いたいと言う願いは叶えたと思うが?」
「・・・あーあ。折角有人に会えたのにもうタイムアップ?」
「仕方あるまい。明日の夜には君の父上の生誕パーティーだろう?ただでさえぎりぎりのスケジュールを組んでいた挙句、イタリアまで行き二日もロスした」
「ロスとは思ってないけどね。俺には必要な時間だった。お前もだろ、エドガー」
「言葉を選び違えた。すまない」
「謝罪は必要としてない。ああ、でも有人にはお礼を言わなきゃな。お前が俺の代わりを勤めてくれたお陰で、俺は時間を作れたんだから。ありがとうなー、有人」
再び腕の力を強められ、目を白黒させる。
抱擁は痛いくらいだが嫌じゃない。むしろ体温に包まれて安心できる。
守の腕の中は、有人が世界で唯一無防備に甘えれる場所だ。
いつだって自分を特別扱いしてくれる姉のためになら、大抵の事ならなんでも出来た。
「少しでもお役に立てなら嬉しいです」
「お礼は何がいい?」
「───姉さんの、時間がいいです。忙しいのは判ってますけど、少しだけ、駄目ですか?」
「いいに決まってるだろー!もうお前は本当に世界一可愛い弟だな!!」
すりすりと高速で頬を摺り寄せられて、恥ずかしさと嬉しさで黙り込んでいると、また守の襟首が引っ張られた。
一緒に倒れこみながら上目遣いでこちらを睨みつけてくる男を睨み返すと、ぐいと眼前に何か突き出された。
白地にバラが描かれた紙袋を訝しげに見ていると、押し付けるようにして手放される。
慌てて受け止めると、守の腰に手を回したままのエドガーが不機嫌に口を開く。
「それは私からの礼だ」
「・・・何故俺があなたに礼を言われるんです?」
「君がマモルに与えてくれた時間は、私にとっても掛け替えのないものだったからだ。確か君はマモルと違いコーヒーよりも紅茶が好きだったな?」
「ええ」
「中身はスコーンだ。お茶請けにでもしてくれ。一応、私の手作りだ」
エドガーの手作りと聞いて流石に驚きで瞳を丸めた有人は、まじまじと渡された袋を眺めた。
「それ、本当にエドガーの手作り。あ、俺からはクッキーね。有人が好きなバタークッキーだぞ」
「ありがとうございます、姉さん!!──エドガーも」
「・・・とってつけたような言い草だな」
「そんなことはないです。少し神経過敏になっているんじゃないですか?」
「それならどれだけいいか。・・・そろそろ本当に時間だ。行くぞ、マモル。午前中は衣装合わせとパーティーの流れの説明だろう?」
「ああ。・・・全く、名残惜しいなぁ。夜は一緒に過ごせるからな、有人」
「はい」
優しい掌で頭を撫でられ目を細める。
心地よい感触は暖かな体温と共に離れ、ベッドから降りると部屋を出て行く二人を見送った。
「あのな、有人。離れがたくなるからそんな顔は止めろ」
「そんな顔?」
「捨てられた子犬が主を探してるときの顔。大丈夫。夜なんてすぐに来るよ」
ぱちり、とウィンクをした守は、もう一度だけ有人の頭を撫でると苦笑した。
その襟首をエドガーが掴む。まるで飼い猫を引っつかむような仕草に苛立ち視線を鋭くさせると、ひょいと肩を竦めた彼は退出の意を告げるとささと姉を連れて行ってしまった。
手元に残った白い袋をじっと見詰める。
あのプライドが高いエドガーの手作り料理をいただくなど、考えもしなかった。
彼に協力した覚えはないが、それくらい何か重要なことでもあったのだろう。
かさり、と音を立てて袋を開けると、行儀悪くも立ったまま一つを口に入れる。
見た目は完璧な出来栄えだったスコーンは、作り主のように激辛で、有人は涙目になり水分を探した。
もう当分は辛いものはみたくなくなりそうだ。
青嵐
--お題サイト:afaikさまより--
抱き上げた腕の中で無駄な抵抗を続ける少女に思わず笑う。
どれだけもがいたところで意味はないのに、ルキアは顔を真っ赤にして抵抗した。
修兵はどちらかと言えば犬派だが、ルキアを見ると猫が欲しくなる。
真っ黒で可愛い小さな子猫。
気を引こうと努力しても全く気のないそぶりを見せて、そのくせ愛らしい仕草でこちらを翻弄する。
華奢でしなやかな体に釣り上がり気味の綺麗な瞳。毛並みは艶やかで品もある。
そこまで考えて思わず自分に笑ってしまう。
欲しいのは単なる黒猫じゃない。
目の前の、愛らしくも愛しい無邪気な子猫。
「なあ、ルキア」
「・・・何ですか」
「俺が嫌いか?」
「っ!?その聞き方は卑怯です!」
器用にも更に顔を赤く染め上げたルキアは、修兵の掌に爪を立てた。
かりりと表皮を削られる感覚に眉根を寄せる。
だが手は絶対に放さない。
放した瞬間に踵を返して逃げられるのは真っ平ごめんだ。
猫の逃げ足は素早く、また逃げ道も見つけずらいもの。
手放して後悔するのは一度で十分だ。
そこまで考え、柳眉を寄せた。
同じ少女に恋をする、赤毛の後輩を思い出したのだ。
もしかしたら彼も同じように心に決めていたのかもしれない。
だからこそ血反吐を吐く努力を続け、短期で副隊長までのし上がり、そして先日の騒ぎでも死神を裏切ってでも少女を探した。
修兵と恋次は陰と陽の存在だ。
彼がルキアを独占する間、修兵は近寄ることも出来なかった。
修兵がルキアを独占している間は、恋次は指を咥えて見ているだけだった。
ならば同じ位置に立つ今は、一体これからどうなるのだろうか。
また彼に独占されるのか、と考えた瞬間に血が煮えくり返るような怒りが湧き、持ち上げていた体を腕に抱きこんだ。
「檜佐木副隊長殿・・・?」
「・・・修兵って呼べって言ってんだろ。俺は、絶対に諦めたりしねえからな」
戸惑う少女の体温を感じ、ひっそりと瞼を閉じる。
誰ともなく囁いた宣言は自分自身に言い聞かせるもの。
彼女と恋次の絆がどれほどのものか知っている。
ずっとずっと見ていたのだ。
離れる前の距離も、離れてからの視線の行き場も、再び見えてから当たり前に縮まった距離に焦りを感じないはずがない。
それでも諦められるはずがない。
一度手にしたものを手放せるほど、修兵は心が広くない。
「言っただろ?俺は俺しか選ばせないって。覚悟しておけよ、ルキア。まだ試合は始まったばかりだ」
小首を傾げるルキアに微笑み、隙を突いて口付けた。
猫、猫、子猫。
小さな黒猫。
諦める時期はとうに過ぎてる。
君が選ぶのは、俺一人だけ。
余所見なんて絶対させない、したいなんて思わせない。
猫、猫、子猫。
可愛い子猫。
噛み付くのは俺だけにして。
擦り寄るのも俺だけにして。
その分の愛を俺はあげるよ、愛しい可愛い小さな子猫。
戦いはまだ始まったばかり。
他の男を選んだら、俺はどうかにかなってしまう。
--お題サイト:afaikさまより--
抱き上げた腕の中で無駄な抵抗を続ける少女に思わず笑う。
どれだけもがいたところで意味はないのに、ルキアは顔を真っ赤にして抵抗した。
修兵はどちらかと言えば犬派だが、ルキアを見ると猫が欲しくなる。
真っ黒で可愛い小さな子猫。
気を引こうと努力しても全く気のないそぶりを見せて、そのくせ愛らしい仕草でこちらを翻弄する。
華奢でしなやかな体に釣り上がり気味の綺麗な瞳。毛並みは艶やかで品もある。
そこまで考えて思わず自分に笑ってしまう。
欲しいのは単なる黒猫じゃない。
目の前の、愛らしくも愛しい無邪気な子猫。
「なあ、ルキア」
「・・・何ですか」
「俺が嫌いか?」
「っ!?その聞き方は卑怯です!」
器用にも更に顔を赤く染め上げたルキアは、修兵の掌に爪を立てた。
かりりと表皮を削られる感覚に眉根を寄せる。
だが手は絶対に放さない。
放した瞬間に踵を返して逃げられるのは真っ平ごめんだ。
猫の逃げ足は素早く、また逃げ道も見つけずらいもの。
手放して後悔するのは一度で十分だ。
そこまで考え、柳眉を寄せた。
同じ少女に恋をする、赤毛の後輩を思い出したのだ。
もしかしたら彼も同じように心に決めていたのかもしれない。
だからこそ血反吐を吐く努力を続け、短期で副隊長までのし上がり、そして先日の騒ぎでも死神を裏切ってでも少女を探した。
修兵と恋次は陰と陽の存在だ。
彼がルキアを独占する間、修兵は近寄ることも出来なかった。
修兵がルキアを独占している間は、恋次は指を咥えて見ているだけだった。
ならば同じ位置に立つ今は、一体これからどうなるのだろうか。
また彼に独占されるのか、と考えた瞬間に血が煮えくり返るような怒りが湧き、持ち上げていた体を腕に抱きこんだ。
「檜佐木副隊長殿・・・?」
「・・・修兵って呼べって言ってんだろ。俺は、絶対に諦めたりしねえからな」
戸惑う少女の体温を感じ、ひっそりと瞼を閉じる。
誰ともなく囁いた宣言は自分自身に言い聞かせるもの。
彼女と恋次の絆がどれほどのものか知っている。
ずっとずっと見ていたのだ。
離れる前の距離も、離れてからの視線の行き場も、再び見えてから当たり前に縮まった距離に焦りを感じないはずがない。
それでも諦められるはずがない。
一度手にしたものを手放せるほど、修兵は心が広くない。
「言っただろ?俺は俺しか選ばせないって。覚悟しておけよ、ルキア。まだ試合は始まったばかりだ」
小首を傾げるルキアに微笑み、隙を突いて口付けた。
猫、猫、子猫。
小さな黒猫。
諦める時期はとうに過ぎてる。
君が選ぶのは、俺一人だけ。
余所見なんて絶対させない、したいなんて思わせない。
猫、猫、子猫。
可愛い子猫。
噛み付くのは俺だけにして。
擦り寄るのも俺だけにして。
その分の愛を俺はあげるよ、愛しい可愛い小さな子猫。
戦いはまだ始まったばかり。
他の男を選んだら、俺はどうかにかなってしまう。
更新内容
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(03/25)
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(03/24)
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(03/14)
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(03/13)
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